【米大統領選】 若者層「日米関係は悪くなる」シニア層「期待したい」 ニコニコ緊急アンケートで浮き彫りになった世代間ギャップ
大激戦だったアメリカ大統領選。予想に反して(!?)新しく大統領に選ばれたのは、これまで数々の過激な発言を繰り返してきたドナルド・トランプ氏。
彼が掲げる政策の中には、「在日米軍の経費全額負担要求」や「TPP反対」などもあるだけに、これまでのような日米関係から状況が一変する可能性もありえるわけで。そこでニコニコでは、大統領選の直後にユーザーの皆さんに緊急アンケート実施。さらには一夜明けたアメリカ国内の状況を、ニューヨーク在住のジャーナリスト・津山恵子氏が緊急リポート。
司会・堀潤氏、アシスタント・西谷祐紀子氏に加え、解説員として政治コミュニケーション、選挙キャンペーン、世論・政治意識などに明るい岩渕美克教授をお招きし、「約24万のニコニコユーザーを対象としたアンケート結果」とともに、日米関係の今後を考えていきたいと思います。
トランプ大勝利から一夜明け、現地ではメディアに対する批判も出始めている
堀:
早速なのですがトランプ氏が勝利したことに関して、先生はどのように評価されていますでしょうか?
岩渕:
日本でこれだけ騒がれた選挙ということ自体、非常に珍しいことだったと思います。アメリカ国内でも70歳対69歳という異例の高齢者同士の候補者、そして女性と経営者という非常に目新しい構図でした。それだけにアメリカも何か変わりつつあるな、という印象を二人が両党の代表に選ばれた時点から感じていましたので、トランプさん勝利に対してはそんなに驚いてはいないですね。
堀:
いわゆるエリート層の敗退だとか、メディアは自分たちの希望を伝えたかったにすぎず大衆社会を見下していたのではないか? といったメディア批判も聞こえ始めています。
岩渕:
トランプさんのメディア戦略は非常に上手でしたよね。暴言と言われる類いの発言もメディアを惹きつけるためであり、結果、日本ですらトランプさんの言動を扱う報道が多かったくらいです。既成政治に対する反感に加え、そういったトランプさんの戦略が多くの支持を集めたということにつながったのかなと感じています。
堀:
歴史を振り返ると、自民党政権と共和党政権というのは非常に相性が良い過去を持ちます。トランプ率いる共和党政権が誕生したわけですが、果たして共和党政権と言えるのかどうか……その辺はどうでしょうか。
岩渕:
共和党内からもトランプ批判が噴出していたことは事実です。そして今回の選挙によって、議会も上院下院共に共和党が過半数を占めることになった。トップであるトランプさんと議会が一致団結できるかどうかは大きな焦点です。不協和音が出ないことを祈るばかりですが、アプローチの手法や議会のベテラン議員をどれだけ尊重できるかが問われてくるでしょうね。
堀:
なるほど。カリフォルニアでは早速「独立したい」なんて論調も出ていますから、さまざまな点から今後を考えていきたいと思います。それではここで、大統領選当日もニコ生の放送で現地からリポートしてくださったニューヨーク在住のジャーナリスト・津山恵子さんとスカイプがつながっているようなのでお話を伺ってみましょう。津山さん、聞こえますか!?
西谷:
……ちょっとまだつながらないようですね。ところで、堀さん、昨日のニコ生大統領選挙特番の際に町山智浩さんが大変なことになっていたとお聞きしたのですが、何かあったのでしょうか? (笑)
堀:
いや……もう大変でした(笑)。マリファナだらけのトランプ支持者が集まる集会を突撃リポートしたのですが……と言っているうちに、津山さんとつながったみたいですね!
一夜明けた現地の様子はどうなっているのか!?
津山:
こんばんは。お疲れ様です~。
堀:
お疲れ様です~。津山さんは大統領選当日、ヒラリー支持者の集会で取材をされていたと思うのですが、トランプ当選が決定した直後の現地の様子はいかがでしたでしょうか?
津山:
当確の一報が入ったときには、すでに人影もまばらでした。トランプ優位、当確の可能性大という報が出始めた現地時間の23時くらいには家路につく人が数多くいましたね。
堀:
一夜明けて国内の様子、街の様子はいかがでしょうか?
