『ポケモン』クリアのために現実でひまわりを栽培。過酷溢れるヒマナッツ縛りのリアル──レベル2ビッパに負けるしゲーム実況なのにガーデニング知識がないと詰みかける
『ポケットモンスター』。1996年に発売された『ポケットモンスター 赤・緑』から始まり、25年以上に渡り世代を超えて多くのプレイヤーを魅了する国民的人気ゲームである。
最初にヒトカゲを選んだらタケシ戦で地獄を見た、シロガネ山にレッドがいて驚いた、何日も何日も自転車をこいで卵を孵化させ続けた、メガシンカ・ダイマックスなどの新要素追加にワクワクした……世代により初めて触れたシリーズは異なるだろうし、思い出もさまざまだろう。
だが、シリーズが違えど、博士からポケモンをもらい、草むらで野生のポケモンと戦い、ときにモンスターボールで捕まえて仲間にする。そしてレベルを上げてクリア(殿堂入り)を目指す、というのはトレーナー共通の体験としてあるはずだ。
そんな『ポケモン』において、現実でひまわりを栽培しすることでゲームクリアを目指すという、謎過ぎる縛りプレイに挑戦する者がいた。その者の名はマサ(社畜王子)(@masa1225kami)。
「『ポケモン』をクリアのために現実でひまわりを栽培する」とはどういうことなのか?
まず、使えるポケモンはヒマナッツのみ。これだけでも大分しんどい縛り条件だ。ヒマナッツの種族値は180。コイキングやキャタピーより低い。
さらに、このヒマナッツはレベル1から育てることになるため、序盤はたとえビッパ(レベル2)相手でも苦戦は必至。連続で「たいあたり」されるだけで儚く散ってしまう。
もしHPが0(ひんし)になってしまったら、そのヒマナッツはもう使用できなくなる。いくらレベルを上げようが、何時間かけて育成しようが、この縛りプレイではただ一度の敗北でパーティから消え去る運命にある。
そして、ここからがこの縛りプレイのキモなのだが、ヒマナッツがひんしなったら、ゲームから現実に場を移しひまわり栽培が始まる。植木鉢にひんしになったヒマナッツの名前をつけたひまわりの種を植え、発芽したらそのヒマナッツは戦線に復帰できる、というルールだ。
しかし、逆に枯れてしまったらそのヒマナッツは二度と使えなくなる。ゲームの縛りプレイなのになぜかガーデニングの知識が求められる。不思議な縛りプレイとしか言いようがない。
その奇抜さに反して、縛り難易度じたいも相当なもの。手持ちがヒマナッツのみだとただの草むらを進むのすら命がけであるし、現実のひまわりは育てかたを間違うとすぐに枯れてしまう。
ゲーム内では能力的に貧弱なヒマナッツを育て、現実ではひまわりを育て……その様子はまるでゲーム内の苦行を現実にも持ち込んだような大変さにも見える。
「本当にクリアできるのか?」と疑問を抱いてしまうほど厳しい縛りを自身に課し、信じられないほどの時間と労力をゲームに注ぎ込むやりこみゲーマーの頭の中に迫るシリーズ「やりこみゲーマー列伝」。
やりこみプレイの準備だけに半年以上かける者、バグを見つける技術を高めるためプロのデバッガーになった者……みな、常人には理解できないゲームにかける狂気じみた情熱を持っていた。
今回お話をお聞きするマサさんは、果たしてどのような気持ちで縛りプレイの世界に身を置いているのだろうか。
自分が楽しむために縛り条件の難易度は高く。縛りプレイ中は当然苦しいがそれが楽しさでもある。そして「詰んだら詰んだ状況を楽しめばいい」と語る、マサさん独自のゲームの楽しみかたがそこにはあった。
ムックルやホーホーでもぎりぎりの戦いになるヒマナッツ縛り
──ヒマナッツ縛りプレイの動画ですが、培養土に肥料を混ぜて土作りをしたり、ゲリラ豪雨がきて雨避けを作ったり、虫食い対策をしたり、ゲーム実況動画とは思えない絵面で最初は驚きました。
マサ:
そうですね(笑)。配信や動画では、ひまわりの成長過程も映しているので、ゲーム実況に見えないところも少なからずあると思います。
──「ヒマナッツのみでクリアを目指す。ひんしになったら現実でひまわりを栽培する。発芽したら使える」というこの縛りですが、とくに大変な部分ってどのあたりになるんでしょう?
