ボカロ界を席巻した『まにまに』は、なぜ聴く人の心を撃ち抜くのか? r-906が間奏に2分使った理由を語る「あの曲はサビとサビが合体した曲」【はじめて聴く人のためのインタビュー】
様々な人気ボカロPの定番曲プレイリストを元に、本人に様々な角度からインタビューを行う本企画。今回登場してもらったのは、現在シーンでも最前線で活躍するボカロPのひとり、r-906さんだ。
ドラムンベース×VOCALOIDという独自のジャンルを大きな武器とした楽曲は、一般リスナーのみならず、ボカロ曲がたくさん流れる近年流行りのボカロDJ・クラブイベントでも大人気!
自身もDJ活動を精力的に行い様々なイベントに出演するr-906さんだが、今回はそのルーツや曲を作る時のこだわり、そして人気曲のここだけの話など、様々な話を伺うことができた。
「ゆくゆくはボカロシーンで、ひとつの文化を生み出したい」とも語るr-906さん。
その興味深い言葉の数々を、ぜひプレイリストと共に楽しんで欲しい。
取材・文/曽我美なつめ
r-906曲のアイデンティティはリズム感にあり!
──r-906さんは最初、バンドで音楽活動を始められたんですよね?
r-906:
そうですね。元々は父親がバンドを組んでいて、その姿を日常的に見ていたんです。その中で中学の頃に、Coldplayというバンドのライブ映像を見てベースに惹かれて。そこから高校進学をきっかけに、軽音部へ入ってベースを始めました。
──オリジナルの制作はいつ頃始められたんでしょう。
r-906:
高校で軽音部に入ってからですね。当初は打ち込みも知らずスマホの録音機能だけで試行錯誤してたんですが、大学入学の頃にスマホでも使える「GarageBand」と「Mobile VOCALOID Editor」の存在を知って。そこから本格的に作曲を始めたので、本腰を入れ始めたのは大学生になってからです。
──その中で、ボカロと出会ったのはいつ頃だったんです?
r-906:
ボカロを知ったのは高校の頃ですね、本格的に聴き始めたのは大学からでしたが。きっかけのひとつは「人生リセットボタン」です。確か当時ニコニコ動画のスマホアプリのトップで取り上げられてて、曲を聴いた時に「これ友達が歌ってた曲じゃね?」ってなって。
──自分でも知らない内に、いつの間にか曲を知っていた、と。
r-906:
中学時代にいわゆるオタク気質な友人が結構いたんです。ただ当時ってVOCALOIDはオタク文化というか、一般には敬遠される部分もまだ多くて。自分もそのイメージだったから、当初は少し離れて見ていたんです。でも大学受験期に、ストレスで「敢えて今まで触れてなかったものに触れてみよう」と思った時期があって。それでボカロを聴いてみたら、「いいじゃん」ってなって今に至ります。
あと「ムーンウォークフィーバー」も印象的だった曲のひとつですね。ちょうど当時日向電工さんの久々の投稿ということで話題になって、それで興味を持って聴いてました。
──曲を作る際、特にこだわっているのはどんな部分でしょう。
r-906:
リズム感です。具体的な手法やセオリーと言うより、自分が気持ちいいリズムを使う点をいつも心がけています。自分の曲のアイデンティティはリズムにあると思っているので、そこは曲げないようにしてますね。曲調や歌詞、メロディは結構テイストが変わるんですけど。
──そうなると、曲制作の際もやはりリズムを考える時が一番楽しいですか?
r-906:
いや、一番楽しいのは曲が出来上がる最後の過程ですね。骨組みが大方出来上がって、もっとこうしよう、もっとこれを足そう、って飾りつけをしている時かもしれません。作業中、常に自分が気持ちよくなれますし。この曲やっぱカッケーな、って思いながら作業できますから(笑)。
数々の話題曲&人気曲の“ここだけの話”も満載!
