これぞ『へうげもの』の世界! たった14個の国宝指定の陶磁器の歴史が浮き彫りにする”日本の美意識”の移り変わり「美しい…」「味わいがある」
未曽有の動乱で「戦国乱世」と呼ばれた時代に、茶の湯の世界に心奪われた武将・古田織部をご存知でしょうか。天下人・織田信長に仕える一方、茶聖・千利休の後継者と目された人物で、彼を主人公にコミカルに描いた漫画『へうげもの』はアニメ化されるなど人気を誇りました。
今回紹介する、わびすきーさんが投稿した動画『【ゆっくり解説】国宝の陶磁器を紹介 第1回「総覧」』では、音声読み上げソフトを使用して、同人ゲーム『東方Project』の霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)と博麗霊夢(はくれい れいむ)のふたりのキャラクターが、国宝の陶磁器や我々の美感覚の変化を、時系列別に解説していきます。
日本国宝指定の陶磁器は現在14個
魔理沙:
これは日本国宝指定の陶磁器をまとめたものだぜ。ご覧のとおり、14個が指定されている。霊夢:
たったの14個? 案外少ない印象ね。
魔理沙:
国宝の件数は2016年時点で1101件。内訳は上のとおり。工芸品253件のうち、圧倒的に多いのが刀剣。実に110件。刀装も含めれば122件だ。その他、漆器や金工、染織、甲冑、それに梵鐘や仏具なんかも工芸品に含まれる。霊夢:
そう考えると妥当な気もするわね。魔理沙:
陶磁器って「ワレモノ」だからな。何百年も前のものが残っているだけでもすごいことだと思うぜ。さて国宝陶磁器の一覧に戻ろう。これを見て何か気づくところはあるか?霊夢:
そうね、まず半分以上が中国の、それも元から南宋時代のものなのね。これらは「天目茶碗」と「青磁花生」に分けられそうね。天目茶碗の中でも「曜変」がつくものが3つもあるわね。
霊夢:
国産の5件は、秋草文壺以外は近世の作品、しかも野々村仁清【※】の作品が2件も入っているのね。※野々村仁清
江戸時代前期の陶工。
魔理沙:
そうだな、時代を追えば中世中国→中近世朝鮮→近世日本って感じで選定されているな。
「青磁花生」「天目茶碗」に代表される中世中国時代の陶磁器
魔理沙:
それではその時代に沿って作品を見ていこう。これはそのまま中世から近世における日本人の美意識を追うことにもなると思う。まずは中国産の「青磁花生」からだぜ。
霊夢:
なんか中国産と聞くと途端に心配になるわね。魔理沙:
それは現代の話だぜ。当時の中国はまだまだ世界の大帝国。舶来品は「唐物」と呼ばれて珍重されたんだぜ。霊夢:
色や質感がどれも似ているわね。こういうのを青磁っていうのかしら。魔理沙:
そうだぜ。花生だけじゃなく、茶碗や香炉にも青磁機はあるぜ。日本で磁器が生産されるようになったのは江戸時代に入ってからだ。こういう器は輸入でしか手に入らなかったわけだ。霊夢:
今じゃ磁器なんて珍しくもなんともないけど、当時は貴重な品だったのね。魔理沙:
次は同時代の中国産、天目茶碗だぜ。まずは曜変天目茶碗。ここでは3つのうち2つを紹介するぜ。
霊夢:
さっきの青磁とは比べ物にならないくらい変化に富んでいるわね。魔理沙:
人によってはグロテスクな模様に感じるかもしれないが、この色の綺麗さはわかりやすいんじゃないだろうか。現代に至るまで代わるもののない名碗だぜ。次は油滴天目と玳玻天目。
霊夢:
さっきのほどじゃないけどキラキラしているわね。地が黒いことも共通しているわね。こういう黒地にキラキラしたものを天目茶碗っていうの?魔理沙:
必ずしもそうじゃないけど、おおよそそうだぜ。
「わび・さび」を感じる中近世朝鮮時代の井戸茶碗
魔理沙:
次は少し時代を進めて朝鮮産の井戸茶碗だぜ。
霊夢:
おお……これは……なんていうか……さっきまでのと比べて一気に地味になったというか……みすぼらしくなったっていうか……。これは古い出土品だから汚れてるということなの?魔理沙:
そうじゃないんだぜ。これはこういうものなんだぜ。簡単に言うと「わび・さび」の世界なんだぜ。近世のはじめ、千利休らを中心とした価値観の変革の時期に珍重されたものだ。
ストレートな美しさに代表される近世日本の陶磁器
魔理沙:
次は国産品。まずは古いほうから3つ。壺は平安時代の出土品だから、ここまで紹介したものとは少し意味が異なるぜ。
霊夢:
そんな昔の作品にしては瀟洒な形をしているわね。色も絵も綺麗だと思うわ。茶碗のほうはさっきの井戸茶碗の「わび・さび」を継いでいるのかしらね?魔理沙:
ああ、その価値観を継いだものだ。しかしそれだけではない価値の発露も見えるぜ。重要なのは、これらのものが日本で作られた点。その価値が舶来品を上回っていくんだ。さて最後は江戸時代、野々村仁清の作品をふたつ。
霊夢:
さっきまでと様子が全く違うわね。ストレートに綺麗って思えるわ。魔理沙:
江戸時代の初期、いろいろあって日本の陶器生産技術は大幅に向上したんだ。肥前国、現在の佐賀県で磁器の生産も可能になった。こういう繊細な絵付けに耐えられるだけの焼き物を作れるようになったんだな。霊夢:
この頃になると、現代の私たちの美的感覚に近いのかもしれないわね。はじめは唐物を尊重していた日本人が、ある時期から高麗物のみすぼらしい茶碗に美を感じて、国内での生産と技術開発を通じて、最終的にこういうものを美しいと思うようになったということかしら。魔理沙:
単純に変わっていたというより、多様になっていったんだな。現代の日本人が、みんなより新しい仁清のものを好むってわけでもないからな。
多様な陶磁器が紹介されましたが、「良い」「美しい」と思うツボは千差万別、「みすぼらしいはまあ置いといて、何となく手に取ってしまう味わいがあるよな」「曜変天目の作為の無さが綺麗」「天目はきれいだけど、井戸茶碗ほっとけないよ!」といった視聴者からの思い思いのコメントが寄せられました。
二人の解説をノーカットで楽しみたい方はぜひ動画をご視聴ください。
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