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「もし明日、あなたがゾンビになったら?」生き残るより“ゾンビとして生きる”ためのライフハックを専門家に聞いてみた【近畿大学総合社会学部 ゾンビ先生(岡本健教授)】

■気分転換に「ゾンビで論文を書こう」と

――本日はよろしくお願いします。岡本先生……いえ、今日は「ゾンビ先生」とお呼びして進めさせてください(笑)。

岡本教授(以下、ゾンビ先生):
 はい、ゾンビ先生で大丈夫ですよ(笑)。VTuberの名前でもありつつ、生身の私の愛称でもあるので。すごく使い勝手のいい名称なんです。

――先生はもともと「観光学」で博士号を取られていますよね。アニメの聖地巡礼の研究から、どうやって「ゾンビ」に辿り着いたんですか?

ゾンビ先生:
 本格的に見だしたのは大学3年生のときです。
 心理学を専攻していたんですけど、教職関連の授業で、中国文化に関するものを受けまして……。
 そしたら初回に先生が「教職の授業ではありますが、私は香港武侠映画について授業をしたいと思います」って(笑)。
 今だとあり得ないのですが、当時の大学の教育はおおらかでしたね(笑)。

――いいですね、飛ばしてますね(笑)。

ゾンビ先生:
 でも、それが凄く面白かった。時代ごとに残虐シーンの残酷性がどんどん過激になっていったり、悪人の設定が社会に合わせて変わったりするのを学術的に解説してくれた。
 そこで「好きなものを分析する楽しさ」を知って、レポートのためにゲオに行ったら、隣の棚がB級ホラーだったんです。
 そこにゾンビの顔がめっちゃ並んでて、「こんなに要るかな?」と(笑)。

――それが運命の出会いだった。

ゾンビ先生:
 はい。その後、聖地巡礼の博士論文を書いてる時にしんどくなって、気分転換に「ゾンビで論文を書こう」と思いついた。
 「ゾンビは食のためにしか動かないから、食を目的とした観光……究極のフードツーリズムやな」という論文を遊びで書いたら、出版社から声がかかって。

『ゾンビ学』岡本健 著

――気分転換で論文(笑)。

ゾンビ先生:
 大学教員って、なるまでは「観光の授業ができます」ってちゃんと専門分野を言わないと就職できないんですけど、なっちゃえば、こっちのもんだなって(笑)、より自由に研究しようと思いまして。
 今は学生に「ゾンビを例にした研究の方法」を伝えています。「私はゾンビでやった。君らは好きにしろ」と。
 人間、好きなものなら放っておいても面白がってやる。そういう脇目も振らず没頭できるきっかけを渡したいんです。

■あなたのゾンビはどこから? 設定確認が命

――では、いよいよ本題の「ゾンビライフ」の話に移りましょう。もし僕らがゾンビになった時、どう振る舞えば幸せになれるのか。まず、何から始めればいいですか?

ゾンビ先生:
 一番最初にやるべきは、「自分がどんな設定のゾンビか」を確認することです。ここを間違えると、ライフプランの立てようがありません。

――ゾンビのタイプは……ゾンビ好きのあいだでも宗教論争レベルで色々いますもんね。走るゾンビ、歩くゾンビ、知能があるゾンビ、ないゾンビ……。

ゾンビ先生:
 そうです。歩く系か、走る系か。階段を上がれるのか。ゾンビ同士が携帯電話の電波で通信しているタイプなのか。

――「あなたのゾンビはどこから?」をチェックしないと、その後のプランが立てられない。

ゾンビ先生:
 そうです。たとえばニコニコ的に馴染みがあるのはバイオハザード2のパロディをRPGツクールで作った『のび太のBIOHAZARD』【※】みたいな、歩くけど噛んだら感染する、オーソドックスなタイプですよね。
 今回はこの「王道ゾンビ」になったと仮定して、死後設計を考えてみましょう。

