デジタルアートの即興バトル「LIMITS」とは? プロデューサーが語った“アートに勝敗をつける禁忌”を犯す意図
ジャンルも国境も超えた研鑽の場
──このイベントをやっていて良かったと実感することはありますか?
大山氏:
LIMITSを見ていると、アーティストたちがどんどん変わっていく姿が本当に面白いんです。最初は「出たくない」って言ってた人が、やってみたら「次は絶対に負けたくない」って言い出す。そのために機材を揃えて練習して、「仕事に対する姿勢も変わりました」って言ってくれる人もいるんです。
大会ごとに、バックステージでは参加者たちの交流もあって。クリエイティブの世界では、細かくジャンルごとに住み分けされているので、ジャンルが違う人同士は、交流がなかったりするんです。ファインアート、ゲーム系、厚塗り……。音楽でもヘビーメタルとラッパー同士がつるむことは、多くはないですよね。
でも、LIMITSでは、お互いに「どうやって描いてるんですか?」って技術の話をして、勉強する。昔は自分のレシピを公開する感じで教えるのはイヤだったらしんですけど、いまは知識を共有して高めあっている。そして、これがLIMITSをやっていて誇りに思うことなんですが、この光景は世界中どこでも変わらないんです。
台湾、香港、ロサンゼルス……。世界からいろんな人が集まって、言葉が通じないのに、どこでやっても、同じ光景。お互いに描く手元を見せあって「Oh great!」とか言い合ってるんです。ここまで想像していなかったから、本当に嬉しいですね。
──参加者のバックグラウンドも多様なぶん、今後はいろんなカルチャーの交流地点になりそうです。
大山氏:
今回、前回にはなかった香港大会を開催したんですけど、これは大正解。香港のアートシーンって、いろんな国の人が活躍しているので、香港代表にもイギリス人とオーストラリア人がいるんです。ロサンゼルス代表にも、ベネズエラ人とイラクからアメリカに移民した人がいて、どんどん広がっている。まだイベントのジェネシスフェーズなのにこんなに多様性があって、今後どこまで広がるのか、楽しみで仕方ないです。
──LIMITSの公式サイトの説明にもありますが、ステージでは、性別、年齢、国境といった枠組みが一切関係ないのも、素晴らしい点だと思います。
大山氏:
先日、ロサンゼルスでそれを実感することがありました。Ahmed Aldoori(@ahmedaldoori)という、YouTuberもやっていてフォロワーが多い有名な絵師。
彼について同行していた日本のアーティストらが、本来は学ぶべきレベルのアーティストなのかもしれないが、LIMITSでは我々の方が経験も多く戦歴もある。だから、対等に接することもできる。LIMTISでは有名・無名も関係がないのは面白いですよね。
今後も、レジェンド的な方がエントリーしてくれたら、すごい面白いだろうし、超リスペクトします。仮に勝てないとしても絶対にファンは増えるだろうし、新境地開拓のきっかけになるかもしれない。
アートという分野は、スポーツと違ってフィジカルだけが重要なわけじゃないので、30歳、40歳になってもどんどん技術を磨いていける。アートでは、物事をいっぱい見て、いろんな経験をした人が強い。いくつになっても挑戦できる舞台なんです。
──いくつになっても挑戦できることで、かつて絵を描くのが好きだった人が再挑戦できる場にもなりそうです。
大山氏:
はい。すでにサラリーマンの方、一度絵を諦めた方、芸人の方、いろんな方々がエントリーしてくださるようになりました。その中には、プロの絵師として活躍していたが仕事環境のストレスで一度は絵を諦めた人もいました。LIMITSに出場すると決心し、やってみたら絵を描く楽しみを再発見し、もう一度絵を描くことを始めたり。
最近では、LIMITS挑戦に集中するためにアルバイト生活をしているって若者もいるんです。裾野が広がっているぶん責任重大というか、主催者としての責任も感じますね。
ハリウッドへの道が拓ける可能性も!?
──大会の規模をどんどん広げて、世界大会も開催して、参加者もどんどん増えているわけですが、海外でもこのイベントの面白さが伝わるんでしょうか?
