スペイン→鉢植え5個までOK、チェコ→大麻入りアイスを販売――オランダだけじゃないヨーロッパのマリファナ“非犯罪”事情
2017年7月にネバダ州、2019年にはカリフォルニア州でも購入が許可される予定と、アメリカで合法化が進むマリファナ(大麻)。他州に先駆けて2014年にマリファナを解禁したコロラド州は、マリファナビジネス先進州として、マリファナ用電子パイプ、マリファナコーラ、マリファナはちみつなど、多彩なマリファナ関連商品を展開、さらには「マリファナ観光ツアー」なども実施している。
その一方で、オランダのアムステルダムでは20年以上前からマリファナを購入することが可能である。また、スペイン、ベルギー、スイス、チェコなど、ヨーロッパのいくつかの国でもマリファナの所持・使用が可能となっている。
これらの国で行われているマリファナの“非犯罪化”とはいったいどのようなものなのか。ミュージシャンでジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏、中部大学総合工学研究所特任教授の武田邦彦氏、『ドラッグの品格』『大麻入門』などの著書を持つ作家の長吉秀夫さんが解説した。
※本記事は、2015年9月に配信した「これでキマリ!世界のマリファナ事情~解禁の流れはどこへ向かう?~」の内容の一部を再構成したものです。
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消極的に大麻を認めるヨーロッパ
モーリー:
皆が怖いと思っているものを「いや、こういう理由で怖くないよ」って言われても国民は信じない。だから政治の現場になってくるとその駆け引きが大事になってくるわけで、オランダはどうしたかと言いますと、非犯罪化という政策をとっております。それを紹介いたしましょう。
オランダの非犯罪化政策というものがあります。ハード・ドラッグ、ソフト・ドラッグの概念、ヘロインなどの麻薬の取り締まりについて、ハーム・リダクション【※】の概念などに今から入っていこうと思います。
※ハーム・リダクション
健康被害や危険をもたらす行動習慣を直ちにやめることができないとき、害や危険をできるかぎり少なくすることを目的としてとられる方略、指針、政策のこと。
モーリー:
オランダですが、ドトールコーヒーショップとかカフェ・ベローチェみたいなコーヒーショップなんですけれども、コーヒー以外に大麻が出てくるコーヒーショップと呼ばれる政府公認の販売店がある。これがポイントです。政府が公認しています。その販売店で大麻を購入できます。そして少量の所持と決められた場所での使用は罪に問われない。
ここがポイントなんですけれども、網はあるんだけれど目がすごく大きくなっていて触れずに通ることができるというのかな、非犯罪化ですよね。つまり法律としては合法ではないんですが、あえて罪に問わない、問うても微罪と言う。これは妥協点なのでしょうか。
長吉:
これは要するに犯罪にしないっていうことなんですけど、なぜそういうふうになったかって言うと、ハーグ阿片条約【※】から始まった国際条約があって、この条約を解くためには全員がまた集まって解かなきゃだめだからなんです。
※ハーグ阿片条約
1912年1月23日、オランダのハーグで開かれたハーグ国際阿片会議で調印された、初の薬物統制に関する条約。アヘンをはじめモルヒネやコカイン、また同等の害毒を起こすものが条約の統制対象となった。
長吉:
ですので一回決まってしまった国際条約はなかなか解けないということがあって、ヨーロッパの国々はどうしたかって言うと、「犯罪にしない」という非犯罪化にして国際条約をすり抜けるような方式をとったっていうことなんですね。
モーリー:
消極的に認めたということですよね。
長吉:
そういうことですね。
モーリー:
オランダなどは非犯罪化をもう20年以上やっていると思うんですが、結果として社会にプラスマイナスはどう出たでしょうか。
武田:
一つは非常にストレスの強い社会で嗜好品、たばことか、酒とか、コーヒーとか、マリファナとか、そういうものをどういうふうに見ていくかということです。「刑と社会に及ぼす害のバランスが崩れている」ということは前から言われています。
つまり非常に強い麻薬であれば、社会に大きな影響を与えるから懲役7年でもいいだろうと。だけど例えばパン一個を盗んだぐらいで懲役30年になりませんよね。ジャン・バルジャン【※】とか。
