同接18万を記録した伝説のリングフィットRTA走者がRTA卒業を発表。RTAのために栄養学を学んだ文武両道マッチョが次に挑戦すること
『リングフィットアドベンチャー』はガチで使えるトレーニングゲーム
──「冒険しながら、フィットネス」を謳う『リングフィットアドベンチャー』ですが、実際に身体を鍛えられるものなのでしょうか?
えぬわた:
選ぶ運動によりけりだと思います。リングコンを潰す系の動作はしっかり筋力増量にもなりますし、走るほうをメインにしたら有酸素運動になるので減量に繋がります。
──ちゃんと鍛えられるんですね。
えぬわた:
すでにジムで鍛えているような人が『リングフィットアドベンチャー』だけで筋肉モリモリになるか、っていうとならないです。ウエイトトレーニングのほうが効果はあります。
ただ、私自身、走るほうメインでメニューを組んで減量し、フィジークで入賞した経験もあるので、ガチで使えるトレーニングゲームだと思っています。
──では、『リングフィットアドベンチャー』のコンセプトである、運動不足解消には間違いなく有用なんですね。
えぬわた:
はい、まさにそうです。これで筋肉痛になる人とかめちゃくちゃたくさんいるので、本当にいい運動になるゲームですよ。
あわせて大事なのは食事ですね。食べる量を増やして『リングフィットアドベンチャー』をすれば、それがちゃんと筋肉に変わります。逆に食べる量を減らせば体重も減っていくみたいなところで、付き合いかた次第です。
──運動系ゲームはいろいろありますが、『リングフィットアドベンチャー』ならではの特徴というのはなにかあるんでしょうか?
えぬわた:
私自身、すべての運動系ゲームを知っているわけではないのですが、普通の運動系ゲームは、あくまで運動+ミニゲームみたいな感じなんですよ。運動に遊び要素が加わっている。
でも『リングフィットアドベンチャー』は逆で、おもしろいゲームがベースにあってゲームの操作方法が運動、みたいな感じなんですね。
──なるほど。
えぬわた:
『リングフィットアドベンチャー』ってRPGなので、技を選ぶときに相手の弱点とか相手の残り体力とか、そのスキルに対するコストとかを考えて技を選んでいくんです。さらに、その判断軸に自分の体力も加わるっていうのがめちゃくちゃおもしろいと思います。
普通のRPGより判断軸が多くて、普通のゲーム以上におもしろく感じています。このゲームに勝る運動系のゲームは現状ないですね。
──運動系ゲームに革命が起きた、と。
えぬわた:
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』がオープンワールドのハードルを上げた、みたいな話がありますけど、それと同じように運動系のゲームのハードルを上げたのが『リングフィットアドベンチャー』だと私は思ってます。
──それだけ『リングフィットアドベンチャー』にハマっているえぬわたさんですが、操作するためのリングコンが4台目に突入しているという噂を耳にしました。
えぬわた:
半年前の動画では4台目だったんですが、今は10台目【※】です。
※取材から数日後、えぬわたさんより「11台目に突入しました」とご連絡がありました。ですので正しくは11台目です。
任天堂さんの名誉のためにも伝えておきたいのですが、通常プレイをしている分にはこんなに買い替える必要はありません。RTA走者をしていると少しでも状態が悪くなったら買い換えてしまうので、それで2ケタの大台に乗った感じです。
リングフィットRTAを始めたり「RTA in Japan」に出走したのは「例の和室」の友人がきっかけ
──えぬわたさんがRTA走者としての転機になったのは、「RTA in Japan Summer 2021」だと思います。過去のインタビュー記事でお話されていることが多いとは思うのですが、あらためて出走に至った経緯を教えてください。
えぬわた:
「RTA in Japan」に出走したのはリングフィットRTAを始めてから1年4ヵ月ほど経ったころでした。
それまでは普通にリングフィットRTAの「any%」と「100%」カテゴリに挑戦を続けていました。世界1位の記録も出せて、次に何を目指そうかと考えたところで、「RTA in Japan」に出てみたいという気持ちが芽生えてきたんです。RTA走者にとっての「RTA in Japan」って、球児にとっての甲子園みたいな感じで憧れの場所というのもありましたね。
あとは、「例の和室」で話題にもなった部屋を貸してくれた友人からも「RTA in Japanに出てみないか?」と言われたのもあって、応募しました。
──友人からの誘いが出走のきっかけだったんですね。
えぬわた:
ええ。そもそもリングフィットRTAを始めたのも友人のひと言があったからなんです。
──ええっ!?