──楽曲を作る際、歌詞とオケはどちらが先になるんですか。
r-906:
場合によりますね。曲によって何をやりたいか、何を伝えたいかをきっかけにする事が多いです。例えば、「あなたしか見えないの」は歌詞先行の曲なんですよ。この曲はタイトルのフレーズを決め打ちして、そこから広げていきました。
──確かこの曲は、元々「Catchy !?」のPVに登場する女の子の物語を考案する中で生まれたんですよね。
r-906:
実はフレーズ自体は、全然別の曲を作る際に「キャッチーな曲を作って下さい」と言われた中で思い付いたんです。いろいろ考えるうちにその曲より、「Catchy !?」の子の台詞としての方がしっくりくるな、と思い始めて。
元々「Catchy !?」は歌詞で自問自答する、というテーマで作った曲なんです。当初は曲の自問の部分、“Catchy”って何なんだろうね、という嘆きを書いておしまいの予定だったんですけど。“あなたしか見えないの”という言葉が出て来た時に、そこから「Catchy !?」の方で一気にアイデアが膨らんで。「Catchy !?」の自問から1年経った今、このフレーズを使ったらそこに何かしらの答えが出せそうだな、と。その流れで「あなたしか見えないの」という曲が出来て、そのままアルバムと小説も作ろう、その形で自分の考えを纏めよう、となり完成したのが、先日のニコニコ超会議で出した「会話記録」という作品です。
──あのようなコンセプト形式の作品は、シーンでもかなり珍しい印象で。“ユニークなことをされているな”と思いつつ拝見していました。逆に、メロディ先行の曲はどんなものがあるんでしょう。
r-906:
「ノウナイディスコ」とか「まにまに」、「スーパーノヴァ」、「ボイドロイド」もですね。それこそ「スーパーノヴァ」は、浪人時代に作ったものを掘り起こした曲なんですよ。元のアイデアは4、5年前のものになります。結構手は加えたんですけど…手を加えたというより、技術が進歩したって感じかな。作り溜めていた当時はスマホで作っていたので、音が安っぽくて貧弱で。曲として発表できるクオリティではなく、表に出すのは今じゃないと思って置いてたものでした。この曲は音街ウナの6周年記念コンピレーションの書き下ろし提供作なんですけど、依頼を頂いた際に昔作ったあのデモが音街ウナの力強い声に合いそうだな、と思って。今なら環境も整ってるし、と思い改めて作り直しました。
──少し大げさかもですが、満を持して出した曲と言いますか。
r-906:
あと「まにまに」も似た形で作った曲ですね。サビのメロディは3、4年前にすでにほぼ今のものが出来てたんです。ただ、我ながらサビがちょっと強すぎるな、と当時思っていて。このサビを生かす曲を作るには今の技術じゃちょっと足りない、と思ってしばらく封印していました。
──とはいえ、その結果サビ以外ほぼ全部インストという造りは非常に思い切った形になりましたね。
r-906:
よく間奏と呼ばれるインスト部分なんですが、あそこはドラムンベースというジャンルだとドロップに該当する部分で。ドロップって、いわゆる通常の曲のサビのことなんです。なので、言わばあの曲はサビとサビが合体した曲なんですよね。どこを取っても常に美味しいという。
あのサビに下手なAメロBメロをつけると、そのメロディが死んでしまうと思ったんですよ。サビのための助走というか、サビに行くためだけに作ったメロディになるのがすごく嫌で。サビ以外も単体で強度が欲しいと思った時に、ドラムンベースのドロップを曲のAメロと解釈して、常にクライマックスな状態にしたという経緯がありますね。
──興味深いお話をありがとうございます。諸々を踏まえて、この中で一番思い入れのある曲だとどれになりますか?
