ボカロP・ゲームクリエイター・小説家etc…ネットで活躍するクリエイターの“著作権使用料の回収方法”について専門家が解説
フィンガープリント使用から分配までの流れ
伊藤:
次にNexToneがこの『フィンガープリント』に関して、どのようなサービスを行っているかという所をちょっと紹介させて頂きます。NexToneが大手のフィンガープリント運営会社やフィンガープリントデータの提供を開始しました。我々で権利者の方から音源をお預かりして、代わりにエンコードを行いフィンガープリント化して、この運営会社のマスターに投げ込んで行く、という様なサービスを開始致しました。
大手のフィンガープリント運営会社のマスターデータの中に、今まで無かった音源が、どんどん入って行くという事によって、そのシステムを採用している放送局、または動画投稿サイトにおいて、報告の精度がアップする。
今迄は、放送されても、報告がされなかったという状況がありましたが、このマスターを拡充させて行く事によって、放送局から実績報告が正しく行われる様になり、NexToneまたは、JASRACさんに対して、精度の高い報告が行える様になっていく。結果、著作権者の方々にも、正しい分配がいく様になっていきます。
伊藤:
もう1点、これは著作権だけでなくて、放送においては2次使用料という物で、『原盤の2次使用料』と『実演の2次使用料』に対しての報告支払いも行われています。
それについても、基本同じデータを流用されていますので、それが日本レコード協会さん、日本芸能実演家団体協議会(CPRA)さんの方にデータが行って、また、より精度の高い分配が行われて行くという事に役立っています。
現状は※印に書いてありますが、“ただし市販用CDに限ります”という形になっていまして、配信限定音源とかについては、まだ現状では取扱い出来ない様にはなっていますので、お気を付け下さい。
仁平:
市販用CDというのは、メジャーレーベルでなくても大丈夫ですか。
伊藤:
はい。市販用としてPOSコード【※】が付いて流通されていれば大丈夫です。
※POSコード
日本における標準的バーコードの規格。
仁平:
成程。
伊藤:
先にお話ししてしまいますが、この『フィンガープリント』のデータを受託するにあたってなんですが、NexToneとしては、『著作権管理事業に於ける登録作品』、『作品登録頂いている作品』及び、別事業で、所謂配信の流通事業である『デジタルコンテンツディストリビューション事業』を行っていますが、こちらで扱わせて頂いている販売コンテンツに関しては対象となっています。
NexTone経由で、この『フィンガープリントデータ』を登録する事で、分配精度が向上して参ります。しかも、全て無料でやらせて頂いています。という状況ですので、是非ご活用をお願いします。
仁平:
例えばですが、『ダンシング☆サムライ』みたいに、全支分権【※】がJASRACさんです。ただ原盤はNexToneさん経由でいろいろ展開したいんです。そういった場合、これ無料でやってくれるんですか?
【※】支分権
著作権の中の一部の権利の事。
伊藤:
配信の方で、取扱させて頂いていれば、勿論可能です。「著作権の方は、先々宜しく」という事で。
かにみそP:
「配信の方で」というのは……?
伊藤:
「原盤の配信を」という事です。
仁平:
原盤の配信をNexToneさんにお願いすれば、JASRACの楽曲であっても、やってくれる?
伊藤:
勿論です。
仁平:
これは何か凄いですね。僕らはJASRACさんとNexToneさんの良い所取りが出来るという事ですね。
伊藤:
はい。という事で、まず、『フィンガープリント』についての説明となりました。次はメインの『YouTubeのコンテンツIDについて』です。
YoutubeのコンテンツID
仁平:
多分、ネットを見ている方でも『コンテンツID』について、ご存じない方もいらっしゃるのかなと思います。今、(この放送に)4400人の方が来ていただいていますが、見ている方に質問です。コンテンツIDって知っています? 「なんとなく知っている」とか「知らない」とか書き込みして頂けると嬉しいな。反応が無いかな?
