なぜ国連から日本のマンガ・アニメは敵視されるのか? 外圧から見える日本の児童虐待問題の裏側 【山田太郎と考える「表現規制問題」第2回】
日本の国力が落ちたことも問題の背景にある
山田:
大きな問題点は、ヨーロッパ的価値観を日本に対しても埋め込もうとしているんじゃないのか? ということ。たしかに人権の問題は国際社会ですからグローバルな視点が必要です。ですが、文化の問題に対してはローカルなはず。性風俗を含む文化・風習の問題と言うのは、国によって違います。日本の混浴などは国際的には理解できないかもしれない。でも、混浴だからと言って犯罪が乱発しますか?
智恵莉:
(笑)
山田:
社会秩序が乱れていて、日本がどうにもならない状況であればまだしも、なぜそこまで首を突っ込まれなければならないのか。今回はヨーロッパを中心としている機関が、最初からストーリーを持って価値観を植え付けているのではないかと疑いたくなるケースでしたよ。
荻野:
ブキッキオさんの会見について言えば、昔は海外のメディアって、東京を中心に世界中に日本の最先端の情報を伝えるという部分がありました。海外のマスコミは日本の情報を楽しく、喜んで伝えていた時代があったのですが、日本の国力が落ちるにつれて日本についての情報のニーズがなくなってしまった。東京に送られてくる特派員もあまり一流の人材ではありません(苦笑)。最先端な人たちではなく、ルーティンで仕事をするような人たちが東京に集まっている。彼らは政権交代があったとか、株価が高騰している、というような(彼らにとって)あまり面白味のないニュースを伝えている。
荻野:
ところが、たまにものすごくニーズのあるニュースがあるんですね。それが「こんなひどいことがあってアメリカやヨーロッパでは考えられないですよね!?」みたいなニュース。この手の話題だけとてもニーズがあるんですよ。確かに人間だから分かる部分もあります(苦笑)。我々も外国でひどいニュースがあると食いついてしまいますからね。海外メディアの目がそういう部分に行きやすいという前提がまずある。そういう中でブキッキオさんの会見が好奇を持って世界に発信されてしまったわけです。
智恵莉:
日本の報道機関がそれを伝えないのはなぜでしょう?
荻野:
常識で分かるからでしょう。「私たちの知っている日本じゃないよね」って。我々日本人は分かるけど、海外で暮らす外国人は日本の普通を知らない……それゆえ「へぇ~日本って危ないんだね」ということがニュースとして成立してしまう。
智恵莉:
なるほど。
かつては日本のマンガ・アニメをBANせよ! という状況だった
荻野:
そういう中で国連からの勧告が来るわけですが、女子差別撤廃委員会というのはブキッキオさんとは別のところです。日本を含め多くの国が、女子差別撤廃条約というものを結んでいるのですが、この委員会は世界中の国で女子差別が行われていないかを調べる機関です。何年かに一度、どの国を調べるか回ってくる。ちょうどブキッキオさんが来日するタイミングで、日本の順番だった。たまたまじゃないかもしれませんが、偶然同じタイミングで勧告が出たという次第です。山田さんのお力もあって、この勧告内容は前に比べるとかなりソフトになっています。以前は、マンガなどは性暴力や女性差別をプロモートする、ナチュラライズ(常態化・普通化)するから規制して、「BAN(=禁止する)」しなければならないという表記があったほどです。今回はゾーニングを含めて、今ある規制の制度を上手に使って、現行で女性差別が広まらないようにしてくださいね、と釘を刺した感じですね。
山田:
前回登場していただいた赤松健先生からも、この件については「何とかならないのか」と言われていたんですよ。ですから、女子差別撤廃委員会の報告を見たときにすごい喜んだよね!?(笑)
荻野:
ですね(笑)。
山田:
漫画家として、“BAN MANGA”と書かれたのは屈辱だと。漫画家として一生懸命描いているのに、禁止しろというのはどういうことだと。BANというのはとても厳しい表現で、製造・制作だけでなく所有すらも許されない意味を含んでいます。抹殺してしまえ! くらいの強い口調です。それまで女子差別撤廃委員会の中で語られていたBANという表記が、今回の最終勧告でなくなっていたことは、赤松先生も喜んでいましたね。
荻野:
以前は児童ポルノと一緒くたにされていたんですよ。今回はそれは無理があると理解し、児童ポルノと切り離して女性差別問題を、文化的風潮において勧告を行った形になったと言えます。児童ポルノと切り分けたところに、山田さんの功績があると思います。
いかにして国際社会でマンガ・アニメ文化の理解を深めていくか?
