「ガチ土下座」「1ヶ月間、睡眠時間が1~2時間」過酷なアニメ制作現場の体験談と、それでも業界で働き続ける理由が熱すぎる
日本のアニメは海外でも大きな人気を誇り、政府も“クールジャパン”としてアニメをはじめとした日本のコンテンツ産業を推進しています。しかし、その一方でアニメ制作現場の過酷な労働環境が話題になることもしばしば。
3月22日~25日に東京ビッグサイトで行われたアニメイベント「AnimeJapan 2018」の「アニメと制作 真剣しゃべり場」と題したイベントステージにおいて、お笑い芸人の天津 向さん、声優の藤田茜さん、鈴木崚汰さんの進行でトークセッションが行われました。
株式会社サンライズのアシスタントプロデューサーの大塚大さん、日本アニメーション株式会社制作部の渡邊龍之介さん、株式会社トムス・エンタテインメント制作デスクの藤堂真孝さん、株式会社プロダクション・アイジー設定制作の荻野宏之さんがゲストスピーカーとして登場し、職業に就いたきっかけ、印象に残っている苦労話などを明かし、さらにアニメ制作業界を目指す方に向けたメッセージを送りました。
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業界を目指したきっかけ
天津 向:
いつ頃からこの職種を目指されたかというのをお聞きしたいんですけれども、渡邊さん、お聞きしてもよろしいでしょうか。
渡邊:
自分は高校卒業してからすぐに実写映画の学校に通いました。3年で卒業しまして、実写の現場に行ったんですね。
21歳だったんですけども、そこそこ大きい現場に入れたんですよ。これはもうラッキーだなと思ってたんですけども、なんと月の給料が8万円だったんです。
天津 向:
どれくらい働いて8万円ですか。
渡邊:
もう月フルで働いて、土日は基本的に休みだったんですけども、忙しい時は出てましたね。
ご飯はお弁当が出ていたのでそこは良かったんですけども、でも月8万で暮らしていくには……というところで、ある日、2日徹夜したことがありまして。美術を担当していたんですけども、雨が降ってきまして、その中で寝たということがあったんですね。
天津 向:
雨の中で寝た?
渡邊:
外のロケ地で、家を建ててたもんで。それで水たまりに顔を浸して寝てしまって目覚めた時に「もうやめよう」と思いました。
天津 向:
衰弱死するヤツですよ(笑)。そんな状態あります? 雨の中寝るなんて。
渡邊:
はい、もう限界だったんですね。ただ映像は好きだったので、映像の仕事をやっていきたいなと思ってまして、それで日本にはアニメがあるぞと。アニメならおそらく屋根がついてて、空調はあるだろうと(笑)。
天津 向:
そうか確かに(笑)。
渡邊:
外で絵は描いてないだろうと思いまして。それでアニメ業界に足を踏み入れたということですね。
天津 向:
そんな過酷な状態からの(笑)。
渡邊:
なので実際、アニメ業界は結構ブラックって思われている方多いと思うんですけども、僕にとっては天国です(笑)。実写が悪いわけではないんですけども。
天津 向:
そうですよね。実写は実写でそういう下積みをしてからのものですからね。
渡邊:
そうです。もちろん現場によってお金も違うでしょうし、キャリアによって全然違うので、実写は楽しかったんですけども、アニメは屋根がついていたということですね。
藤田:
そうですね(笑)。
天津 向:
もう現時点でちょっとビックリです(笑)。
「バス停で土下座」「半泣きで1時間謝罪」……これまでで一番印象に残っていること
天津 向:
「これまでのお仕事で一番印象に残っているものは何ですか」という質問で、渡邊さんのタイトルが、「はじめての土下座」って書いてあるんですけど。
一同:
(笑)
鈴木:
そんな「はじめてのおつかい」みたいな(笑)。
天津 向:
渡邊さん、お聞きしていいですか。
渡邊:
はい、今までで一番印象に残ってしまっている出来事なんですけども、最初の会社に入ってはじめて、TVシリーズというのを経験したんですね。それまではアニメの部分的な仕事ばっかりだったので、大体半年とか1年経たないくらいだったと思うんですけども、1話分持ったんですよ。
ちょっといろいろありまして、オープニングをやらなくちゃいけないと。オープニングを担当するのって、大体制作デスクさんだったり、他の方が多いんですけど、入って1年半目くらいの進行にやらせるものではそんなにないと思うんですね。
実はそこから1ヶ月、家に帰れなくなっちゃいまして。車と会社にずっと寝泊まりしている中、もうすぐ終わるという時に、もう最高にヘマをやらかしてしまいまして。
天津 向:
ヘマ?
