「ガチ土下座」「1ヶ月間、睡眠時間が1~2時間」過酷なアニメ制作現場の体験談と、それでも業界で働き続ける理由が熱すぎる
制作経験者なら避けては通れない!? 眠気との戦い
天津 向:
これは大変だったなというエピソードはありますか?
渡邊:
これは制作経験者なら絶対あると思うんですけど、眠気ですね。眠気との戦い、時間との戦いなので、寝る間を削ってやる瞬間もあったりするんですよね。
最近は車の運転とかを外注さんに頼むことが多いのですが、自分が入った10年くらい前、眠い中、3車線ある青梅街道の一番左の車線を走ってたんですよ。本当に一瞬フッと気づいたら、自分の周りが朝の渋滞だったはずなのに、自分の周りに車が全然いなくて。
藤田:
え?
渡邊:
1台分くらい開いてるんですよね。そしたら一番左の車線を走っていたはずなのに、一番右側のを反対車線ギリギリのところを走ってた瞬間がありましたね。
一同:
……。
天津 向:
全員が「あるある」って(笑)。
藤田:
「ああ~」みたいな顔をされたのが(笑)。
渡邊:
最近は本当に各社業界全体でそういうことを減らしてるので、自分が業界に入った時期的にはそういうこともありました。
藤田:
そんな感じだったんですね。
天津 向:
やっぱり、大塚さんも睡眠に関するエピソードがありますか。
大塚:
そうですね、自分も劇場作品とかを回していてた時に、どうしても追い込みの時期は1日1~2時間くらいしか、睡眠時間が取れないという時期が、1~2ヶ月くらい続くっていう。車で危ないと思ったこともよくあるんですけど、そういう生活をずっと続けていると、だんだん長い時間寝られなくなってくるんです。
天津 向:
ショートスリーパーというヤツですね。
大塚:
ずっとそういう緊張が続いて、たまたま4時間くらい寝られるっていうタイミングがあって、フッとこう寝てみたんですけど、結局いつもの通り1時間で、勝手に目が覚めて。
鈴木:
身体が覚えちゃうんですね。
大塚:
そう、起きたらものすごい汗をかいていて、身体がすごく冷えてたっていう。
藤田:
怖いよ。
大塚:
そういう時は本当に睡眠を取らないと、死に直結するんだなというのを、わりと実感した時でした。
藤田:
ホントですよ!
一同:
(笑)
天津 向:
でもそうですよね、本当に通常1時間で起きなきゃの汗ですもんね。
大塚:
たぶんそうだと思います。
天津 向:
藤堂さんも大変だったエピソードはありますか。
藤堂:
同じことになってしまうんですけど、劇場作品に携わらせていただいた時に不眠不休で。ちょっと合間を縫って睡眠を取って、起きたらすぐ運転して、モノを回収に行かなきゃっていうふうになってくるんですよ。VTR編集の最終オフライン編集という、最後の納品形態を作るところになるんですけども、そこを完走しきったら、もう記憶がなかったです。
「終わった~!」と同時に、その時一緒に携わっていた先輩とソファーにそのまま寝込んで起きたら翌日。もう一気に緊張の糸が切れたじゃないですけど。ようやく、家に帰ってお風呂でシャワー浴びようとしたんですけど、僕どこから身体洗ってたっけ? ってなったんですよ。自分の身体の洗い方を忘れてしまって。
藤田:
(笑)
荻野:
あるある。
一同:
(笑)
「熱意があれば飛び込んで来て」アニメ制作業界志望者へメッセージ
天津 向:
でも、ここまでの状態でずっと追い込まれながらも、この業界に居続けるっていうのは、その分光が強いんだと思うんですよ。業界の素晴らしさや、今業界に入りたいという方々のために一言メッセージを、1人ずついただいてもよろしいですか。ではちょっと大塚さんからお願いしていいですか。
大塚:
自分が頑張れるというのは、まず大きくそのやっぱりアニメーションが好きというところが強くて、いい原画とか、いい現場が映像になる瞬間というのが、すごく楽しい、ワクワクするというのもありますし、見にきてくれてるお客さんの反応が、最近だとネットに書き込まれて、こういうところを見てくださってるとか、楽しんでもらってるとか。
