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児童ポルノ規制法、有害図書指定、通信の秘密の瓦解、マンガ・アニメを規制する様々な圧力とは?【山田太郎と考える「表現規制問題」第3回】

有害図書問題は軽減税率も絡む複雑な問題

山田:
 有害図書指定の話ですね。

智恵莉:
 このテーマ、ちょっとキャッチーなところで消費税の軽減税率のお話も……関わってるんですよね!?

山田:
 有害図書指定の解説をさせていただければと思うのですが、表現の自由と何の関係があるのか? 消費税は今回据え置きということになりましたが、8%から10%に上げるかもしれないという議論を去年の1月頃に国会で盛んに行っていました。その一ヶ月ほど前に、「消費税を上げるのはいいけど生活必需品まで上げるのはいかがなものか?」と、特に公明党が党運をかけて議論していました。
 そのときに菅官房長官が、「有害図書指定問題」ということを言い出したんですね。2015年12月26日BS朝日の番組『激論! クロスファイア』の中で、「実際に有害図書指定をしたほうがいいんじゃないか」と発言したわけです。簡単に言うと……。

山田:
 新聞のような出版物は生活必需品だから消費税を据え置くべきだ、と。しかし出版物の中でも、簡単に言うと「エロ本」のような出版物まで据え置く必要はないんじゃないかというわけです。要は、有害図書と言われるものについては消費税を上げちゃってもいいんじゃないの? というわけです。でも、私としては、国家が図書や雑誌をそれぞれ有害か否かと決めつけるのは違うんじゃないのか? と。

(菅長官)
 例えばポルノ雑誌とか、そういうものが全部入ってしまうのです。ですから、そういうものの線引きを、これは是非、業界の皆さんの中で決めていただく。これは政府が決めると表現の自由などいろいろな問題がありますので、そういう思いの中で今、検討中ですね。

~中略~

(菅長官)
 全国で(条例が)あるところとないところがありますから、そういうものを出版界の皆さんに自主規制していただいて、例えば議員立法とかそういう形で、きちっとするべき。国民の皆さんから見ても「なるほどな」と思えることが必要だと思います。

山田:
 一方で、青少年健全育成基本法という法律が議論されようとしていました。すでに、18歳未満が見てはいけないという区分・陳列をする条例が各都道府県にはあるんですよ(青少年健全育成条例)。この国家版のような法律をセットにして議論をするきらいがあったため、それはマズいだろうと思い、1月18日の参議院予算委員会の中で、菅官房長官に対してこの有害図書指定に関して質問をしたんです。

智恵莉:
 ふむふむ。

山田:
 「国が図書の中身を全部見て、有害、有害ではないと決めるのはおかしいのではないか?」と。とは言え、菅官房長官はどうしても通したいというような腹積もりがあったので、官房長官相手に一介の一回生議員が戦えるのかと緊張した中でやり取りを行っていました(苦笑)。結果だけ先に言えば、有害図書指定の軽減税率は見送りになりました。実は、私の方で一ヶ月くらいかけて慎重に下準備を行っていましたんですよ。

山田:
 税金を取る、取らないということを決めるには、法律に書いてなければいけません。租税法律主義と言われています。憲法84条に、「税金を取るためにはきちんと法律を立てなければならない」ことが書いてある。では、書籍が軽減税率対象なのか、対象ではないのか……つまり8%なのか10%なのかとなると、どうやって決めてどう法律として書き込むんですか、となる。これはかなり難しいですよね? 出版される前に全ての本を誰かがチェックして判定をするということは、禁止している検閲に当たるんじゃないの!? と。

 下準備で揃えていたこのような意見を、安倍総理にぶつけたところ、総理は「検閲はやりません」と答えた。結果、「有害図書指定の検閲はやらない」という安倍総理の鶴の一声で見送りになったわけですが、この答弁にも変な珍問答があった(笑)。

智恵莉:
 また、ですか?(笑)

山田:
 珍問答をだいたい起こすのは、麻生さんなんですよね(笑)。麻生さんは財務大臣ですから、租税法律主義の問題で質疑をした際に、「チャタレイ夫人珍問回答」を言い放った。麻生さんは、「山田さんは若いから読んだことないかもしれないけど、チャタレイ夫人を見たことがありますか? 僕らなんか若い頃は回し読みしてましたよ」と。おいおい回し読みしたのかよ! と(笑)。
 それはさておき、チャタレイ夫人は、わいせつ物として見ちゃいけないと、かつて日本国内で問題となった出版物なんですね。

※チャタレイ事件
イギリスの作家D・H・ローレンスの作品『チャタレイ夫人の恋人』を日本語に訳した作家伊藤整と、版元の小山書店社長小山久二郎に対して刑法第175条のわいせつ物頒布罪が問われた事件。日本国政府と連合国軍最高司令官総司令部による検閲が行われ、占領下の1951年(昭和26年)に始まり、1957年(昭和32年)の上告棄却で終結した。わいせつと表現の自由の関係が問われた一件としても有名。

