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同接18万を記録した伝説のリングフィットRTA走者がRTA卒業を発表。RTAのために栄養学を学んだ文武両道マッチョが次に挑戦すること

 ゲームの最速クリアを目指すRTA(リアルタイムアタック)のイベント「RTA in Japan Summer 2021」にて、同時接続者数18万人を達成し、Twitterトレンド1位にも名乗りを上げた伝説のリングフィットRTA”を覚えているだろうか。

リングフィット RTA えぬわた
(画像は「リングフィットアドベンチャー – RTA in Japan Summer 2021」より)

 何をしているのかはよくわからないが、マッチョな男が一生懸命動いてゲームをしている姿。まるで『SASUKE』の古舘伊知郎アナウンサーのようなパワーワードに溢れる田口尚平アナウンサーの解説。なぜか差し込まれるボディビル大会のような筋肉応援掛け声

 多くの人に多大なインパクトを与えたRTAで一躍時の人となったのが、RTA走者・えぬわたさんだ。

リングフィット RTA えぬわた

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 えぬわたさんは、リングフィットRTA世界記録7冠を誇る、まさにリングフィットRTA界における最強ランナー。

 ジム通いで鍛え上げられた肉体は言わずもがな、リングフィットRTAのために栄養学を学びパーソナルトレーナーの資格も取得するなど、文武両道マッチョな彼に一切の死角はない。

 そんなえぬわたさんが、2023年2月5日の配信をもって、リングフィットRTAから卒業することが自身のTwitterにて明かされた。

 「RTA in Japan」でひと際注目を集め、その影響かインフルエンサーとしての活動も増え、一見すると順風満帆のように見えたえぬわたさん。

 「なぜRTAから離れることを決心したのか?」「今後はどのような活動をしていくか」など、今回の卒業についてお話を聞くべく、ニコニコニュースオリジナル編集部はえぬわたさんにアプローチ。ラストランに向けて調整中の忙しい時期にも関わらず、承諾をいただけた。

 取材の中では、えぬわたさんの『リングフィットアドベンチャー』への愛が爆発。ゲームやRTAとしてのおもしろさはもちろん、身体を鍛える面での魅力についても熱く語っていただいたのだが……その見事なまでに鍛えられた肉体で言われると説得力しかなかった。

リングフィット RTA えぬわた

 また、今後の活動においても「ジム通いの再開」や「フルマラソンで4時間切りに挑戦したい」など、ゲームのRTA走者(配信者)とは一線を画す展望もえぬわたさんらしさに溢れていた。

 信じられないほどの時間と労力をゲームに注ぎ込む、やりこみゲーマーの頭の中に迫るシリーズ「やりこみゲーマー列伝」。今回はリングフィットRTAに人生を捧げた男・えぬわたさんにお話をうかがった。

【やりこみゲーマー列伝】

取材・文/河村六四
編集/竹中プレジデント

肉体面の衰えやケガのリスクを考えて1年前から卒業を考えていた

──えぬわたさんといえば「RTA in Japan Summer 2021」での『リングフィットアドベンチャー』のRTA(リングフィットRTA)で大きな話題を集めました。この度、えぬわたさんの代名詞とも言えるリングフィットRTAから卒業されるということで、その理由をうかがえればと思っています。

えぬわた:
 リングフィットRTAから離れようと決めた理由で大きいのは年齢ですね。2月7日で30歳を迎えるのですが、そこを節目にしようと1年前くらいから考えていました。

 もちろん、30歳になった瞬間いきなり体力が衰えるわけではないです。ただ、RTAの記録をそこそこ満足に詰められた段階で、自分の年齢も節目を迎えたということで、よきタイミングかな、と。

──『リングフィットアドベンチャー』は肉体を使うゲームなので、やはり年齢の影響が大きいのでしょうか?

