話題の記事

『FF6』のバグを令和になっても探し続ける男──「縛りプレイ記録更新のために本職のゲームデバッガーに」狂気に満ちたやりこみゲーマーの生き様に迫る

『FF6』は圧倒的にドハマりしたゲーム

──ちょっと時計を巻き戻して、エディさんが初めてゲームに触れたころのお話を聞かせてください。

エディ:
 私が記憶している限りだと小学生になる前から、5歳くらいにはゲームに触れていました。

 と言っても、当時は自分で遊ぶより親父がプレイしているのを見る側のほうが多かったです。

──最初はお父さんのゲームプレイを見ていた。

エディ:
 はい。それが楽しかった。自分は下手でクリアできなかったので、親父が『スーパードンキーコング2』をプレイしているところを見るのがおもしろかったんです。

(画像はAmazon「スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー」より)

──エディさんのお父さんってゲーマーだったんですか?

エディ:
 うーん、どうなんでしょうね。当時の私から見たらプレイもうまくてゲームもたくさん遊んでいたのですが、いまではゲームを全然プレイしていないのでゲーマーではないのかな?

──なるほど。エディさん自身が初めて「ハマったなあ」と感じたゲームって覚えてらっしゃいますか?

エディ:
 難しいですね……自分のなかで「ハマったゲーム」の基準がわからなくなっているんです。

 『FF6』くらいなのか、それとも「おもしろくてある程度時間をかけてプレイした」の範疇かなのか。うーん……。

──『FF6』はやはり別格。

エディ:
 はい。もう圧倒的ドハマりゲームですね『FF6』は

──では少し質問を変えて、小さいころにプレイして印象に残っているゲームだといかがでしょう。

エディ:
 けっこう昔の話なので記憶が曖昧なんですが、小学生になったタイミングかそのちょっと前に遊んだ『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』は印象に残っています。

 ステージをクリアすると100点満点で採点されるシステムで、100点を取るためにがんばっていました。すごく楽しかった記憶があります。ああ、思い返すと、それが初めてゲームにハマった経験なのかもしれません。

──ふむふむ。明確な数値として評価が可視化されるというのがエディさんのハマりポイントなのかもしれませんね。

(画像はAmazon「スーパーマリオ ヨッシーアイランド 」より)

“飛空艇バグ”との出会い

──いろいろな記録があるなかで低歩数にのめりこんでいったのって何か理由があったんですか?

エディ:
 うーん……多分、珍しかったからだと思います。クリアタイムというのは多くのゲームでありますが、歩数というのは珍しく感じて。そこに惹かれたのかなあと。

 じつは、やりこみじいさんのクリアタイムの項目も少し手を出していたんですよ。でも低歩数ほどのめりこめなかったんです。

──初めて低歩数に挑戦したときってどんな感じだったんでしょう。

エディ:
 2011年くらいでしょうか、ほかの方が作ったチャートをなぞっただけなんですけど、当時の最少記録の8484歩でクリアすることはできました。

 低歩数に関しては、そこでひと区切りがついていたんです。“飛空艇バグ”の存在を発見するまでは……

──噂の“飛空艇バグ”……そもそもどのような経緯で知ったんです?

エディ:
 私が存在を知ったのは、2013年の11月か12月くらいだったと思います。発見者について私は詳しくは知らないのですが、海外のどなたかが2011年くらいに見つけたらしくて。

 『FF6』のやりこみに関する新しいネタがないか調べていたときに、なにやら“飛空艇バグ”が発見されていて、なんだこれはと調べていったら大幅に記録更新できるじゃないか! と

──ふむふむ。ちなみに初めてバグという存在を知った、出会ったのっていつくらいだったんでしょう。

エディ:
 初めて触れたのは恐らく『ポケモン』のセレクトバグだと思います。

 当時はいまのようにSNSが整備されている時代じゃないですから、聞き伝(ききづて)でどうやら道具の7番目でセレクトを押すとレベル100になるみたいだぞ……みたいな感じで誰かから教えてもらって。

──『ポケモン』でレベル100に……っていうのは自分の周りでもありました。「裏技だ!」って学校で噂が流れてきて。

エディ:
 そうそう。いま振り返って、そういえばあれってバグだったよなってなるだけで、当時はバグなんてまったく意識していなかったので、出会いというとちょっと違う気もするんですよね。

 初めて意図的にバグを使ったとなると、初めて低歩数クリアをしたときの“すり抜けバグ”でしょうか。“モグタン将軍”【※】の名前でも有名ですね。

※モグタン将軍の詳細はこちら(ニコニコ大百科「モグタン将軍」

──意識してバグを発生させる瞬間ってどんな感覚なんですか?