かにみそP:
僕も名前だけは知っているっていう感じでしたね。
伊藤:
『コンテンツID』とは、YouTubeが承認した権利者に提供しているシステムで、コンテンツの所有者は、自分のコンテンツIDと一致するコンテンツに、どのような対応策を取るか選択する事が出来ます。具体的には、下の施策3つになります。
伊藤:
まず、1個目。自分の楽曲を使った動画をマッチングした後に、閲覧出来ないように動画全体をブロックする。例えば、mathruさん(かにみそP)の曲を、動画で使ってアップロードしている人が居ます。でもmathruさんはその動画の内容がどうも気に食わないという場合には、(動画を)ブロックすることができます。
かにみそP:
それは個別に出来るって事ですか?
伊藤:
はい、個別に出来ます。大多数の物は、皆さん、良かれと思ってアップされている物が多いと思うので、そこについてはブロックするような事は、余り無いと思いますが……。
かにみそP:
(曲を)使われている動画の一覧が出て、「これは気に食わない」とか、「これは気に入った」みたいな事が出来るって事ですか?
伊藤:
そうですね。そういう事が出来ます。
かにみそP:
凄いですね。
伊藤:
そして2つ目。ここが重要なポイントですが、動画に広告を表示させて、動画を収益させるという事が出来ます。自分の音源を使っている映像を自動的にマッチさせて、その映像に強制的に広告を出す事が出来ます。
かにみそP:
広告を付けるか、自分で決められるという事ですよね?
伊藤:
自分が作った以外の自分の音楽を使っている動画にも、広告が表示されて収益の一部が(権利者に)戻って来るという仕組みになります。次に3つ目。その動画の再生に関する統計情報を追跡する。自分の音楽を使っている映像が、どれくらい再生されているか、どこの地域で再生されているか、というような事を追っかける事が出来るというマーケティング的な機能が与えられます。
かにみそP:
これ『コンテンツID』を登録して置けば、全部自動でやってくれるって事ですよね?
伊藤:
そうですね。この『コンテンツID』の仕組みで音源をアップロードして、広告の管理の設定をする。管理の設定を行うと、当然、全部をブロックすることも出来ます。ただし最近はブロックするというよりは、どんどん使ってもらって、広告を収益化して、ちゃんと権利者の方に収益が戻るように、という動きが増えて来ていますので、この辺りを活用されているアーティストさんが増えているな、という所です。
もうちょっと噛み砕いた説明になりますが、もう1回言いますと、第3者がアップロードした映像に自らのコンテンツが含まれている場合、それを『コンテンツID』が簡単に特定し、広告を設定したり、コンテンツの取り下げを行ったりする事が出来る仕組みです。自身のオフィシャルチャンネルでの収益以外でも、『コンテンツID』を使って、UGC【※】にも広告を表示させ、収益化することができます。
※UGC
利用者(ユーザー)によって制作・生成されたコンテンツ。
伊藤:
これがイメージ像になります。権利者は『原盤X』を保存しています。右側に一般ユーザー(動画の投稿者)ですね。上にYouTubeがありますが、権利者はYouTubeに対してコンテンツ登録、これは『フィンガープリント』の技術を使っていますので、フィンガープリント化をしてコンテンツ登録を行って、コンテンツの管理、広告管理設定を行います。
次に、広告設定をしておいた場合、一般ユーザーがこの『原盤X』を使った動画をアップロードすると、自動的に『原盤X』は広告表示が開始されます。広告が自動的に出ていくと言う形になりますので、後はこの動画が再生されると、チャリンチャリンとYouTubeから権利者に対して広告収益の一部が分配されるという仕組みです。ですので、権利者はこの『コンテンツID』の仕組みを上手く活用して設定して行くだけで、YouTubeから収益が分配されるという仕組みになります。
仁平:
YouTubeって、ニコニコ動画以上にサーバーの中にある動画の数が多い様な気がするんです。そんな大きい中で、どのくらいのスピードで、「今、1個だけ動画をアップしました。はい、これはかにみそさんの楽曲です!」 と、分かるんですか?