マサ:
序盤から終盤まで全部ですね。ご存じかもしれませんが、ヒマナッツってあまり強いポケモンではないんですよ。
レベル1の状態からスタートすると、最初の草むらに出てくるムックルやホーホーにもぎりぎり勝てるか勝てないか。洞窟でたくさん出てくるズバットも天敵です。くさタイプの技のダメージは4分の1になってしまうし、素早さが高くてなかなか逃げられない。
縛りのルールで、ひんしになったヒマナッツは使用できなくなってしまうので、とくにレベルの低い序盤では野生のポケモンとの戦いでも死に物狂いではあります。
──一度ひんしになってしまったら使えなくなるのは非常に厳しいルールに感じます。試行錯誤を重ねて……というのができなくなってしまうような。
マサ:
ひんしになったヒマナッツの名前をつけたひまわりを現実で栽培して発芽すれば再度使えるようになるので、そのあたりは問題なくプレイできました。
──なるほど。とは言え、ヒマナッツの種族値は合計180。コイキングやキャタピーよりもさらに低いです。やっぱりレベルをめちゃくちゃ上げて攻略していくんでしょうか?
マサ:
普通にプレイする以上にレベル上げが必要なのは間違いないんですが、レベルを上げ過ぎるとまた別の問題が出てくるんです。
──別の問題?
マサ:
はい。この縛りプレイで育てるヒマナッツは、ほかのゲームから連れてきているので、一定のレベルを超えると反抗期のようにトレーナーの言うことを聞いてくれなくなってしまうんですよ。
──反抗期(笑)。
マサ:
反抗期に入ってしまうと、バトル中に昼寝したり、いうことを聞かなくなったりするので、基本は反抗期に入る直前でレベルを止める必要があります。ですので、ひたすらレベルを上げて攻略というのは難しいんですよね。
ジムバッジをゲットすることで反抗期に入るレベル上限が引きあがっていくので、その上限ぎりぎりまで育てて、あとは戦略や試行回数でなんとかする必要が出てきます。
──レベルでのゴリ押しができないのは辛いですね……。
マサ:
ただ、ゲームの中で何度挑戦してもなかなか勝てない……というのはじつはそこまで辛くはないんです。何度も負けてたとしても、「そのうち勝てるはずだ」と思えるので。心情的に一番キツかったのは、「ひまわりが枯れるかもしれない焦り」との戦いです。
──と言いますと?
マサ:
ゲームの中では何度もトライできても、現実でひまわりが枯れてしまったらやり直しはできないんです。ひまわりは夏の植物ですので、秋になったら自然と枯れていくんですよね。そうじゃなくても育てかたが悪くて枯れてしまうこともあって。
一時期、8個の植木鉢にあったひまわりたちが、同時に枯れかける事態になってしまって、「やばいやばい!」と焦りながらプレイを進めることもありました。
とくに苦戦したトレーナーはアカギ、レッド、むしとりしょうねん
──「何度も挑戦すればいつかは勝てる」と思っていても、ヒマナッツで挑むとなるとトレーナーとのバトルは苦戦の連続だと思います。縛りプレイのなかでとくに苦戦したトレーナーがいたら教えてください。
マサ:
とくに苦戦した相手……思い浮かぶのは、『ダイヤモンド』ギンガ団のボス・アカギ、『ハートゴールド』のレッド、そして『ハートゴールド』のむしとりしょうねんの3人でしょうか。
──むしとりしょうねんですか!? 強いイメージはあまりないのですが。
マサ:
『ダイヤモンド』でNPCと一緒に行動するときに、むしとりしょうねんとミニスカートとの2対2のタッグバトルがあるんです。そのむしとりしょうねんが使ってきたアゲハントがトラウマで……。
──アゲハント?
マサ:
「むし/ひこう」のアゲハントはヒマナッツとの相性が最悪で、なんとか耐えて相方のポケモンに倒してもらうしかなかったんですが、その相方のラッキーが全然アゲハントを倒してくれなくて。しかもヒマナッツに集中攻撃がきてしまって結局森を突破するまで3日かかりました。
──まさかの相手に苦戦……ヒマナッツ縛りだからこそではありますね。アカギ、レッドとのバトルについても教えていただけますか。
マサ:
『ダイヤモンド』のアカギは二度と戦いたくない相手です。本当に全然勝てませんでした。
あのときは使えるヒマナッツが2体しかいなくて、反抗期を迎える直前のレベル70で挑んでいるのにまったく勝てる気がしなくて。いっそレベル100まで上げるしかないんじゃないか……いや、レベル100でも無理なんじゃないかと感じるくらい厳しい戦いでした。
──アカギ戦は具体的にどこが厳しかったのでしょうか?