※ドラえもん のび太のBIOHAZARD
RPGツクール2000で作られた擬似アクションアドベンチャー。タイトルどおり「ドラえもん」と「BIOHAZARD」を掛け合わせた内容となっている。RPGツクール製のアクションゲームとしては、非常に知名度が高い作品の一つ。(ニコニコ大百科より)

■初動10分で差がつく「ゾンビ・キャリア戦略」

――もし僕が「あ、今噛まれたわ。これ10分後にはゾンビになるな」と確信した時、まず何をすべきでしょうか。普通なら「人生終わった……」と絶望しそうですけど。

ゾンビ先生:
 いえ、まずは「責任」から解放される喜びを噛み締めてください(笑)。
 ゾンビになるっていうことは、人間としての責任から解放されるっていうことなんです。明日会社に行かなくていいし、学校もないし、試験も何にもない。

――『ゲゲゲの鬼太郎』の歌みたいですね(笑)。「おばけにゃ学校も試験もない」という。

ゾンビ先生:  
 本当にそうです(笑)。ブラック企業で働いていたサラリーマンを主人公にした『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』という漫画でも、主人公が世界がゾンビ化した瞬間に「明日から会社行かなくていいんだ!」って喜びますよね。
 あれは一つの真実を突いていると思います。ゾンビになるっていうのは、ある種、責任がない子供時代に戻るような感覚。
 大人としての倫理やモラルをかなぐり捨てて、本能の赴くままに動ける。現代社会の閉塞感から逃れたい人にとっては、究極のデトックスかもしれません。

――でも、ゾンビとしての「生存戦略」はあるんでしょうか。

ゾンビ先生: 
 なる「タイミング」が重要です。パンデミックの最初期、まだ人間が「核を打ち込めば倒せる」と思っている頃にゾンビになると、滅菌作戦とかで街ごと消されちゃう可能性があるんですよ。

――バイオハザードのラクーンシティみたいに(笑)。

ゾンビ先生: 
 そう(笑)。だから、人間がもう完全にあきらめて、「この最悪な世界をどう生きるか」というフェーズに入ったあたりで参入するのが、一番安全で自由なゾンビライフを送れるはずです。
 人間様にあきらめていただいて、ゾンビが主になっていっている時こそが、最高の「なり時」ですね。

■住まいは「事故物件」で家賃ゼロ。銀座のど真ん中でアウトドア生活

――次に具体的な「住まい」について聞かせてください。ゾンビになったら、どこに住むのが正解なんでしょうか。やっぱり下水とか、暗い場所を確保すべきですか?

ゾンビ先生:
 いえ、自意識さえなくなれば、どこでもいけますよ。ゾンビにとっては全世界がアウトドアフィールドです。痛みも感じないし、寒さにも鈍感。壁に大穴が開いていてもいいし、何より自分が住んでいること自体が事故物件ですから、もう事故物件かどうかを気にする必要すらありません(笑)。

――自分が「事故の元」ですもんね(笑)。東京のど真ん中、銀座とか秋葉原でも住み放題ですか。

ゾンビ先生:  
 もちろんです。秋葉原のビルとビルの間に立って寝る、なんてこともできる。
 人間はエアコンが……とか、家賃が……とか気にしますけど、ゾンビは皮膚感覚も鈍いから、どこでも寝転べる。
 東京の一等地に「座布団一枚分」のスペースがあれば、家賃ゼロで暮らしていける。「立って半畳」あれば十分なんです。

――自分が好きなもののすぐ近くに住めると。

ゾンビ先生:
 そうです。しかし『ドラえもん』の代わりにゾンビが居候する『魔界ゾンべえ』のような世界観で考えれば、大家さんも「私はゾンビじゃありません」という念書を求めるようになるかもしれない(笑)。
 でもゾンビからすれば、家賃の大幅なコストカットができるのは大きなメリットですよね。

『魔界ゾンべえ』玉井たけし 著

■株で大失敗しても、もう死んでるから怖くない

――現世の僕はNISAとか、財形貯蓄とかでお金の心配ばかりしてます。ゾンビになってもお金って要るんですか?

