『Fate』アーチャーが操る雌雄一対の双剣“干将・莫耶”ってどんな武器なの? 名剣に隠された古代中国から伝わるふたつの悲劇の伝説とは
「Fate」シリーズに登場するサーヴァント・アーチャーの武器として登場する名剣「干将(かんしょう)・莫耶(ばくや)」をご存知でしょうか?
今回紹介する、れぎゅらーさんがニコニコ動画に投稿した『【ファンタジー武器をゆっくり解説】第五回 干将・莫耶』という動画では、音声読み上げソフトを使用して、同人ゲーム『東方Project』のパチュリー・ノーレッジとレミリア・スカーレット、フランドール・スカーレットの三人のキャラクターが、ファンタジー作品に登場する、二本で一対の剣「干将・莫耶」の歴史について解説を行っています。
名剣「干将・莫耶」は二本で一対の剣
パチュリー:
干将・莫耶は中国に伝わる2本の名剣よ。名前の由来は製作者夫婦の名前だとされているわ。夫である干将を陽剣、妻である莫耶を陰剣としているの。
陰陽とはこの世のありとあらゆる物は、陰と陽の二つに分ける事が出来るという中国の思想ね。
この考えでは女性は陰、男性は陽と定められているわ。他にも植物は陰、動物は陽、秋と冬は陰、春と夏は陽、偶数は陰、奇数は陽、左は陰、右は陽などなどね。
フランドール:
うへぇ複雑……。パチュリー:
まあ陰陽説は主題から外れるから置いておくわ。とにかく、干渉と莫耶は陰陽で一対の剣ということよ。
「干将・莫耶」という名前はこの剣を製作した夫婦の名前からきており、女性は陰、男性は陽という中国の思想から干将・莫耶は陰陽で一対の剣ということが分かりました。視聴者からは「勘違いしやすいのがキリスト教の善悪の様に対立関係ではなく互いに補完し合う関係で表裏一体」「2つに分けても陽には陰を含み陰には陽を含む、実際のところ気一元論であって陰と陽の二元ではない」といったコメントが寄せられました。
製作経緯と過程が書かれている『呉越春秋』
パチュリー:
干将・莫耶のエピソードは主に三つの書物の中に記載されているわ。
最初に取り上げるのは1世紀後半から2世紀前半頃に執筆されたとされる『呉越春秋』という本よ。この本は執筆当時よりさらに500年ほど前、中国春秋時代に興った、呉と越という国の興亡に関する歴史書ね。
フランドール:
という事は今から2400年近く昔の出来事なんだね。レミリア:
アーサー王よりも古い歴史があるのね。パチュリー:
『呉越春秋』の中では、主にその製作経緯と過程が語られているわ。
鍛冶職人であった干将は当時の呉の王であった闔閭(こうりょ)から「二振りの剣を鋳造せよ」との命を受けるわ。干将は最高の材料を揃え、最高の条件のもと制作に取り掛かるわ。しかし中々鉄が溶けず、依頼されてから3ヶ月が経過してしまうの。
フランドール:
随分のんびり屋さんだね。
パチュリー:
困った夫婦は自らの師が同じ状況になったとき、炉に身投げをして炉の温度を上げ鉄を溶かしたことを思い出すわ。レミリア:
ええええええ!?
パチュリー:
材料と思われる鋼の融点はおおよそ1,100℃、炉の温度が上がらなかったとはいえ、1,000℃近い温度が出ていたはずよ。そんなところに身を投げれば、どうなるかは想像に難くないわね。とにかく進退窮まった夫婦、しかし身投げは流石に躊躇したわ。そこで妻である莫耶は自らの爪と髪を炉に投げ入れる事にしたの。更に夫婦は子供を300人ほどかき集めてふいごを吹かせたの。すると炉の温度は上がり、何とか鉄を溶かせるまでに至ったわ。
レミリア:
300人とはまた大きく出たわね……。
パチュリー:
なんやかんやあったけど、こうして二振りの剣が完成したわ。夫妻は剣に自らの名と同じ銘をつけたのだけど、そのうち干将は隠し、莫耶だけを闔閭に献上したの。ある日、魯という国の使者が闔閭のもとを訪ねたとき、闔閭は献上された莫耶を使者に見せたの。使者が鞘から莫耶を抜くと、莫耶には刃こぼれがあったの。それを見て使者は呉の国の滅亡を予測した、というのが『呉越春秋』におけるエピソードね。
レミリア:
なんというか……言っちゃ悪いけど話としては案外地味ね……。フランドール:
そういえば『呉越春秋』は歴史書って言ってたよね? という事はこの話は実際に有ったって事?パチュリー:
確かに史実と符合する部分も多いのだけど、史実とは思えない不思議な話や占いに関する記述なども多く見受けられる為、歴史書としての価値は同時期に執筆したとされる越絶書の方が高いのよ。なので干将・莫耶におけるエピソードが実際に有ったという証拠にはならないわね。
中々溶けない鉄に自らの師が炉の温度を上げるために身投げしたことを思い出したが、流石に躊躇し爪と髪を投げ入れました。コメント欄では、「炭素を増やして温度を上げるため」「熱エネルギー発生しないもの入れても燃やすための熱を奪うだけで逆効果にならないか」といった意見も。
「干将・莫耶」の材質はウサギの内臓!?
パチュリー:
次に取り上げるのは『拾遺記』よ。この本は390年ごろに原本が執筆された志怪小説よ。フランドール:
しかいしょーせつ?パチュリー:
今で言うところのミステリー、SF、ホラーをあわせたジャンルといったところかしらね。この本の中にも干将・莫耶が造られた経緯が記されているのだけど、今回はその材質について具体的に述べられているわ。レミリア:
え? 鉄じゃないの?パチュリー:
鉄っぽい素材って感じね。フランドール:
えーなんだろう?
パチュリー:
ウサギの内臓よ。レミリア:
全然鉄じゃねぇ!!
パチュリー:
より正確には剣とか防具とかを食いまくったウサギっぽい生き物の内臓ね。レミリア:
余計に分からんわ!! しかもウサギですらないんかい!!パチュリー:
まあまあ落ち着いて。『拾遺記』にはこのように書かれているわ。
昆吾山というところに、ウサギぐらいの大きさの獣がいたの。その獣のオスは黄金色の、メスは白銀色の美しい毛並みを持っていたわ。
フランドール:
一応もう一回聞くけど、ウサギではないんだよね?パチュリー:
ウサギぐらいの大きさの獣ね。フランドール:
わかった……続けて?
パチュリー:
その獣は金属が大好物だったの。ある時、この獣は呉の国の武器庫に侵入、あらゆる武具を食い尽くしてしまうわ。
呉王は部下に命じて獣を捕え、腹を割いて調べさせたわ。するとその内臓はまるで金属のような光沢と堅さをもっていたそうよ。そしてこの金属で作らせた剣が干将と莫耶というお話よ。つまりこの剣は生ものと言っても過言ではないという事になるわね。
レミリア:
ならんわ!! いや……でも内臓なのか……?
剣や防具を食べたウサギのような獣の内臓が材質だという話に、「昔のこのフリーダム感すき」といったコメントが。