※ジャン・バルジャン
フランスの作家ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』の主人公。パンを盗んだために投獄されてしまう。
武田:
そういう社会正義というのは、社会に及ぼす影響とそれに対する罪というのがバランス化していなければいけない。そういった議論は大麻の課税法のときからずっとありまして、大麻を吸ったから何が起こるんだと。
それでどういう被害を社会に与えるからその人を罰しなきゃいけないのかと、論理はなんですかと聞かれるわけですよ。そうすると、「大麻はみんなが悪いって言っています」と、こういうふうになって重罪なんですね。そこのところを少し弱くしようとしているのが今のヨーロッパじゃないかと。
経済的理由以外にもまだあった⁉ アメリカによる赤狩りと人種差別
モーリー:
なるほど。戦後、終戦直後の1950年代、アメリカのバブルが始まったころ、戦後の好景気にわいていた時期に、アメリカ中の各小中学校で学習映画を子どもたちに見せてまわって、その中で有名なのが『リーファー・マッドネス 麻薬中毒者の狂気』という、大麻を吸った結果、殺人や自殺をしたり大変だぞっていう、子どもを怖がらせる映画がありました。
武田:
そうそう。あれは白黒映画でしたっけ。
モーリー:
白黒です。
武田:
あれは1910年代につくられた映画なんですけど、演じているのは俳優なんですよ。飲んだ患者さんじゃなくて俳優がやっているんです。だから、つくり話ですね(笑)。
モーリー:
ということは、要はある種政府主導で国民の合意を無理に突っ込んでねじ込んでいった感じで、それに対する議論が起きてもいけない雰囲気をつくった。あと50年代にソ連とアメリカの緊張関係がある中で、赤狩り【※】が1950年にありましたよね。そのブームの一種の魔女狩りのような雰囲気の中で、大麻も一緒に、共産党の工作員が若者を堕落させるために流通させているんじゃないかという疑惑を。
※赤狩り
政府が国内の共産党員及びその支持者を、公職を代表とする職などから追放すること。
武田:
もう一つは人種差別がありまして、もともと大麻を地下で吸っていたのはヒスパニック系の人たち。
モーリー:
メキシコからの労働者とか。
武田:
そうそう。それに対するアメリカ市民の反発があって、「彼らは煙のにおいがする、地下で吸っている」と、「あれはやめさせなきゃ」っていうのもあったんです。
アメリカのそういういろいろな規制っていうのは、第一次世界大戦の前はドイツに対するビールの憎みとか、それからメキシコ系のたばこのにおいとか、それから赤狩りとか、こういったものの中で法律ができてきていますから。そこら辺をよく日本人は理解しないと。
モーリー:
つまり、もともと大麻取締法の原型になったアメリカの法律が、その当時吹き荒れたさまざまな政治の嵐の結実したものだったと。しかも1930年とか、20年時点ですから、特に科学的に重いものがあるわけではないと。
武田:
そうです。
モーリー:
なるほど。ではオランダに続いて、その他のヨーロッパ諸国の大麻事情も少し見てみましょう。
モーリー:
スペインでは、個人で鉢植え5個までの大麻栽培は許可されています。公共の場での使用・所持は行政処分により罰せられます。ベルギーは3gまでの所持は個人使用目的として許可。公共の秩序を乱す行為が伴う場合は罰せられる。でもこれは公共の秩序を乱さないで、ベルギーチョコを食べながら大麻を吸っている分には大丈夫っていうぐらいなのかな(笑)。
スイスはベルギーのリミットの3倍強ですね。10g以下の所持は罰金刑となるが犯罪歴には残らない。犯罪歴に残らない、就職もオッケー。チェコは5株までの大麻栽培、20本までの大麻たばこの携帯を許可。これは大判振る舞いかな。旧東欧、ソ連系ですね。大麻入りのアイスなども販売されているそうです。すごいですね。これはやっぱりオランダの影響を受けているのかな。
長吉:
基本的にはオランダの影響を受けていますよね。スペインは組合をつくって、得意な人が全部栽培をして分け与えたりということが、法律的にもオッケーになっているっていうことなんですね。あと基本的に東側は基本的にもともと厳しくないんですよ。
モーリー:
そうなんですか。
長吉:
ええ、厳しくなかったんです。
モーリー:
共産圏だったころから?
長吉:
ええ。これはアメリカが発端ですから。
モーリー:
そうなんだ。