なぜ『サケ』は産卵後に死んでしまうのか? その理由はまさに『究極の自己犠牲』そして環境にも影響を与えていた
今回ご紹介するのはジオチャン(生物解説)さんがニコニコ動画に投稿した『サケが産卵後に死ぬ進化を遂げた理由がこちら【解説】』です。
地域によってはサケの放流活動もあり日本人にとって身近にいる魚の代表格であるサケ。
産卵後に死んでしまうことも当然有名ですが、なぜ死んでしまうのか。この点について知っている人は少ないのではないでしょうか。
■日本にいるサケの生態について
ジオちゃん:
サケは一生に一度しか産卵しないことで知られています。
ではなぜサケは産卵後に死んでしまうのでしょうか。
そこで今回はサケが産卵後に死ぬ進化を遂げた理由について解説していきたいと思います。
日本では一般に酒といえばシロザケをさしますが、ベニザケ、ギンザケ、カラフトマスなど、他のサケ類も『サケ』と総称することがあります。
シロザケの生息域はベーリング海、オホーツク海、日本海を含む北太平洋と北極海の一部です。
日本国内でサケが遡上する川として有名なのは、北海道の石狩川や豊平川などですが、事業の放流が行われず自然産卵のみのサイクルが維持されている河川も北陸、近畿、山陰地方にいくつか存在します。
ジオちゃん:
日本人にとってサケは卵を産むと死んでしまうというイメージが強いですが、サケの仲間が全部同じように死んでしまうわけではありません。
世界にサケ科の魚は223種いると言われ、その中で一度成熟すると死んでしまう種に、サケ属に含まれるシロザケ、カラフトマス ベニザケ、ギンザケ、マスノスケおよび降海型のサクラマスの6種があります。
一方 同じサケ属ですが、降海型のニジマスは産卵後も生き残り海に戻った後再び河川へ産卵遡上をします。
ジオちゃん:
タイセイヨウサケのほとんども産卵後に死にますが、約5から10%が海に戻り、回復して 次のシーズンに再び産卵します。
その他多くのサケ科の魚は産卵後に死ぬことはありません。
ジオちゃん:
これらの産卵行動の違いは、それぞれの生息地の環境条件に対する進化的適用をした結果です。
あらゆる種類の生物は最初の繁殖まで生き残るのにどれだけのエネルギーを費やすか、そして繰り返し繁殖するために生き残るのにどれだけのエネルギーを費やすか、というバランスの問題を解決するために進化してきた、とアメリカ海洋大気庁の水産生態学部門のディレクターであるスティーブリンドリーは述べています。
ジオちゃん:
多くのサケ科の魚は通常、比較的環境条件が安定した川で産卵します。
これらの川は流れが遅く酸素レベルが高く、水温が低いことが多いため、寿命が長く伸び 複数回の産卵が可能です。
これにより生涯でより多くの子孫を残すことができます。
一方、先ほどあげたサケ属の6種は通常、強い流れ、低い酸素レベル、高温などの厳しい条件の川で産卵します。
ジオちゃん:
この川の流れに逆らいサケが産卵場所まで遡上するのは簡単なことではなく非常にエネルギーを消耗します。
彼らは急流やその他の障害物と戦うために高い遊泳力と跳躍力が必要です。
アイダホ州中央部のマスノスケとベニザケは産卵するために1400kmを移動し、2100mの高低差を登る必要があります。
彼らは3.65mの高さまで垂直にジャンプしたことが記録されています。
そのためこれらのサケは1回の産卵で子孫を残すことに全エネルギーをつぎ込むという戦略を選びました。
ジオちゃん:
10月から12月頃、上流で生まれたシロザケの稚魚は3月から4月頃になると群れで移動し降海します。
そして北海道沿岸を離れ、夏から秋には千島列島のごく沿岸かオホーツク海の水域を生活域とし、水温が5度程度になると、北西太平洋の限られた水域に移動し越冬をします。
越冬後はアリューシャン列島からベーリング海中部を餌場として表層から100m程度の水深まで分布し、秋には体長37cm程度まで成長します。
