「生まれ変わってもゲイになりたい」——いじめや劣等感を乗り越え、“普通の男じゃない自分”を好きになれるまでの話を聞いてみた【LGBT座談会】
同性愛者の男性である“ゲイ”。バラエティ番組やTVドラマには頻繁にゲイが登場し、ひと昔前に比べて、その存在が身近なものとなってきた。
だが、多くの一般人にとって、ゲイの方々が何を想い、どんな人生を歩んでいるのかを身近に知る機会は、まだまだ少ないのではないだろうか。
そんな中、昨年秋から、ゲイをはじめとしたセクシャルマイノリティの方々が集まり、トークを繰り広げる番組がスタートした。ニコニコチャンネルの生放送『LGBT観察教育バラエティ|藤井ケインの「一本いただきます」』は、美容家でありゲイバーを経営する藤井ケインさんを中心に、毎回様々なセクシャルマイノリティの方々が出演している。
ゲイバーのママ、男性に性転換した元女性のボディビルダー、トランスジェンダー、ドラァグクイーン、ゲイパフォーマー。
彼らセクシャルマイノリティの語る人生は、どれもが壮絶だった。しかし、ニコニコの番組を観ていると、彼らはいつでも──いじめや虐待について語る時ですら、おもいっきり明るく楽しげなのだ。様々な困難にぶつかってきたにも関わらず、口をそろえて「生まれ変わっても、また今の自分になりたい」とキッパリと言い切ってしまう。
彼らが持っている明るさや、強さの源は一体なんなのだろう。
筆者は、番組を観るたび彼らに魅了されてしまい、彼らのバックグラウンドを詳しく聞くことで強さの正体を探ってみたいと思うようになった。そこで今回、番組出演者を中心とした4人のゲイの方々にお話を聞くことにした。
集まって頂いたのは、西麻布でゲイバーを営む翼さん、パフォーマーのけんけんさん、舞踊家でありゲイバーのママでもある太陽さん、そして美容家・経営者である藤井ケインさんの4人。彼らは皆、地方都市に生まれ育ち、大人になりゲイの聖地である新宿二丁目にやってきて、現在は東京で活躍している。
インタビューでは、子どもの頃の思い出から彼らの人生を聞くことで、マイノリティであることのコンプレックスを、どのように「個性」へと昇華させてきたのか迫ることが出来たと思う。
NGナシ(下ネタ少々アリ)の赤裸々トーク、ぜひ楽しんでほしい。
取材・文:金沢俊吾
撮影:YSD
──まず簡単な自己紹介をお願いします。
翼:
ケインの職業は、ゴリラよね。
ケイン:
そうそう、ゴリラなのに化粧品をプロデュースをする図々しい美容家なの。東京と名古屋にあるゲイバーの経営したり、LGBTのイベントを企画したりしている、愛知県出身・40代のゴリラです!
──40代のゴリラ……(笑)。
ケイン:
女装が苦手なゴリラなの、今日はよろしくね。
──よろしくお願いします!
けんけん:
僕は「ジェンダーレスゴーゴー」っていう、パフォーマーみたいなことをしている群馬県出身の20歳です。
──「ジェンダーレスゴーゴー」ってどんなことをされるんですか?
けんけん:
「ゴーゴーダンサー」ってクラブのステージとかでパフォーマンスする人たちがいるんですけど、例えば、ハイヒールを履いてメンズの服着てたり、逆にメンズの服着てハイヒール履いたり、男女の境目を無くしたパフォーマーという意味で、あえて「ジェンダーレス」という言葉をつけています。
太陽:
私は、舞踊をやりつつ、新宿二丁目のゲイバーのママをやっている25歳です。
6歳の時にお母さんに劇団に入れられて、親元離れてから20歳ぐらいまで舞台役者をやってました。
──劇団はどこでやられていたんですか?
太陽:
特定の場所は決まっていなくて、地方を転々としていました。20歳で役者を辞めて、ゲイバーをやりたいと思って新宿二丁目に来たんです。
ケイン:
最後に、翼ママは愛知県にある豚小屋で生まれたのよね。
翼:
豚小屋じゃなくて牛小屋よ! 牛小屋の前にある床屋の長男として生まれたの。愛知県出身の…年齢はヒミツです♡
──ありがとうございます。それでは、今日は皆様に色々お話をお聞きできればと思います!よろしくお願いします。
ケイン・翼・太陽・けんけん:
よろしくお願いします!
