スキーシーズンにバス運転手が過労で居眠り運転 ブラックな家族経営が招いた「大阪・吹田スキーバスツアー事故」を解説
今回紹介するのは、ゆっくりするところさんが投稿した『4週間で405時間労働 過労で居眠りをしてしまい、バスが激突。高速バスの闇が浮き彫りになった『吹田スキーバス激突』【2007年】』。
この動画では2007年に大阪府吹田市で発生した、スキー客らをのせた大型バス居眠り運転事故について解説します。
4週間で405時間労働という超過酷な環境
魔理沙:
今回紹介するのは『吹田スキーバス激突』だ。
霊夢:
今回は交通系の事例なのね。
魔理沙:
2007年2月17日の深夜。この日、旅行代理店が主催するスキーバスツアーが開催された。このツアーは代理店が観光バス会社に依頼し、運行するというものだった。
そしてこのバスは長野県内のスキー場などを回りながら乗客25名を乗せて、JRの大阪駅経由で天王寺方面に向かっていた。
霊夢:
スキーバスって結構深夜とか早朝に出発するの多いわよね。
魔理沙:
前日の夜から出るバスも多いよな。このツアーのバスも同じで、計4台のバスが運行していた。そして、日付が変わり18日。午前5時25分頃。バスが大阪府吹田市の大阪中央環状線を通過していた頃、事故は起こった。
霊夢:
環状線で事故……。
魔理沙:
この環状線のモノレール橋脚に、スキーツアーバスの1台が激突してしまったんだ。この激突によって、バス最前部の補助席に座っていた添乗員1名が命を落とし、運転手が骨折などの重傷、その他乗客など23名が重軽傷を負った。
霊夢:
どうしてそんなことに……なにか特別に事故を起こしやすい場所だったのかしら。
魔理沙:
いや、場所が特別だったわけじゃない。事故車両を含めて、このツアーはバス4台、運転手7名という体制で運行していたんだが、事故車両にだけは「道路交通法」に定められている交代運転手が居らず、ひとりだけで運転していた。
霊夢:
あ……まさか、過労でミス……。
魔理沙:
この運転手や添乗員などは、このバス会社社長の家族が担っていた。長男が事故車両の運転手、そして亡くなった添乗員は三男だった。
霊夢:
家族経営だったのね。
魔理沙:
この亡くなった三男は当日、アルバイトとして添乗員の仕事をしていた。このツアーで、長男が1人で運転手を務めることになったので、当日はスキー用具などの荷物の積み下ろしを手伝うために乗務していた。彼は当時高校生で、「兄ちゃんと大阪にいける」と、ツアーを楽しみにしていたという。
霊夢:
うぅ……泣ける……。
魔理沙:
事故後の調査で、運転手であった長男に事情を訊いたところ「居眠り運転をしてしまった」という供述があったことから、事故原因は「過労運転」ということになった。
霊夢:
やっぱりそうだったのね。
魔理沙:
調べによれば、長男は当日までの約1か月間、長野と大阪の間をほぼ毎日往復しており、24時間連続した休日があったのは、たったの3日間だけだった上に、スキーシーズンの2月頃は、一切休まずに働いていたこともわかった。
霊夢:
えぇぇぇ……いくらなんでもブラック過ぎでしょ。
魔理沙:
バス運転手の拘束時間は、労働基準法で「4週間で260時間が上限」と定められていたが、この長男の当時の拘束時間は、なんと4週間で405時間を超えていたという。
霊夢:
1日当たり14時間も働いてたの……!? そりゃ居眠りもするわ……。
魔理沙:
これらの労働環境に対し、社長は「運転手が過労状態だとは思っていない」と話し、責任はないと主張していたが、『運転手に過重労働を指示していた』として道路交通法違反の容疑で逮捕。
そして長男も、業務上過失致死、道路交通法違反の容疑で逮捕されている。
霊夢:
そりゃそうでしょうね……。
魔理沙:
運転をしていた長男は、入院先での任意聴取のとき『名神高速の養老サービスエリアで大型免許を持っていた専務と運転を交代した。その後、草津パーキングエリアで再び運転を変わった』と話していた。
しかし、バスを調査したとき、装備されていたタコグラフには、養老サービスエリアで停車した記録が残されていなかった。
霊夢:
え……ってことは??