えぬわた:
もともとは、フィジークという、ボディビルの上半身バージョンみたいな競技に向けて、週6でジムに通って体を鍛えていたんですが、コロナの影響でジム通いが難しくなってしまって。そんなときに家でもトレーニングできる『リングフィットアドベンチャー』と出会ったんです。
それまで打ち込んでいたトレーニングのような全身全霊で打ち込むものがなくなってしまったので、その熱量のぶつけ先が『リングフィットアドベンチャー』に向かいました。
その熱量は通常プレイだけでは解消できなかったので、RTAの領域に興味を持つようになったんですが、リングフィットRTAをするとなると自分の身体を映さないといけない。でもその時は今よりもっと狭い部屋に住んでいたので画角的に全身を映し切るようなカメラポジションが取りにくかったり、そもそも配信環境すらありませんでした。
配信に関する知識もなく、悩んでいた時に、その友人から「配信を手伝うからリングフィットRTAやらない?」と申し出があって。
──まさかのベストタイミングで。
えぬわた:
友人にはそういう悩みについては一切話していなかったので驚きました。当時は「なんだこの都合のいい話は……」と思いながら、友人の提案に乗った感じです。
今思えば、自分がそういうことをやりたそうだとわかっていて、そのうえで言ってくれたんだな、と思います。とてもありがたいお声がけでしたね。
あれだけ話題になったのは実況の田口尚平さんのおかげ
──「RTA in Japan Summer 2021」のリングフィットRTAでは、同時接続18万人超え、Twitterトレンド1位。その後も「RTA in Japan」は続いてますけど、桁違いに注目を集めたRTAだったと思います。
えぬわた:
ここまで話題になったのは実況してくださった田口尚平さんのおかげです。田口さんが実況で盛り上げてくれなかったら、あそこまで盛り上がらなかったと思います。
あとは、見た目ですごいことがわかりやすく、ゲームをプレイしていない人でも楽しめるという面もあったのかなと。マッチョが一生懸命にゲームで運動しているというのが大衆にウケたんじゃないでしょうか。
──画面の絵面もインパクトがありましたし、解説だったり応援掛け声だったり演出面でもパワーワードの連続でものすごい濃い17分間でした。このあたりの打ち合わせってどのくらいされたんですか?
えぬわた:
当日は私と実況と解説の3人にプラスして、配信手伝い2名の5人体制でやっていたんですが、まともに打ち合わせたのは当日だけだったんです。
本番の数日前に田口さんから「ツイッターで掛け声を募集していいですか?」って確認がきたくらいで、後はすべて当日に準備したものでした。
──すごい……。
えぬわた:
私は走る2〜3時間前に現地入りしたんですけど、私が柔軟とかストレッチをしてたりご飯を食べたりしてる間に、田口さんが私にインタビューをして、その後にTwitterで募集した掛け声をチョイスしてメモを作ってました。
逆に即興に近かったので、「筋肉スイクンチャート」みたいなワードが流行る、といった事件も起きておもしろくなったんだと思います。実況と解説の打合せも直前に30分だけで、あとは全部アドリブです。本当に田口さんのすごさを感じましたね。
──ものすごい話題を集めていた当時の心境はどうだったのでしょうか。
えぬわた:
じつは……私の中では「すごいことをやった」みたいな感覚はなかったんです。
まったくないとは言わないまでも、自分としては今まで通りのことをやっただけというか。むしろ「RTA in Japan」で披露したのは「Beat World1」(ワールド1までクリア)カテゴリだったので自分としては大したことやってない感覚でした。
──いやいやいや……! 相当すごいことだと思いますよ(苦笑)。でも確かに、20時間以上走り続けるカテゴリに挑戦しているえぬわたさんにとってはそう感じるのかもしれませんね。
えぬわた:
そうだと思います。なので当時一番思ったのは「バズるってこういうことなんだ!」ってことです。
ただ、それも田口尚平さんのおかげですので慢心しちゃいけないと。YouTubeのチャンネル登録者数とかTwitterのフォロワー数とかは、あの時バズって伸びたものなので、自分の実力ではない。そこだけ勘違いしないように気をつけようと、あらためて身を引きしめるような思いが強かったと思いますね。
友人からの「えぬわたさん自身は何も変わってないんだけど、自分の知っていたえぬわたさんのすごさが多くの人に伝わってすごくうれしい」というメッセージが印象に残っています。そういう友人を持っていてよかったな、と思いました。
「RTA in Japan」出走後は生活が一気に変わった
──「RTA in Japan Summer 2021」で大きな話題を集めた後、活動にどのような変化がありましたか?
えぬわた:
もともと配信者ではなかったのですが、配信をするようになりました。あとは、いろいろとお仕事をいただけるようになったので、活動に伴う責任はどんどん大きくなっていきましたね。
例えば、今までの配信は、カメラの画質もマイクの音質も悪く、自分の映像とゲーム画面を適当に組み合わせていただけだったんです。でも「Twitchパートナー」の権限もいただいたので、それに見合うような配信をしないといけない、というところで配信環境をちゃんと整えました。
──責任というところで、具体的に気をつけてることはありますか。
えぬわた:
ちゃんと情報の告知を丁寧にすることですね。案件を受けたりインタビュー記事が公開されたりしたら、すぐにリツイートで拡散する。そういった基本的なことをすごく丁寧にやろうと意識しています。
あとは、配信者としては当たり前だと思うんですけれども「配信をすること」ですね。
私はそもそも配信者になりたくてなったわけでもないので、普通に過ごしてしまうとサボって配信しない状況になり得るんです。本当に当たり前のことなんですが、私にとって、じつはがんばってるところですね。
──ということは、最初にRTAに挑戦された時はまったく配信を考えていなかったと。
えぬわた:
考えていませんでした。今でこそ練習配信もしていますが、当時はタイムを本気で狙いに行くRTAの本番だけ配信するくらいでした。だから年に2回とか、そのくらいの頻度ですね。だから生活とかも一気に変わりました。
──生活の変化とはどのような?