ゲイだと気付いた瞬間
──ご自身のセクシャリティに気付いたのはいつ頃だったか覚えていますか?
太陽:
私は舞台をやっている時、女性役のほうが演じやすいとは思っていたんです。でも、自分がゲイだって意識はずっとなかったですね。
ケイン:
じゃあ、最初に男性とエッチしたのはいつ?
太陽:
えっと、はじめて同性と性的なことをしたのは小学校6年生の時。男の子同士でAVを見てて、興味本位でお互い触れ合ったの。それが気持ちよくて……最初から抵抗はなかったですね。
── その気持ちよさって、恋愛感情に繋がったりはしないんですか?
太陽:
いや、しなかったですね。やっぱり恋愛と性欲は別物だから。
ケイン:
自分がゲイだって自覚したのはいつ?
太陽:
18歳かな。それまでも女性とセックスしたことはあるけど、興味なかった。みんながやるものだから「やらなくちゃいけない」と思って。
── けんけんさんの場合はどうだったんですか?
けんけん:
男が好きだって気づいたのは16歳ですね。僕の初恋の人は、柔道部の顧問だった男の先生なんですよ。それまでは「男の子は女の子が好きじゃないといけないのかな」って思っていたんですが、顧問の先生を好きになったのがきっかけで、男が好きなんだなって気付きました。
先生が柔道着に着替える姿を見たらドキッっとするし。それまで女性とセックスしたこともあったんですけど、やっぱり興奮はしてないかったですね。
──女性とセックスしたというのも「男は女性とセックスをするものなんだ」っていう固定観念みたいなものがあったんでしょうか?
けんけん:
そうですね、単純に気持ちよくなかったんですよ。でも初めて男の人とセックスした時、すごい快感で「俺はこれだな! 男が好きだ!」ってなりました。
──ケインさんが自分のセクシャリティに気付いたのはいつですか?
ケイン:
私は小学校の時に図工の授業で絵を描いた時、絵にピンクとか紫を異常に使っていたの。ランドセルも黒が好きじゃなかったから持たなかった。今はいいよね、ランドセルもいろんな色が選べるんでしょ。だから、大人から「普通の男の子じゃない」って言われていたし、私も「そうなんだ」ってちいさい時から思ってたわ。
けんけん、太陽と一緒で女の子と付き合ってセックスもしたけど、全然気持ちよくなかった。だから、セックスも最後まで出来たことがなかったの。
──女性とのセックスを経験してきたのは、皆さん同じなんですね。
ケイン:
自分がゲイだって意識したのは、17歳の時。親に連れられてニューハーフバーに行ったの。そしたら、ニューハーフさんが「同性のことを好きになる“ホモ”っていう人たちがいるの。あなた、それよ」って。
──おお、それはすごい!初対面で見抜かれたんですね。
ケイン:
当時、同性愛者って言ったら女性の格好をしているニューハーフさんのイメージしかなかったから、“ホモ”、“ゲイ”っていう概念を知らなかったのよね。「名古屋にはゲイバーがあって、そこに行ったらあなたが適応する人たちに会えるよ」って言われて、それでゲイの世界に足を踏み入れたの。
──翼さんはいかがでしょうか?
翼:
私は小学校ぐらいから、ちん毛が他の男の子に生えてるのか興味があって(笑)。
ケイン:
プールに入る時「毛が生えた、生えてない」ってやったわよね。
翼:
そうそう。「もう皮が剥けてる」とか、そういうのもすごく見たくて。でも、周りの男の子は「女の子のおっぱいが大きい」とかそういうことに興味があって、「あれ? 」って違和感があったのは覚えてます。
ケイン:
翼ママが小学生って30年ぐらい前よね。「男が好き」っていうのは今みたいにテレビでやってないわけじゃん。自分がホモとか、そういうことまでわかったの?
翼:
うん、ちゃんと愛知の田舎にも情報が入ってきてたのよ。 田舎なりの小さい書店があって、『さぶ』とか『薔薇族』とか、ゲイ雑誌が売ってたの。それを中1ぐらいのときに買いに行って。
かつて、ゲイ雑誌は出会いの場だった
──その書店は、いわゆる18禁の本だけ扱ってるようなお店ですか?