エディ:
 なんでしょう……悪いことをしているわけなんですが、普通の人がやらないことをやっているなんとも言えない感覚でした。

──“飛空艇バグ”の存在を知り、それを組みこんで新たなチャートを作っていったわけですが、当時はどんな想いで調査していたんでしょう。

エディ:
 飛空艇バグに関しては、駆者が存在しなかったのでチャートがどうなるのかまったくわからない。完全に未知の領域でした。そんなチャートを開拓してく楽しみがありましたね。

おやつさん、『FF6』に戻って来いよ

──「極限低歩数攻略」が動画投稿デビューだったエディさんですが、低歩数クリアの模様を動画化しようと思い至ったのにはどのようなきっかけがあったのでしょう。

エディ:
 “飛空艇バグ”の存在を知り、それを使って低歩数記録を更新しようと調査するなかで、最初は“Field of Dreams”というやりこみ情報を書きこむ古いネット掲示板に情報を書きこんでいたんです。「“飛空艇バグ”というのがあるみたいです」「これを使えば低歩数記録を更新できるよ」と。

 でも、掲示板に人が少なかったこともあり、そこに書きこんでも知ってもらえてないなという感覚があって。もっといろいろな人に“飛空艇バグ”や低歩数記録を更新できるってしってもらいたい。そう思って動画投稿をやってみようと思いました

──投稿してみての反響ってどうでした?

エディ:
 当時どうだったかな……(しばらく考える)。ある程度驚かれていたとは思います。

 いきなり変なやつが出てきて、よくわからないバグを使ってこれまでの記録を大幅に更新するよっていう動画でしたので、「何を言っているんだ、こいつは」みたいな見えかただったんじゃないでしょうか。

──「何を言っているんだ、こいつは」ですか(笑)。

エディ:
 私としては、そのチャートを進めるうえで必要な情報をしっかりと出したうえで、できるだけわかりやすく説明したいと考えているんですが……。

──視聴者もすごいのはわかるけど理解はできない、みたいな感覚で楽しんでる雰囲気を感じます。動画を作る際に影響を受けた方がいたら教えていただきたいです。

エディ:
 おやつさんですね。彼の編集スタイルは非常にわかりやすくて、参考にさせていただきました。

──おお、おやつさん。以前おやつさんにインタビュー(記事はこちら)させていただいた際に、「動画作りのうえで影響を受けた方」のひとりにエディさんを挙げていらっしゃったんですよ。

エディ:
 動画を投稿し始めたころから、こんなすごい人がいるんだと憧れていた方なのでめちゃくちゃうれしいです! 

 私が「極限低歩数攻略」を始めた同時期に『FF6』のやりこみプレイ動画を投稿していたので、じつはちょっとした目標でもありました。

──おやつさんとエディさんって直接的なやりとりじたいはあるんですか?

エディ:
 ダダルマー戦回避の発覚を皮切りに、この戦闘回避できるよ~みたいなちょっかいをちょくちょく出したり、TAS制作の相談をしたりしていました。

 おやつさんが『FF6』で0勝クリアを達成する際に、「サブフレームリセットからのアイテム溢れを応用してボスのユミール回避ができるよ」みたいなことを提示させていただいたことも。この0勝クリア達成以降、やりとりは途絶えている感じです。

(画像は「【記録更新】ひTASら楽してFF6【0勝クリア】」より)
(画像は「【記録更新】ひTASら楽してFF6【0勝クリア】」より)

──まさに狂人の戯れ……。そうだ。せっかくですので、おやつさんになにかメッセージがあれば記事を通してお届けさせていただければと。

エディ:
 メッセージですか。おやつさん、『FF6』で0勝を達成してから離れてしまっているので、戻ってこいよと。『FF6』に戻って来いよと伝えたいですね(笑)。

──ここ記事ではめちゃくちゃ強調しておきます(笑)。

※取材後日、おやつさんのTwitterで「ひたすら楽してFF6のゆっくり実況版」が始まると告知があった。戻ってきた! おやつさんが『FF6』に戻ってきた!

──……とすいません。話を本筋に戻させていただいて。エディさんの動画投稿って、動画を通じて「チャートの発表、お披露目」という意味合いが大きいのでしょうか。お話を聞いていると、「誰かいっしょに低歩数攻略しようよ」よりは、学会での発表に近い印象を受けたのですが。

エディ:
 正直なところ、「いっしょにやってほしい」想いはあります。

 低歩数クリアに関して調査したり発信したりしているのってほぼ私ひとりなので、寂しい気持ちはありますし、たまに検索して実際にやっている方を見つけるとものすごくうれしい気持ちになるんです。

 ただ、けっこう辛い旅になるので、無理強いはできない……。見ていただけるだけでも本当にありがたいと思っています。

──低歩数攻略コミュニティみたいなのがあるわけではないんですね。

エディ:
 昔(モグタン将軍時代)はありました。さきほども触れた“Field of Dreams”というネット掲示板があって、やりこみについてさまざまな議論がされていました。

 その掲示板は人がいなくなってしまったんですが、いまでも『FF6』のやりこみコミュニティみたいなものはあって、おもしろい現象が見つかったらいっしょに調べてくれる方は何人かいます。ただ、低歩数をメインでやっているのは私くらいなので、基本的に自分で調べて自分で走る感じです。

──そんな孤独な旅をエディさんは10年近く続けている。そのモチベーション維持の原動力っていったいどこにあるんですか?

