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「ぼくは“セカイ系”シン・ゴジラが見たかった」「天皇のタブー“儀礼”こそ省略すべき」東浩紀×猪瀬直樹×津田大介

 終戦から71年を迎えた2016年8月15日。作家・思想家でゲンロン代表の東浩紀氏、作家で元東京都知事の猪瀬直樹氏、ジャーナリスト/メディアアクティビストの津田大介氏の3名が「いま語られるべき話題」をテーマに集った。
 話題は庵野秀明氏が脚本、総監督を務めた2016年7月29日公開の怪獣映画「シン・ゴジラ」、そして8月8日にお気持ち表明でネットでも話題となった「天皇陛下の生前退位」の2つの社会現象に矛先が向かった。

※本記事には『シン・ゴジラ』のネタバレが含まれます。ご了承の上で御覧ください。

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「セカイ系ゴジラ」に期待していた

津田:
 今日は複数のテーマがあるんですけども、気にされてる方も多いと思うのでまず、『シン・ゴジラ』の感想から猪瀬さん、お聞かせいただけますか?

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猪瀬:
 感想っていうかね、よくできてる映画だと思うよ。テンポが良いよ。もう、だいたい僕ね、日本の映画見てると、会話がタラーっとしてて緊張感がなくて、「ただお友達が喋ってる」みたいな映画が多いからさあ。最近、見なかったんだよ、日本の映画って。そういう意味じゃテンポが非常に良かったでしょ?まあ、あれぐらいハリウッドでは当たり前だけどな。あのテンポはな。

津田:
 『ソーシャル・ネットワーク』っていう、すごく会話劇のテンポが良い映画があって。あれなんかを参考に石原さとみさんも演技指導をされた、なんて話でしたけどね。

猪瀬:
 あと、官僚機構が出てきて、それぞれの官僚が“いかにも官僚らしい喋り方”をするよね。あの辺なんかパロディだよね。ああいうパロディは、実はあんまりなかった。

津田:
 東さんは、『シン・ゴジラ』はどのようにご覧になりました?

東:
 いい作品じゃないでしょうか。

津田:
 ……終わりですか、それで?(笑)

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東:
 僕ね、やっぱね、ゴジラは東京を焼きつくすほうがいいと思うんだよね。もちろん、そんな映画を作ってたら、こんなふうにヒットしないわけだから、僕個人の望みなんだけどさ。やっぱこう、「ブゥゥオッ!」っと、こうね。ゴジラが覚醒するじゃないですか。で、プロトン・ビームみたいなのがブイーンって来るんだけど。あそこがもうね、ゾクッとするほど美しいシーンで。巨神兵やエヴァはやっぱり怖いわけですよ。絶対的で崇高的なものとして、我々卑小な人間たちの生活を一瞬にしてグワァァっとなぎ倒していくわけよね。それが見たかったなあって思うんですよ。

 僕は公開2日目か3日目に、どういう結末になるか知らないで見に行ってるので「ゴジラが覚醒した後に何が来るんだ!?」ってすごい期待したんですよね。やっぱり、あそこでゴジラが東京を焼きつくしてですね、全てが焼け野原に返って。で、アメリカだかが核を撃ってきて。巨大なATフィールドが「ブワンッ!」って広がって――

津田:
 ゴジラがATフィールドを?(笑)

東:
 ――で、「ガッ!」っていって「ビッ!」と爆発するんだけど、東京は守られる、みたいなのが良いな。俺、そういうのを望んでたね!

(C)2016 TOHO CO.,LTD.
(C)2016 TOHO CO.,LTD.

津田:
 そんな“セカイ系ゴジラ”を?(笑)

東:
 もちろんね、「細野豪志、大活躍!」みたいなポリティカル・フィクションも良いとは思うんだけど。

津田:
 関係者のインタビューなどを見てると、(主人公の矢口は)細野さんというより、小泉進次郎氏がモデルだという話もありますよね。

東:
 そうなんだ。ゴジラを3・11に見立てるとしたら、細野さんに相当する立場かなと思ったんだけど。

津田:
 まあ、確かにゴジラそのものが暴走している福島第一原発の原子炉って考えれば、もちろん民主党政権のオマージュって見ることもできると思うんですけど。さきほど猪瀬さんは「パロディ」っておっしゃいましたよね?ポリティカル・フィクションの中でも良くできたパロディだ、と。

猪瀬:
 政治的なものをやったパロディって、日本映画ではほとんどないんだよね。そういう意味ではよくできてたと思うよ。

津田:
 (元都知事として)実際に現場をご覧になっていた猪瀬さんから見たら、あの会議のリアリティは、どうでしたでしょうか?