翼:
いや、ハタキを持ったおばちゃんが店番してるような、普通の本屋さんにエロ本コーナーがあったんです。
ケイン:
けんけんは知らないよね?『さぶ』、『薔薇族』、『SAMSON』。
けんけん:
知らないですね。
翼:
『G-men』っていうのもあったよね。あと、『バディ』っていう若い子向けの雑誌ができたの。
──そういったゲイ雑誌って今も残ってるんですか。
ケイン:
もう全部なくなっちゃったよね。それで、『バディ』にいた人たちが芸能人になって活躍してる。マツコさんなり、女装家のブルボンヌさんなり。
──へえ、マツコさんはゲイ雑誌を作っていたんですね!
ケイン:
そうそう、元々は編集者だったのよ。
──雑誌はどんな記事が載ってたんですか?
ケイン:
昔はゲイ雑誌って、出会いの場だったのよ。『薔薇族』に“出会い文通コーナー”があったの。
翼:
私、“はじめての相手”は『薔薇族』の文通で出会ったの。16歳ぐらいね。その出会った人がウリ専のオーナーで……そのオーナーに静岡県浜松市のゲイバーに連れていかれて。懐かしいわー。
──ちなみに雑誌でどうやって近所の人を探すんでしょうか。
翼:
県ごとでページが分かれてるの。だから、文通コーナーだけで電話帳みたいな厚さがあったよね。
ケイン:
「身長〇〇cm、体重△△kg、サッカーやってます!住所は××です」とか、プロフィールが載ってるわけ。気に入った人を見つけて、写真とか付けて手紙を送るのよ。
──それは自宅の住所を書くわけですよね。親に見られたりしないんですか?
ケイン:
だから私は親に見られないように、郵便局とか、銀行の私書箱を借りたもん。
太陽:
うわー、めんどくさ(笑)。今じゃ考えられない。
──太陽さんは20代ですが、ゲイ雑誌は読んだことありますか?
太陽:
もう全然知らないです。 見たこともない。
──やっぱり雑誌じゃなくて、インターネットですよね。
太陽:
完全にネットですね。20歳のとき、ネットで調べて、生まれて初めてゲイバーに行ったんです。
──そのゲイバーは新宿二丁目ですか?
太陽:
いや、横浜の野毛でした。劇団で全国を回ってる頃、ちょうど横浜公演があって。「横浜 ゲイバー」で検索して、最初に出てきたゲイバーに行ってみたんです。
──野毛のゲイバーって新宿二丁目と比べてマイナーな気がするんですが、ゲイの間では有名なんですか?
ケイン:
昔は野毛にもいくつかあったけど、最近は減ったかもしれない。昔はいろんな街にゲイバーがあったのよ。SNSやネットが流行る前は前は、ゲイバーしか出会いの場がなかったの。だから、その頃のゲイバーは本当に女の人が入れなくて。
“カチャ”ってお店がたくさんあったよね。よく行ったわー。
──“カチャ”って何ですか?
ケイン:
ゲイバーの入り口に小窓があってね、客が来ると中からママが覗いてくるの。で、ちゃんとした客だと分かると「カチャ」って鍵を開けて、やっと中に入れてくれるわけ。
そこでママに認められると、アルバムを見せてくれるのね。何千人っていうゲイのプロフィールが載ったファイルから「あんた、この人と合うと思うわ」って紹介してくれて、お店で会わせてくれるのよ。
──お見合いみたいですね。
ケイン:
今の出会い系アプリみたいに便利じゃないけど、でも、ママがよく知ってる人同士を引き合わせるから、意外と付き合える確率が高かったのよ。
翼:
90年代ぐらいはそういうお店がたくさんあったわよね。
ロマンティックがにじみ出る
──自身がゲイであることに気付いて、周りにカミングアウトしたのはいつ頃か覚えていますか?
ケイン:
私の場合は家族に言わなくても「ちょっと女の子っぽい」とか「変わっている」って気付かれていたから、改まって言わなかったわね。みんな、多かれ少なかれそうなんじゃないかしら?
