あなたの知らないディープ同人誌をひたすら取り上げる新連載!——人工衛星に魅せられて”人工衛星本”を作ってしまった男。その宇宙への熱い思いを聞いてみた
実は文系の研究者!
――先ほど、理工学の専門家ではないとおっしゃっていましたが……。
金木犀:
私自身は文系も文系、文学部の出身で、実は博士(文学)を取得している現役の研究者です。
――えっ、ド文系じゃないですか!
金木犀:
専門は日本と中国の古典文学で、普段は漢文を読んでいます。その一環で「『宇宙』という言葉の起源についての考察」というのをtwitterでつぶやいたりもしました。
・金木犀さんの「宇宙」という言葉の起源についての考察
・「宇宙」という言葉の起源についての考察(近現代編)
・金木犀さんの「宇宙」という言葉の起源についての考察補講(近現代篇2)
――すごい……まさに文系と理系のハイブリッドですね。
金木犀:
宇宙開発は全くの門外漢なのですが(笑)、分からないからこそ知りたいという思いも強くあるのです。時折理系の専門家の方とお話をすることがありますが、「使う道具や方法論は違うけれど、真実を知りたいという思いは同じなのですね」ということでお互い話が通じてしまいます。不思議なものです。
――なるほど、専門は違えど通じ合うものがあるのですね。
金木犀:
どうやって宇宙開発の意思決定をしているのかが知りたくて、文部省の宇宙開発委員会(今は廃止されて宇宙政策委員会となっている)を傍聴に行っていたこともあります。また、「宇宙」という言葉の起源に関係のありそうな本を集めたり、ロケットや衛星の実物を展示している施設を巡ったりしています。
宇宙への目覚めは『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』
――金木犀さんご自身について、少し教えてください。
金木犀:
30代前半です。小説から図鑑から専門書や論文に至るまで、たくさんの本を読んで育ちました。活字は空気と同じです。無意識に摂取していて、なくなったら死にます(笑)。これでも昔は陸上をやっていて、放課後に毎日10kmのランニングをしていたりもしました。
――宇宙への情熱は、いつごろからお持ちになってきたのでしょうか。
金木犀:
宇宙への目覚めは、幼い頃に父が見せた『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』です。幼い頃はドラえもんの映画「宇宙開拓史」や「鉄人兵団」で涙し、それからライトノベル経由でSF小説に行きました。
――小さい頃からお好きだったんですね。どうして同人活動をするようになったのでしょうか。
金木犀:
興味を持つとひとまず首を突っ込んでみるたちなのですが、やがて受け手で満足できなくなって同人誌を出すようになりました。
――いつごろから活動されているんですか?
金木犀:
同人自体は2000年からやっていますが、今の宇宙というジャンルに来たのは2005年の冬コミからです。実は最初は創作小説をやっていたんですよ。でも思ったように書けずに挫折したんですよね……。
――えっ、そうだったんですか! 今はどのくらいのメンバーでやっているんですか?
金木犀:
通常は取材から執筆、装幀を含めたブックデザインまで全て一人でやっています。「MABES『じんだい』」はむしろ例外で、自分でできないことや書けない記事があった場合、そのつど協力をお願いすることにしています。
ロケット打ち上げに魅せられて
――その他の同人誌についても教えてください。
金木犀:
「宇宙へ! 宇宙開発見学総合ガイドブック 第3版」は、ロケットを見に行くこと、全国の宇宙開発施設や宇宙関係の展示のある施設を見に行くことに特化した、日本で唯一のガイドブックです。自分が欲しかったガイドブックを作りました。また、「ロケット紀行」というシリーズでは、打ち上げを見に行った際の旅行記を書いています。うちのメインにして一番長く続いているシリーズです。
画像はニコニコ静画より
――ロケット打ち上げや宇宙開発施設の見学……ずいぶんとニッチなところですね。
金木犀:
「宇宙へ!」は、必要として下さった方がとても多く、改訂を重ねて第3版になりました。最初の版から比べると、厚さは1.6倍になっています。ときおり使って下さっている方を見かけますが、内心でガッツポーズをしています。この場を借りてありがとうございますと言いたいです(笑)。
――版が上がるたびに徐々に厚くなっているんですね。
金木犀:
今回はお土産や観光情報、各地の科学館の情報が欲しいとの声をいただいたので、次が出せるようならその方面を手厚くしていきたいと思っています。
――どうしてロケット打ち上げに興味を持つようになったんですか?
金木犀:
大きな出会いとなったのが、大学時代に読んだ笹本祐一さんの『宇宙へのパスポート』という本です。この本を読んでロケット打ち上げを一般人が見に行けると言うことに気づきました。一度見に行ったらとても面白くて、1年後にリピートしました。あとはそのまま現在に至ります(笑)。
画像はマンガ図書館Zより
――ロケット打ち上げ見学、その魅力はどういったところにあるのでしょうか。
金木犀:
カメラやレコーダでは絶対に記録できない光と音。魅力はこれに尽きます。気象条件や時間帯、季節によって打ち上げは全く違った様子を見せてくれます。夜の打ち上げだと、自分の後ろにくっきりと影が落ちるのです。
――行ったら壮観でしょうね……。
金木犀:
私なんかはもう、打ち上げが決まった段階でそわそわしだします(笑)。打ち上げ当日は、たとえ見に行けなかったとしても結果が気になってしまいます。
――初心者はどういうポイントを楽しむのがいいのでしょうか。
金木犀:
初心者の方は、カメラもレコーダーも使わず、自分の目と耳で体験して欲しいと思います。せっかく休みを取って安くはないお金を掛けて旅行して、ファインダー越しの記憶しか残らないのはなんだか寂しいですよね。
――この次に取り上げたいもの、計画していることはありますか?
金木犀:
次は「おりづる」という人工衛星についても取り上げたいという思いはあるのですが、これも「じんだい」と同じでなかなか資料が集まらず、四苦八苦しています。
直近で言うなら、「イプシロン2号機」と「SS-520-4」の見学旅行記を書く予定です。
――将来的には海外にも……という気持ちはありますか?
金木犀:
もちろんです! 日本だけでなく海外のロケット打ち上げを見に行ければと思って、いろいろと画策しています。
――ありがとうございます。これからも楽しみにしています!
関連サイト
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