今でいうとアニメの舞台になった地元の方々とかが楽しんでくださっているのがすごい励みになるというところと、やっぱり自分が頼んだクリエイターさん達が頑張ってくれているのに、自分が折れるわけにはいかないという両方ですかね。
だからすごくそういう意味では皆で作っているという感覚が強い映像の現場だと思うので、そういうところは他ではない楽しみになるんじゃないかなと思ってます。だから辛い話をしてきましたけれど、10年以上続けられているのは、そういうのが理由なんじゃないかなと思います。
天津 向:
ありがとうございます。渡邊さんお願いします。
渡邊:
いろいろ闇な部分ばっかりだったんですけども、本当にこんなにやってて楽しいなって思える仕事も、なかなか他の仕事でもあるのかもしれないですけど、自分は実写ではなくてアニメ業界に来て本当に良かったなと。
あとはやっぱりチームですね。周りの人と一緒に作ってて楽しい。アニメを見てて楽しいというよりは、やっぱり作ってて楽しいという気持ちがすごい大きくなってくるので、そうすると長いこと続くのかなと思います。
もうとにかく業界全体で、会社単位で、どんどんもっと若い人に来ていただいて、もっともっといい作品をどんどん世に出していきたいと思っておりますので、もし業界に入りたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度飛び込んでみて欲しいなと思っております。
天津 向:
ぜひよろしくお願いします。渡邊さんありがとうございました。藤堂さん。
藤堂:
同じく、ホントに現場にかかわっていくと、モノづくりっていうのを身にしみて感じられるような、環境になっておりまして、我々制作一同もそうですし、スタッフさん、モノを作っていってそれを見ていただいてるお客様に反応していただくというところで、もうその感覚を覚えてしまうと、本当やめられないというか、やみつきになるような業界ではございます。
いろいろ苦労することもあると思うんですが、信念さえあれば皆さんでいいものを作っていけると信じておりますので、ぜひ興味をお持ちの方は、この業界を目指していただければなと思っております。
天津 向:
ありがとうございます。最後に荻野さん、お願いしてよろしいでしょうか。
荻野:
自分も元々映画とかアニメが好きで入ってきた身で、アニメ業界の話が外に出てくると、やっぱり大変な部分というのがまず表に出てきてしまうんですけれども。
さっき仰っていたように、その闇の部分がある一方で光の部分というのもあって、いろんなスタッフの方がいろんな思いで描いている画を、例えば我々のような制作の者でしたら、有名なアニメーターさんが描いた画を一番最初にもらって、一番最初に1人で見られるというような、特権があるわけですよね。
天津 向:
確かにね。
荻野:
それが嬉しくて、ここ10年くらい続けてきたみたいなところも一部あったりもしますので、熱意があれば飛び込んで来ていただいて、全然OKな業界だと思います。
学生の方とかで、この業界を目指されている方とかがもしいらっしゃるとすれば、普通の学生さんだと何か集団で何かを作るっていうのはあんまりないような気がしていますので、それに一番近いことが出来るのって、たぶんバイトだと思うんですよね。
バイトで同じ仕事に就いて、チームで何かを成し遂げる。たぶんそのアニメ業界に入って集団で1つの作品を作り上げるというのと、どこか通じるところがあるのかなというふうに感じています。僕は学生の時にバイトができなくてちょっと後悔してるので、バイトがお薦めですということをちょっとお伝えさせていただければなと思います。
天津 向:
なるほど、ありがとうございます。皆さん一貫して言われてるのは、光があるから影が濃いんじゃなくて、影が濃い分その分、すごく眩しい光があるという話だと僕は思うんです。
ブラックじゃなく、本当にそんなの言い出したら、たぶん全部そうだし、でも本当にそれを乗り越えるくらいの好きな熱量を、携わりたいという熱量がある方々が、ここからの未来、アニメを作っていくんじゃないかなと僕は思います。
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