けんけん:
僕んちは柔道一家なんですよ。お父さんなんかは「こいつは何か違うな」って気づいていたと思います。動きとかも女の子っぽくてくねくねしてたり、正座じゃなくてお姉さん座りみたいになっちゃったりとか、自分の中の“ロマンティック”がどうしても出ちゃうんですよ(笑)。
──ロマンティック!(笑)。 「男はなよなよするな」みたいな昭和のお父さんだったんですね……。
けんけん:
そうそう。「男に直さなきゃいけない」っていう意識があったんじゃないかなと思いますね。だから、お父さんにはよく殴られたりしたし……。
ケイン:
けんけんは、ちっちゃいときから「オカマだろ」って言われちゃったタイプだよね。仕草に出ちゃうタイプ。太陽だってそうなんじゃない?
太陽:
僕は、演劇をやってる時、女性の役をやるのが特化して上手かったと思います。例えば、「内股にして歩く」とかも、言われなくても出来ていた。
──女性的と言っていいのかわからないですけど、皆さん「柔らかさ」みたいなものを持っているなと思います。
ケイン:
自然と“ロマンティック”がにじみ出ちゃうのよ(笑)。芸能界とかファッション業界にゲイが多いけど、そういうにじみ出た部分を堂々と伸ばしたほうが、ゲイは活躍できると思うわ。
けんけん:
僕は「カミングアウト」っていう感覚がわかんないんですよね。中学生の時、学校でLGBTの授業があったんですよ。
ケイン:
最近はそんな授業もあるのね……。
けんけん:
その時、僕は自分がゲイだっていうことに気づいてたから、もう授業を聞いてられなかったんですよ。そうしたら途中で我慢できなくなっちゃって、バン! って机たたいて、「これ、僕じゃん!!」って叫んで、そのまま男子トイレに駆け込んだんです。
一同:
おおー!
太陽:
ドラマだねえ。
けんけん:
そうしたら、クラスメイトがトイレに来てくれて「けんけん、わかってたよ」ってやさしく言ってくれたんですよ。
男が好きっていうのもわかってたって言われて、そこから僕、ゲイであることを隠すのをやめたら学校の人気者になったんです。全校生徒の前でLGBTのことを語ったりもしました。
ケイン:
すごいわね、それはパイオニアだわー!
新宿2丁目は“ホモ用の街”
──皆さん、群馬や愛知でそれぞれ地方で少年時代を過ごして、ゲイバーが集まる新宿二丁目は憧れの街だったわけですよね。初めて行ったときはどうでしたか?
けんけん:
楽しかったですね。どハマりでした! みんなが「かわいい!」って僕のことをちやほやしてくれるから(笑)。
ケイン:
とにかく気分がオープンになるよね。世の中の街ってノンケ用にできてるじゃん。
── ノンケ用ですか、たしかに……。
ケイン:
だからね、二丁目だけは、ホモ用の街なの。
──ホモ用の街!(笑)。
けんけん:
うんうん。もうホントに、世界が違うよね。
太陽:
うん、私も二丁目で働いてるけど、本当に好き。たくさんいろんなゲイに会えて。
ケイン:
例えば、ニューヨークのブルックリンに行くと黒人ばっかりなのよ。その時、日本人でいる自分が差別を受けてるような気分になるの。別に差別なんかされてないのにね。
逆にニューヨークのアジア人街に行くと、めちゃくちゃ安心するわけ。やっぱり、人間っていうのはサルの仲間だから、そういう集団意識が私たちを二丁目に呼び寄せるのかしらね。
──二丁目ってすごくたくさんゲイバーがありますよね。翼さんの時代はインターネットで検索もできなかったと思うんですけど、入るお店ってどうやって決めるんですか?
翼:
浜松から最初に二丁目に出てきたときは、呼び込みされた初心者OKっていうところに行きましたね。もう、何がなんだか全然わからなかった! 「ここを歩いてる人はみんなゲイなんだ」って、とにかくそれが信じられなくて。
太陽:
たしかに、ゲイの絶対数がすごいからね。
──ケインさんの言う「仲間がこんなにいたんだ」って感覚なんですかね?
