アニメ『おそ松さん』2期が大爆死した理由を現役漫画家が解説「腐女子をからかうアニメだったはずが、逆に取り込まれてしまった」
3月14日放送の「山田玲司のニコ論壇時評」にて、漫画家・山田玲司氏が、アニメ『おそ松さん』について、番組アシスタントの乙君氏としみちゃん氏とともに言及。
1期の放送と比べてブームが落ち着いた『おそ松さん』について、実際にアニメを視聴している山田氏は「腐女子をからかうアニメだったはずが、逆に取り込まれてしまった」と、“大爆死”と揶揄された原因を分析し、語りました。
『おそ松さん』は「2010年代を代表するような、エポックなアニメの1つ」
乙君:
「“大爆死、いや意外に面白いだろう”第2期ゆえの障壁に悩まされるアニメ『おそ松さん』の評価」ということで、第1期はかなり盛り上がってたんですけど、第2期は静かな感じで来まして。ただ、玲司さんはずーっと見ていたらしくて。
山田:
今も見てるよ。
乙君:
はい。色々言いたいことはあると思うんですけど、あんまり説明すると長くなるんで、「多くの深夜アニメはワンクールで放送を終えて、人気や反響が多ければ、第2期へと継続するスタイルが当たり前のものになっている。だが、どんなに作品の内容が良くても、2期になってから右肩上がりになるものは少ない。多くの作品が1期の人気で得た貯金を食いつぶすことになる」という、そういう二年目のジンクスみたいなやつね。プロ野球でいう“ハマってる”というところなんですけども、おそ松さん2期について、玲司さんはどう思いますか。
山田:
あのね、おそ松さんって「物凄く大事なアニメだったな」と思うのね。
乙君:
大事?
山田:
結構、2010年代を代表するような、エポックなアニメの1つだと思う。
乙君:
そうかもしれませんね。『けものフレンズ』とかもね。
山田:
そうそう。それで大きいのは「2000年代の世界系を終わらせた」っていうのがあって、『おそ松さん』のメタ視点によって、要するにメタな形でエモくなった人達をどっか斜めにからかってるわけだよ。
乙君:
うんうん。
山田:
それによって、どこかで00年代を笑い飛ばせているわけ。つまり、震災以降、もっとタフになってるんだよね。
乙君:
うーん。
山田:
『進撃の巨人』でよく言われる、この先の不安みたいなものをずーっと抱えながら、虚構を追いかけていた00年代みたいなのがあって、パニックもの、明日へも知れぬ気分の中から生まれる、すぐに終わる世界、もしくは絶対に終わらない世界の2種類しかなかったんだよ。その00年代、『けいおん!』みたいなものが流行っていると同時に、『バトル・ロワイアル』の系譜も『傷物語』とかいろんなそういうダークなもの、『進撃の巨人』的なものが両方あったみたいな。
乙君:
メンタルが流行っている感じがあって。
山田:
そのどっちも現実感がなく、フワッとしてた。
乙君:
はいはい。
山田:
それに終わりを告げたのが、映画でいったら『MAD MAX』だって思うんだけど。
乙君:
おお。
山田:
「この先行ったって何もねえぜ。」と宣言した、みたいな。あれ『おそ松さん』と同じ年なんだよね、と。『おそ松さん』は「地上で行こうぜ。ホームレス寸前で楽しもうぜ」っていう、開き直りというか、最もタフなところに降りたというか。そこで『おそ松さん』が何をしていたかっていうと、一見ギャグアニメをやりながら、文化批判をやっていたんだよね。
乙君:
はいはい。
山田:
特に、アニメ文化全体をぶん殴るところから始まってるのが、非常に痛快だったよね。
だから『おそ松さん』始まります! と言って、いざ始まったのは、腐女子大好きみたいに見える、『うたの☆プリンスさまっ♪』みたいな「イケメンしか出てこないアニメです」という雰囲気で出してきたんだよね。でも、あれは実は腐女子の皆さんは怒ってないんだよ。
乙君:
うんうん。
山田:
「だよねー、私達バカだよねー!」と、みんなが同じような、フラットなところで笑えるんだよ。
この企画、脚本やってる松原秀さんってさ、「オールナイトニッポン」のハガキ職人なのね。
乙君:
へえー。
山田:
下ネタを得意とする常連ハガキ職人で、ナインティナインのハガキをずっと出していた人で、その後ヨシモト入って、お笑い芸人を目指すも挫折。その後放送作家をやってたっていう人で、要するに地上の人なんだよ、この人。
乙君:
なるほどね。
山田:
そして大事なのは、見てる人と同じところに居られたっていうスタンス、そして、そこから出てくるアニメ文化に愛のある批判をする。トド松を公式女体化したトド子ちゃんがアイドル文化批判もするじゃない?