山田:
一方で、日本の児童虐待はどうなっているのか? 放置されているんじゃないのか? という問題があります。これに関してはブキッキオさんの言い分も分かるところがあり、実際に政府が対応しきれていないところもあります。
荻野:
それが下記画面の下部分にあたるところですね。
荻野:
確かにブキッキオさんは、マンガ・アニメ・ゲームに対して厳しいことを言っているものの、礼儀は果たして両論併記はしているんですよ。法的に規制をすべきではない理由についても云々と書いている。保護法域が違うとか、文化的な萎縮が起こる懸念などですね。ただ、その後に「自分は禁止を支持する」と書いているという具合です。とは言え、ローマ字でMANGAの文字を入れることは、日本側の反感や反発が多いことを彼女も理解していたので、解釈の幅がある(おそらくはマンガも含まれているであろう)ヴァーチャルな表現の話として勧告をしてきた。
山田:
うんうん。
荻野:
実は、私はマンガやアニメの問題に関してはそんなに詳しくないんです。表現の自由の問題に関わってくるため、発言している部分が大きい。表現の自由、法律論、立法論で語れる、擁護できるところというのは、おそらくここまでが限界なんだろうなぁと思っています。次のステージでは、マンガ・アニメ文化やオタク文化の価値や意味を世界中で語っていくために、国連システムの中でも理解せざるを得ないという説得力を付けていくことが求められると思います。
山田:
コメントで、「荻野さんがオタクだとは思えない」「オタク顔じゃないか」という声があがっていますよ(笑)。
荻野:
うれしいですね~仲間だと思ってくれているんですね(笑)。
山田:
はははっははは!
荻野:
「どうせ荻野さんはオタクじゃないから我々の気持ちが分かるはずない」とか言われることがあって悲しいんですよ(苦笑)。
山田:
うそでしょ! どう見てもオタクでしょ(笑)。ですが皆さん、国際関係においての表現系では、荻野さんは第一人者ですからね!
児童虐待の問題を解決しないことには表現問題も解決しない
山田:
コンテンツの表現問題の背景に、児童虐待の問題があります……これをなんとかしないといけないのも事実なんです。表裏一体とも言える。あまり知られていませんが私自身、知的障害、精神障害を含めた児童養護に関しては得意とするところなんです。特別養子縁組、里親などの問題を取り扱ってきたのですが、日本はそういった問題に対してきちんと対応ができていません。虐待児童の数字について、警察庁がまとめたものがあります。 2016年までの調べで、この1年間の児童虐待数は約24000件(人)。今期最多となっています。
心理的虐待 16000人
身体虐待 5000人
ネグレクト(育児放棄) 2600人
性的虐待 129人
山田:
このような状況なんですね。性的虐待の数ですが、どこまでが性的虐待なのかという線引きがあいまいなところがあるので、実際の数はもっと多いと思われます。摘発した際の加害者ですが、最も多いのが、実の父親42%、実の母親26%……7割近くが実の両親という問題は考えなくてはいけません。
性異常犯罪者がたくさんいて、あたかもそういった人たちが子どもへの性虐待を含む虐待をしているという風に捉えるというのは、おかしいんです。実の親が加害者のケースとして最も多いということを報道すると社会不安につながるため、マスコミも言いづらいとは思うけど、報道機関として事実を伝えることも必要だと思います。
山田:
ブキッキオさんに言われっぱなしでもいけないので、私の方でも児童虐待に関することを改めて調べ直しました。そこで何をしたのかというと、こちらの画像を見てほしいのですが。
山田:
10月27日の会見の中で、ブキッキオさんは「子どもの性的搾取に対して包括的な戦略が日本には必要」ということを指摘したので、まずそれが本当かどうかを確かめることにしました。11月12日に、内閣府・外務省・文科省・法務省・警察庁を私の部屋に呼び、厚労省は連絡行き違いで不在になってしまったのですが(苦笑)、「どうなっているんだ?」と聞いたわけです。ところが、各省とも「担当ではないから分からない」と。
荻野:
この日、すごかったですよね……みんなが顔を見合わせちゃって(笑)。
山田:
狭い部屋に各省庁から2~3人ほど来てもらったので、30人くらい入ってね(笑)。そして16日に、内閣府・外務省・文科省・厚労省・警察庁に対して、担当部署を決定するように文書で公式に依頼したんですが、後日「決められない」と回答がきました。「そんなことはないだろう!」ということで、30日に再度部屋に、内閣府・外務省・文科省・法務省・厚労省・警察庁を呼んで、「このままだと国会で取り上げますよ」とプレッシャーをかけた。各省庁の人間は、自分のところの大臣が国会で矢面に立たされるのは嫌なはずですからね(笑)。ところが、「山田先生の方で音頭を取ってこの問題を……もう言っていただくしか」みたいなことを言い出した。私からしたら「えぇぇ! いいの!?」という(笑)。
荻野:
はははっ!
