たった4時間で3万のローマ兵を葬った名将ハンニバルの戦略とは? “歴史上最大の待ち伏せ”と言われるトラシメヌスの戦いを解説
今から遡ること約2230年前、中央イタリアにあるトラシメヌス湖畔を3万人のローマ軍が急ぎ行軍していた。彼らの心にあるのは強敵カルタゴ軍を倒して祖国を救済すること。しかし……このローマの軍団は、これから4時間後……、湖畔に立ち込める霧の中で為すすべなく唐突に消滅してしまう。「歴史上最大の待ち伏せ」とも言われる罠にローマ軍は飲み込まれてしまったのです。それを仕掛けたのは、古代西方世界に現れた無敵の名将「雷光」ハンニバル・バルカだった。
今回紹介する、いつかやる社長さんが投稿した『【ゆっくり解説】世界の戦術・奇策・戦い紹介【トラシメヌスの戦い】』という動画では、音声読み上げソフトを使用して、ルビンとレオのふたりのキャラクターが、歴史上最大の待ち伏せとも言われる“トラシメヌス湖畔の戦い”について解説を行っています。
■ハンニバルの策略
ルビン:
じゃあ今回はローマの女達を涙させたトラシメヌス湖畔の戦いを紹介しましょう。
ルビン:
舞台は紀元前219年西地中海。貿易国家カルタゴと共和制ローマは、地中海での覇権と国家の生き残りを賭け、ハンニバル戦争とも呼ばれる第二次ポエニ戦争を開始した。
ルビン:
開戦初期、カルタゴの将軍ハンニバルは、まさかのアルプス越えを行い、北イタリアを奇襲して余裕こいてたローマの度肝を抜かすと、続くトレビアの戦いでは悪魔的かつ周到な包囲作戦をもって完勝。数え切れないローマ兵の血でトレビア川を赤く染め上げます。レオ:
ローマ君ギッタギタにしてぼろ雑巾にしたから、現地のガリア人をいっぱい味方にできたんだよな。それで本題はここからだけど、次にハンちゃんはどう動くんだ?ルビン:
北での戦況を有利にした彼は、首都ローマがある中央イタリアへの進軍を窺うのだけど、そこはもちろん敵も阻止しないわけがありません。
ルビン:
ローマは新たに2人の執政官を任命して、軍を編成すると、中央イタリアへの主要路上にある要衝アレティウムとアリミヌムにそれぞれ3万の軍を配置し、ハンニバルの侵攻ルートを固く封じてしまうのです。レオ:
うーむ、これでハンちゃんは前に進めなくなっちまったのか。
ルビン:
ところがですね、イタリア中の情報を集めていたハンニバルは、ここからアレティウムのローマ軍に対し、戦史上最古といわれる戦略的な迂回機動を実行した。つまり堅固な敵拠点をごり押しで抜くのではなく、スルーしようとしたのです。レオ:
いやいや、スルーしたくても他に道はもうねーんだろ?
ルビン:
これが誰も通らないほど危険なだけであるにはあったのですよ。春の洪水期間中で大湿地帯となり、病原菌うずまくアルノ川沿いをいくルートがね。レオ:
だからよ、それはもうルートじゃねぇ。ルビン:
この魔境の行軍は、カルタゴ軍の予想よりはるかに困難だった。劣悪な地形でろくな睡眠がとれないから兵の疲労がゴリゴリたまり、荷駄動物は泥の中で死に絶え、多くの馬の蹄が腐り、しかも軍には熱病など、あらゆる病が蔓延したのです。ハンニバル自身もその熱病のため、片目の光を失った。レオ:
ボッロボロじゃねーか。ルビン:
しかし、それでも彼の断固たる決意は揺るぎません。そして、その執念は数日後、アレティウムのローマ軍を唖然とさせることとなる。なにせいつのまにかカルタゴ軍が自分らの真横をすり抜け、あざ笑うかのように背後へと進出したのですから。レオ:
おお! これでハンちゃんは有利になったってわけか!
ルビン:
いやいや、これがそうでもないのですよ。たしかに要害アレティウムをスルーして、ローマ軍の思惑を裏切ったけど、この態勢はハンニバルにとって、一歩間違えば破滅を招きかねなかった。なぜならカルタゴ軍も背後に敵を抱えてるわけだから退路がないし、下手したらアリミヌムとアレティウムのローマ軍に挟撃される恐れがあったからです。レオ:
じゃあ、おいそれとローマに攻め込むわけにはいかねぇな。
ルビン:
その通りです。その通りなのですが、ここで重要なのは、ローマ軍にとっては首都を攻められるかもしれないという不安があること。そして、この時ハンニバルが狙っていたのはローマの攻略ではなく、アペニン山脈を挟んで分離している敵軍の各個撃破だったということです。レオ:
それってこの状況なら、かなり簡単じゃね?ルビン:
いや、達成難易度はクッソ高いです。まずアレティウムのローマ軍をどうにかして野外に引きずり出し、アリミヌムから敵援軍が来る前にすばやく壊滅的ダメージを与え、しかもカルタゴ軍は兵を補充できる当てがないから、勝利するにしても損害が極小でなきゃいけません。レオ:
縛りプレイもいいとこだなおい。じゃあまず最初にやらなきゃいけないのは敵を外に出すことだな?
ルビン:
そう、だからハンニバルは敵の心理につけこむ手にでます。近隣の村や町に飢えた兵達を解き放ち略奪と破壊を行わせ、またローマにむかうような素振りをみせつけたのです。アレティウムの敵将フラミニウスも激怒してまんまと出撃。これ以上の狼籍を阻止するべく、ハンニバルを急速に追いかけ始めます。レオ:
こういう場合って、やっぱ追いかけちゃうもんなんだよなぁ。
ルビン:
もちろんフラミニウスのプライドもあったけど、それなりの事情があったのですよ。もしこれ以上ハンニバルをほっとけば、将兵たちの信頼を失って士気が下がるし、またカルタゴ軍のローマ攻撃を許したら本国から糾弾される恐れもある。レオ:
出撃しなくてもリスクだらけだったのね。ルビン:
まぁ、ハンニバルはすべて読んだ上でこの動きをしたわけですけどね。しかもこの誘引によって彼はローマ軍の致命的なあるものをも奪います。レオ:
あるものを?ルビン:
この時、ローマ軍はカルタゴ軍に早く追いつこうとしてたんだけど、速度をあげればあげるほど敵への警戒が犠牲にされてしまったのです。レオ:
いやいや、今は警戒より速度だろ?ルビン:
もちろん追いつくためには速度をあげねばなりません。しかしハンニバルにとって、その警戒の低下こそが、フラミニウスの焦りこそが、かつてない罠にローマ軍を陥れるための最も欲していた布石だったのです。さあ、時は紀元前217年6月21日、3万のローマ軍が霧の中に消えるトラシメヌス湖畔の戦いの幕開けです。
ハンニバルは全てを読んだ上で動き、ローマ軍の敵への警戒心を奪いました。コメント欄では、「敵地ど真ん中でこれほど主導権握れるものなのか」「敵将の心理をよくここまで読めるな」「同じ指揮官だからこそ敵将の心理が分かるんかな」といったコメントが寄せられました。