津山:
Business As Usualというのがニューヨークのスタイルですから、皆さん、元の生活に戻っているように感じます。ただ、私が住んでいる地域は移民の多い地域であり、ヒラリーさんやサンダースさんを支えてきた若い白人の方がたくさん住んでいる場所なので、道端で出会うと黙ってハグし合って出勤するといった光景も見られます。
堀:
とりわけ移民の方々や海外にルーツを持つ方などはトランプ氏が勝利したことで危機感を抱いているとも言われています。“アメリカ分断”という声も聞こえてきますが、この分断がアメリカ全体のものなのか、それとも一部のものなのか、津山さんはどうお考えでしょうか。
津山:
やはり分断という言葉がふさわしいと思っていますし、今後この問題を解決していくことは難しいのではないかと。今回、中西部や南西部……300kmほど走っても都市に出れないというような地域をたくさん取材してきましたが、アメリカという国は地方に住んでいる中間階級の国であると強く実感しました。ニューヨークを筆頭にカッコいい人やイケている人がアメリカにはたくさん住んでいると思っている方もいると思うのですが、そうではないんですね。TwitterやFacebookを見ていると、「ニューヨークに住んでいるということは、アメリカの中のバブルの中に生きている」といった書き込みもたくさん見受けられました。
今こそ問われるメディアのあり方
堀:
エリート層が多くの人たちを見下してきたのではないか? そういった差別主義が覆ったことに歓喜している人が多いという声も聞こえてきます。
津山:
マスメディアも含めて、エリート層、エスタブリッシュメントの方々にとっては、考え方を見直していく必要に迫られていると思われます。新聞、テレビといった大手のメディアに関してで言えば、トランプさんに投票したトランプ支持者に対してまったくリーチしていないことが判明しました。全米では新聞の発行部数が、日本よりも少ない4000万部しか出ていません。ニューヨークタイムスの発行部数も200万部くらいなんですね。新聞を購読している人たちの年収は、トランプ支持者の年収の約3倍と言われています。エリート層とトランプ支持者層との分断をどのように埋めていくかが、今後の見どころであり課題だと思います。
堀:
メディアがこれから大衆社会とどう向き合っていくか、あるいはメディア側の敗因分析、世論調査側の敗因分析などについても議論が交わされていますが、その点はどうお考えでしょうか? メディアの力が失われていくことも予想される問題だと思います。
津山:
難しい問題だと思います。懸念していることの一つに、ホワイトハウスの記者クラブの様変わりということがある、と思っています。トランプ支持者が熱狂的に支持していたブライトバート・ニュース・ネットワーク(オンラインニュースサイト)を筆頭とした非常に保守的なラジオのパーソナリティなどが、トランプ政権の支援を受けてホワイトハウスの記者クラブに加入してくるのではないか? そういったことも考えられます。広い視点で考えたときに、今後はマスメディアの定義すら変わっていきかねない状況になるのではないかと思っています。
堀:
日本の地上波テレビでは、「息子さんがかわいい」「奥さんはどんな人なのか」といった表面的なトランプ分析も数多く報道されています。本質が置き去りにされている中で、改めてトランプ氏がどのような評価を受けるべき人物なのか、選挙後の津山さんのトランプ評を教えてください。
津山:
トランプさんは過去に、ニューヨークのマンハッタンの目抜き通りなどの再開発を行っています。ビルを一つずつ買い上げてリノベーションを行い、売り払っていくことで地域の治安向上に一躍買ったなんてこともありました。そのためニューヨークでもトランプさんを評価する声はあります。とは言え、政治に関しては未知数。昨日、共和党の有力者にお話を聞いてきたのですが、これまでトランプさんが掲げてきた政策、メキシコ国境に壁を築くことやイスラム教徒の入国拒否などは、共和党の綱領・アジェンダには入っていないと仰っています。今後、ポール・ライアン下院議長含めて共和党の重鎮たちと共にどのようにして政策を一つにしていくのか? そして、共和党内の統一をどのように果たしていくのか? という課題と向き合う必要があるとも仰っていました。共和党の綱領と、トランプさんが労働者階級に約束した政策をどのようにしてすり合わせていくか? そして票を投じた人たちをいかにして失望させないかという大きな課題を抱えていると思います。
堀:
なるほど。“強いアメリカ”を実現するために一致団結が欠かせないと思うのですが、カリフォルニアでは「独立したい」なんて声も挙がっています。西と東で異なる部分はあるものの、ITベンチャーの方々はトランプ氏に対して事前に抗議文の署名を送るなどの動きも見せていました。昨今のアメリカ経済を牽引してきた一つの要素であるITベンチャーの動きなどは、どのように受け取っていますでしょうか?