山田:
 麻生さんはその中で、「時代時代によって何がわいせつか、わいせつではないかは変わる」と。ということは、時代時代によって、その都度、税率の解釈は変わるんですか? ってことになる。結果的に、財務大臣自身が「そんなものは決められない」ということを言っちゃったようなもんですよ(苦笑)。やっぱり有害図書指定なんてことは現実問題として無理があるということが一連の答弁から見ても明らかになったわけです。

有害か否かで税率が変わるため出版業界に大ダメージを与えかねない

山田:
 仮に有害図書指定が通っていたら、「どうやって、何をもってして有害図書と決めるのか」という根拠が問われていたと思うのですが、今ある青少年健全育成基本法、または青少年健全育成基本条例を前提としてやっていたと思います。

 そうなると、すでに吊し上げられている多くの書物・書籍・マンガ、アニメ、特にゲームなどはひっかかってることが予想される。加えて、都道府県によって程度が違う状況がある中で、国が規定するとなると一番厳しいところにハードルが上ってしまった可能性があるんです。

智恵莉:
 う〜ん。

山田:
 本来、子どもに読ませる、読ませないかを決めるものが、有害図書指定になると、子ども大人と関係なく影響を受けてしまうことになる。話がめちゃくちゃになるんですよね。書店の方にも話を伺ったところ、「8%と10%を区分して販売するのは面倒臭すぎる。そんな本は売れなくなるし、書店としても扱いにくくなるだけだ」と。こんなことがまかり通れば、書店も書き手も困窮するだけです。有害だから見てはいけない、有害だから流通できなくなる……そういう可能性があったわけですが、山口先生、このあたりはいかがでしょう?

山口:
 租税法律主義……どういう条件で税金を取るかということは“課税要件”と言います。この課税要件は明確なものでなくてはいけないと決まっている。不明確だと、「私はこうだと思ったからやったのに、あとで非常に高い追徴課税が届いた」などの問題が起こるため明確ではなければいけません。そこへ有害か否かというような非常に抽象的な概念を持ち込むということは、憲法上においても問題が大きい。

 もう一つ、いわゆる「エロ本」と呼ばれている本がありますが、例えば週刊誌などにもきわどいエッチなグラビアが数ページあったり、最近大活躍の週刊文春などでもエロいコーナーはあります。

智恵莉:
 スポーツ誌などもそうですよね。

山口:
 そうです。そういったエロ本と言えない雑誌に対しても、どんどん圧力をかけていく可能性が挙げられます。

山田:
 「昼ドラにもエロいものがあるぞ!」なんてコメントも流れていますね(笑)。

山口:
 特に、税務調査というのは企業にとって怖いんですね。ある意味、警察のガサ入れよりも怖いものがある。おそらく政府が事前に出版物を審査するというやり方は導入できないでしょう。結果、出版社から消費税を上げた分、納入された後、税務署の方が更正処分を打っていく形になると思います。

 現在、出版業界は基本的に経営が苦しい背景を持つ。消費税をこれだけ払うと分かっているため、細かく資金繰りをして納税資金を用意してるところに、さらに「あと何%分、余分に払え」という具合に言われ追徴税がつくと、直ちに経営に響くという状態になりかねません。そういう可能性があると分かれば、出版社はどんどん有害と考えられるものを自粛していくことが考えられます。

智恵莉:
 なるほど。

山口:
 自主規制させることが、権力にとって一番楽な規制の方法なんですね。例えば、勝てるか勝てないかは別として……わいせつとして摘発するといった場合、行政や警察による取り締まり・処分については、刑事訴訟で争う方法や不服を申し立てることもできます。

 ですが、自主規制に対しては戦う方法がない。お上からすれば、「いやいや、お前らが勝手にやったことでしょ? 我々は知りません」という立場が取れる。自主性に名を借りる形で、首を締め付けていくことができるようになると、非常に危険です。出版不況という現状で、軽減税率(有害図書指定)は業界全体を左右しかねない大きな問題だったので、これを防ぐことができたということは非常に喜ばしいことだと、僕は考えています。

山田:
 次回は、まさに表現規制の本丸は自主規制にあるのではないか? ということでじっくり考えていこうと思っています。敵が見えづらい自主規制の問題は、なかなか戦いようがないんですね。でも、悲しいのが今回の表現規制に関して、真っ先に政府の意向に賛同・指示をしたのが出版業界なんだよね。なるべく政府の意向に沿って自主規制をどんどん進めていく、と出版業界が文面で表明している。誰のためにやっているんだか……(苦笑)。

智恵莉:
 う~ん。

山田:
 表現に関しては、報道の自由とコンテンツの自由は違うんですよね。報道の自由は公権力との戦いということでジャーナリズムを貫くんだけど、実際には、そのジャーナリストが属している新聞やテレビでは、視聴者からあーだこーだと言われるのは面倒臭いから自主規制を推し進める。誰が敵で、誰が味方なのか分からないから、戦いにくい、というわけです。

