「なんとなくヤバそう」で漫画もフィギュアも写真集もダメ!? 表現の世界に吹き荒れる「自主規制」の問題【山田太郎と考える「表現規制問題」第4回】
ネット上にも自主規制の魔の手が迫る!?
山田:
最近はこれまでと様相が変わってきているのですが、大きな理由はインターネットの存在です。ネット内におけるマンガ・アニメ・ゲームがどうやって自主規制されていくのか? 取り上げるとキリがないのですが、私も関わった問題として取り上げたいのが、GMOメディアの「ティーカップ事件」。
2014年に、GMOメディアの方で「児童ポルノまたはそれに類する疑いのある内容がある投稿を削除したい」ということで、同年4月10日までにイラスト・模型またはフィギュアなどを載せた複数のブログに対して停止・削除するということが伝えられたんですね。このとき私自身もすぐに動きました。
永山:
ちょうどこの記事ですね(該当頁を見開いた本を持って)。
山田:
「マンガ論争」の方でも詳しく書かれていますが、2014年4月9日にGMOメディア渋谷本社に行きました。あのとき永山さんも一緒に行きましたよね?
永山:
ですね。
山田:
廣田恵介さんという方が抗議署名を1000通以上集め、私は議員の立場として「民間の自主規制は良くないのではないか」ということをGMOに対して要請……と言いますか、児ポ法に関する流れや議論を理解してもらいたいという話をしました。しかし、結局、多くのサイトが青少年保護の観点から削除対象にされ、復活することはなかった。
永山:
一応、GMO側は「児童ポルノって言っちゃってごめんなさい」っていう。
山田:
そうそう。問題点として、「実在する児童を用いない創作物は児童ポルノではない」ということは、散々この番組でもやってきているわけです。児童ポルノ、またはそれに類する疑いを理由としてブログの削除を求められたが、それって何条の何に違反しているんだ、と。
タイミングの問題もあって、この当時は改正案が訂正された段階でした。自主規制が始まるきっかけは、法律をよく理解もしていないのに、早めに対処しておこうという意味合いが強い。また、運営会社が一部ユーザーからの質問に対して、「青少年保護の観点から削除する」という連絡をしていて、「あれ!? 児ポ法にひっかかるという理由じゃなかったの?」という具合に、先に言っていた対象や内容と異なっているわけです。なぜ自主規制をしたのか、ということについては、実は自主規制した側も混乱している。なんかヤバそうだからとにかくすぐ削除しよう! と。
智恵莉:
なんとなくやめておこうという感じ、ですよね。
山田:
そうそう。何となくで自主規制したもんだから、あとあと言い訳をくっつけているように見える。結局、どの投稿が問題だったのか? ということについても明らかにはしていない。
永山:
うん。答えてないんですよね。
山田:
GMOメディアのティーカップ問題というのは、非常に典型的な自主規制のケースだったように思います。しかもこれって作り手の規制でもなければ受け手の問題でもないんです。お互いに何も問題を起こしていない。中間業者の自主規制なんです。このようにインターネットにおける最大の自主規制の問題は、それを運営する流通業者のような中間の判断によるところが大きいんです。
永山:
このとき一番驚いたのが、すごいえぐいことをやってるのかなと思ったら、そうではなかったという点。単に水着の女の子だったり、ちっこい女の子のフィギュアだったり、普通のドール系を載せたところが削除されてしまっていた。
自主規制の尺度が不明瞭! 歴史的写真もNGに
山田:
理由もよく分からないまま、いきなり全部ダメになってしまったんです。二次元に限ったことじゃなくて、最近ニュースになったところではDMM問題。ジュニアアイドルのPVなどを「もうやめる」ということになっちゃった。
永山:
取り扱いをやめますよ、と。
山田:
この件も実は理由がよく分からない。このあたり昨今は極端になってきているんですよ。例えば国際的にもFacebookで話題になった「ベトナムの戦火を逃げる裸の少女」の写真は有名ですよね? 1973年にピューリッツァ賞を受賞していて、報道写真としては大変有名な写真です。
永山:
一番の賞であり、多くの人が見ている。
山田:
これが現在は、「裸の少女」だからダメだと。
永山:
邪な目で見る人もいるかもしれない、みたいな。
山田:
それからネット各社のエロゲ規制。AndroidではOKでも、Appleではダメということがあったり。あるいはTwitterのアカウント凍結……この辺は永山さんが詳しいと思うんですけれども。
永山:
規制の線引きがよく分からないですよね。いろいろ所説はあるのですが、最初に言われたのがロシアからの圧力。
