スマホで撮影→即入金・質屋アプリ「CASH」創業者に、1日でサービスが停止した時の話を聞いてみた。「トラック丸一台分の荷物、どうすればいいですか?」
悪人前提で作られているサービスの逆にチャレンジ
小飼:
CASHの一番画期的な点は、ユーザーがユーザー側の義務を果たす前にお金が振り込まれるっていうことですよね。物が着く前にお金が先に振り込まれることです。ここが画期的だなと。
山路:
そんなことを、10年前だったら想像できなかった気がするんですよね。
光本:
僕たちがチャレンジしてみたかったのが、世の中のあらゆるサービスは悪い人がいるのを前提で作られているサービスが多いんじゃないかなと思います。逆の発想で、世の中いい人が大半、悪い人がもしかしたら一部いるかもしれない、と。なので基本的には大半の人はいい人なんだろうというのを前提でサービスを作ってみて、それを展開してみたときに成り立つかどうかをチャレンジしてみたかったんですよね。
山路:
すごい実験ですね(笑)。
小飼:
CASHというのは「面白さ半分の一発屋のサービスじゃないだろ?」というのが如実に表れているのがこのホームページ。
山路:
再開のときに出したページですね。
小飼:
初日に開けてすぐ閉めてから、何が起こったのか、あるいは何をしたのかが実際にここで語られているんですけれども……。
山路:
98%の人が、アイテムをちゃんと送ってきている。それはそのうちのどれくらいがちゃんとしたアイテムというのはわかっているんですか?
小飼:
その統計が全部出ているんですよ。
光本:
簡単に言うと、予想以上にいい人が多かったというのと予想よりもいい物が送られてきた。
小飼:
「品物を返す」というのをやめた代わりにやったことがありますよね。
光本:
キャッシュ化する一日の上限というのを設けました。
山路:
一日1千万円でしたか。
光本:
結局口を開けているといくらでもお金が出ていってしまうというのを、最初のタイミングで学びました(笑)。
小飼:
絶対キャッシュがショートしないようにしたわけですね。今だいたい1千万使っちゃったら、本日はこれで終了ですよね。今どれくらいで閉まっていますか。
光本:
実はあんまり公開してないんですけれど、今は比較的枠を大きくしながら、バーも本当にギリギリになるタイミングまでは出さずにいます。
小飼:
そうなんだ、そこもやはり微調整?
光本:
本当に毎日微調整していますね。買い取りの価格なども含めて。
小飼:
いずれにしても、今日準備した分のキャッシュが終わったらおしまいというのは変わらない?
光本:
そこは、変わらないです。
山路:
水の出し入れの流量を調整しているみたいなイメージなんですね。水が枯渇しないようなタイミングでうまく流れるような形のビジネスをやっているんですね。
ヒットの理由「与信の簡略化」「取引上限に達したら営業終了」
山路:
ここまでみんながきちんとした物を送ってくるというのは……。別に免許証とかも撮っていないじゃないですか。それこそ携帯電話の番号が鍵になっているわけですよね。それはやはり携帯電話という物が重要だったということもあったりするんでしょうか。
光本:
基本的に電話番号は取得するにあたって、それなりに申し込みのプロセスを経なくてはいけないと思いますし、通話ができる電話番号というのはキャリアが本人確認された上で発行されていますからね。
小飼:
今、日本はプリペイドも厳しいですしね。
光本:
そういった意味では、私たちは電話番号を認証させていただくことでまず最低限の与信というのは担保させていただけるんじゃないかなと思います。
小飼:
その分はキャリアが済ませているんだという与信もできますね。ただ、他社が既に完了した与信に乗っかるというのは……実は今二段階認証というのがあちこちで使われていますよね。二段階認証の二段階目で一番多いのはSMSでメッセージが来ますよね。
これは電話番号で与信を取っているのと考え方としては同じですからね。
山路:
プリペイド携帯を買うにも身分証明書を用意したりだとか、あるいは手続きのための手数料が……となったら、CASHで得られる数万円よりペイするかどうか微妙なラインだったりするから。これがCASHで買い取り価格が数十万円とか百万円とかになってくるとまた話は違うのかもしれないですけれども。
小飼:
でもそういうのはばっさり捨てているじゃないですか。僕もビジネスパーソンではあるんですけれども、感心したのは本当に「何をやらないか」というのにフォーカスしているように見えるんですよね。
山路:
何をやらないか?
