『FF6』のバグを令和になっても探し続ける男──「縛りプレイ記録更新のために本職のゲームデバッガーに」狂気に満ちたやりこみゲーマーの生き様に迫る
『ファイナルファンタジーVI』(『FF6』)のバグ探しに人生を捧げている男がいる。
その熱意はすさまじく、7年以上に渡りゲームをやりこみ続けるだけでなく、新たなバグを発見する技術を磨くため、ソフトウェアテストの専門会社に入社し、本職のゲームのデバッガーにまでなってしまった。
男の名はエディ(@em0141029)。「いかに少ない歩数でゲームをクリアできるか」を追求する“低歩数クリア”という縛りプレイに挑み続けている動画投稿者だ。
2014年よりスタートしたエディ氏の挑戦であるが、2021年の現在においても完走に至ってない。
なぜか?
本職のデバッガーとなった結果、エディ氏自身のバグを見つけ出す技術が向上し、つぎつぎと新たなバグを見つけ続けているからに他ならない。
バグを発見し記録更新。いちからプレイし直す(再走)。再びバグを発見する。再走……をくり返しているわけだ。
(画像は「【1986歩】FF6 極限低歩数攻略 season2 part16【ゆっくり実況】」より)
“低歩数クリア”では、最短ルートを進むためのチャート作りが肝と言っていい。度重なるバグの発見により、歩数調査やチャート作りは複雑化。ときに2ヵ月や8ヵ月など、数ヵ月単位での時間がかかることもあるという。
そんな膨大な時間と労力を費やす作業をくり返す……。普通に考えれば苦行以外のなにものでもない。
自らが発見したバグの影響により再走が決まった瞬間の心境を聞くと、エディ氏はこのように語ってくれた。
「再走が決まった瞬間は頭を抱えてしまいます」
「チャート作りはめちゃくちゃ大変ですし、実際に再走するのも辛い。辛いことだらけではあります。なんでやってるんだろう……」
なぜそんな想いをしてまで『FF6』をやりこみ続けるのか。バグを探し続けるのか。そのモチベーションはどこにあるのか。果たして何を目指しているのか。
幼少期からのゲーム遍歴や『FF6』との出会い、低歩数クリアのどこが楽しくてどこが辛いのか。さまざまな角度からエディ氏の頭の中にアプローチを試みた。
取材・文/竹中プレジデント
『FF6』低歩数クリア記録更新のためにゲームのデバッガ―に
──エディさんと言えば、7年前から低歩数クリアの記録更新を目指す「FF6 極限低歩数攻略」を走り続けていて、多くのバグを発見して記録を更新し続けています。そして、仕事でもゲームのバグを探しているとお聞きしました。
エディ:
そうですね。いわゆるデバッガ―、正確にはテスターという仕事をやっています。そもそもその仕事を始めたのも『FF6』が影響なんですよ。
──えっ?
エディ:
この仕事を始めたのが2016年前後なんですが、その当時、『FF6』に関する新たなバグが発見され始めていて、低歩数クリアにおいてもどんどん記録が更新可能になっていくだろうなと感じていたんです。
そのうえで、記録を更新していくには自分でバグを見つける技術を磨くしかない。そのためにテスターの仕事をやってみようと。
──バグを見つけるために。
エディ:
そういう勘を養いたくて。実際に、仕事を始めてから“シドタイマー”や“テント回避”【※】などのバグを見つけられたので、効果は出ていると思います。
──それは仕事を通して、ゲームの仕組みやバグに対する知識が身についたことが影響しているんですか?
エディ:
正直なところ勘なんです。
──勘?
エディ:
はい。特別な知識があって、「ここにバグがあるだろう」と予測できるわけではなく、経験から「なんとなくここかな?」っていろいろ探してみると見つかるようになった感じです。
──へえ……。業務的にはどんなことを?