えぬわた:
 リングフィットRTAにもいろいろなカテゴリがあるんですけど、14時間近くかかる「any%」、20時間以上かかる「100%」など、長時間のカテゴリには限界を感じています。

 タイム短縮に重要な「空気砲」【※】の最高速度は落ちてないんですけど、やっぱり疲れやすくなったかな、と。あと疲労の回復も遅くなりました筋肉量も減っています

※リングコンを押し込む操作で発動する。経験値を稼ぐため、手持ち無沙汰の道中はひたすら空気砲を撃ち続けることになる。

リングフィット RTA えぬわた
(画像は「マッチョのリングフィットアドベンチャーRTA100%負荷30世界記録解説(28h22m12s)Part2」より)

──鍛え上げられた肉体をされているので意外です。

えぬわた:
 あと、卒業の理由としてもうひとつ大きいのが、RTA中にケガしちゃうのが怖いというのもあります

 心肺関連やアキレス腱など、長時間にわたって激しい運動を続けるのは、誰がどう考えても身体への負担が大きいので。今は大丈夫ですが、そのいつかが来てからでは遅いので、早めに身を引くべきだなと。

──ゲームのRTAなのにケガのリスクというのもリングフィットRTAならではですね。

えぬわた:
 ただ、短時間のカテゴリでしたらまだまだ挑戦できるので、2月5日の時点で記録を詰めきれてなかったりやり残しがあったりとか、あとはその記録が抜かれたりイベントに出たりとかってなった場合には挑戦する可能性はあります。

 それにRTAからは離れても『リングフィットアドベンチャー』の通常プレイは続けたいと思っています。 RTAを抜きにしても大好きなゲームなので!

──まるでスポーツ選手が引退する際の理由のような……。それほど肉体面が大事なRTAなんですね。普段から身体のコンディションを調整しないといけないのもあるでしょうし。

えぬわた:
 大事ですね。たとえば「any%」のカテゴリだと、朝9時に始めたとしても終わるのが夜中0時なんです。

 朝9時にRTAを始めるためには、準備のためには3時間前の6時ぐらいには起きないといけないので、大体1週間前から生活リズムを整えていくのが大事なんです。なので、普段からお酒も飲まなくなりましたし、RTAを走る日が迫ると食事にも気をつけます

──気をつけるというと?

えぬわた:
 とくに前日はカロリーを多めにしています。パスタをはじめとした炭水化物の摂取量を増やして身体にエネルギーをためておく、みたいな感じです。

リングフィット RTA えぬわた
(画像は「マッチョのリングフィットアドベンチャーRTA100%負荷30世界記録解説(28h22m12s)Part1」より)

──やはり過酷……。リングフィットRTAに挑戦し続けることは難しいんでしょうね。

えぬわた:
 難しいです。今お話した体力面もそうですが、精神的にも疲弊するっていうのが大きいと思います。

──精神的な疲弊とはいったい?

えぬわた:
 前提として、リングフィットRTAのタイムは現在ある程度突き詰められていて、更新するためのハードルも私が参戦したころよりも高くなっています。

 空気砲にしても、昔は平均800回で十分だったんですが、今は平均890回くらい必要になっていたり。記録更新を目指そうとすると求められるレベルというのは上がっています。

 2022年の5月くらいに「筋肉グリッチ」【※】というテクニックが見つかって、各カテゴリで動きがあったんですが、それ以降は一旦落ち着いている状況なのもあって、走っても記録更新に繋がりにくいんです。

※空中でリングコンを下に強く連打し続けることでより長距離ジャンプ移動できる技。筋肉が必要。

リングフィット RTA えぬわた
(画像は「マッチョのリングフィットアドベンチャーRTA100%負荷30世界記録解説(28h22m12s)Part12」より)

──記録がもう突き詰められている、と。

えぬわた:
 もちろん、もしかしたら記録更新できるかも、みたいな楽しみもあるんですけど。時にもよりますが、昔に比べると記録更新に燃える気持ちは薄れている感じはします

 昔は、「ここを組み替えれば改善できるな」とか「こうすればもっと早くなるな」みたいなところがバンバン見つかっていたんです。なので、次の挑戦ではタイムを縮められる手応えがあった。

 今はチャートもかなり詰まっていて、「1回でもミスしたら記録更新はない」みたいなプレッシャーのもとで挑んでいます。そういうのもあって、後ろ向きな気持ちで挑戦することも増えてきたので、それも潮時だと思ったひとつの要因ですね。

「any%」カテゴリにはリングフィットRTAのおもしろさが詰まっている

──2月5日をラストラン配信の日にしたのは何か理由が?