魔理沙:
このことについて、運転を代わったという専務にも事情を訊いてみると『会社を守るために口裏を合わせるように依頼しました』と供述したそうだ。最終的には、長男も口裏合わせを頼まれたことを認めた。
霊夢:
ブラックな労働環境を隠すために、嘘をついていたのね。
魔理沙:
道路運送法などで、運転手1人での休憩なしの長距離運転は禁止されている。しかし、事故当日は旅行会社から『バスの本数を増やして欲しい』と強く迫られており、運転手が足りないのはわかっていたが、押し切られる形で、人数不足状態で運行してしまっていたんだ。
霊夢:
そんな背景があったのね。
魔理沙:
裁判では長男に懲役2年6か月の有罪判決が下り、さらに大阪地裁は社長に懲役1年、専務に懲役10か月の有罪判決を下した。法人としての罰金は50万円。
乗客の安全を無視した責任は重く、時間外労働が当たり前になり、休暇を取れない状態を隠すため、嘘の供述をしていたことなどは悪質だとされたものの、旅行代理店からの増便強要や、事故後に社会的制裁を受けていたこともあり、執行猶予付きの判決となった。
霊夢:
社会的制裁があったの?
魔理沙:
ああ、このバス会社は、バス事業の規制緩和が行われた2000年に設立され、売り上げが好調で2年後には1億円にまでなるほどの成長を見せていた。
しかし、2006年頃からツアー客からの苦情が多くなり、売り上げが落ち込んでいた。そこに今回の事故を起こしてしまい、事故報道などで日本全国にその過重労働などの実態が明らかとなり、旅行代理店からの契約が打ち切られるなど、売り上げはさらに低迷し、経営困難にまでなっていた。
霊夢:
そりゃあそうでしょうね……。
魔理沙:
それに、このバス会社に増便を強要していた旅行代理店も、以前から観光バス配車センターの関係者を通じて、法外に安い運賃を強要したり、『乗務員が不足しているので、これ以上バスを増やすのは危険だ』という、バス会社の回答を無視して運行を強要させるなどの『下請けイジメ』行為を多数行っていたことも明らかとなった。
霊夢:
自分たちが運転するわけじゃないからって、無責任すぎるわね……。
魔理沙:
こういった背景もあって、バス会社側もどんどん追い込まれていったんだろう。これらのことが明るみになり、やはり旅行代理店も社会的信用を失い、後に破産にまで追い込まれた。
霊夢:
一度失った信用って、簡単には取り戻せないからね。
魔理沙:
今回の事故によって、ツアーバスなどの運転手の過重労働の実態、代理店の押し付けなどが世間の目に晒されることになり、その後、バス運転手などの過重労働を避けるため、改善策が図られたものの、この安全対策はバス事業者のみが対象で、元請である旅行代理店にはほとんど影響がなく、十分な対策とはいえなかった。
そして、事故後の2011年に日本バス協会が「貸切バス事業者安全性評価認定制度」を設けた。申請は貸切バスを3年以上営業している事業者の任意で、安全性に対する取り組み状況を協会が審査し、評価された事業者名を公表する。この評価レベルは1から3の星の数で示され、星付きの認定シールをバス車体に貼ることができる。というものだ。
霊夢:
なるほど。その評価でちゃんと安全対策をしているバス会社かどうか、わかるわけね。
魔理沙:
ああ。だがこれはあくまで任意で行うものであり、十分な対策とはいえなかった。これらの改善がなされた後でも、同様の居眠り事故などが起きてしまうんだ。
霊夢:
これでもまだ対策が不十分だったの??
魔理沙:
事業者への指導、監督指針を作り、これらの評価システムを作っても、まだ根本的な解決にはなっていなかったんだ。それで翌年には、別の大きな事故が起きてしまう。
この事故後に初めて、旅行代理店を含めた根本的な対策が開始されるんだが、それはまた別の動画で紹介することにする。ということで、今回の紹介はこの辺で終わりだ。
解説をノーカットで聞きたい方はぜひ動画を視聴してみてください。
『4週間で405時間労働 過労で居眠りをしてしまい、バスが激突。高速バスの闇が浮き彫りになった『吹田スキーバス激突』【2007年】』
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