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「なんとなくヤバそう」で漫画もフィギュアも写真集もダメ!? 表現の世界に吹き荒れる「自主規制」の問題【山田太郎と考える「表現規制問題」第4回】

流通業者の不気味な自主規制。プラットフォームは味方か敵か!?

智恵莉:
 次は規制の体系的なものを説明していただこうと思います。

山田:
 まず誰が規制をしているのか。一番分かりやすいのは、法律や条例などの決まりごとで規制すること。すでに可決された法令もあれば、これから議論されていく、あるいは議論されそうなものもあります。実際に法令が自主規制の大元となり、議論をきっかけとして民間の自主規制が大きな問題になっていくわけです。

山田:
 パターンとしては、ネット炎上やPTA団体から文句を言われたなど、いろいろなところからの軋轢を避けたいということで、作家自身や編集者といった人たちが自主規制を行う。

永山:
 うん。

山田:
 もうひとつ厄介な問題がいわゆる流通規制。

山田:
 今日の自主規制の中で、特にネット社会において非常に力を持っているのはGoogle、Apple、Amazon。流通を支配するプラットフォームでコンテンツを買うことが当たり前になりつつある中で、彼らが基準に基づいて「売らない」「流さない」ということになれば、ユーザー側は作品を手に入れられない。下手をしたら、流通の自主規制によって作品の存在に気が付かない可能性もある。レアな作品をコミケで買うと言っても年に数回の話。それだけに彼らの存在を無視できない。流通支配というのは非常に大きな問題だと思います。

 今ではテレビや新聞のようなメディアも乗っかっている節がある。このあたりどうでしょう?

永山:
 「報道しない」ということもあるでしょうが、日本の報道で問題なのは“海外の情報を鵜呑みにする”こと。

山田:
 海外からの圧力や論調で伝えられるケースは多いですよね。

永山:
 多いです。海外でこんな伝えられ方をしたら恥ずかしいでしょ、みたいな。例えばBBCやCNNとか、割と平気で「日本は児童ポルノの天国だ」とよく分からないままニュースを流している。困ったことに日本のメディアが「なんて恥ずかしい!」と解釈し、ろくに調べもせずに言ってしまう。

山田:
 2014年6月26日付けの毎日新聞では、あたかも日本はエロマンガ天国だというような社説を出している。

永山:
 日本はエッチなマンガやアニメが蔓延していて、世界の顰蹙を買っていると海外の情報を鵜呑みにしている(苦笑)。

 「どこの世界だよ」とさすがにカチンときて、毎日新聞に対して公開質問状を出しました。「具体的にどんなアニメ?」「CNNの情報を鵜呑みにしているんじゃないの?」「CNNがアメリカの民間団体から批判されていることは知ってますか?」「こういう報道についてどう思いますか?」などに答えてください、と質問状を出したのですが、3~4年経つけどまだお返事をいただけていません。

智恵莉:
 う~ん。

山田:
 まぁ、一生出してこないでしょうね。

永山:
 うん、一生出してこない。

山田:
 第2回目の放送で荻野さんが、非常に典型的なお話をしていました。なぜ最近海外が日本へマンガ攻撃をするのか? その心理的構造として、「最近日本っておかしいよね」とか「昔は一流だったけど最近は二流、三流でいろいろと順位を下げてるよね」という、日本の国力の低下が背景にあると。チャンスだとばかりに、西洋の文化的価値観を押し付けてくる節がある。

 それゆえ海外メディアでは、日本のアニメやマンガは偏向報道のような取り上げられ方をする。しかも一流の国ではないから派遣されている海外のジャーナリストや記者のレベルも低下している、と。

智恵莉:
 おっしゃっていましたね。

永山:
 極端なことをいうと、西洋の国は東洋やアフリカに対して、俺たちが指導するものだと思っているんですよ。しかし、どうにも指導についてきてくれないというのがあって、「お前らダメじゃん」っていう。

山田:
 最近では、(芸者のように)着物を着た白人の女優、カーリー・クロスがヨーロッパで批判されるという。日本人からすると、なぜ批判されたのかよく分からない。

智恵莉:
 すごい素敵だったんですけどね。

山田:
 蔑んでるんだよね、多分。そういう風にしか思えないよ。

永山:
 オリエンタリズムとか、そういう形で批判が出ていると思うんですけども、よく分からないですよね。お前らの文化全体がそうじゃん! って思いますよ。

 オリエンタルなものを異物として崇拝する場合もあるけれど、そういったことをすべて否定して「俺たちの方が上だ」「キリストの伝統文化の方が偉いんだ」というような錯覚を持っている。それは一種の信仰だと思うので簡単には治らないけれども、彼らは日本、アジアを正しい道に導いてあげないといけないと思い込んでいる。余計なお世話ですよ。