マサ:
ドンカラス、クロバット、マニューラ、ギャラドス……アカギのポケモンすべてが、ヒマナッツに対して効果抜群な技を持っていたんです。加えて、相手のほうが素早さは上で、わざによってはヒマナッツのHPが満タンでも一撃耐えるのが限界、急所を引いたら終わりという状況でした。
──それだけ聞くと「勝つのは無理なんじゃないか」と感じてしまいますね……。
マサ:
最終的には、「かげぶんしん」で回避率を上げて攻撃を避けることを祈り、「つるぎのまい」で攻撃力を倍増させ、「にほんばれ」を使うことで相手より先に行動できる素早さを得て、上から殴る作戦で突破しました。
最後の最後、バトル中にヒマナッツのレベルが71に上がり反抗期を迎えてしまい、言うことを聞いてくれなくなったのも含めて記憶に残っているバトルです。
──バトルに勝てないときの試行錯誤ってどのようにしているんですか?
マサ:
1ターン目に「やどりぎのタネ」を使ったらどうなるのか、「かげぶんしん」ならどうなるのか、というのをひたすら総当たりで試していく感じです。スプレットシートにフローチャートみたいなのを作ることもあります。
こちらの行動、相手の行動、そして持ち物などを併せて考えていくと、さまざまなパターンに分岐していくので、それらをひとつずつ潰していって勝てる可能性があるものがないのか探していくんです。相手の行動を祈る詰将棋に近いのかもしれません。
──おお。この資料はレッド戦のものですかね!?
マサ:
そうですね。レッド戦で作った資料です。このレッド戦が『ハートゴールド』でいちばんきつかった一戦かもしれません。
──普通にプレイしていてもレベルが高くてわざも強くて苦戦したトレーナーも多いと思います。
マサ:
レッドの手持ちには「ふぶき」を使ってくるポケモンがいるんですが、シロガネ山の山頂は、『ハートゴールド』だとあられが降っているので、ふぶきが絶対に外れないんで、ヒマナッツにとってはたまったもんじゃありませんでした。
じゃあ「にほんばれ」を使えばいいのか? というとそうでもないんです。相手にはフシギバナやリザードンがいるので、晴れさせても相手が有利な状況になってしまう。
いろいろ試行錯誤していった結果、進化後のキマワリが6体使える状況ではあったんですが、あえてヒマナッツを2体連れて行って、「あられ」を利用する戦法で倒しました。
苦戦したジムリーダーたち
──『ポケモン』って最初に選ぶポケモンで苦戦するトレーナーやジムリーダーがガラリと変わるじゃないですか。フシギダネを選んだらタケシには余裕で勝てるけど、ヒトカゲを選んだら苦戦したとか。ヒマナッツの場合、とくに苦戦したジムリーダーは誰になるんでしょう?
マサ:
『ダイヤモンド』では、スズナ、ナタネ、スモモの3人が抜きんでて苦戦しました。
スズナはこおりタイプのジムリーダーで相性が悪いうえにユキノオーはくさ・こおりだから「やどりぎのタネ」が効かない。くさタイプのジムリーダーのナタネも同様の理由で厳しかったです。
──ヒマナッツ縛りなうえにタイプ相性も悪いと苦戦は必至と。
マサ:
ええ。ただそれ以上にスモモはエグかったです。ジムリーダーの中で一番苦戦した相手は彼女ですね。
相性的にはくさとかくとうで悪くはないのでそこまで苦戦するとは思っていなかったんですが「みやぶる」という技が厄介でした。「やどりぎのタネ」を使い、かげぶんしんで回避率を上げて、時間を稼いで倒すという戦法をよく使っていたので、それを無効化されてしまって……。
でもそういう敵がいないと、戦いが「やどりぎのタネ」一辺倒とかになりかねないので、スモモたちがいてくれたからこそ、山あり谷ありで楽しめたのかなぁとも思います。
──『ハートゴールド』のほうではどうなんでしょう?