エディ:
基本的には、ゲームの要素に対してさまざまなチェック項目があって、例えば“ショップで売っているアイテムがちゃんと手に入るか”をひたすらチェックしていくんです。確認していくなかで、もしバグがあればその内容を報告するというのが仕事内容ですね。
それとは別に、チェック項目はとくに設けられず、好きにプレイするフリーテスト形式のものもあって。最近はどちらかというと、フリーテストを任されることが増えています。
──そのあたりってエディさんの技術が評価されてだったり?
エディ:
どうなんでしょうね……技術を認められてフリーテストを任せてもらえるようになったと思いたいです。
──ちなみに、「FF6 極限低歩数攻略」のエディさんだっていうのは社内で認知されているんですか?
エディ:
今ではそうですね。徐々にバレていきました。
──会社を受ける際の履歴書に「FF6 極限低歩数攻略」やってます、とは書かなかったんですか? アピールポイントになりそうですが。
エディ:
さすがにそれはできませんでした(笑)。
“飛空艇バグ”と“幻獣防衛戦離脱”の発見で一気に複雑化した低歩数クリアのチャート
──今のエディさんの生活って、仕事でバグ探し、プライベートでもバグ探しと、常にバグというものに向き合っているじゃないですか。例えば、カレーが好きでも365日3食カレーを食べたら飽きちゃうと思うんですよ。飽きないんですか?
エディ:
飽きないです。低歩数クリアって、何か新しい発見があると、それだけで思いっきりチャートが変わるんですよ。それがおもしろくて。
そうだ、大したものではないのですが、これまでの歩数の記録を簡単にまとめてきたんです。
──おお、ありがとうございます!
──理解が追い付かない言葉が並んでいますね……(笑)。
エディ:
ですよね(笑)。
──低歩数クリアの歴史の中で、とくに「これは歴史が動いた」という転機はどのあたりなんでしょう。
エディ:
ひとつはやはり“飛空艇バグ”の発見だと思います。
──“飛空艇バグ”……とは?
エディ:
『FF6』では、戦闘で全滅してゲームオーバーになると、最後にセーブしたデータから再開されるのですが、“「魔大陸」というダンジョンから飛空艇に戻る → 飛空艇を操縦する → 再び魔大陸に戻る → 全滅する”という手順でゲームオーバーとなった場合、最後のセーブ時点での飛空艇の有無に関係なく、飛空艇に乗った状態でゲームが再開されます。
この現象を“飛空艇バグ“”と呼んでいます。これによって、ゲーム序盤から好きな場所へ行くことが可能となり、多くのイベントを飛ばせるようになりました。
──なるほど(わからん)。とにかくすごい革命が起きたって認識で大丈夫でしょうか。
エディ:
大丈夫です。低歩数クリアは余計な1歩を歩いてしまったらそれで終わり。逆を言えば、最短距離でしか移動できないので、チャートはすぐ固まる……はずなんですが、この“飛空艇バグ”が発見されたことで、いろいろな場所へ行けるようになり、チャートが複雑化しました。
そして、“飛空艇バグ”を取り入れたチャートを組んだ結果、それまでの最少歩数記録であった8484歩から、最終的に5193歩でクリアができるように。これが「FF6 極限低歩数攻略」のseason1の記録になります。
──それが今では1538歩とさらに少なくなっていて、しかも記録が更新されるペースも心なしか上がっているような……。
エディ:
上がっていると思います。要因として、恐らく“幻獣防衛戦離脱”がターニングポイントになっています。
──“幻獣防衛戦離脱”……ですか。
エディ:
この“幻獣防衛戦離脱”により、パーティを分割して複数の場所で動かせるようになり、ほぼ歩数を増やさずに移動が可能になりました。
裏を返せば、どのチャートにおいても歩数はそこまで変わらない。それにより、パッと考えただけではどのチャートを進めば歩数が少なくなるのかわからなくなってしまったんです。
──なるほど(わからん)。チャート作りの複雑化に加えて、その調査じたいの難易度も上がってしまったと。
エディ:
はい。歩数調査にひたすら時間がかかっています。
“飛空艇バグ”を組みこんでの歩数調査は約2ヵ月でしたが、“幻獣防衛戦離脱”を組みこんでの歩数調査は8ヵ月かかってしまいました。加えて、そこから何度もチャートの改修をくり返してます。
──調べるだけで8ヵ月も……。ご用意いただいたメモのなかに歩数「0」という記録があるのですがこれはいったい?
