オタク芸人でラノベ作家の天津向に聞く、大変でも仕事をしながら同人活動を続けるワケ。一人のサークル参加者として語るコミケとは?
「コミックマーケット94」がスタート。前回の来場者数55万人、参加するサークルは3万2000を数えるが、コミケにやってくる人々の殆どは、普段はサラリーマンやOL、アルバイトなど仕事をしながら同人活動に勤しんでいる。一般参加者であれば、お盆と年末にイベントに参加する言い訳をひねり出し、サークル参加者は夏休み前と年末の忙しい時期にいかにして原稿に向かい合う時間を作り出し、産みの苦しみと修羅場の果てに新刊を出せるかどうかの戦いがある。
お笑い芸人の天津・向清太朗氏。アニメ・漫画好きのオタク芸人として知られ、最近ではアニメ・声優イベントでの司会業なども多く務め、ラノベ作家という一面も持つ。そんな向氏だが、コミケには4コマ漫画同人誌でサークル参加をしている。芸人としての活動で忙しい中でコミケにサークル参加する向氏は、実は仕事を持つ普通の参加者たちに一番近い目線でコミケを語ることができるのではないだろうか?
なかなかメディアでは語られることのないコミケ参加者の実情。猛暑の中で一般の行列に並び、たくさんの島サークルを回り足を使って目当ての同人を探し出す。サークル当落に一喜一憂し、本を手にとったお客さんからの「ください」の一言という喜び。今回、コミケで経験した数々のエピソードを通して、一人のコミケ参加者として向氏の様子を明らかにしたい。
取材・文:サイトウタカシ
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初めての同人誌即売会は地元広島の公民館の会議室
──向さんが初めてコミケの存在を知ったのはいつになりますか?
天津・向清太朗(以下、向):
いつだったかなぁ……とんでもなく熱い3日間、夏コミ・冬コミぐらいはずっと聞いて知っていたんです。でも、ハッキリ意識したのは『げんしけん』くらいですね。知っていたんですけど、具体的に『げんしけん』の感じで、「作家さんが修羅場」だとか……情報としては細々と入ってきていました。
遠いものというか、憧れだけども、当時は自分が同人やるなんて当時は思っていませんでした。
──コミケは知っていたけども実際に行くまでは結構、間がありましたか?
向:
当時は大阪に居て、同人自体が無茶苦茶好きだったかといえば、そんなでもなく。みんなが行くお祭りなんだという認識で、いつかどこかのタイミングで行けたらと思っていたくらいでした。
でも、関西の同人イベントとかは行ったことありますよ。高校の時も地元でやっている同人イベントにも行きました。広島の田舎の同人イベントですし、公民館の会議室とかでサークルスペース自体も15くらいしかないような所で、コスプレイヤーの方も居て写真も撮っていたり、すごく小ぢんまりとしてて、同人イベントってこんな感じなんだなと思いながら行ったのを覚えています。
大阪に出てきて、大阪の「こみっくトレジャー」のような大きな同人イベントに行って、ああでかいなーと思ったり。そんなに夢中になるかといえば、参加というよりも買いに行ったりしているという感じで、芸人になってからも普通に行って欲しい同人とかもありました。自分の中での同人イベントって何なのか? というのがフワフワしたままで、東京に出てきたのが10年前なんです。
──東京に出てこられて、コミケに初めて行かれたんでしょうか?
向:
東京に出てきたんだったらと、一回コミケに行って「あ、凄いな」と思って、これならサークル側で参加する方が面白いんじゃないかと思ったんです。
──じゃあ、その時に行ったコミケで申込用紙も買って。
向:
まだネット申込じゃなくて、全部手書きで書いて送って。その時はワクワク感が勝って参加したんですけど、とりあえず「参加したんですよ」という、まだサークル参加の本当の楽しさを知っていない状態でした。
特殊な嗜好でも、コミケなら共有できる
──向さんはあまり同人誌を買い漁るというような感じではないんですか?
向:
行って買っているんですけど……でも、ジャンルが特殊ですし、まあ、その……。
──特殊というと?
向:
どっちかというと、オリジナルの18禁で。凄いぽっちゃりしたところのサークルばっかり買って、その……とかもありながらですよ!
──でも、そういったところに手が届くのがコミケですからね。
向:
そうなんですよね。僕、よく思うんですけど、本当にその嗜好というか、「僕だけかもしれない……」というところを共有できるじゃないですか、コミケの良さって。こんなにサークルがあって、こんなに細かいジャンルもある。
──その場では、堂々と存在できるわけですよね。
向:
というのがあって、すごく楽しいと思った結果、サークル参加したいと思ったんです。
──では、同人誌を買う側としては滅茶苦茶行列に並んでとかでは……。
向:
では、ないですね。どうしてもニッチなところではありますし、大手とか、壁サー、シャッター前【※】みたいなところを回って買うということはほぼないですね。
4コマ漫画好きなので、後で壁の4コマ作家さんの同人誌を買ったりはします。
※壁サー、シャッター前
コミケのサークル配置位置を表す言葉。会場の壁側には人気サークルが集まり、壁、壁サーと呼ばれる。その壁サークルの中でも会場外側に長蛇の行列を作ることができるシャッター前が最大手である。
──じゃあ、サークルチケットの特権を行使してというようなことも……
向:
ないです、ないです。僕の場合、超同人ファンという感じで入ったわけではないんです。
初参加後、3回連続落ち続けた申し込み「何か俺したんだ……」
──初めてのサークル参加の申し込みは当選しましたか?
向:
当選しました。でも、僕が何か知らないうちにミスをしていたのかもしれませんが、そこから三回連続で落ちました。
(画像は天津向公式ウェブサイトより)
──やはり初参加は当たりやすい。
向:
なんか都市伝説もあるじゃないですか。初は当たりやすいとか、3回連続落ちたら4回目は当たりやすいとか。
だから、僕が3回連続落ちた時に「ヤバイ、1回目に何か俺したんだ……」と思ったんですよ。運営の方々が芸人ということを知っているとも限らないし、ちゃんと同人誌に向き合わずになんとなくノリで参加しているのもバレてしまっているのかな? みたいな。
3回連続して落ちたその時に、失くして気付くじゃないですけど、「参加したいぞ俺!」って。
その時にちゃんとコミケの基礎知識も踏まえた上で、申し込みも細かいところまで気をつけるようにして、アンケートにもキッチリ答えるようにして。
──そこも当落に本当に関係あるのかどうなのか? というところだったりしますね。
向:
わからないですけどね。そこから参加するための努力は惜しまないようにしないと思いました。当然、完全抽選でもありますし。だからこそミスの無いようにして、天のみぞ知るという状態にしておきたいなと思ったのは、3回落ちたからですね。
──それからは割と当たり続けているんですか?
向:
と思ったぐらいの時に、やっぱり1回落ちたりするんですよ。やっぱり見られてるな……。結局、僕が驕ってしまった瞬間に次落ちるんだと。だからちゃんとしようと思いました。両隣のサークルさんにはちゃんと挨拶して、同人誌も交換して、ハサミがなくて困ってらしたら貸してあげたり、逆に困っていたものを貸してもらったり、そういうことを知れば知るほど楽しくなってくる部分もあるんです。