猪瀬:
 よくできてたと思う。ああいうのをくぐり抜けてきたたからさ。ああいうのを一つ一つ潰してやってきたからね。だから、よくわかるよ。「お役所の人たち」というセリフの言い回しもよくできてるよ、パロディとしてはさ。

猪瀬「シン・ゴジラは政治を舞台にした意思決定のドラマ」

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津田:
 もう一つ。今日のテーマでもあると思うんですけど、そちらにある猪瀬直樹さんの著書『昭和16年夏の敗戦』の中で、実は昭和16年の夏にも、ちょうど『シン・ゴジラ』の中で解決にあたる特命チームみたいなのが作られて、その特命チームっていうのが“総力戦研究所”という形で模擬内閣を作る、と。この本を読むと、ちょうどあそこに重ねあわせて読める部分もあったんですけど。その点の説明を少しいただけると――

猪瀬:
 意思決定ができないんだよね。縦割りでね。あの戦争は決断して始めたんじゃなくて、不決断で始まっちゃたわけだよ。つまり、なにもしない内に始まっちゃったと。今回の『シン・ゴジラ』でも、ゴジラが来た時に色んな議論をしてるだけで何も進まなかった。けれども一方で、「こうやったら解決できる」というシミュレーションをやってる若手グループがいたということだよね。

津田:
 つまり、(昭和16年夏の史実とは違って)「シミュレーションを行っていた若手のエリートチームに主導権が移った」というフィクションでもあるわけですよね?

猪瀬:
 そうだね。僕が「昭和20年」じゃなくて「昭和16年夏の敗戦」って言ったのは、始まるときには負けてたってことだからね。だけど、希望は一応残っていた、というね。

津田:
 日本の縦割りの官僚機構の中で物事が決められない。その中で奮闘しながら、一つの目的で倒していくという話ですよね。でも、3・11が起きても実際の日本はそれができなかったわけで、それを変えられなかった現実の日本とこの映画の対比はどう考えますか?

猪瀬:
 散々、そうではなかった現状を延々とやって、最後に希望ができるっていう形にはしちゃったってことだけどね。まあ、希望がなきゃ終わりなんだから、それはしょうがないと思うんだけど。映画だからね。

津田:
 「そこで希望を見せる」っていうのは、映画のストーリーとしては納得するってことですか?

猪瀬:
 そう。だからよくできた映画だと思いますよ。東さんは「人間ドラマがない」っていうような話をしてたけど、そういう意味での人間ドラマはあんまりないよね。だけど、一つ一つのキャラがパロディとしてよくできているような構造だから。そういう作りだからね、あれは元々ね。

津田:
 東さんはどうですか?今の猪瀬さんの話を聞いて。

東:
 そうですね、あの……なんかこの僕の異様なテンションの低さが問題なのかもしれないけど(笑)まあ、とにかく、『シン・ゴジラ』は良いと思いますよ。ただ、なんて言えばいいのかな? “すごい真面目な映画”なんですよね。まあだから、真面目な映画が出てきたなあって感じで――

津田:
 東さんといえば、かつてゼロ年代のコンテンツ評論の先駆け的な人でもあると思うんですけど。東さんはエヴァンゲリオン評論なんかもされてたじゃないですか?今回のシン・ゴジラとエヴァンゲリオンについて、「これは続編なんじゃないか?」とか「ここが近いんじゃないか?」って見方をしている人も多かったと思うんですけど、エヴァとの関係で言えばどう読み解きました?