智恵莉:
 なるほど。自主規制については、次回詳しくお届けしていきますので、皆さん、ぜひチェックしてくださいね。

“通信の秘密”を守れなければ、表現の自由はない

智恵莉:
 そして、次のテーマが“通信の秘密”ということなのですが、通信と言ってもいろんな通信があると思います。

山田:
 「通信の秘密も表現の自由に関係があるの?」と思う方もいるかもしれません。ですが、通信してるものがみんなに勝手に見られていると思うと表現はしづらくなりますよね!? 言いたいことが言えなくなると表現の自由は狭まります。私は、「表現の自由を守るためには通信の秘密を守る」ということが大前提にあるべきだと捉えているんですね。

智恵莉:
 たしかにそうですね。

山田:
 では、具体的にどんなことが論点になるのか? 2015年の冬に、テロ対策ということでアメリカのFBIがAppleに対して、「テロの容疑者を捕まえたので、彼らがメールや通信を使ってどんなやりとりをしていたのか中身を確認したい。携帯電話のパスワードを解除するように」と要請・命令をしました。
 ところがAppleは、「ユーザーとの信頼関係があるのでできない」と突っぱねた! これは日本でも報道されましたが、では日本のケースで考えたときに、日本の通信業者あるいはそういう関係者がNOと言うことができるのだろうか? と。非常に気になったので、私は国会で質疑するに至りました。実はこの問題、法律家の中で一部話題になりまして、とりわけ刑事訴訟法の中の第111条に焦点が当たりました。令状なしに、捜査等のために通信業者に対して通信内容の開示を強制することができるかどうかって話なんです。これがOKだと今後、すべての通信内容は政府が捜査等を名目として何でも見れるようになっちゃうんですよ。

山田:
 「記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」と書いてあるのですが、よく分からない部分が「その他必要な処分」という箇所。実は、「令状なしでも開けられるんじゃないか」と、一部法務省、警察関係者の中には、この条文を使って捜査をしようじゃないか……という議論があったようです。

 この点を質疑するために、(国会質疑の事前に)私の国会事務所に、内閣法制局・総務省・法務省・警察を呼んで、この解釈に関して大臣に答えてもらうためにはどうすればいいのか……相当に詰めたことを今でも覚えてます。各省庁関係者の中には、それぞれ解釈に幅がありました。これ、国会で大臣と質疑する前に、官僚の人と一ヶ月ぐらい時間をかけて議論してきたんですよ。生煮えのまま、大臣に対して国会で質疑しちゃうと、碌な答弁でないし、かえって我々、表現の自由を守りたい側と逆の不利な結果になってしまったりするんです。

刑事訴訟法111条
差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押又は捜索をする場合も、同様である。前項の処分は、押収物についても、これをすることができる。

第百十一条の二 
差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる。公判廷で差押え又は捜索をする場合も、同様である。

山田:
 例えば、内閣法制局は、令状なしでFBIがAppleにロックを開けるようなことは日本ではできないだろうと。ところが、警察、法務省は何とかして開けたい立場にある(笑)。バラバラなもんですからグレーにしておく方が、彼らにとっては都合がいいので、答えようとしない。論点をそらそうとして、しつこく総務省も、「山田先生、電気通信事業法では開けられないんです」と。電気通信事業法では、電気通信事業者は中身を見たり開けたりしちゃいけませんよって法律があるのですが、これは刑訴法でいう111条の議論とちょっと違うんです。

智恵莉:
 ?

山田:
 メールなどは、電気通信事業者のサーバーから届いて、使用者のパソコンの中に入りますよね。サーバーにある間は、電気通信事業者は中身を見てはいけない事になってますが、配信されて一度個人のPCやスマホにメールが入っちゃった後は、電気通信事業の外側に該当するんですよ。

智恵莉:
 へぇ~~~。

山田:
 我々一般人からすれば、メールを開封するまで電気通信事業者の範疇にあろうが、パソコンの中にあろうが区別がつかないでしょ。

智恵莉:
 メールはメールですよね(笑)。

山田:
 その通り。一方で、範疇外になったその瞬間から誰かが見てもOKであれば、守れていないことになる。この一連の件に関して、岩城法務大臣が答弁することになるのですが……

(岩城法務大臣)
 押収したスマートフォン等のパスワードロックを解除すること、これは刑事訴訟法第百十一条の「必要な処分」として行い得ます。そして、一般論として重ねて申し上げますと、押収したスマートフォン等のパスワードロックを解除するに当たって、刑事訴訟法第百九十七条の規定に基づきまして外部業者に協力を求めることはできると考えられます。

~中略~

(岩城法務大臣)
 外部業者に協力を求めることはできると考えられると先ほど申し上げました。その上で、外部業者が協力を拒否した場合には、法律上、外部業者に協力を義務付ける規定はないものと承知をしております。

山田:
 簡単に言うと「できない」と。もう一つ、重要なことを聞いているのですが、「メールは通信の秘密に入るのか」ということ。

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