乙君:
はいはい。
山田:
「アイドルになりたいの。私はチヤホヤされたいの」とか言って、それを追っかけるオタクたちのこと、そしてオタクキャラのチョロ松が、自意識過剰過ぎて自意識がライジングするって覚えてる?
乙君:
はいはい。1期のやつね。
山田:
「オタクは自意識は高くて面倒くせえんだよなー!」とか言うことで、オタクの自意識がドンドンでかくなっていって。あれ『ウルトラQ』のバルンガですね。
乙君:
へえ。
山田:
そういういろんなモノを突っ込んでいって、皆で、「今の俺達ってもう痛いよね(笑)」って言う。ちょっと落語的な救いだったんだよね。「八っつぁん熊さんバカだよね、お前ら」っていう笑いって、それは最初の『おそ松くん』の笑いでもあったわけ。だから伝統的な赤塚系譜でもあったの。そして常識を破壊するという。「意外と正しいことばっかりやってたな」っていうのが俺の印象で。
「腐女子をからかうアニメ」だったはずが、逆に取り込まれてしまった
山田:
2期を見てて思ったんだけど、どう変わったかっていうのね。
乙君:
どう変わったの?
山田:
放送開始まで時間がかかり過ぎたっていうのが、やっぱりあったんで。
乙君:
ああ。
山田:
ものすごく作り込んだものが来るかなと思ったら、その逆だった。ものすごく手を抜いてるんだよ。だから、作り込んだのをやろうとしなかったのか、実際はわからないけど、よく見たら1期は、3人体制で脚本を書いていることも結構多いの。
しみちゃん:
うん。
山田:
だけど2期は何故か、松原さん自身が1人で全部やっている。
乙君:
はあ、そうなんだ。
山田:
そうするとどうなるかっていうと、バリエーションを必死に増やそうとしてるのはわかるんだけど、起承転結の、起承でほとんどが終わってる。
しみちゃん:
へえ。
山田:
だから、「オチは?」みたいなのを言わせるギャグってあるじゃん。『ポプテピピック』はそれを狙ってるんだよ。だけど『おそ松さん』は、それが続くとスベってる印象になる。一発ギャグでオチがない、みたいなのがずっと続く。
乙君:
ああ。
山田:
これが前半多かった。社会批判的な一番キレのあるヤツっていうのがなかなか出てこなくって。そこはどうしちゃったのかな? と思うんだけど、想像できる葛藤みたいなのがあるとするならば、1期でやったのが、思いっきりメタ視点で腐女子の好きなアニメみたいなのをからかってた。つまり、アニメのキャラクターに萌えている女子たちを笑ってて、さらにそれを笑ってるみたいな構造があったんだけど、『おそ松さん』自体がそういう構造になっちゃった。
例えば、一番くじでやってるタイアップのこの画を見るとわかるんだけど、どう考えても媚び過ぎでしょう?
これはもう、そういう女子たちに向けてやってます。「可愛い!」みたいな。これ、実を言うと1話の1回目にやってた、「ビックリするほどイケメン」の戦略そのものになっちゃってるから、メタにならなかった。
乙君:
うーん。取り込まれちゃったわけだ。
山田:
そう。これを誰よりも気がついていたのが松原さんじゃないかと思うわけ。
乙君:
はい。
山田:
だから下ネタに走ったわけだよ。
乙君:
ああ、それを壊したいと。