水温が低下する冬季はアラスカ湾を主な生活の場としながら、夏はオホーツク海から北部太平洋を回遊する生活を成熟まで繰り返します。
ジオちゃん:
この間、稚魚期には主にカイアシ類、オキアミ類、成長するとホッケ類、イワシ類、他のサケ科魚類の稚魚などを餌とします。
こうして1から6年という多くの時間を海洋で過ごし、その間完全に成長して遡上をするためのエネルギーを蓄積し、最高のコンディションを整えていきます。
サケが健康を維持するために餌を食べ消化器などの内臓を動かす活動の多くは産卵の機会を得る前に死ぬリスクを高めてしまいます。
また上流の淡水域には通常、成魚のサケの餌となる十分な餌はありません。
そのため上流に向かう途中、サケは摂食活動を最低限に抑えるとともに、内蔵の機能を低下させます。
これは『免疫抑制』と呼ばれています。
ジオちゃん:
このように彼らは産卵場にたどり着くためだけに エネルギーを使うようになるのです。
それでも 川を遡る途中で多くのサケが死んでしまいます。
クマ、ハクトウワシ、カワウソなどがサケが遡上する間、待ち伏せし捕食します。
ジオちゃん:
さらに産卵場に無事到着したものの、産卵せずに死んでしまう魚も多くあります。
この産卵前の死亡率は驚くほど変動が大きく、ある研究では3%から90%の間で死亡率が観察されています。
これは、高温や河川流量の増加、寄生虫や病気などが原因だと言われています。
サケの身体的な状態は淡水にいる時間が長くなるほど悪化していきます。
そして産卵場に着くと残りのエネルギーを産卵に使い果たします。
こうして産卵が終わるとほとんどの先がすぐに死んでしまうのです。
ジオちゃん:
その中にはまだ生きているものもありますが、すでに腐敗が始まっており、こうした劣化したサケは俗に「ゾンビ魚」と呼ばれることもあります。
ゾンビ魚は数週間生き延びるものもありますが、ほとんどが産卵後数日以内に死んでしまいます。また、免疫が抑制されているため病気にもかかりやすくなります。
ジオちゃん:
多くの生物は一生の間に多数回繁殖しますが、長寿命にもかかわらず生涯に一度だけ繁殖を行い、死んでいく種を『一回繁殖型生物』と言います。
サケはこの一回繁殖型生物の典型的な例です。
サケのような『一回繁殖型生物』は自身の将来の命を犠牲にして利用可能なすべての資源を繁殖の最大化につぎ込みます。
昆虫では一般的な戦略ですが、脊椎動物ではあまり一般的ではありません。
6種のサケ属のほぼ100%、タイセイヨウサケでは約90から95%と産卵後の死亡率が極めて高い 一方、卵の数が増加するとともにサイズが大きくなり生存率が高まります。
そのためサケの産卵の旅は究極の自己犠牲と言えます。
ジオちゃん:
また、それだけではなく 産卵後のサケの死は重要な生態学的影響ももたらします。
窒素、硫黄、炭素、リン、を豊富に含む重要な栄養素が海から川に隣接する湿地などにもたらされ、内陸の水生生態系の栄養となるからです。
これは次世代のサケだけでなく、サケが到達する河畔地域に生息する全ての野生生物種に 連鎖反応を引き起こします。
そして栄養素は下流の河口にまで流れ込み、そこに蓄積され、無脊椎動物や河口で繁殖する水鳥にとって大きな支えとなります。
日本人にとって身近な魚『サケ』はなぜ産卵後に死んでしまうかについて紹介しました。
元の動画では『ゾンビ魚』となったサケが北海道でどのように呼ばれているか、『一回繁殖型生物』が他にはどのように呼ばれ、なぜそのように呼ばれているかについての解説もされています。
解説をノーカットで聞きたいという方は、この機会にぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
▼動画はこちらから視聴できます▼
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