『グッバイ宣言』で一躍人気となったボカロP・Chinozoが語る人気曲の裏話!人気絵師・アルセチカとの作業秘話も必見【はじめて聴く人のためのインタビュー】
人気ボカロPの楽曲を集めたプレイリストを元に、ご本人へ制作裏話や楽曲エピソードをお聞きする本企画シリーズ。
今回は「グッバイ宣言」「Flyer!」などの人気曲を多数投稿する、Chinozoさんへインタビューを実施した。
代表曲「グッバイ宣言」はニコニコ動画内でも有名なのはもちろんのこと、YouTubeでも現在1.4億回再生を突破。
ボカロのことをあまり知らない人でも、何となく聴いたことがある!という人も多いのではないだろうか。
そんなChinozoさんがボカロ曲を作り始めたきっかけや、最近お気に入りのボカロ曲とは?また数々の人気曲の背景にある裏話とは。
ボカロ好きなら誰もが気になるエピソードを、今回はさまざまな角度から深掘ってみた。
取材・文/曽我美なつめ

■ 一度離れたボカロに戻ったきっかけは○○さんの名盤!
──まず最初に、VOCALOIDやニコニコ動画との出会いについて教えて下さい。
Chinozo:
ニコニコ動画は元々、当時好きだった「メトロイドプライムハンターズ」のプレイ動画をネットで見漁っている中で存在を知りました。好きだったプレイヤーさんが、ニコニコにしかプレイ動画をあげてなかったんですよ。まだ当時サービス自体も始まったばかりで、サイトの中のいろんなカルチャーや「ニコニコ組曲」などに触れる中で、自然とVOCALOIDや初音ミクのことも知った形です。
──00年代頃のお話ですね。当時好きだったボカロ曲はありますか?
Chinozo:
その頃だと「炉心融解」とか。ただ当時はボカロだけでなく、ニコニコ全体の音楽文化のひとつとして聴いてた感じでした。「エアーマンが倒せない」も好きでしたし、「Bad Apple!!」なんかの東方楽曲も好きで。
──Chinozoさんは15歳でギターを始めたそうですが、ボカロに触れたのはそれより前、ということですかね?
Chinozo:
そうですね、確か中学の頃です。高校で軽音部に入ってギターを始めて以降はボカロから一度離れてしまって、バンド活動を主にやってました。当時はL’Arc〜en〜CielやLUNA SEAなんかが好きで、高校の頃はコピーバンドもしてましたし。大学に入ってからはオリジナルバンドでも活動しましたよ。
──そこから、VOCALOIDへ戻ってきたきっかけは何でしたか。
Chinozo:
2016~17年頃に、みきとPさんの「僕は初音ミクとキスをした」というアルバムをたまたまレンタルCDショップで借りて聴いたんです。アルバム自体の発売は2013年なのでリリースからはだいぶ経ってましたが、そこで久々に「ボカロっていいな」と感じて。当時オリジナル曲の制作もすでにバンドで経験してたし、自分で作ることの方にすごく興味が湧いて、ボカロ曲を作ってみようと思い立ったんです。初期の曲はいくつかすでに消していますが、初投稿がたしか2018年で。残ってるものだと一番古いのは、2019年3月に投稿した「銀河翔女」ですね。
──ありがとうございます。楽曲の制作は、普段どういう形で進めることが多いですか?
Chinozo:
基本はわりとタイトルから決めることが多いです。曲のモチーフは…本当にさまざまですね。日常の出来事とか、誰かとの会話とか、本やゲームからアイデアが生まれることもあるし。例えば「タクシィ」はサビのフレーズから派生して作った曲ですし、「ミィハー」は変な話、ノベルゲーの某エロゲ作品が元ネタになってます。本当にいいな、と思ったらどこからでもアイデアを引っ張ってきてますね。
──メロディが先行、歌詞が先行、というのも特に決まった形はなく?
Chinozo:
そうですね。まあでも、メロディと歌詞を同時進行で作ってることが多いかもしれません。
──別のインタビュー記事で、「曲を作る際にネガティブな要素を入れることが多い」というお話も拝見したことがあります。
Chinozo:
僕自身がネガティブ思考な人間なので、自然にそっちに寄っちゃう感じですね。なので逆に、ポジティブな歌詞を書くのなんかは結構大変で。その分曲自体がネガティブになりすぎないよう、かなり頑張ってサウンド面をポジティブに寄せてる部分はあるかもしれません。そのアンバランスさも、自分の曲の持ち味だと思っているので。
──そんな曲作りの中で、特にこだわっている部分などはありますか?