山田:
ロシアでは、最近、国内にサーバーがないものについては禁止云々という。リンクトインもダメになった。
永山:
ですね。あとはスパム申告。スパムとして扱われて削除されたのではないかなど、いろいろなことを言われたのですが、2015年6月28日~7月19日に(マンガ論争を見せながら)こんな感じでたくさんのアカウントが凍結されました。
山田:
こんなに!?(笑)
永山:
こんなに、です。我々が確認しただけでもこれだけの数。
山田:
あとAmazonのレギュレーションも分からないと言いますよね。
永山:
分かんないんですね~。Amazonでいつの間にか消されてるエロマンガがあると思えば、全然消されてないエロマンガもあって、基準がさっぱり分からない。
山田:
形態のひとつとしてLINEマンガなんかも出てきていますよね。LINEマンガで読んでる範疇はOKなんだけど、あれが紙になった瞬間にどっかの県の青少年健全育成条例に引っかかってしまう。
永山:
次々と引っかかってますね。そのほとんどがコミックス。コミックスになるとレギュレーションが全く違うので、「これで大丈夫だろう」と思って出すと引っかかる。
電子書籍はたまたま法の網に引っかからないだけ
山田:
逆になぜネットだと大丈夫かというと……大丈夫ということよりも“引っ掛ける法律”がないだけなんです。雑誌や単行本など出版で形になったものは、各都道府県が持っている青少年健全育成条例などに基づいて区分され見られなくなる。しかしネットというのは、全国レベルで閲覧できるので、それを規制する根拠がない。
永山:
東京都などもそうですけど、電子書籍は図書類ではないので、どうやら条例上、審査のための試し読みすらできないみたい。
山田:
なるほど。私が長年言っていた青少年健全育成基本法というものが、大変危険で重要な法律になってしまう可能性がある。ネットや通信の世界の中では法が立ち入らないため、取り締まれなかったり規制されなかったり、自主規制を促すこともできなかった……いわゆる「自由空間」なんですよね。
※青少年健全育成基本法
子ども・若者育成支援推進法を一部改正する(法律)案が、青少年健全育成基本法として2014年頃から議題に上がっていた。アニメ・マンガ規制をもたらす直接的な法律として賛否が渦巻いている。
永山:
そこに踏み入ってくるのは刑法175条だけなんですよね?
山田:
そう。その自由空間に対して、青少年健全育成基本法という各都道府県レベルの条例とは異なる“国レベルの法律”が作られると、当然ネットに関する書籍は対象になる可能性は高いし、確実に対象として狙ってくるでしょう。
スマホなどで楽しむことが当たり前の時代にもかかわらず、多くのマンガ・アニメ・ゲームが、法によって引っかかる……あるいは「引っかかるじゃないのか!? ヤバそうだ」ということで、過去の歴史同様に自主規制が次々と進んでしまう可能性がある。現在はまだ基本法がありませんが、瀬戸際のところで狙い撃ちにされるんじゃないかと。
永山:
ネット規制と同時に進んでいますからね。
山田:
「しずかちゃんのお風呂シーン」や「クレヨンしんちゃんのぞうさんのシーン」、「エヴァの自慰行為が光とともに消えた」など、もう見られないものもある。それこそ最近の「進撃の巨人」の巨人は人間を食わないらしいよ。
永山:
何を食うんですか!(笑)
山田:
何を食うかは分かんないですけど(笑)。細かいところを含めて、作家自身や出版社、レーベルが気にし始めて、どんどん自主規制が進んでいる。一体、誰と戦っているんだ!? という。表のメディアに載っているマンガやアニメとは一線を画そうという中で出てきたコミケ、あるいはネット空間上だからこその自由奇抜なネットマンガ……こういったものが基本法に基づいて規制されるかもしれない。2020年東京オリンピックに向けて浄化運動が行われるのではないか、と。
智恵莉:
そういうふうに考えてしまいますよね。
山田:
国会でも、表現の自由に関する質問以上に、構造上の問題を議論してそういった法律を作るべきではない、見直すべきだ、という声がなかなか挙がってこない。むしろ青少年健全育成というのは極めて重要だと言うわけです。
2月中旬に行われた東京都の第1回青少年問題協議会では、「自画撮り問題」ということを挙げていました。規制したい人たちの理屈というのは、結局、ロジック構造なんですよね。ロジックを駆使して自主規制が次々と民間レベルで起こる(起こさせる)というのは問題ですよ。
智恵莉:
実際にどういった自主規制があるのか? ということでこちらの画像を。
山田:
すごいね~……これだけいろいろな自主規制があって。
永山:
ホント、大変なんだよ。