えぬわた:
 2月7日の誕生日を迎える前、20代のうちに走っておきたいなっていうところで、その前の土日である2月5日に走ろうと決めました。

──現在はどのような準備をされているのでしょう。

えぬわた:
 「any%」カテゴリに挑戦する予定なので、チャートを詰められるだけ詰めつつ、本番に向けて毎週土日に「any%」に挑戦して調整していこうと考えています。

 ただ、最近は途中でミスったり、体の調子がちょっとでもよくなかったりして完走できない状況が続いてしまっているので、不安もあります。体調次第でいくらでも記録が変わるようなRTAですので。

 この前の配信でも、空気砲が全然出なくて14時間走るつもりだったのに20分ぐらいでやめちゃう、みたいなこともやらかしまして。

──あら、空気砲が出なかったというのは肉体のコンディション的な理由ですか?

えぬわた:
 はい。肉体的な理由です。ですので、完走できるようにこれまで以上に身体のコンディションをしっかり整えていこうと思っています。

──ラストラン配信で挑戦する「any%」は空気砲の精度も重要になってくるカテゴリです。加えて、約14時間のランと過酷なRTAになりますが、ラストランで「any%」カテゴリを選んだのには何か理由が?

えぬわた:
 「any%」カテゴリが、自分にとっての最初のリングフィットRTAだったので、思い出深いというのがまずあります。

 そして、なにより「any%」カテゴリには、リングフィットRTAのおもしろさが詰まっているからですね。

リングフィット RTA えぬわた
(画像は「マッチョのリングフィットアドベンチャーRTA100%負荷30世界記録解説(28h22m12s)Part9」より)

──リングフィットRTAのおもしろさ、ですか。

えぬわた:
 はい。リングフィットRTAって基本的にはRPGのRTAなんです。ダメージ計算をして、適切な技を選ぶ。ランダム要素に応じて最適な行動を取る。

 こういったことがRPGのRTAの醍醐味なんですけど、リングフィットRTAはそれに加えて、肉体への疲労という要素が加わります。

──判断軸が増えることで、深みが増すわけですね。

えぬわた:
 とくに「any%」カテゴリは、10時間以上運動し続けて疲弊している状態で最適解のために脳みそを働かせなければならない

 筋肉だけではなく、構成能力やアドリブ力も求められるこのカテゴリが、自分の強みを出せる意味でもあっているなと。あらゆる理由からラストランは「any%」がよいだろうと判断しました。

ゲーム・筋肉・精神のすべてが完璧じゃないと記録が出せない

──ラストラン配信で走る「any%」カテゴリ以外も、まだまだ挑戦をされているみたいで。

えぬわた:
 RTAから離れるので、それまでに記録を詰めたいっていうのが今のモチベーションですね。

──ちなみに配信を拝見すると、「Beat World1」カテゴリなどは1日に何度も挑戦されているようですが、肉体的には大丈夫なのでしょうか。

えぬわた:
 私自身、「100%」カテゴリでは20時間以上走り続けることもあるため、10分台で終わるカテゴリを何回か走る分には体力的に問題はないです。

 とは言え、筋肉のパフォーマンスを考えると3回くらいがピークで、4回目以降はパフォーマンスも落ちます。ただ、「何度も挑戦してベストを出す」というのもRTAとしては大事なので、多いと10回くらい挑戦することもありますね。

──10回も……。体力がそこまで持つのが信じられないです。

えぬわた:
 RTA中、ずっと全力で動いているわけではなく、例えば17分のランのなかで本気中の本気を出さないといけないのって3分くらいなんです。

 サッカーで例えるとわかりやすいかもしれません。サッカー選手って、試合の90分間走り続けてますよね。で、その中で全力ダッシュする瞬間が何度もあるみたいな。それと似たような感じかもしれないですね。