エディ:
これは“52回全滅バグ”が発見された結果、いきなりエンディングを見られるというトンデモナイもので、私も念のために試してみたところ最終的に0歩でクリアできてしまったんです。
0歩……そう、0歩でクリアしてしまって……。どうあがいても歩数更新できない記録が出てしまって、このときはなんとも言えない虚しさと悲しさがこみあげてきました。
──いま動画で挑戦中のものとはなにが違うんでしょう。
エディ:
私もあまり言葉を正確に理解できているわけではないのですが、“52回全滅バグ”はいわゆるメモリ破壊バグにあたるものなんです。全然関係ない領域を浸食して、関係ない値で埋め尽くしてさまざまな不具合を起こす。
今やっているシリーズは、そういうメモリ破壊系のものは除外するルールでやっているつもりです。最近になって、PS版でも0歩でクリア可能な手法が見つかって、禁止にしておいて本当によかったなと……。
──なるほど(わからん)。レギュレーションが違う感じなんですね。
これまでの変遷を見ていると、何度も歩数更新がされていて、恐らくその度にチャートを作り直したり、プレイし直したりされてきたと思うんですが、歩数更新が確定した瞬間のお気持ちってどんな感じなんでしょうか。
エディ:
再走が決まった瞬間は頭を抱えてしまいます。「これは困ったことになったぞ……」と。でも見つけられたことは誇らしい。少し不思議な感覚です。
辛くもあり、歩数を減らせたのはうれしい……でもやっぱり辛いですね。
チャート作りはめちゃくちゃ大変ですし、実際に再走するのも辛い。辛いことだらけではあります。なんでやってるんだろう……。
──逆に低歩数攻略をしているなかで楽しい瞬間っていつなんですか?
エディ:
ひたすら調査にのめりこんで新しいバグを見つけることじたい楽しいですし、それによって一気に変貌するチャートもすごくおもしろくて好きなんです。
──新たなバグを探すこと、発見することが楽しさの根幹にある。
エディ:
そうだと思います。だから再走することでの辛さよりも、調査優先になっているのかなと。『FF6』で病んだ心を『FF6』で癒すみたいな感覚なのかもしれません。
“リセット禁止区間”という可能なら二度とやりたくない苦行
──7年間近くに渡り「FF6 極限低歩数攻略」に挑み続けているエディさんですが、これまでのやりこみプレイの中で一番苦労したパートだと何が思い浮かぶのでしょうか。
エディ:
“リセット禁止区間”と言って、要はメモリを維持するために電源を落としてはいけない区間があるんですが、本当に大変で……。
歩数的には大した距離ではないのですが、手間のかかるワープが絡んでいるせいで、時間がものすごくかかるんです。
──どのくらい時間がかかるんでしょう?
エディ:
1日8時間程度やったとしても2、3日くらいはかかります。
──ええっ! そんなに!?
エディ:
少しでもミスれば区間の手前からやり直しですし、ゲームをプレイしていないときも、ちょっとしたはずみで電源が落ちないか気が気じゃありません。
──ちなみに実際にプレイした際には何回くらいでこの区間を抜けられたんでしょう。
エディ:
失敗……じつは3回あります。
──3回も……。
エディ:
失敗したタイミングによって傷が浅いか深いかは違うんですが、1日目で失敗したのが2回、3日目で失敗したのが1回ですね。
2、3日かかるということは土日じゃ足りないので、祝日を利用するんですが、失敗してしまったらその連休中にやった作業は無に帰ってしまうので虚無感がすごいです。辛い。
ミスった瞬間に「なんのためにがんばってきたんだろう……」と考えてしまう。できればもうやりたくありません。
──そういうのって動画になっていない部分ですよね。いまお話した失敗含めて、動画の裏側にあたる作業ってトータルでどのくらい時間がかかっているんですか?
