「AV業界の健全化へ第三者委員会には期待しています」現役AV監督のインタビューにて、業界関係者がその胸中を語る
AVへの出演強要などの問題を受けて、業界の刷新、健全化を推進するため2017年4月に発足された「AV業界改革推進有識者委員会」。大学教授や弁護士といった計4名の業界外部有識者から構成される同委員会は、4月17日に説明会を開いた。
説明会を傍聴したAV監督の二村ヒトシ氏は、AV業界側の視点から「業界がおざなりにしてきたところにメスが入っている。1人の監督の立場から良いことだと思う」と今回の試みに賛同するとともに、説明会後には「AV業界改革推進有識者委員会」の委員や、参加していた業界関係者へインタビューを実施した。
AVANではできなかったことが第三者委員会なら実現できるのでは
二村ヒトシ監督(以下、二村):
川奈まり子さんです。今日はお疲れ様でした。
川奈まり子(以下、川奈):
お疲れ様でした。
二村:
川奈さんからご覧になって、新しくできた第三者委員会のみなさんはいかがでしたか。
川奈:
非常に期待していますし、頼りにしています。私としては、AVAN【※】を立ち上げてAVANがうまく機能していたら第三者委員会は必要なかったんじゃないかと。
※AVAN
一般社団法人表現者ネットワーク。業界内の実演家の人権を含む権利の保全と快適な労働環境の実現を目指し発足した組織。
二村:
僕も薄らそう思っていたんですが、自分から言い出すわけにはいかず……。というか川奈さんの力ではなくて、無理があったんですよね。無理があったところを外部の方に肩代わりしてやっていただくのはすごく重要なことですよね。
川奈:
はい。本当に助かります。AVANでは、プロダクションとそこに登録している女優さんの間で交わす契約書を整備して雛形を作ったんです。各プロダクションさんに見ていただいて、「ぜひ使ってください」とおすすめしていたんですが、(契約書の雛形を)使っていただけなかったんです。これが実施されていたら随分業界は変わっていたと思うんですね。
二村:
そうなっていたら、もう一歩……それよりも早く、業界が変わっていましたよね。
川奈:
去年の8月の時点では契約書を各プロダクションさんにおすすめしていたんですけれども、ダメだったんですよ。何ヶ月かけてもダメでした。さらには、ほぼすべてのAV女優さんにAVANに入っていただきたかったんです。もちろんフリーの男優さんに入っていただきたかったんです。
例えば、女優さんがAVANの宣伝や私をTwitter上で見かけて、「ぜひ、AVANに登録したいです」と、私の方も「歓迎します、入会してください」と入会してもらうじゃないですか。でもあとからのプロダクションさんが怒って女優さんを脱会に来ちゃったりなんてこともありました。
二村:
そういうことがあったんだ。
川奈:
やっぱり、プロダクションさんもいろいろです。例えば、「うちの女優さん、全員に(AVANに)入るように言いました」と言ってくださるプロダクションさんもいました。あるいは名簿を寄こして「(AVANに)全員登録してください。登録作業が済すんだら教えてください」そういうプロダクションさんもありました。AVANが立ち上がってからはまだ1年にならないんですが、この1年間に本当にいろんなことがあって……。
最初、AVANは人権団体的な発想から始まったところもあったので、下位の性質のアナウンスが曖昧だったんです。自由度を高くしようと思って、わざと曖昧にしていたところもあるんです。でも最近は労働組合、ユニオンとしての機能を充実させたいと思っていて、労組としての機能をもっと充実させることと、それを実行に移していくことを始めているところでもあります。これは有料化に伴ってというところでもあるんです。この4月1日からAVANは有料化しまして、会員さんには会費を納めてもらいます。
二村:
僕まだ会費を払ってない、払わなきゃ(笑)。
川奈:
あなた、会員だったじゃない! 年会費2,400円払ってください(笑)。AVANは年会費でも安いんですよ。2,400円なんです。なるべくたくさんの方に入っていただきたいという気持ちで会費を安く抑えています。最近、面白いことが起きまして、会員さんがAVANの存在に慣れてきたと思うんですけど、会員さんからのお悩み相談や陳情が、だんだん上がってくるようになったんです。
二村:
それは本当に重要なことだと僕は思います。
川奈:
私はある会員さんの匿名性を守りながら、IPPA【※】であるとか、某メーカー等に働きかけて、要請や陳情したり……。
※IPPA
特定非営利活動法人知的財産振興協会。業界の200を超えるメーカーの集合体であり、著作権の保護および業界の連携と活性化をするためのNPO法人。
二村:
「こんな苦情が来ているよ」みたいなことですか?
川奈:
そうですね。もっと具体的な感じに伝えます。そして具体的に事態を改善してもらうように、今まさに動いているところです。幸いなことに今回は潜在的に被害者の数が多かったので、問題人物に対して苦情をあげた会員さんを特定できないですね。
二村:
なるほど、素晴らしいことですね。
川奈:
この件は運が良かったんですよ。もし簡単に特定できてしまうような特殊な事例であったり、被害者が1人しかないような場合は、委員会の規則にもあったように、仲裁機関を直ちに立ち上げて欲しいなと思っています。そうじゃないと怖いなと思っています。
二村:
これは非常に重要なことだし、ニコ生のコメントにあったんですけど、女優さんの心のケアとかカウンセリングまでいかなくていいと思うんですけど、ちゃんとサポートできるような体制になれると良いですよね。
川奈:
今日の話では出てこなかったんですけど、委員会の立ち上がりとタイミングをいつにして、大手4社さんの方とか、IPPAさんの方でホットラインを引いて欲しいというお願いとか希望があがっていて、今のところまだそんなに言えないんです。
二村:
なるほど。
川奈:
おそらく実現すると思います。電話のホットラインが引けるということと、あと、うちは心理職の団体と組んでおりますので、実際に心の病、あるいは悩みごとが深くてカウンセリングが必要という人がいたらお繋ぎすることができます。
あとは再就職支援。再就職支援会社と提携して、引退間際の女優さんなどの相談を受けて、例えば無料のビジネスマナー講座や、職種を選ぶにあたってのカウンセリングを無料で受けられるサービスはあります。他にも風評被害対策としてIT法務の弁護士にお繋ぎするということもできるんですけれども、こういうことをもっと充実させていきたいです。
また性感染症の対策。これは本当に深刻で、既に会員さんから悩みが上がってきていて、フリーで安いギャラで活動している方たちが「メーカーが性感染症の検査を義務化したら自己負担が苦しい。生きていけなくなっちゃう。どうにかして欲しい」という内容の相談があがってきていて、これをどこに掛け合ったらいいのかなと思っていたんですが、もしかしたら委員会で性感染症対策ワーキンググループを組んでくれて、業界全体として動いてくれたら、解決が早くて、しかもいろんな人にとってフェアな良い解決法が見つかるかもしれないと思って、委員会には期待しております。
二村:
川奈まり子さんでした、ありがとうございました。