──なるほど。疲れてくると、ゲームの操作にも影響しそうですが。

えぬわた:
 ものすごくありますね。とくに「Beat World2」(ワールド2までクリア)までのカテゴリがきついと思ってます。全力でリングコンを押し込んだ後、筋肉が強張っている状態でリングコンをうまく操作するっていうのはミスもおきやすいですし。

 あと、筋肉グリッチという技は筋肉も技術も必要なテクニックなので、疲れている時にこの技をどうくり出すか。当然、元気なときよりも技を出すのが厳しいので、そういうところがおもしろいですよね。

リングフィット RTA えぬわた
(画像は「マッチョのリングフィットアドベンチャーRTA100%負荷30世界記録解説(28h22m12s)Part13」より)
リングフィット RTA えぬわた
(画像は「マッチョのリングフィットアドベンチャーRTA100%負荷30世界記録解説(28h22m12s)Part13」より)

──純粋な操作ミスが起きることもあると思うのですが、その時の心境は?

えぬわた:
 RTAってそれとの戦いでもあるんですけど、やっぱり悔しいです。とくに、肉体のコンディションがめちゃくちゃよかった時に、他のしょうもないところでミスした時は本当にもったいないなって思います。

 心技体じゃないですけど、ゲーム・筋肉・精神のすべてが完璧じゃないと記録が出せないところはありますね。そこがまたリングフィットRTAの難しいところかな、と。

──解説動画の中では、「100%」カテゴリの時は10時間を超えたらきつく、20時間を超えたら大丈夫になる、といった話もされていました。

えぬわた:
 10時間を超えたぐらいから気持ちが辛くなるんです。メンタルとの戦いだと思います。

 解説動画の当時は休憩ルールというのがなかったのでかなり特殊なんですけど、28時間不眠不休で挑戦すると本当に心が折れそうになるんですよ。なので、20時間ぐらい経つと、「あ、そろそろ終わりだな」って思えるんです。まだ8時間も残ってるのに、終わりが見えて気持ち的に明るくなるんです。

 肉体的なことを言うと、18時間ぐらいでレベル上げが終了するので、そこでも気が楽になります。それまでは、ずっと全力で空気砲を撃ち続けないといけなかったりするので、そこも楽になるポイントだったりします。

リングフィット RTA えぬわた
(画像は「マッチョのリングフィットアドベンチャーRTA100%負荷30世界記録解説(28h22m12s)Part14後編」より)

──休憩ルールの導入によって、そのあたりもだいぶ緩和されたんでしょうか。

えぬわた:
 もちろんです。6時間やると30分休み、もう6時間やると30分休み。そこからさらに4時間、計16時間やると8時間の休憩が取れるみたいなルールですね。

 ぶっちゃけ30分で体力回復するかっていうと、しないんですよ。ただ、その間にトイレに行ったり、一旦ちょっと息を落ち着かせたり。そういうことができるだけでメンタル的にすっごく楽になるんです。

 今までだったら28時間走らないと休めなかったんですけど、6時間で「あ、もう休憩だ」みたいな。それが毎回あるわけで、個人的には体力回復よりもメンタル回復の方が大きいと思ってますね。

リングフィット RTA えぬわた
(画像は「マッチョのリングフィットアドベンチャーRTA100%負荷30世界記録解説(28h22m12s)Part14後編」より)

──ちなみに、リングフィットRTAに運の要素はどのくらいタイムに影響を及ぼすのでしょうか。

えぬわた:
 そこそこありますけど、ほかのRPGのRTAよりは少ないと思ってます。敵とのエンカウントはすべて固定ですし、敵の行動もかなり固定されています。

 一番運が絡むのは素材のドロップですね。ブドウやイチゴなどの素材を集めてスムージー(攻撃力を上げたりするようなバフアイテム)にして、戦闘中に使って攻略していくんですが、けっこう偏ることもあります。イチゴが足りず、イチゴスムージーが作れなくなって詰む、みたいな運要素はありますね。

──ゲーム・筋肉・精神に加えて運も必要なんですね。

えぬわた:
 はい。もちろん、不測の事態にどこでリカバリーするのか、というのもけっこう計算しています。何度も挑戦して、運が悪かった場合のリカバリー方法も身につけないといけないので、そこは経験値がものを言うところですね。

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