Chinozo:
サウンド面の話だと、自分の核になるピアノ音源はずっと変えずに来てますね。かなりチープな音色ではありますけど結構特徴的な響きだし、僕の曲のアイコン的な音だと感じてるので。あとは考え方の面だと、「頭でっかちな自分」と「バカな自分」のバランス感というか。DTMをやってる方はわかると思うんですけど、コードとかリズムパターン、メロディなんかを頭でしっかり考えて作ると、どうしてもキャッチーなものからは遠ざかりがちなんですよね。もちろん考えて作り込まなきゃいけない時もある一方で、いい意味で頭を空っぽにした方が耳に残るフレーズを作れることもあって。その塩梅をどうするか、という点はいつもめっちゃ考えますね。
──同時に、制作の中でChinozoさんが一番楽しいと思う瞬間はどんな時でしょう。
Chinozo:
編曲の時ですね。ある程度作曲も終わって構成が固まって、もうここからはやりたい放題やれるな、という楽しい時間なので(笑)。逆に、作曲の時間はかなり苦しい時間になることも多いです。ただ曲ががっちり固まって完成した瞬間は達成感というか、制作の中でも瞬間風速で一番ドーパミンが出る時かもしれません。
■ イラストレーター・アルセチカさんとの驚きの制作秘話
──ここからは、今回制作したプレイリストに関するお話も聞けたらと思います。まず単刀直入に、この中で一番Chinozoさんの思い入れがある曲はどれになりますか。
Chinozo:
「だまってちゃん」ですね。わりと最近の曲ですが、それ以降の自分の作風を決めるというか、自分の今後の方向性が見えた曲になったというか。正直今まであまり考えずに曲を作ってた部分もあったんですけど、改めて自分の作風に向き合って「Chinozoの曲の良さってどこだろう」という事を考えて作った曲だったと思います。歌詞の言葉選びやサウンドの音色、曲構成とか。あとはシンプルに、いいメロが書けたと思いますしね。
──Chinozoさんの代名詞になった「グッバイ宣言」が挙がると思っていました。少し意外な曲線ですね。
Chinozo:
確かに数字の面で「グッバイ宣言」の存在はかなり大きいんですけど、個人的にあの大きなヒットも未だにあまり実感がなくて。ありがたい事に流行っていた時期も、自分的には「歌みた動画がなんかめちゃくちゃ出てるな~」ぐらいの体感で。YouTubeのアナリティクスやニコニコ動画の再生数も確かにめちゃめちゃ伸びたんですが、どこか他人事のような気持ちで見てましたね。
──楽曲はもちろんですが、この曲はイラストレーター・アルセチカさんの出世作のひとつでもあると思います。元々これはピアプロにあったフリーイラストをお借りしたんでしたっけ。
Chinozo:
そうですね。実は楽曲を作る前にアルセチカさんのイラストを見つけて、すごくいいなって所から曲作りが始まったんです。当時は結構ピアプロのフリー素材からイラストをお借りすることも多くて。「カナリヤラメント」とかは依頼してイラストを描いていただいたんですが、有償でお願いするとどうしてもお金がかかるな……と感じて。なので、ピアプロってほんと神みたいなサイトだと思ってます(笑)。
──ある意味、この曲からアルセチカさんとのタッグが始まった面も大きいと思います。Chinozoさんの楽曲には動画でオリジナルキャラが描かれることも多いですよね。このキャラのビジュアルには、Chinozoさんから希望や指示を出すこともあるんですか?
Chinozo:
一応ありますけど、「中性的なショートヘアで」ぐらいの感じですね。あとは画面共有してアルセチカさんに描いてもらって、「あ、いいね」ってなったらあとはお任せで。こっちも曲を作りつつリアルタイムに作業画面を見て、同時進行で作っていく感じです。アルセチカさんの筆の早さあってこそ為せる技でもあるんですけど。
──そんな「グッバイ宣言」がボカロの入口という人も、おそらく大勢いると思います。そういった方にさらにもう一歩、ボカロ曲やChinozoさんの作品をより知ってもらうためにオススメするとしたら、この中のどれになりますか。
Chinozo:
ちょっと違う作風を知ってもらうなら「シェーマ」ですね。「グッバイ宣言」と近しいテンション感であれば、「ショットガン・ナウル」もいいかもしれません。あとはプロセカ提供曲とか、その辺が入口の人もいるでしょうか。
──「Flyer!」「アンチユー」ですね。普段の楽曲とこういった提供曲の作り方は、やっぱり変わってくるものですか?