エディ:
 なんだろう……未発見だったバグやテクニックを見つけて最少歩数記録を減らせるようになったと確信できた瞬間って、なんとも言えない達成感があるんですよ。

──エディさん的には、歩数を減らせた達成感は、完走時の達成感に勝るんでしょうか。

エディ:
 いちばんはバグを発見できたときです。ただ、これについては完走できたことがほとんどないので、私が完走の喜びを知らないだけなのかもしれません。

──おお……。でも動画で一度完走されているじゃないですか。そのときの感覚ってどうでした?

エディ:
 そのときは「終わっちゃったな……」と、うれしいよりもさみしい感じでした。

1歩でも歩数を減らしたい……ずっと変わらない目標

──ちょっとした疑問なのですが、エディさんって『FF6』以外のゲームを遊ぶことってあるんですか? これだけやりこんでいたらほかのゲーム触る時間がないのではと思ってしまいます。

エディ:
 動画やTwitterではほとんど『FF6』の情報しか発信していないこともあり、「『FF6』以外やってないんじゃないか」ってよく言われるのですが、そんなことはないです。

 普通にほかのゲームも遊んでいます。最近だと4月下旬に発売された『ニーア レプリカント ver.1.22474487139…』をプレイしました。

 ただ『FF6』をやっていると、ほかのゲームを遊ぶ時間が削られていくというのは事実ですね。「極限低歩数攻略」以外にもやりこみを抱えているので。

──「 飛空艇バグ有りタイムアタック」「飛空艇バグ有り高ステータスデータ作成」「低やりこみ度攻略」、動画内ですべて再走が決定したと発表されていました。やはりこれらはすべてやりきるつもりで……?

エディ:
 もちろんやるつもりです! ただ想定した以上に「極限低歩数攻略」が長引いているので、いつ終わるんだろうなと考えることはあります。

──ふと気になったんですが、エディさんが動画化している4つのやりこみシリーズの中でもっとも難易度が高いものはどのやりこみになるんでしょうか。

エディ:
 チャートを全然組めていない現状での所感ですが、恐らく「飛空艇バグ有り高ステータスデータ作成」、いわゆる最強育成でしょうか。

 「極限低歩数攻略」よりもチャートが複雑化しそうな気がしているんです。

──「極限低歩数攻略」よりもですか!? ひえ……それは想像を絶するものになりそうですね。お話をいろいろ聞いてきて、『FF6』がエディさんの人生に与えた影響の大きさがひしひしと伝わってきます。

エディ:
 本当に大きいです。

 もし『FF6』と出会ってなければまず間違いなく、デバッガーではなく別のことを仕事にしていたでしょうね。『FF6』をやらない分、もっと他のゲームやゲーム以外の趣味にも時間を割くことができたでしょう。

 もしかしたら、『FF6』と出会わないほうがいい人生だったのかもしれません。だとしてもFF6にハマったことを後悔することは決してないです

──まさに人生を変えた一作で……。最後に、低歩数クリアに挑戦し出してかれこれ10年近くになると思うのですが、そんなエディさんのいまの目標を教えていただけますか。

エディ:
 ずっと同じ目標を持っていて、1歩でも歩数を減らしたい……それだけです。ずっと変わらない

 記録更新が確定して、再走やチャート改修が発生すると辛いのですが、やはり発見できた、歩数を減らせた楽しさがあるんです。

(了)


 『FF6』に出会い、魅了され、低歩数クリアの記録更新のため自身が本職のゲームデバッガーにまでなった。まさにバグ探しに人生を捧げていると言って過言ではないエディ氏。

 しかしそれは茨の道でもある。バグを見つけたら見つけたで、数ヵ月に及ぶチャート作りが待っている。自分で(チャートを)作って、それを自分で(バグを発見して)壊す。そのくり返しだ。

 こんなの苦行としか言い表せないだろう。本人も「辛い」「なんでやっているんだろう……」と、自身の行動を不思議に思うくらいである。

 しかしエディ氏の歩みは止まらない。「大変」「辛い」以上に、バグを発見できたときの、歩数を減らせたときの楽しさが彼の足を前に進め続けている。

 「1歩でも歩数を減らしたい」。その想いを胸に、エディ氏は今日も新たなバグを探し続ける。

「ゲーム」の最新記事

新着ニュース一覧

アクセスランキング