東:
 エヴァとの関係も3・11との関係も全部同じことなんだけど。今回のゴジラで僕が不満があるとすれば、ゴジラがあまり怖くないんですよね。最後も、ホースで上手い具合に冷温停止できるし――

猪瀬:
 あれは、3・11の時のあれだよね。東京消防の。

津田:
 福島第1原発を冷却するために、大型消防車で放水を行ったっていうのと上手く掛かってましたよね。「それを駆り出してなんとかやった」っていうことのオマージュだったと。

猪瀬:
 ああいう一つ一つのモチーフを上手く使ってるよね。

津田:
 「こうやれば3・11も上手く鎮められたのに!」っていう願望が入ってるところはちょっとありますよね。

猪瀬:
 ゴジラがはじめて登場する場面で、なんだかよくわからない形で出てくるようにしてるじゃない? “得体の知れない生物”みたいな。ハリウッド映画のゴジラではジュラシックパークみたいになっちゃうから。そういう意味では、日本独特の変な形で出してきたよね。

 目がさ、秋田のナマハゲの目みたいだよね。あれも日本の伝統的なものをパロディ風に入れたんだと思うんだけど、作り物の目みたいだよね。だから、あえて「ジュラシックパークの恐竜とは違うよ!」ってところを見せようとしたのかもしれないね。

津田:
 元々、深海魚みたいなところから第4形態にまでなっていくっていう、あの“進化するゴジラ”についてはどうでしたか?

(C)2016 TOHO CO.,LTD.
(C)2016 TOHO CO.,LTD.

東:
 うーん、わかんない。良いんじゃないですか?……いや、だから、正直に言ったら僕は、見た瞬間は「面白いかな」って思ったけど、2日3日たってから「なにか考えなきゃいけないな」っていうテンションにはなれない映画なんですよね。

 「ポリティカル・フィクションとしてよくできてる」っていうのも、まあ、パロディとしてはよくできてるけれども、じゃあ、そこで何かね、日本の政治だとか、国際環境の中における日本の地位だとか、もしくは原発を制御するかしないかということに対する新しい問題提起があるかって言ったら、別にそれは無いし。いや、別に無くて良いんですよ?無くても良いんだけど、だから、あんまりその点では関心が持てないわけ。

 まあ、とにかくネット民は『シン・ゴジラ』が大好きだから、僕がこう言っても、「実はこういう意味があるんだ! お前は読めていないだけだ!」とか絶対に叩くに決まっているので(笑)、だから、「まあ、いいじゃないか」と思うんだけど。

 ほら、(コメントも)どんどん来てるでしょ?バンバン来てるよ。ほら。だから、そうだって。みんなが正しい!みんなが正しいんであって、シン・ゴジラについては、ほんと大傑作!グッジョブ!今、「逃げの評論」って書かれたけど、そんなの逃げるに決まってるじゃん!ニコ生の群衆のシン・ゴジラ大絶賛からは(笑)

津田:
 僕は映画は楽しく見たし、良い映画だと思った一方で、やっぱりネットの反応がすごく面白いって思ったのが、「どうとでも読み取れる映画だなあ」とも思ったんですよ。政治的な主張もあるといえばあるし、すごくわかりやすい3・11のメタファーも入れてるし。

 右の人から見たら「日本はやっぱり頑張ればいけるんだ!」っていうふうにも見れるし、左の人は「これは緊急事態条項を推し進めるためのプロパカンダ映画だ!」なんて言う……それもちょっと読み取り過ぎかな、とも思うんですけど。右も左も自分の好きなように読み解いてシン・ゴジラを語ってるっていう状況もあって。でも、まあ、僕はバランスを取って、意図的に政治的な部分を消臭しているようにも見えたんですけど。

猪瀬:
 「パロディとしてよくできてる」っていうのは、ディティールがあるからですよ。それぞれの役人がこういう場合どういうふうに言うかっていうところを、ちゃんとよく取材してると思ったね。ああいうパロディ作るのって結構難しいんだよね。

 それから、役所の風景も、例えば東京都の防災センターが出てくるところがあるんだよ。あそこなんかは、ほとんど本物だなって――

東:
 あれは本物の防災センターで撮ってるはずです。防災に関係することであれば、格安で借りられるらしいです。

猪瀬:
 3・11の当時は、本部長が石原慎太郎知事で、僕は副知事であそこに座ってて。だから、あそこの場面は良くできてるなって思ったんだけど、本物の場所を使ってるんだよな。あれ、実際に使わないとわからないよね。