r-906:
強いて選ぶなら「あなたしか見えないの」ですね、いろんな面で挑戦の曲になったので。今までの自分の曲って、基本的にBPM160以上の速い曲が多いんです。「三日月ステップ」「ノウナイディスコ」なんかは特に顕著で。自分の曲ってそういう曲じゃないと聴いてもらえないのかな、ウケないのかな、と思っていたので、敢えてBPMを150まで落として、かつ聴いてもらえる曲を作ろうと取り組んだ作品でした。それが成功した部分や、込めたいメッセージを込められた所、さっきお話したコンセプティングな造りも含めて、細かい所でいくつも達成感があって全体的に気に入っています。
──重ねて、初心者がより深くボカロを聴くにあたってのおすすめ曲はどれでしょう。
r-906:
「ボイドロイド」「怪電話」ですね。リストの他の曲は比較的何も考えず聴いてノれて、受け身でも楽しめる曲も多いんですけど。この2曲は言葉も難しいし音も複雑だし、少しわかりにくいというか。でもそこを敢えて楽しんで欲しいな、と思いますね。じっくり時間をかけて、頭と心でいろんなことを考えたり感じたりして欲しい曲です。
ちなみに、「ボイドロイド」は結構ボカロPの方やDJさんの人気が高いんですよ。たった7日で作った曲なんですけど…。普段は1曲作るのに1ヶ月ぐらいかかるんですが、この曲はイベントにDJで参加した時に「めっちゃ楽しかった!」「今日みたいなクラブでブチアガる曲を作りたい!」という熱のまま、新幹線で帰った当日に作り始めて。曲を3日で作って、動画を4日で作ってそのまま投稿しました(笑)。
クラブライクな音楽を純粋に楽しむボカロDJ文化を作りたい
──先ほどもお話に出ましたが、r-906さんと言えばやはりドラムンベースの印象が強くて。元々、その音楽ジャンルを知ったきっかけは何だったんですか?
r-906:
きっかけは「パノプティコン」です。あの曲はそもそも、自分の好きなものを詰め込んで作った曲なんですよ。で、曲をニコニコにアップしたら動画に「ドラムンベース」「ボカムンベース」のタグがいつの間にか付いていて。「こういう曲ってドラムンベースって言うんだ」というのをその時に知って、そこから掘り始めたのが最初です。一応曲を思い付いたきっかけというか、リファレンスになった曲も今思えばドラムンベースだったんですけど…何の曲かはちょっと内緒、ということで(笑)
──ということは、現在はドラムンベースなどの音楽もよく聴いてるんですね。
r-906:
ドラムンベースだと、Culture ShockやDIMENSIONをよく聴いてますね。あとは最近、テクノやハウスも勉強中です。昔からずっと聴いているのはサカナクションかな。中学生ぐらいの頃からずっと好きだったんですが、そのサカナクションの軸にドラムンベースが加わって2軸になって、最近テクノ・ハウスの軸がもう一個加わった感じです。
最近は「踊る・踊らせる」にすごく執着してる自覚はありますね。クラブというものに1回行った際、その空間を強烈にいいなって感じたのがきっかけで。これは今後しばらく自分の指針になる気がしています。
──ちなみに、ボカロですと最近気になった曲などはありますか?
r-906:
ボカムンベースでいろいろ探してる時に出会った、Kugaloxa(クガロクサ)さんの「Crosswire」はとにかくカッコよかったです。音数も少なくてすごくミニマルな感じも好みでした。使ってるボカロもMEIKOっていうのがまた渋くていいんですよ。ぜひ聴いてみてください。
──ありがとうございました。そうしましたら最後に、今後の抱負を伺えれば。
r-906:
基本的な方針はとにかく好きな事をずっとやる、というのがあるんですけど。短期的な目標だと、ボカロやボカムンベースのDJをもうちょっと極めたい、という感じです。近年ボカロシーンにもクラブ文化が広まってますが、今巷で言われているボカロDJは、自分がやりたいクラブDJと少し離れている印象もあって。
──それは具体的にどんな部分が?
r-906:
クラブイベントって、本来はDJ本人を見なくていいと思ってるんです。今は自分を始めDJをするボカロPさんも増えていて、それをお客さんが見に来て下さるのも本当にありがたいんですが、ボカロPのライブショーみたいになってると感じていて。そうではなく、曲を聴くお客さんがただただ踊ってるような空間を作りたくて、何とかできないかな、と今考えているところです。
──ボカロDJを、もっと本来の意味でクラブ文化に寄せる感覚ですね。
r-906:
もちろん、今のボカロDJの文化も一つの楽しみ方として素晴らしいんです。どっちが良い悪いという話ではなく。ただでも自分の理想として、もっと音楽に寄り添ったクラブライクなイベント・DJをやりたくて。究極、僕のことは見ないで全員ペンラも振らずひたすら踊ってる、みたいな。いつかそこに辿り着けるといいなと思いますね。
■Information
r-906 プレイリスト 詳細はこちら
「The VOCALOID Collection」 公式サイト
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