ゾンビ先生: 
 貨幣経済からは完全に離れられます。そもそもゾンビには信用がないからお金を借りられないし(笑)。ただ、お金の心配がなくなる最大の理由は、「死」という究極の恐怖がもう終わっているからなんです。

――どういうことでしょう。

ゾンビ先生:
 株で大失敗したり、借金を背負ったりして何が怖いかって、最後は自分が死んじゃうかもしれないっていう恐怖ですよね。でもゾンビはもう死んでるんで。これ以上やばいことはない。損しても「あ、そう」で終わり。

――究極のポジティブですね(笑)。

ゾンビ先生:
 (笑)。実写映画『アイアムアヒーロー』(原作漫画:花沢健吾)でも、文明崩壊後は高級時計のロレックスが、ゾンビに噛まれないための「頑丈な防御装置」として腕に巻かれる描写がありますよね。希少性が価値を生んでいた貨幣経済が壊れ、ただの「頑丈な板」になる。
 その時、ゾンビやゾンビに支配された世界は本当の意味でお金の不安から解放されるんです。

『アイアムアヒーロー』監督:佐藤信介、原作:花沢健吾

■ゾンビが唯一お金をかけるべきは「におい対策」

――貨幣経済から解放されるとのことですが、逆に死んでるのにお金が必要な場面はあるのでしょうか?

ゾンビ先生:
 もしあなたが「ゾンビとして人間と一緒に過ごしたい」とか、あるいは「ゾンビ同士でコミュニティを維持したい」と願うなら、一番お金をかけるべきは、間違いなく「におい」です。

――におい、ですか。

ゾンビ先生:
 死臭ですね。人間にとって「死のにおい」というのは、腐敗のサインであり、本能的に避けなければならない、生存に関わる嫌なにおいです。そこをケアしないと、人間コミュニティからは生理的な嫌悪感ではじき出されてしまう。
 だから、ゾンビライフを円滑に送るなら、においの処理に全力で投資すべきです。「わきが手術」や「重度の消臭ケア」にお金をかける。これが一番賢いゾンビの財テクかもしれません。

――見た目以上に「におい」が社会性の壁になると。

ゾンビ先生:
 そう。デオドラントスプレーを全身に浴びるとか、防腐剤に浸かるとか。自分の体をメンテナンスすること自体が、ゾンビにとっての「たしなみ」であり、投資になるわけです。

■「エスカレーターの動力」としての第二のキャリア

――ゾンビになれば会社に行かなくて済むというお話でしたが、逆に、ゾンビが社会で「役割」を持つことはできるんでしょうか。

ゾンビ先生:
 ゾンビが貴重な「動力」として期待される可能性はあります。スチームパンク的な発想ですが、ゾンビという永久機関で社会が回るんです。

――人を動力にするなんて、とんでもないブラック企業に見えますが……。

ゾンビ先生:
 いえ、人間が同じことをやらされると気が狂いますが、ゾンビは飽きないし、しんどくないんですよ。例えばエスカレーターの下で、ずっと等速直線運動で歯車を回し続ける仕事。ゾンビにとっては苦痛じゃないし、それで社会が回ってお礼(新鮮な肉や、先ほど言ったにおい対策のメンテナンス)がもらえるなら、Win-Winかもしれません。
 『屍者の帝国』という小説では、死体をよみがえらせてプログラムを入れ、給仕や運転手として使役する「屍者システム」が社会に組み込まれていましたね。

『屍者の帝国』伊藤計劃、円城塔 著

――うぅ……でも食品に関わるライン仕事はできればご遠慮願いたいです。

ゾンビ先生:
 たしかに。食品に関わるライン仕事は不潔感があるから無理かもしれませんが(笑)、単純作業においてゾンビは最強の労働力になり得ます。人間がやりたくない仕事をゾンビが担う。
 「ゾンビが工学的に活用されている世界」のシステムエンジニアが主人公の小説があったら、絶対面白いですよね。

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