エディ:
具体的に何時間とお答えするのは難しいです。
というのも、実際のプレイ時間よりもどうチャートを組むか考えている時間のほうが遥かに長いんです。通勤時間をはじめ普段からどうすれば歩数を少なくできるかずっと考えているので……。
──チャートってどうやって作っているんでしょう。
エディ:
どう説明すればいいのか難しいですね……。
まず、バグなりテクニックなりが発見されたら、その性質を一通り調べて、ゲーム内のどこで使えるか、歩数を更新できるような場所を洗い出していくんです。
──ふむふむ。歩数というのは実際に歩いて計測しているんでしょうか。
エディ:
どこでミスっているかわからないので実際にゲーム上でカウントしています。
洗い出し終えたら、新テクニックを組みこんだチャートを改めて組み、それによる影響を調べながら、仮チャートを完成させます。その後はチャート通りに進められるか通しでプレイして確認します。
じつは通しで確認作業をするようになったのには理由がありまして……。
──ほほう。その理由とは?
エディ:
あれは動画投稿を始めたてのころ、500歩くらい歩数をカットできるテクニックを見つけて。それを組みこんだチャートを作ったんですが、そのときはまだ通しで確認作業をしていなかったんです。
もちろんある程度は調べていたのですが、「ここまで行けた! じゃあもう大丈夫だろう」と高をくくってしまっていて。結果、ゲーム終盤のほうで“こそドロいっぴきオオカミ”というどうしても突破できないポイントがでてきてしまいました。
──それは辛い……。
エディ:
トラウマでした。ほかの再走とは違い、完全に自分のミスでしたので悔いが大きかったです。それ以来、絶対に通し確認はするようにしています。
エディさんと『FF6』の出会い
──それだけ人生を捧げている『FF6』を初めてプレイしたのっていつくらいなのでしょう。
エディ:
初めてプレイしたのは2011年、大学生のときでした。
──1994年に発売された『FF6』をなぜそのタイミングでプレイされたんですか?
エディ:
大学受験中に『FF13』が発売されて、それが私の初『FF』だったんです。
当時、大学受験のために塾に通っていたのですが、その道中のビックカメラで『FF13』のすごく綺麗な発売告知の絵が気になって、受験期間ではあったんですが購入してプレイしてみたんです。
プレイしてみたら、めちゃくちゃおもしろくて。それで『FF』シリーズをイチから遊んでみようと。PS3のゲームアーカイブスでナンバリング1から順々にクリアしていきました。
『FF3』だけはアーカイブスになかったので、1、2、4、5、6とプレイしていって……6で引っかかったんです。
──引っかかったとは?
エディ:
私はPS版をプレイしたのですが、おまけ要素として“やりこみじいさん”という機能があったんです。
クリア時間やレベルなど、ゲームクリア時にさまざまな項目に対してやりこみ度を判定してくれる。その中に歩数もありました。そんな機能があったらやりこみたくなっちゃうじゃないですか。
やりこみじいさんが少し特殊だったのは、最高記録だけではなく最低記録も記録してくれるんです。どれだけ低レベルでクリアしたか、いかにお金を稼がずにクリアしたか、少ない歩数でクリアしたかなど、自分にとっては新鮮な要素に感じました。
──そこで低歩数という概念と出会ったと。
エディ:
はい。ただ、もともとはいかに強く育てられるかを考えてプレイするタイプで、最強キャラ育成に力を注いでいました。
ちょっと記憶が曖昧なんですが、低歩数クリアに初めて手を出したのは、恐らく2011年か2012年くらい、最強育成がひと通り終わってから、やりこみじいさんの他のいろいろな記録に挑戦しようとしたタイミングだったと思います。
──2011年に初めてプレイしてから『FF6』への熱って高いままなんですか?
エディ:
出会ってから今までずっとマックスだと思います。こう惹きつけられたというか、まるで何かに取り憑かれてしまったくらいに夢中に。
その結果、『FF』シリーズをひと通りプレイする予定だったのが『FF7』で止まってしまって。一応、『FF15』は買って遊んだんですが、8~14に関してはまだ触れてもいないんですよ。