伊藤:
該当コンテンツを登録し、それ以降にアップロードされる物については、ほぼリアルタイムでマッチングされて行きます。
仁平:
リアルタイムで分かるんですか!
伊藤:
遅くても数時間でマッチングされて行きます。但し、過去にアップロードされている膨大な量の映像に関しては、多少時間が掛かりますが、2ヵ月、3ヵ月と掛かるような物ではないです。
仁平:
凄いですね。
伊藤:
mathruさんも今、YouTubeでオフィシャルページを持たれていますよね。
かにみそP:
はい。作っただけみたいな感じですけど。
伊藤:
そこの中では、自身の映像をアップロードして、広告の設定をされていますよね。
かにみそP:
はい、しています。
伊藤:
されていますが、それだけでは一般ユーザーが投稿した部分に関しての、マネタイズは出来ません。ですので、この『コンテンツID』の仕組みを使って、フィンガープリント化して、広告設定をする事が必要になります。しかし、YouTube、Googleさんにも再度確認してきましたが、誰でも契約出来る物ではないという事になっています。
伊藤:
今、mathruさんが、契約されているオフィシャルページの広告のマネタイズは、YouTubeの『パートナープログラム』という契約になっていますが、この『コンテンツID』については、別契約が必要になります。この『コンテンツID』を開始するには、Googleさんの承認が必要という事で、最近はここのハードルが高く、簡単には契約出来ないよ、という事を伺っています。
後、もう1点、最近変わった事ですが、mathruさんも参加されている、アーティストのオフィシャルチャンネル『YouTubeパートナープログラム』において、チャンネルの合計視聴回数が1万回に満たない場合は、広告配信されなくなりました。
かにみそP:
え、どういう事ですか?
伊藤:
今までは、視聴回数とかあまり関係なく、アーティストのオフィシャルでYouTubeに申請すれば、公式チャンネルを作れて、かつ広告の設定が出来たという事なんですが、成り済ましで、人のコンテンツをアップロードする不届き者が増えて来たんです。
広告を付けて、違法に収益化する悪い奴が出て来たという事で、海外でもクライアントが怒って、クライアント離れが進んだという様な状況に対して、YouTube側の方で日本でも、対策としてこの様な事が始まりました。あくまで、チャンネルの合計視聴回数ですが、1万回に満たない場合については、広告設定が出来ないという事になりました。
かにみそP:
合計ですよね?
伊藤:
合計と聞いています。
かにみそP:
だから、動画1個の再生回数が100でも、100個の動画を上げればOKという事ですね?
伊藤:
そうですね。それに伴って、オフィシャルチャンネルを開設する為のYouTubeパートナープログラムの申請者に対しての審査も厳しくなりました。不届き者のせいで、正しい活動をしているアーティストが不利益を被っているぞ、という様な状況になっています。
仁平:
かにみそさん、なんとなく分かりましたか?
かにみそP:
はい。でも、この(『コンテンツID』の登録可能)条件というのが、気になるんですけど。
仁平:
気になっちゃいますよね。
かにみそP:
どういった所を見られるんですか?
伊藤:
まず(審査側が)一番気にしているのは、成り済ましなので、正しいコンテンツのオーナーであるかどうか、当然アーティストさんご自身で、原盤を持たれていて「自分が正しい権利者なんだよ」っていう事の証明が必要になりますね。
かにみそP:
本人確認の証明書類を送る必要があるって事なんですね。
伊藤:
今後、YouTubeさんがどういう物を条件として提示されるか? というところまでは、今日の段階では確認出来ていないんですけども、少なくとも以前よりは、大分厳しくなります。
かにみそP:
大分ですか……。
仁平:
(審査の条件が上がった事について)そういう事件が多かったって事ですかね?
伊藤:
そうですね。「成り済まし広告で儲けてやろう」という悪い人が多かったんでしょうね。あくまでオフィシャルチャンネルの所で、『コンテンツID』のアカウントを開設するには、更にハードルが上がっているという所で、技術的にも設定が難しいし、複雑な運用もあるので、ある程度運用者を絞っている、という事は聞いています。