えぬわた:
配信を週3〜4回やるようになって、その分の時間を捻出する必要が出てきました。具体的には、仕事を終えた後にやることが配信になりました。
あとは、土日の予定も入れられなくなりましたね。私が挑戦しているカテゴリは1日とか半日ぐらいかかるものなので、土日はどっちも潰れてしまうんです。
──リングフィットRTAで、文字通り生活が一変されたんですね。
えぬわた:
配信を見ていただける方々には感謝しかありませんし、お声かけいただけるのは本当にありがたいお話です。
ただ、私のインフルエンサーとしての活動では、ゲームから少しずつ離れないといけないな、とも思っているんです。
──ええっ、それはまたなぜでしょう……。
えぬわた:
私は普段サラリーマンとしてゲームに関連する仕事をしているのですが、そんな状況でゲームの配信活動を続けようとすると、どうしても制約が出てしまうんです。
本音としては離れたくないんですけど、自分のキャリアをあらためて考えると、配信活動としてはゲームと距離をとったほうがいいと考えています。
今後は筋肉中心の活動予定。フルマラソンで4時間切りも目指したい
──ラストラン配信以降の活動についてはどう考えていますか?
えぬわた:
一旦は筋肉を生かした活動を中心にする予定です。家にウエイトトレーニングの機材がそろっているので、しばらくは筋トレ配信とかが多くなるかな、と。
自分がさらにステップアップするには、ゲーム以外の何かと筋肉・運動を組み合わせないといけないと思っています。現在はその何かを探している段階というか。はっきり言ってしまうと決まってないんです。
──今後をつづったnoteではTwitchを離れるとのことですが、配信活動じたいはどうお考えで?
えぬわた:
YouTubeにて、できる限り続けていこうと思ってます。前述の筋トレ配信のほかに、『リングフィットアドベンチャー』の通常プレイもできればと思ってますね。
また、離れるとは言いつつ、リングフィットRTAをやりたくなったときにはTwitchで配信しようと思っています。私としてはすごくいい環境というのもあり、完全に離れてしまうのは嫌なので。
──今後、挑戦してみようと思っていることはありますか?
えぬわた:
フルマラソンに挑戦したいと思っています。過去に少しだけ4時間切りを目指して取り組んでいたのですが、4時間17分くらいの記録で終わってしまっているんです。
プロ記録は2時間台で、4時間というのは世界的には決してすごいものではないのですが、市民ランナーとしては誇れるポイントになると思うので、目指したいと思っています。
現在の自分が達成できない、でも自分が到達できるであろう限界を目指す、っていうのは自分の軸になるポイントですね。
──自分の限界に挑戦したい、という目標なんですね。
えぬわた:
そうですね。世界一を取れない競技とかに挑戦したとしても、自分の今の実力だったらここが限界点だろうっていうところをひたすら目指し続けるんだろうなって思います。
──ストイックで尊敬するばかりです。リングフィットRTAから離れたあともえぬわたさんの筋肉を生かした活動を楽しみしています!
えぬわた:
ありがとうございます! リングフィットRTAのラストラン配信が終わったら、ジムに行けることを今は楽しみにしています。
以前のような週6ペースでジムに通ってしまうと筋肉痛になってしまい、リングフィットRTAの練習に影響が出てしまうのでなかなかジムに行けなくて、全然ウエイトトレーニングができてないんですよ。
──リングフィットRTAのためにジムになかなか行けなかったと。ちょっとおもしろいですね。
えぬわた:
RTAの能力向上のためにジム行きたいんだけど、リングフィットRTAの練習時間も必要なので(笑)。
ジムに行った1日が取られるだけじゃなくて、筋肉痛でその後の1〜2日も取られちゃうので、けっこう痛いんですよね。リングフィットRTAなら13時間半やっても筋肉痛にならないのに、不思議です。
取材を通してわかったのは、えぬわたさんの筋肉と『リングフィットアドベンチャー』愛は本物だということと、自分が到達できるであろう限界を目指すことで世界一になれることだった。それは、
毎日のようにさまざまなカテゴリに挑戦し続けたり
1週間も前からRTAのために体調を調整したり
世界一の記録を取ってもさらに記録更新を目指したり
リングフィットRTAに真摯に向き合ってきた姿から学べたことである。
またその話しぶりから相当な人格者であることもうかがえた。まるで、リングフィットRTAを続けたことで心技体のすべてを兼ね備えた存在になっているかのようだった。
そんな、リングフィットRTAなどという誰もやりたいとは思わないことを2年以上続けているえぬわたさんの“卒業”にはすなおに「ありがとう」や「お疲れさまでした」を言いたいし、その筋肉と人間力を活かした今後の活動も応援したいと思った。
……久しぶりに、押し入れにしまったままのリングコンを取り出してみようか。
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