Chinozo:
そうですね。やっぱり曲の背景にキャラクターとか物語、テーマみたいなものがすでに明確にあるので。そこからブレないように意識はしますけど、それ以外は特段気を付けてることはあまりないかもです。僕、こういう曲の主題が先にある方が曲を作りやすいというか、筆が進むので。外部の方への提供曲は、毎回楽しく作らせてもらってますね。
──その他、今回のプレイリストの中で印象深い曲などはありますでしょうか?あるいはまだ表に出ていない裏エピソードなど…。
Chinozo:
僕、意外といろんな所で喋っちゃうタイプなんですよね。こういうインタビューもですし、自分のYouTubeショートでもたまに制作小話をアップしてて。強いて言えば…話したことあるかもですが「エリート」かな。曲の中に<大人も大体間違えてるってパパは言った>って歌詞があるんですが、あの曲を出した後にオトンから「これは俺のことか?」って連絡が来たんですよ(笑)。「いや、違うよ」って返したんですけど。
──Chinozoさんのリアルお父さんですと、やや年齢も上の方になりますよね。ボカロも聴かれているんですか?
Chinozo:
いや、そんな話も全然聞かないので普段はさすがに聴いてないと思います(笑)。ただ嬉しい事に、息子が出した作品は一応チェックしてくれてるみたいですね。
■ Chinozoさんが最近オススメする注目ゲームはコレ!
──ちなみにChinozoさんご自身は最近のボカロも聴かれてます?先日のボカコレ2025夏も、エキシビションにて「カニ」で参加されてましたよね。
Chinozo:
まめに追ってるわけではないですけど、X(旧Twitter)で流れて来た曲はたまにふんわり聴いてます。
──直近で印象的だった曲などはありますか?
Chinozo:
MIMIさんの「マジック・メイド」はめっちゃ好きですね。ものすごいキャッチーでシンプルだけど、すごくスッと入って来る感じがいいな、と思って。
──MIMIさんの曲も、ポップなピアノがとても印象的ですよね。勝手ながらChinozoさんの作品と近しいものを感じました。ちなみにボカロ以外の音楽ですと、直近で良かったものはありますか?
Chinozo:
全然雰囲気が違うんですけど、この間ロサンゼルスでリンキン・パークのライブを見たんですよ。めちゃくちゃ良くって。それからずっとリンキン・パークばっかり聴いてます(笑)。
──Xでも投稿されてましたよね。リンキン・パークは元々聴いてたんです?
Chinozo:
昔のアルバムはずっと聴いてたんですけど、ボーカルのチェスターが亡くなって新しいボーカルに変わってからは全然聴いてなかったんです。今回の公演も友達に誘われて、最近聴けてなかったんですがせっかくだし行ってみようと思って。でも行ってみたら新ボーカルのエミリーもめちゃくちゃ良くて、普通に最新のアルバムも全部聴いちゃいましたね。
──音楽以外ですといかがでしょう。最初も少しお話されてましたが、元々ゲームとかもお好きなんでしょうか。
Chinozo:
そうですね。元々FPSとか、あとはポケモンもずっと好きで。最近やったものだと、「都市伝説解体センター」がとにかくめっちゃよかったので皆さんにもやって欲しいです。こういう系統のゲームが他にあれば、ぜひ教えて欲しいぐらいですね。
──どんな所がオススメのポイントでしたか。
Chinozo:
言っちゃうとネタバレになっちゃうので全然言えないんですけど…とにかくやってみて欲しいです(笑)。あとは最近、脱出ゲームに行くのも好きなんですよね。たまに知人のクリエイターさんたちと一緒に遊びに行ってます。それでいくと脱出ゲームが好きな方は、「都市伝説解体センター」も絶対楽しめると思いますよ。
──直近で「東京ゲームショウ2025」も開催されてましたが、そちらもチェックされましたか?
Chinozo:
今回はライアットゲームズが珍しく出展してましたよね。「VALORANT」も好きなんですけど、なかなか周りにやってる方、特にボカロPさんは全然いなくて。元々ボカロPで仲良い方も僕すごく少ないんですけど、もしVALOやってる方いたらぜひ声かけて欲しいです。ここでFPS仲間も募集させてください(笑)。
──かしこまりました。ちゃんと記事に盛り込んでおきますね(笑)。それでは最後になりますが、今後の活動の抱負についても教えてください。
Chinozo:
投稿したい曲調もいろいろあるんですけど、大体納得いかなくてボツにしちゃうんですよ。1曲出るまでに20曲ぐらいボツにすることも普通にありますし、フルで作ってアレンジまで終わらせたのにボツにしちゃうことも全然あって。中には「チーズ」みたいにボツから時間が経って復活する曲もあるんですけど、そもそもなるべくボツにせず、自分の納得できる曲を確実に作って世に出すのが目標ですね。
■Information
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