翼:
本当にそう。とにかく衝撃でした……。
ケイン:
でも、今は二丁目も観光地化して、ホモしかいないって感じではないけどね。
──今はもう、「カチャ」って鍵がかかってるようなバーはないんですか?
太陽:
もう今はないですね。全部、いわゆる「観光バー」だと思います。
ケイン:
今は、本当のホモをやりたいとき、新橋とか上野に行くの。そこはディープで、一般の人が行ったらびっくりしちゃうと思う!
──そこはもう、女性もノンケの男性も絶対入れないみたいな。
ケイン:
ノンケの男は紹介ならまだ入れるかな。
太陽:
女性は本当に、もう絶対だめね。
──そういうお店に行っても、昔みたいなカタログで紹介、みたいなことはないですよね?
ケイン:
もう紹介はないから、本当のホモが逃げるための場所になったわね。二丁目が観光地化して、顔バレしたくないホモが困っちゃう! ってなった時に、普通の飲み屋があるエリアにひっそり会員制ゲイバーがあると都合がいいわけ。
──なるほど、新橋を歩いてても、普通に飲みに行くのと見た目変わらないですもんね。
ケイン:
そうそう。上野、浅草だったりね。
──新橋とか上野とか、街によって集まるゲイのジャンルって違うんですか?「新橋はガチムチ系」みたいな。
ケイン:
それはあるね。だって、サラリーマンが多い街っていったら新橋でしょ?スーツフェチの人が新橋に集まるの。
太陽:
あるある。若い子も、スーツフェチは新橋に行ってるよね。
ケイン:
ジャージ着てるような人が来るのが上野。で、浅草はちょっと老人。
翼:
わかる! 巾着袋ぶらさげたようなおじいちゃんが来るのよね(笑)。
──街ごとに細分化されてるって、やっぱり東京っていう大きい都市だからこそですよね。
ケイン:
まあ、人口が多いからできることだよね。それが東京の素晴らしさだと思う。
──地方には、どれぐらいゲイバーがあるんでしょうか?
翼:
大きい都市だと、名古屋、大阪、博多、 北海道、仙台あたりはちゃんとありますね。
けんけん:
群馬なんか2軒ぐらいしかないよ。
ケイン:
名古屋は60件以上、京都も20件近くあるけど、大都市以外は本当に少ない。だから、大都市以外に住んでいるゲイは、週末になると近くの大きい都市に行くんです。三重の子が名古屋に行く、みたいな。
太陽:
そうそう。この間、静岡に遊びに行ったんだけど、ゲイバーなんてほとんどないんですよ。
──地方ごとにゲイバーの雰囲気は違うものなんですか?
けんけん:
いや、あんまり変わんないですね。入っちゃえばどこも一緒じゃないかな。
ケイン:
そうね、だから、私たちも東京にいるからって、田舎のゲイバーを馬鹿にするわけじゃないの。ゲイバーって全国に800軒ぐらいあるんだけど、例えば、ゲイのイベントしようと思ったら、ちゃんと全部のお店に情報を届けるもん。
──ネットワークがちゃんとあるわけですね。
ケイン:
そうそう。今年のレインボーパレード【※】は日本全国や台湾から、10万人ぐらい来るって言われてたの。都会と地方の境目がなくなって、ゲイの世界もどんどんグローバル化してるのよ。
※レインボーパレード…正式名称は「東京レインボープライド」。性的少数者が前向きに生活できる社会の実現を目指して行うパレード。2019年のパレード参加者は約14万人。2020年は4月に開催予定だったが、コロナウィルスの影響により中止となった。
おじいさんホモは大変だ
──マツコ・デラックスさんの登場やメディアの変化もあって、ゲイの世間での見られ方が変わってきたんじゃないかなと思うんですが、実感はありますか?