担当する省庁が分からない虐待問題
山田:
まぁ~一向にらちが明かない! こうなったら各省庁が拾わない弾を拾ったり、省庁同士を調整する内閣官房に聞くしかない、と。それで12月2日に内閣官房を呼びました。そうしたら「部署の人数が少なくてとても担当できない」と言われた……。
智恵莉:
手が回らないということですよね?
山田:
(頷く)
「そういう問題じゃないだろう!」って。最後に1月15日に内閣総務官室・内閣府・外務省・文科省・法務省・厚労省・警察庁を呼び、各省庁を取りまとめる総務官も招集して、「ここで決めてくれ」と伝えたわけです。でもやっぱり、「決められない」「担当ではない」と。だったら、国会で取り上げるしかないよな! と。しかも! この質疑をぶつける相手って、官房長官か総理しか方法がないんですよ。結局、宣言通り参議院の予算委員会でこの問題を取り上げることになったわけです。
山田:
これが実際に国会の質疑で使った図です。1月17日の国会はテレビ中継があったので、安倍総理に「ひどいもんですよ! 内閣府は児童ポルノ法適用範囲のみの被害児童の数しか把握していない。つまり、児童ポルノに引っかからない、児童の虐待とか性虐待については知らないと言っている」という旨を伝えたわけです。
智恵莉:
ふむふむ。
山田:
「文科省も総務省も把握していない」と。総務省は、実際の児童養護に対して、現在は国政ではなく都道府県単位でしているため、数字を把握していないといけない。ところが、把握していない。厚労省は、児童相談所へ相談した件数は知っているもののそれ以外のことは各児童相談所が行っているので「知らない」と。法務省は、児童ポルノなどの刑事罰の件数のみ把握しているだけ。警察庁は、検挙された事件での被害者数などしか分からない……このひどい有り様を国会でぶちまけたわけです。これに対して安倍総理は、「政府一丸となって対処していきます」と答えたのですが、「政府一丸って、集めたのはこっちだろ!」って(笑)。
智恵莉:
たしかに(笑)。
山田:
各省庁を集めて6回も話し合って決められないんだから、総理か官房長官が決めてくれないと困るだろって。翌日18日、菅官房長官に話す機会があったので同じ旨を伝えたところ、なんと! 前日の総理の発言を撤回して、「対応する」と言ってくれた。これにはビックリしましたね!
山田:
これには裏話があるんですよ。質疑後に、予算委員会の後ろで与太話をしていたら、わざわざ菅官房長官が後方にある私の席までやってきて、「山田先生、ちゃんとやりますから見ていてください」って握手求めてきた。いや~ビックリしました。どうやら後日談によると、17日夜に安倍総理と菅官房長官が緊急会議を開いて、この問題に対して二人で話し合ってくれたそうです。実は私はこの問題に対して、もう一つテーマとして「子ども庁」を作るべきだとって言っていました。虐待の問題だけではなく、待機児童の問題、少子化問題、貧困などもありましたから、そういった問題を一手に担う「子ども庁」はあった方がいいだろうと。国の機関って産業が中心なんです。消費者や国民、市民の立場にある省庁が消費者庁しかない。そのため「子ども庁」の提案をしていたんです。
智恵莉:
はい。