津田:
 あの中では矢口蘭堂っていう官房副長官的な役どころの人が活躍して、最終的にはゴジラを倒していくわけですけど。総理大臣も出て、防衛庁の長官とか、色んなキャラクターが出てくる中で、都知事も出てくるんですけど。都知事の存在感が異様に薄かったじゃないですか。

猪瀬:
 あれは政府の方の話だからな。「後は東京都に任せる」みたいなことを言ってて、自衛隊は政府の管轄だからさ。

猪瀬直樹が『シン・ゴジラ』で都知事だったら・・・。

津田:
 こんなifを言ってもしょうがないんですけど。もし『シン・ゴジラ』のような状況があった時に猪瀬さんが都知事の立場にいたら、どんなふうに行動したと思いますか?

猪瀬:
 まずさ、毎週“湯河原”には行かないよね。

津田:
 まあ、そうですね(笑)

猪瀬:
 考えられないよ。だから、ほんとそう思うんだよね。そういう危機管理っていうのが一番重要な仕事なんだよ。(舛添前都知事が)毎週湯河原に行ってたことが後でわかって大騒ぎになったけど、全然考えられないね。やっぱり、首都の治安っていうのはすごい大事だからね。

 それから、朝霞から自衛隊が出てくるんだけど。市ヶ谷に防衛庁があるけど、三島由紀夫が自決したところね。あそこに今、軍隊がいないんだよ。役所なんだよ、あそこ。

津田:
 元々、“市ヶ谷駐屯地”ですもんね、あそこは。

猪瀬:
 六本木に防衛庁があったじゃない?ミッドタウンができる前は防衛庁だったけど、それが市ヶ谷に行っちゃって、実際の軍隊は練馬か朝霞の方に行っちゃった。だから、首都でなにかがあった時に間に合わないんだよね。これがすごい疑問だね。これも役所が勝手に作ってっちゃったんだよね。事務方が勝手にね。

津田:
 もし何かに攻められて上陸されるっていったら、当然、海側なわけで、朝霞から行くっていったらすごい時間がかかりますからね。

猪瀬:
 そうそうそう。ほんとに。そういう事情も、今回の映画の中でなんとなく見えてたしね。

津田:
 『シン・ゴジラ』っていうのは、そういった「なかなか迅速にいかない」っていうリアリティも、ディティールの中に組み込んでいたと。

猪瀬:
 国家とかいうテーマを入れた場合、ディティールができてる映画って無かったんだよね。その上、エンタメで。だから、よくできてると思うよね。

津田:
 初代のゴジラとの比較で言うとどうですか?

猪瀬:
 いや、俺、ゴジラとかあんまり興味なかったからさ。昔のゴジラはね、単なる子供の映画だから。大人がゴジラの話を本気でしてるのが、バカバカしくてしょうがなかったんだよね。

津田:
 あとは、コメントなんかにもありましたけど、押井守さんの『パトレイバー2』と比べる評論なんかもありましたけど。東さんは、この辺は?

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東:
 そりゃ、『パトレイバー2』の方がいいんじゃないですかね。

津田:
 やっぱりそれは、政治的なメッセージも含めてってことですか?

東:
 パトレイバー2には監督の主張がありますからね。今回の『シン・ゴジラ』にはそれはあまりないんじゃないかなあ?繰り返すけど、それでもいいんですよ。「何をもって評価するか」ってところで、自衛隊の戦略を作りこんでるとか、よく官僚組織を調べたとか、そういうオタクっぽいところは大変よくできてたと思う。

津田:
 「エンタメにはメッセージは必要ない」ってことですね?

東:
 いや、だから、僕はなんにも否定的に評価してないって!(笑)否定派に分類されたくないんです。ほんとにエンタメの映画として良くできてるし――

猪瀬:
 良い映画に「メッセージが」とかいう言い方を付ける必要はないと思いますよ。

津田:
 2時間楽しく見て、それで語り合えるっていう時点でね。

東:
 いや、だから、それは否定してないんですよ。でも映画の感想なんだから、僕の好きなように言っていいと思うんだけど(笑)

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