山田:
 この構図というのは、インターネットと表のメディアの中にもすごくあると思っていて。とある某都知事候補の人がインターネットを裏社会と称して批判されましたけれど、心理的には非常にわかりやすい発言ですよね。彼はネットの世界を差別的に捉え、蔑んでいるんだろうなぁと。

 賛否は置いておくとして、現実的にトランプがアメリカ大統領として選ばれたという事実を認識しなければいけない。トランプはCNNやABCに対して何かを答えるわけではなく、先にTwitterでメッセージを発信した。

智恵莉:
 ネットメディアを上手に使っていたイメージがありますよね。

山田:
 それを既存メディアが追うというね。だから私は、インターネットを馬鹿にすると表のメディアは必ずしっぺ返しにあうのではないかと思っています。朝起きたときにテレビから情報を得ているのではなくて、自分のスマホから情報を得ているような次世代の人たちが手に入れるネットを通じた文字情報というのは、ある種のフラット、公平性があるというか。

智恵莉:
 ふむふむ。

山田:
 そういったことが普通になってきているわけですから、表のメディアは自分たちの流しているシナリオが世の中で起こっている正しい事象であり、それがきちっと視聴者に伝わっているんだと驕ったら、それは間違いだと思いますよ。

 自主規制を進めている母体はたくさんあって、テレビも新聞もネットもそうです。ところが、ネットというのは良くも悪くもフリーな道路というか。今後、GoogleやAmazonがいろいろと規制を始めてしまうと大問題が起こるでしょうが、基本的にネット社会はほとんど規制できないところがある。

 本来、表のメディアも流通業であって、シナリオというものを流したいのは分かるけど、まずは事実として客観的にいろんな情報を流すことも必要。政治家になってものすごく感じたことは、ひとつのメディアはひとつの意見やシナリオを非常に作りたがる傾向が強いんじゃないかということ。

智恵莉:
 はい。

表のメディアはネットの影響力を無視するとしっぺ返しにあう

山田:
 私が政治家として国会で論戦をしていたとき、表のメディアは、自分たちと合わないと感じる話に関しては取り上げないで、平気でそういうことをするんです(苦笑)。僕は、表のメディアは、反対意見も武器にしたほうがいいと思うんだけどなぁ。

 加えて、「報道しない自由」ということも考えていかなきゃいけない中で、表のメディアでひとつのシナリオを作れば、それはひとつの価値観を作ってしまう……結果、自主規制という一つの流れになっていくのではないかと危惧しています。そんな中でみんながなんとなく、表のメディアに対して「信用できないよね」となってきている。

永山:
 最近は特にそうですよね。

山田:
 ただ、自由空間だったはずのネットも流通を司る中間業者がいろんな意見を持ち始め自主規制をし始めてしまえば、我々は最終的に何も知ることができなくなるリスクが出てくるわけです。

智恵莉:
 はい。

山田:
 自主規制の延長線上や背景にあるのは、どんなコンテンツも全体としては自由。もし自主規制をするのであれば、「相手に迷惑をかける」ということを考えるべきなんです。それ以外、ネット自身が、「こんなものを流したらまずい」というような一つの意思を持ち始めてシナリオを作ってしまえば、当然伝わるものも伝わらなくなる。

 コンテンツの自由を、どうやって維持していくのか? 単に報道の自由を守る……ということだけでは、表現の自由は守れないのではないか。報道の自由の場合は、敵が政府であるとか相手がはっきりしていて、規制したい人たちはこういうことを規制したいんだろうなということが分かるから戦いようがある。ジャーナリストなども積極的に参画してくるものの、ことが自分たちの問題になると途端に弱くなるというか(苦笑)。

永山:
 ジャーナリズムと言っていますけど、テレビ局はアニメの自主規制をやるとして、「それってどこの局が流しているの?」という話になる。同時にニュースを伝えているくせに、自分たちの自主規制をニュースにしていない時点でおかしいじゃん! って。

山田:
 情報流通をしている媒体は、できるだけ反対意見も用意して伝えていかないといけませんよ。「ネットで見たほうがいろいろな意見が分かるよね」ってことになったら、もう報道の信頼は得られないですよ。今、表のメディアは限界にきているということを自覚した上で、取り組んでほしいと思いますよね。

山田:
 コンテンツを含めた表現の自由が、自主規制という形で失われつつある。そしてネット社会におけるGoogle、Apple、Amazonは民間企業とはいえ、鉄道などを担っている企業以上の存在になっている。変な話だけど、円が使えなくなってもドルがあればなんとかなるけど、AppleがID渡してくれなくなったら結構きつい人っているでしょ!?

永山:
 キツいなぁ。

山田:
 一国家の通貨よりも、Appleが持っている情報流通の権力の方がはるかに強い時代が来る。そんな強大な存在が流通を支配しつつあり、規制を始めてしまうと全く情報が伝わらなくなるのは怖いよね?

智恵莉:
 今や欠かせない存在ですからね。そういう方向に行ってしまうのはちょっと怖いですね。

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