太陽:
それはすごくありますね。昔は男の人がメイクするなんて考えられなかったじゃないですか。でも、今、それが受け入れられるようになって、私たちにとっては生きやすい世の中になってきてるのかもしれない。
翼:
そうね、メイクはホモの特権だったのに!(笑)。私なんて毎日女装してても、もう珍しくなくなっちゃったわよ。
太陽:
それこそ、SNSも出会えるアプリもあるしね。別にゲイバーに行かなくても大丈夫になったよね。
ケイン:
本当に、ゲイバー行かなくてよくなっちゃったね。
太陽:
もう全然出会えるし、それこそ性交渉にも及べる。
ケイン:
若い子たちはもう上手くやれてると思うから、古いホモたちを救済したほうがいいんじゃない(笑)。
太陽:
「古いホモ」(笑)。でも、本当にそうだと思う。
──老人というか中高年のゲイの方々って、社会的にも自分の居場所をそれぞれ見つけてるんだと勝手に思ってました。
ケイン:
定年退職するような年齢になってもカミングアウトできないゲイなんて、たくさんいるよ。「結婚してて奥さんも子ども大切なんだけど。いつかはゲイと付き合ってみたいんですよね」みたいな。
──なるほど……。
ケイン:
知り合いに「リッちゃん」っていうタクシードライバーのおじいちゃんがいて、アプリもやれる年齢じゃないから、スーパー銭湯にのぞきに行っちゃうのよ。
ある日、リッちゃんが傷だらけで現れたの。「どうしたの!?」って驚いて聞いたら、スーパー銭湯にすごいかわいい男の子がいて、思わず触っちゃったんだって。それで、その人にボコボコにされて、スーパー銭湯は出禁になっちゃったの。
翼:
つらいわね……。
ケイン:
あとね、ゲイであることを隠して有名企業で働いてる知り合いがいて、その人は週末だけ名前も変えて、新宿でストリッパーみたいなことをしてるの。その人にとってはそれが解放なのよ。逃げる場所が必要なのね。
地方にゲイバーができない理由の一つは、田舎ってすぐに情報が広まるから、バレるのが怖いっていうのもあると思う。だからみんな、休日に二丁目とか東京に来るのよね。
太陽:
うんうん、お盆休みの二丁目とか、地方から来た人だらけよね。
生きるしかない
──けんけんさんは去年東京出てきて、環境激変したと思うんですけど、心境の変化ってありますか。
けんけん:
やっぱり、ゲイであることを隠さなくても生きていけるラクさはありますね。
ケイン:
でも、群馬でも隠してなかったんでしょ?
けんけん:
隠してなかったですけど、やっぱりノンケが多数だから、周りからの圧力を勝手に感じていたんだと思います。地方にいたときの方が、気が弱くなってた。東京にいると強い気持ちでいられる気がします。
太陽:
それはすごく分かるわ。
けんけん:
たぶん、地方でも自分が思ってるよりゲイに対しての偏見はないのかもしれないです。だから、ゲイの人が自分で扉を閉めちゃってるのかも。
翼:
いいこと言うわね。 今日はどうしちゃったの(笑)。
けんけん:
いやいや(笑)。でも本当にそう思ってるんです、僕は。
ケイン:
逆に私らおじさんのほうが気にしてるのかもしれないわね。「ゲイで申し訳ない」っていう。
翼:
そうね、気にしすぎなんだよね。
──やっぱり世代間の感覚の差があるんですかね。
翼:
時代が違うのよ、つらいわー(笑)。私なんて、実家の壁にスプレーで「オカマ! ホモ!」って書かれたのよ。
──ええ、ひどい……。
翼:
実家に電話かかってきて「おまえの息子、オカマ」って言われて切られたり。でも、両親が「人に迷惑かけないんだから、別にいいよ」って言ってくれたけどね。
──とても素敵なご両親ですね。
翼:
そうね、そういう親だったから、私が今、こうして堂々とゲイバーのママをやれているんだと思います。
ケイン:
私も子どもの頃は大変だったわよ。だから、ゲイに対する世の中の感覚が変わっていくのはすごく良いことだなと思うの。昭和、平成のゲイと、令和のゲイは全然違うと思うし。
太陽:
すぐ令和生まれのゲイが二丁目に来るようになるのよ。こわーい。
ケイン:
その頃には、私らは老人ホームよ。だからそうなったときに「昔は変な偏見があったのよ。信じられないでしょ?」みたいな昔話に変わってるといいわよね。
翼:
本当にそうね。
ケイン:
けんけんは偏見はなかったって言ったけど、やっぱり地方は東京に比べて保守的だし、セクシャルマイノリティの理解は10年20年遅れていると思うの。
だから日本全体でセクシャルマイノリティに対する意識が変わっていくには、もっともっと時間がかかるかもしれない。それでも、ゲイは生きるしかないのよね。
太陽:
生きるしかないのね。
ケイン:
「生きてーるー生きて―いーる♪」
生きることはサンサーラよ。
──定年退職を迎えたような方が家族にもカミングアウトできないって想像を絶する大変さだと思うんですが、そういう人にはどんな救いがあるんでしょうか……?