マサ:
『ハートゴールド』はハヤトとツクシですね。序盤のジムなんですが、「これは終わったかも……」と思うくらい追い込まれました。
苦戦した理由としては、タイプ相性が悪いというのは勿論のこと、相手がピジョン、ストライクという「速い・硬い・強い」の三拍子揃ったポケモン(ヒマナッツ比)だったからです。
こちらは、「遅い・脆い・弱い」の三拍子揃ったヒマナッツなので、行動する前に相手の攻撃を食らい何もできずに一発でやられてしまうことが多く、運ゲーにすら持ち込めないという展開が多々あって……。何度も挑んでいる内にCPUが選ぶ技のクセをなんとか掴みながら運9割と戦略1割で切り抜けました。
──そういう強敵とのバトルでとくに頼りになったわざって何になるんですか?
マサ:
『ダイヤモンド』だったら「かげぶんしん」、『ハートゴールド』だったら「がむしゃら」です。
『ダイヤモンド』では、いかにひ弱なヒマナッツに攻撃が当たらないようにして、試行回数で押し通して勝つかみたいな戦法が基本でした。
『ハートゴールド』では、相手のAIが賢いのか『ダイヤモンド』に比べて無駄技を選んでくれないので、「かげぶんしん」を使って試行錯誤を重ねるよりも「がむしゃら」で相手のHPを大きく削って後続に託すパターンに助けられることが多かったです。
──お話に度々出てきた「やどりぎのタネ」じゃないのが意外でした。
マサ:
「やどりぎのタネ」も強いんですけど、強敵に対しては使っている暇すらないので、重要なところで活躍したイメージはあまりなかったりします。
キマワリに進化しても楽勝にはならない
──『ダイヤモンド』と『ハートゴールド』、それぞれヒマナッツ縛りでプレイしているマサさんですが、この2つのシリーズだとどちらのほうが難しく感じましたか?
マサ:
現実パートは『ダイヤモンド』、ゲームパートは『ハートゴールド』かなあと思います。
『ダイヤモンド』のときは、まだガーデニングの経験も知識もゼロで、現実でのひまわりの育成のコツが掴めていなかったのが大変ではありました。水やりの加減とか、虫にたかられたときの対処もわからなくて。結局、ひまわりが咲いたのは縛りプレイ完結後でした。
逆に『ハートゴールド』ではひまわりを育てるのも2回目なので、1回目に比べて知識も蓄積され準備もしっかりできて。その結果、ひまわりも咲いてヒマナッツもキマワリに進化させることができましたが、それでもぎりぎりのクリアでした。最初に挑戦したのが 『ハートゴールド』だったらクリアはできなかったと思います。
──確かに2回目の挑戦の『ハートゴールド』ではひまわりの育成がうまくいってましたよね。それに伴ってヒマナッツをキマワリに進化させられて戦力も強化できましたし。
マサ:
キマワリはヒマナッツと比べたらそれは強いんですけど、くさタイプの普通のポケモンなので当然弱点もあるし、強力なポケモンかというとそうでもないんです。
ヒマナッツの弱さで感覚が麻痺しているだけで、キマワリになったからといって楽勝にはまったくならないんですよ!
四天王戦なんかはノートにびっしり対策を書きまくって、1週間くらい入念に準備をして挑んだにも関わらず、クリアまで20時間近くかかってしまっているので。
──うわぁ……。
マサ:
負けまくりました。じつは当時の僕もちょっと感覚がおかしくなっていて「キマワリがこれだけいれば余裕かなぁ」とか思っていたんですけど、ぜんぜん負けるんですよ。儚いものです。
──種族値的には進化して何倍にもなっているわけですけど、ツラいことには変わりないと。
マサ:
ツラいままでした。冷静になって考えてみると、ヒマナッツ縛りのほかにもおいしいみずとふしぎなアメしか使えない縛りも設けていたので、楽に勝てるはずはなかったんですよね。
──そうそう。ヒマナッツ縛りだけでも大変なのに回復アイテムや強化アイテムも縛る。しかも、プレイ途中で縛り条件を追加することもあるじゃないですか。なぜそこまで苦行を求めるのか謎で。
マサ:
途中で縛りを追加した理由は、プレイしていて楽勝になってしまう気がしたのが正直なところですね。楽がしたいなら最初からこんな縛りプレイはしなければいい話なので(笑)。
──確かに(笑)。
マサ:
想定よりも難易度が低いと感じたら軌道修正はしようとはいつも意識はしています。それは動画としてのおもしろさを意識してもありますし、自分が楽しくプレイするための意味合いもあります。
例えばマラソンが趣味の人って走っているときまったく苦しくないわけではないと思うんです。当然苦しい、でもそれが楽しさでもある。縛りプレイの感覚もそれに近いんじゃないかなと。