小飼:
いかに早くユーザーにお金を届けるか、というのがこのサービスの主眼じゃないですか。そのために、いかにして与信をすっ飛ばすのかというのに注力して、しかも手数料の15%は余計なことだからやめようと。お金もあらかじめ用意しておいて、なくなったら「本日はおしまい」という、竹で割ったように簡単ですよね。
山路:
確かに、あらためて説明されると「なんでみんな思いつかなかったんだろう」という話ですよね。
お金はないが、物を持っている人が多い
山路:
最初にサービスが炎上したときに、いろいろ言っている人がいたじゃないですか。 質屋を変形させて、高い金利を狙った物なんじゃないか? とか。だけどサービスが炎上しているのを見て、「少なくとも損しているのはこの人たちらしい」「あんまり悪い人たちじゃないんじゃないのか?」みたいなことは思いました(笑)。
小飼:
ただ実際に今のやり方だと損にはならないですよね。というのも要は支払うお金が低ければいいわけですから。すごく極端な話をしてしまうと、10万円のアイテムを2万円で引き取らせていただきますと首を縦に振っちゃえば、それはビジネス上問題ないんですよ。
貸し金の場合はこれはだめです。お金と物だからいいんですよ。
光本:
言い方が悪いかもしれないですけれども、私たちを騙すことはできると思うんですよね。今サービス自体も進化していますし、これからの私たちの構想なども考えて言うと、たぶんこんなに即金で需要を満たしてくれるサービスは今、世の中にあんまりないと思っているんですよね。
小飼:
先にお金をくれるというのはすごいですよね。
光本:
一回でも私たちを騙してしまうと、結果的にその瞬間からサービスを使えなくなってしまいます。少額のためにその手段をなくしてしまうのであれば、ちゃんと誠意を持って取引していただいた方が、逆に便利に使っていただけるんじゃないかなと私たちは思っています。
小飼:
もうひとつうまいなと思ったのが、貸し金業の場合は少なくともお客さんとのやり取りがお金を貸すときと、お金を返してもらうときの二回あるわけですよね。この場合一回で済むじゃないですか。そこも美しいなと。
お客さんから見たら、これ一回こっきりでもいいんですよね。ビジネスを提供している側も、物が届いた時点でそのお客さんのことは一旦忘れてもいいんですよ。
光本:
それで取引は完了しますから。
小飼:
またやりたかったらまた最初に戻ってやればいいし、最初に戻ったところでもう徹底的に省力化しているから、そういった部分というのはすごく美しいなと思う。
光本:
ありがとうございます(笑)。
山路:
あと査定みたいなところというのも、最初に出てきたときというのは、画像認識とかでするのかなと思ったら別にそうではないんですよね。
小飼:
だとしたらびっくりだよ(笑)。別の商売の仕方があるよね(笑)。
山路:
今はブランド名と、確実にある一定以上の値段で売れる物だけを買い取るというようになっていますよね。
光本:
そうですね。なので一般的にブランド物と言うと、ハイエンドな高級なブランド物をイメージされると思うんですけれども、安い物でもブランドはついていると思うんですよね。なのである程度のブランドがついている物は、基本的にはCASH化できるような状態になっています。
山路:
自分の持っているお気に入りのジャケットが300円と出てしまって、ちょっとショックを受けました(笑)。
小飼:
あと、もうひとつうまいなと思ったのは、お金を往復させるのではなくて、お金と物を一回交換して一旦終了にできることですよね。お金を持っていない人たちも、物は持っていたりするんですよね。現金化できる物というのは持っているんですよね、物になっちゃっただけで。
本当にお金も物も持っていない人というのは少ないんですよね。そこの部分の見極めもうまいなと思います。
―人気記事―
「VALUの主張より日本の憲法が優先される」『VALU』リードエンジニア・小飼弾氏にシステムについて色々聞いてみた
WPA2の脆弱性「KRACK」のヤバさをプログラマー小飼弾が解説。「現状の対応策はファームウェアアップデートまで」