大山氏:
今回は、審査員のなかにハリウッドの脚本家もいるんです。コミックでは「スパイダーマン」「X–MEN」「バットマン」、アニメでは「スター・ウォーズ」や「アベンジャーズ」などを手掛けていて、2017年公開の映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』では、チーフスクリーンライターを務めた、クリストファー・ヨストさん。
面白いのが、まだ日本でもそこまで大きく知られていないイベントなのに、彼を含め、ハリウッドで徐々に話題になっているんです。クリエイターの意識を高めて、未来を想像できるライブコンテンツは素晴らしい、と。
今後、世界大会の規模をもっと広げる計画を立てているんですが、もしかすると、無名の若いアーティストがハリウッドのプロデューサーに認められて、急に超有名作品に参加する……なんてシンデレラストーリーが生まれる可能性もあるでしょうね。
──今後、どのような世界展開を考えているんですか?
大山氏:
まずはアメリカに拠点を作って、予選の規模や大会の規模を大きくしていきたいです。そうなると、勝ち負けが全てじゃないと言いながらも、優勝賞金が上がっていったりして、勝つことだけがフィーチャーされてしまうことが起こると思うんです。それでは、アートとしてはフェアじゃない。
そこで、テニスのようなランキングシステムを作りたいと考えています。たとえば、錦織圭選手がグローバルランキングのトップ10に入ると、契約の価値がぐっと上がるんです。それと同じように、LIMITSの国別、アジアなどのエリア別、世界ランキングを作る。
ランキングに入るとファンがついたり、上位に入ればスポンサーがつく……といったことになれば、アーティストにとって生活の基盤をつくるための新たな選択肢にもなりますよね。
LIMITSに挑むことでファンがついて、引退するときには惜しまれるーーそんなストーリーを、競技型デジタルアートで描くことができたら、アートの世界に新たな価値観を作れると思うんです。
──デジタルだからこそ、インターネットを通じて世界展開がしやすい側面もありそうです。
大山氏:
最近は、iPad Proでも十分描けちゃうから、生涯で考えると、画材を買うよりもコストパフォーマンスが良いんですよね。予選の選考では、自分で描いた絵の経過を含めた動画で応募できるようにしようと思っていて。たとえば今後、僕らが作り上げるLIMITSのプラットフォームのなかで、新興国の子どもが突然応募してきて大活躍、急にハリウッドのプロデューサーの目に留まる…なんてことだってありえるわけじゃないですか。
──20分のアートバトルの他にも、試合形式を考えているんですか?
大山氏:
僕らの考えでは、いまのLIMITSは陸上競技でいうところの花形競技・100メートル走を作っている段階だと思っています。ウサイン・ボルトというスターが、どれだけ早いのかって、やっぱり見てみたくなるじゃないですか。でも、陸上競技ってハードル、長距離、幅跳び…と、他にもたくさん種目がある。
デジタルアートでいうと、VRアートのバトルやチーム戦、24時間耐久といった、デジタルだからこそできることがたくさんある。そういった形式を作っていきたいですし、そのために、入り口となるLIMITSを広げることが重要だと考えています。(終)
あとがき
今後、どんどん広がっていくであろうデジタルアートバトル・LIMITS。
筆者が初めてLIMITSを見たのは、東京カルチャーカルチャーで開催された今年の東京予選大会だった。まず驚いたのは、観客の年齢層。ライブイベント好きの若者だけでなく、親子連れの子どもや、年配の方まで幅広い観客が、ステージ上の画面を見ながら歓声を上げ、拍手をしているのだ。
アーティストの表現に対して、素直にリアクションをする。これは、美術館で小難しい顔をしながら、わかったように頷く……といった、門外漢が「よくわからないもの」と捉えていた“アート”とは一線を画する体験だった。
門外漢が見てもワクワク・ドキドキできるイベントでありながら、アートの新しい評価軸、アーティストの新しい食い扶持の可能性といった、多面的な魅力を持つ、新しい試みといえるだろう。
今後、このイベントが世界に展開していく前の、一番アツい瞬間を見られるのは、今しかない。5月12日(土)、13日(日)に開催されるワールドグランプリを、会場または動画配信でぜひ目撃してほしい。
「LIMITS World Grand Prix 2018」概要
日時
2018年5月12日(土):16時開場 17時開始予定
2018年5月13日(日):10時開場 11時開始予定会場
渋谷ヒカリエホール(ホールA)
〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1チケット購入リンク
イベントライブ配信
LIMITS World Grand Prix 2018 DAY1:
https://www.youtube.com/c/DABALIMITS/liveLIMITS World Grand Prix 2018 DAY2:
https://www.youtube.com/watch?v=0XBc2E0FxF4