ケイン:
もしかしたら死ぬまで今のままかもしれない。でも、もう生きていくしかないわね。私たちセクシャルマイノリティが堂々と生きていれば、きっと、10年20年後はもっと生きやすい世界になると思うの。
そんな未来のために、ありのままで生きられるゲイが一人でも増えるといいわよね。
「うらやましい」を燃料に
──ニコ生を観ていても、今日お会いしててもそうなんですけど、ケインさん達のお話はすごく勇気をもらえるんです。どうしてそんなに力強くいられるんですか?
ケイン:
私が小学生の頃の話してもいいかしら。
学校で牛乳瓶のフタを集めるのが流行っていたのね。で、私たちの小学校は緑色のフタだったの。そこで私が他校の子からブルーのフタをもらってきたら、みんながすごく欲しがって「緑色のフタ10個と交換してくれ」とか言われたのよ。
そこで私が気付いたのは、「レアなものは価値がある」ってこと。人と違うのはマイナスじゃなくて、すごく価値があることなの。だって、世の中の石が全部ダイヤモンドだったら、真っ黒の石が一番価値があるでしょ?
自分がマイナスだと思って隠したら「弱み」になっちゃうんだけど、それを「自分らしさ」として出せたら宝に変わるのかなと思ってるの。だから私も、女装したときは「ブスだブスだ」言われても、隠さず続けたわよ。それは自分でもビックリするぐらい本当にブスだったからもうやめたけど。
太陽:
ケインさんの女装は絶対やばいわ(笑)。
ケイン:
本当のことで笑うんじゃないわよ!
私だってね、女装してキレイな女の子みたいになりたかったわよ。っていうか、そんなゲイたくさんいるからね。松田聖子のコンサート行ってみなさい。私みたいなガチムチのゲイがたくさんいるから。みんな、聖子ちゃんになりたいのよ。
一同:
(笑)
ケイン:
最初はね、キレイなニューハーフになるためにいろんな勉強したの。でも、勉強すればするほど、骨格やら何やらで自分がキレイになれないって思い知らされたのよ。だから、女の人を嫌いになりそうな時もあったわ。
──なるほど、女性嫌いなゲイの方も多いイメージがあるんですけど、嫉妬みたいな感情もあるんでしょうか。
ケイン:
そうかもしれないわね。でもね、ある時気付いたの。キレイな女性にはなれないけど、キレイな女性を助けることはできる。別に自己犠牲みたいなイイ話じゃなくて、美容家になれば女性とか芸能人から「先生!」って尊敬してもらえるんじゃないかと思ったの。見栄っ張りだったのね。
だから私は、“うらやましい”を仕事にしたの。
──嫉妬、うらやましさって、本来マイナスの感情だと思うんですけど、それを燃料にしてこられたんですね。
ケイン:
そうね、私はずっと、周りとか社会に適応できない中で「一般の人よりもいい人生を送ってやる!」みたいな意地があったから、ここまでやってこれたのかもしれない。
レアは最高!
──翼さんはずっとケインさんと一緒にゲイバーのお仕事をされてるんですよね。ケインさんの凄さってどんなところに感じますか?
翼:
ゲイバーの経営もそうですけど、いろんなLGBTのイベントを企画したり、ケインさんは常に「ゲイの世界の楽しさ」を作り出すんですよ。私が自分から何かを発信できるタイプじゃないから、余計にそう思います。
──翼さん自身の生き方に影響を与えていたりするんでしょうか。
翼:
すごく影響されてる! もしこの世界にこれなかったら、私はたぶん引きこもりだったと思いますね。私だけじゃなくて、多くのゲイやセクシャルマイノリティが、ケインさんの力で社会に出られているんじゃないかな。
ケイン:
私も含めた今日ここにいる全員が、小さい頃から人から「欠点」と言われるところを持っていて、自分の個性を隠して生きてきた人が多いのね。
太陽だって、演劇をやっていた頃はゲイであることを隠してたわけじゃない?