渡邊:
はい、細かいことは言えないんですけど、原画さんを怒らせてしまったんです。もう最後の最後、自分のミスとちょっと引き継ぎが出来てなかったという部分があるんですけど。
もう今日、頑張らないと間に合わないというタイミングで、原画さんを怒らせてしまいまして。その人のところに、バーっと行って。朝の7時8時だったと思うんですけど、青梅街道沿いにバス停があって、サラリーマンとかすごい並んでいるところで、人生はじめての土下座をしました。
天津 向:
いや、どこでやってんねん(笑)。
鈴木:
そんな公衆の。
渡邊:
そうなんです。「すみません、やっていただけますか」ということで、そしたらもう、「わかった、わかった」と理解していただけたんですよ。そこからはもう土下座は効くぞと(笑)。
一同:
(笑)
鈴木:
味をしめちゃったじゃないですか(笑)。
渡邊:
そのタイトルが終わって、その後自分は制作デスクとかもいろいろやらせていただくんですけれども、進行さんが「渡邊さんすみません、演出が怒ってしまいました。どうしますか」と来るんですよね。
「じゃあわかった。よくわかんないけど行ってくるわ」と言って、その人のところに行って、その人が振り返る前に、膝からこう……。
天津 向:
いや、土下座のイロハを知りませんわ(笑)。振り向く前にスッと入るんですか? 流れるように。
渡邊:
はい。というのも1つの手というか。そういう意味で印象に残っております。自分のスタイルを確立させた事件であります(笑)。
天津 向:
土下座スタイル。こんな過酷な現場(笑)。
渡邊:
でもおそらくなんですけど、皆さん一度は経験があるんじゃないかと。
天津 向:
ちょっと聞いてみましょう。大塚さん、土下座というか、謝罪の経験はありますか?
大塚:
そうですね、自分はキャラクターデザイナーさんを一度、総作画監督をやられている方なんですけど、怒らせてしまったことがあって。
もう総作画監督さんを通してチェックしてもらわないとものが先に進まないという状況になるんで、土下座じゃないですけど、半分泣きながら、1時間くらいずっと謝り続けるっていう。それくらいは経験がありますね。
天津 向:
そんなにしっかり謝るんですね。どうですか藤堂さんは。
藤堂:
やはりちょっとしたミスが結構重なったりして、そういうキャラクターデザインの方だったり、メインのスタッフさんを怒らせてしまったということはやっぱりありますね。
本当にいろんなセクションの方達と、毎日お話する仕事なんですけど、うっかり忘れてしまったりする時がありまして。
天津 向:
さっきから聞くと、やっぱりちょっとしたミスなんですよね。一発が大きいんじゃなくて、積み重ねで爆発する瞬間があるということなんですよね。
藤堂:
ミスが同じ方に被ったりすると、「何回やってるんだ!」っていうので、すごく怒られるっていうことはあります。
天津 向:
荻野さんはどうですか?
荻野:
私も謝罪は一度や二度ではないんですけれども、土下座はまだ経験がないです(笑)。ミスをしてしまっての謝罪もありますけれども、頼み込まなきゃいけない感じの謝罪というのも結構あったりしまして。
天津 向:
そうか、ミスと言うか……。
荻野:
私も、渡邊さんと同じように、とある作品でオープニングを作っていた時に、アニメを作っていく上で、作画もそうなんですけど、色をつけていくじゃないですか。色をつけるためには、当然、色を考える人っていうのがいるんですね。
藤田:
色彩設計さん。
荻野:
オープニングって決まったシーンが続いていくわけじゃなくて、オープニングだけのカラーで作られてたりする作品も多かったりするので、1カット1カット個別に色を作っていくんですよ。ある作品で、作画は進んでいるのに、色を作っていくのがものすごく難しくて、その色が全然決まらないということがあって。
だけどもう今日その色を作ってもらわなきゃいけないという時に、その色決めのスタッフの方に、無茶な要求なのはわかっているんですけど、「今日何とか色作ってくれ」というようなお願いをして、謝罪のようなお願いをしているうちに、無茶なのはわかってるくせに、何で俺はこんなこと言ってるんだという気持ちになってきちゃって。
言いながらだんだん半泣きになってきちゃったんですよね。俺だったら絶対無茶なのに、何で俺こんなことを言ってるんだろう? みたいな。
天津 向:
俺だったら絶対にこれ出来ないのに、何で俺はこれ頼んでるんだろう?という。
荻野:
自分で意識してないんですけど涙が出てきた時に、その色のスタッフの方が、「わかった、わかった」みたいなふうに言ってくれたので、これは効くなと(笑)。
藤田:
感情が。
鈴木:
感情ですね。
天津 向:
これまた味をしめて(笑)。涙と土下座は味しめるのはやめてもらっていいですか(笑)。
鈴木:
奥の手ですからね、本来は(笑)。