「漫画で振り返る平成」スマホが流行ったおかげで漫画を読む人が増えた? 通勤・通学のお供として発達した漫画雑誌は時代とともにどうあったのか【さやわか×大井昌和×武者正昭】
「漫画で振り返る平成」【※】と題したニコニコ生放送が2019年3月31日に放送され、批評家・漫画原作者のさやわか氏、漫画家の大井昌和氏、元サンデー編集者・comico編集長の武者正昭氏らが出演。
数々の漫画雑誌に連載された作品から、出演者らが平成を象徴するであろう“漫画”について語り合いました。
本記事では、放送内で語られた“漫画雑誌がどういう役割を果たしていたのか”というトークテーマ部分をピックアップして紹介していきます。
※「漫画で振り返る平成」
番組の正式タイトルは「元サンデー編集者も出演【漫画で振り返る平成】~出演:さやわか、大井昌和、武者正昭~」。
【出演者】
左:さやわか氏(批評家/漫画原作者)
中央:大井昌和氏(漫画家)
右:武者正昭氏(元サンデー編集者/comico編集長)
スマホが流行ったおかげで漫画を読む人が増えた
さやわか:
以前、伊藤剛【※】さんともお話したんですが、漫画雑誌がどうしてあれだけの主たるメディアになったかというと、 都市化が進んで若者が都市に集まって、通勤・通学をするようになったから。そこで、キヨスク等で漫画雑誌を買うんです。
だから週刊漫画雑誌の作品は20ページ前後なんだという話になったんです。電車1駅分の時間で読めると。漫画雑誌は、通勤・通学の際のお供として発達したんですよね。
※伊藤剛
漫画評論家。 主著『テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ』。
今はスマホゲームがその役割を果たしているんですよね。スマホにお客様を取られちゃった。
大井:
漫画雑誌の売り上げが落ちた時、「もう漫画読まれないんじゃないか?」っていうのが10何年か前にありましたよね、業界的には。それこそスマホの前の、ガラケーが流行り出したころかな。ガラケーで釣りゲームとかをやったりね。
武者:
ゲームが脅威だと思われていた時代がありましたね。
大井:
スマホの前にそういう時代が1回あって、あれで漫画の編集が「もう漫画は読まれないかもしれない」って。「あんな携帯の画面じゃ漫画読めないし」っていう風に嘆いていたんですけれども、むしろスマホが流行ったおかげで漫画読む人が増えたっていうね。
武者:
増えましたね。
大井:
スクロール漫画で読めるようになったことによって、ゲームとは別の選択肢として漫画がもう1回復活できたのがこの10年くらいな感じがしますね。
さやわか:
そうですね、スマホも画面がでかくなっていってますから。
大井:
そうそう。iPad miniくらいなら余裕で漫画読めます。
さやわか:
ガラケーのころってコマ分解して何とかしようみたいな技術、ちょっと研究されてましたよね。
大井:
やってた。いまだにあれやってるのかなぁ?
武者:
コマ配信。
さやわか:
そうそう、コマ配信。
武者:
根強く残ってますよ。
さやわか:
残ってますよね、1コマ漫画みたいなノリで。
大井:
ガラケーのころはそうやって何とか読んでもらおうということでやってて。でもあの時はエロしか売れなかったんですよね。
さやわか:
ああ、エロは売れてましたね、確かに。
大井:
あの時、エロ漫画家バブルがあったんです。あんまり売れてないエロ漫画家なのに、コマの切り貼りオーケーっていうだけで。
武者:
需要があるんですよね。
さやわか:
やっぱりエロには需要があるんですよね。技術の発展にエロは大事です。ビデオテープしかり。
大井:
だから、僕はむしろスマホのおかげで、またちょっと漫画が読まれるようになってきてよかったなぁ……みたいに思っています。
回し読み文化からTwitter、TikTokへ
さやわか:
みんなが携えているメディアが雑誌ではなくてスマホになったから、スマホに特化した漫画作りというものをしなければいけなくて。
みんな雑誌を読まないわけだから、雑誌に向けた漫画を描いてもあんまり読んでもらえないし、お客さんが雑誌向けの漫画からドンドン居なくなっちゃったみたいなことはありますよね、残念ながら。
昔はそれこそ、自分は単行本を持ってないのだけれども、床屋さんに行ったら置いてあるとか、そういうものだったわけですよね。
大井:
後は、学校のクラスで、ジャンプを買うやつ、サンデーを買うやつ、マガジンを買うやつっていう分担があって。
さやわか:
はい、ありました! 僕も担当があって、ヤンマガとかスピリッツを買ってました。
大井:
あれが多分、ソーシャルネットワークみたいなものだったんでしょ。教室内のソーシャルなコンテンツとして、雑誌の回し読みというものが当時はあったけれども、今はTwitterとか、TikTokとかでソーシャルなコンテンツを消費していく……ということに、入れ替わっているという話だと思うわけですよね。
スタッフ:
(回し読みの担当は)俺、ファミ通でした……。
大井:
あぁ、ファミ通!
さやわか:
ファミ通! あぁ、なるほど。独自ポジション……良いですよ。オリジナルで。
大井:
うん、わかる。ファミ通重要だったよ。
さやわか:
そうですね、まさにゲームがすごく台頭してきて。ゲーム雑誌さんも、漫画雑誌出したり、付録に漫画つけたり、『ストII』漫画だったり、『餓狼』系だったりで。
大井:
コミックビームって元々はコミックファミ通ですからね。
さやわか:
ああ、そうですね。『餓狼伝説』漫画とかありましたよね。
大井:
あった! ゲーメストとかが漫画雑誌を作ったとか。
さやわか:
やってたやってた。
大井:
ゲームはまだ据え置きゲームなら学校には持ってこれないですからね。学校では、まだ漫画が独占市場だったわけです。
さやわか:
学校コミュニティはまだ、携帯みたいなものが認知されるまでは、紙メディアの独壇場でしたよね。
大井:
それが今は、漫画雑誌がもう……っていうか、中高生で学校に漫画雑誌持っていく人っているのかな?
さやわか:
いや、居てほしいですけどね。
大井:
部室にはありそうだよね。でも、教室に漫画雑誌を持っていくって……もう想像がつかない。
さやわか:
そうですね。
スタッフ:
やっぱりみんなもうスマホで……。
大井:
(コメントを読んで)「単行本は貸し借りする」その文化はまだ残っているって。良かった。
スタッフ:
ただ、さっきコメントでもありましたけれど、コンビニで立ち読みする人も段々見なくなりましたよね。
大井:
ああ、まあそうですよね。
さやわか:
できないですよね。