津山:
分断が示したことの一つに、若い人たちが多いシリコンバレーもエスタブリッシュメント化してしまった、ということがあると思います。ニューヨークしかりリベラルが多い地域では、「独立したい」という声は少なくないですね。
堀:
メディアの論調はいかがですか? 一夜明けてどのような報じ方になっているのでしょうか?
津山:
ほとんどのメディアは、これからのトランプさんの手腕に何か問題はないのか? どういった課題があるのか? といったことを取り上げています。一夜明けて“親トランプ”に態度を変えてしまっては一貫性がなくなってしまいます。大手メディアは彼への監視、税金申告を公表していないという問題を含めて追及していくのだと思います。
堀:
なるほど。これからますます津山さんのリポートも重要になってくると思いますので、引き続きよろしくお願い致します。ありがとうございました。
津山:
ありがとうございました。
メディアと国民の関係性を考える
堀:
先生、今のお話を聞いていかがでしょうか?
岩渕:
一つはメディアの立ち位置の問題。アメリカのメディアは政治的な立ち位置をはっきりしますから、今回のように大多数がヒラリー派だったという状況の中で、トランプ政権になったときに「ジャーナリズムとは何か?」ということを、アメリカは問われていると思います。日本もその状況を見て学ぶところが大いにあるはずです。そして、格差社会の問題ですね。日本を含む世界共通の問題でしょうが、格差社会をどう解消していくか? 格差社会が叫ばれている中で、政治家が果たす役割がこれほど重要になってきているという状況は近年ではなかったと感じますね。
堀:
一方でマスメディアへの不信感も募っています。そうした中でのメディア環境も大事な問題だと思います。昔のようにテレビや新聞しかない時代と違い、今はネットをはじめ発信のチャンネルが多岐にわたります。メディア環境に対して、大統領選が与えた影響はいかがでしょうか?
岩渕:
日本にいても海外の情報含め様々なものが入ってきますよね。今後は原点回帰ではないですが、本来のメディアのあり方とは? ジャーナリズムとは何か? ということを一度問い直す機会にしてほしいです。我々国民全体がメディアに依存してきた、そして今ではチャンネルが増えたことで少し引いてみることができるようになった。となれば、メディアと国民がどのような関係を目指すべきかというところまで発展していってほしい。
堀:
ユーザーからの意見で、「日本のメディアが中立だったら堀潤、独立してないだろww」なんて声もあります(笑)。ははっはははっ! まぁ、メディアって何かしら偏っていますからね。偏っていることを伝えることが公平性だろ、ということがアメリカが選んだスタンス。キャスターがヒラリー支持を明らかにした上で、スタジオにいるトランプ支持者と討論するという構図の方が騙されずに見ることができる。日本の場合は電波が既得権ですから、アメリカのメディアとは状況が異なることもありますよね。
堀:
それではここで改めてトランプ氏、ヒラリー氏、両者のプロフィールを振り返ってみましょうか。
堀:
パーソナルな部分というのは、やはり票に影響してくるのでしょうか?
岩渕:
そうですね。政策などに関しては「口先だけではないのか?」と知識層は疑ってかかりますから、家族観や社会的属性、人となりを見ることは一つの指針にはなりますよね。これは日本でもアメリカでも一緒だと思います。
堀:
なるほど。ちなみに、西谷さんはヒラリー派でしたか? トランプ派でしたか?
西谷:
どちらかというとガラスの天井を破っての“初の女性大統領”誕生なのかなぁと期待していました。
堀:
ですよね。僕も聞かれたらヒラリーさんと答えていたでしょう。おそらくアメリカでもそういう印象だったんでしょうね。ところが隠れトランプ支持者が多くいたことで、結果トランプさんが勝利した……と。余談ですけど、今日タクシーに乗りましたら、運転手さんがしきりにどうなるんだろうね!? 経済は大丈夫なのかな!? なんて話していたのですが、最後に「でも、ちょっとワクワクするよね」と仰ったんですよ。
西谷:
うんうん、分からなくもないです。
堀:
ですよね、分からなくないんだよね(笑)。