太陽:
そうね。
ケイン:
けんけんはフィリピン人と日本人のハーフなんだけど、ハーフであることにコンプレックスを持っていて、外国人みたいな長いまつ毛がイヤでハサミで切ったりしてたのよ。
けんけん:
そんなことしたっけ?
一同:
(笑)
ケイン:
でもね、けんけんもそうなんだけど、ハーフの子ってすごく顔がキレイじゃない?今、逆に思いっきりハーフっぽさを出したら、ゴーゴーの人気者よ。
本人はマイナスだったり、コンプレックスに思っていることも、見方を変えれば大きな強みになると私は信じてる。だから出会った子たちに「レアは最高よ」「だからあなたはいいわよ」って伝えるようにしているの。
まあ、翼ママは西麻布の人でなしだけど。
翼:
人でなしだけど、頑張ってるわよ!
一同:
(笑)
──「あなたは最高よ」って、実際に口に出して伝えるんですね。
ケイン:
そうね、口に出すことで自分に言い聞かせてる、っていう部分もあると思うわ。そうやって自分を奮い立たせてるのね。
──なんというか、皆さんの明るさの源がちょっと分かった気がします。
ケイン:
これはゲイに限った話じゃなくて、外見や性格で「人と違う」っていうコンプレックスを持っている人もみんな、普通でいようとするよりも普通じゃない自分を認めてあげないとダメよね。もう一度言うけど、レアは最高よ。そんな自分をステキだと思える人は、やっぱりすごい魅力があるし、パワーを感じるのよね。
太陽:
“ロマンティック”を出せるゲイ、最高よね。
けんけん:
僕、いつかゴーゴーの衣装を着て、ピンクのセグウェイに乗って街を走ろうと思うんです。ロマンティックを街の人に振り撒こうって(笑)。
ケイン:
いいわねえ。「ロマンティック☆センキュー!」って街の人にあいさつして回るの。とてもステキよ!
(了)
「自分自身を認めて、ありのままに生きる」
言葉にするとシンプルだが、それを生活の中で意識して、実行することは並大抵ではない。多くの人が学校や職場、家庭のなかで、どうしても他者と自分を比べて一喜一憂してしまうし、空気を読んで自分を押さえてしまったりもする。
今回お話を聞いた4人は、普通にしているだけでマジョリティの人々から「自分達と違う」と石を投げられてきた。それでも、堂々と胸を張って生きることをやめなかったのだ。
そして彼らは今、自身の人生を、人前で楽しげに話している。世の中はセクシャルマイノリティを「居てあたりまえ」のものとして徐々に受け入れつつある。「レアな自分は最高!」という前向きさによって、自分自身の笑顔と居場所を、自分自身の力で勝ち取ってきたのだ。
このインタビューを通して「こんな風に自分を認めてあげたい」なんて、ドン! と背中を押されたような感覚になった。もし、この記事を読んでくださった方が、少しでも私と同じような気持ちになってくれたら、とても嬉しく思う。
チャンネル『LGBT観察教育バラエティ|藤井ケインの「一本いただきます」』
不定期で生放送配信中! チャンネルは下記のバナーをクリック。
藤井ケインさんの経営するお店情報
・ピンクパンサー豊橋
(ニューハーフ オナベ ゲイ の働くミックスバー)
豊橋市松葉町1-51-1 サンフラッグビル1F
0532-53-6045
・POP
(日曜日のみ女性入店)
豊橋市松葉町2-61-1レディスビル4階
532-52-6119
・クイーンダイアモンド
(ドラァグクイーン のお店)
名古屋市中区栄4-14-15 フジプラザビル5F
052-242-8989
・キングダイアモンド
(女性は予約の方のみ)
名古屋市中区栄4-13-10 名北ライオンビル1階
052-242-5077
・サンセットカフェ
名古屋市中区栄4-5-19 シャイン栄ビル3階
052-251-7880
・新宿bangera
新宿区新宿新宿2ー14ー16
03ー6380ー6607
・新宿Priāpos
新宿区新宿2-17-1サンフラワービル2階
0364577652
・会員制 西麻布ojiva
港区西麻布某所
完全予約制
03 6721 1442