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エディ・マーフィが黒人に嫌われている理由を評論家が解説「地位や名誉を黒人の地位向上に利用しなかった」

映画界の黒人俳優たちの歴史をたどる

中井:
 エディ・マーフィ以降、黒人スターはデンゼル・ワシントンやウィル・スミスのように、どんどん出てくるじゃないですか。エディ・マーフィはどういう立ち位置だったのかというのがすごく気になっています。

松崎:
 エディ・マーフィはブルックリン出身です。ブルックリンには同世代よりちょっと上の世代に、スパイク・リーがいるんですよ。スパイク・リーはエディ・マーフィをすごく批判するんです。

スパイク・リーさん。画像はWikipediaより。

松崎:
 なぜかというと、黒人がこれだけ金も名誉ももらったときに、その地位とか名誉みたいなものを黒人の地位向上に利用しなかった。確かにエディ・マーフィは、ハリウッド周りで政治的な発言に対してあまり聞かない。

 そういうところからちょっと一歩引いてるんだけど、コメディの世界ではちゃんとコントの中で揶揄したりもする。そういう立ち位置がちょっと微妙で、しかも主演作がほとんどじゃないですか。仲間と群れないというか、ずっと一緒に仕事をしている監督もいないんですよね。
 
スタッフ:
 『ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合』や『ドクター・ドリトル』はそもそも白人の役を黒人がやっているから、白人に嫌われない人。黒人という立ち位置ではあるんだけど、白人に好かれる人なんだよね。だから身内には嫌われるし。

 だからそこでお金儲けしたりとかスキャンダルがあると、白人たちに嫌われてちょっと人気が下降するっていう、そういう繰り返しだったのかな。

松崎:
 彼の前の世代は、ある一部の人に向けて作品を作っていて、ものすごい分母の数の人たちに観てもらおうと思って作っているわけではないんです。ところが2000年代になって、黒人向けに作ったものなんだけれど、みんなが観に行くようになったっていう時代になっている。

 その前の時代はそうではなかったし、そのときにエディ・マーフィが出てきたことによって、白人の人を見ているような黒人スターが出てきたっていうことじゃないかな。その前で遡ったらシドニー・ポワチエまでいないですよ。

シドニー・ポワチエさん。画像はWikipediaより。

松崎:
 エディマーフィが90年代なってから、アカデミー賞のプレゼンターをやったんです。

 それまでは『風と共に去りぬ』でハティ・マクダニエルがアカデミー賞を獲って、そのあと30数年経ってシドニー・ポワチエが取って、また30数年経って『愛と青春の旅立ち』でルイス・ゴセット・ジュニアが獲って、ウーピー・ゴールドバーグが獲って。

 それもまた10年後くらいなので、エディ・マーフィがプレゼンターをやったときに「俺が計算するところ、今世紀中に黒人の受賞は無理だな」みたいなギャグを飛ばしたくらい、90年代になっても黒人の人たちで演技も他の面でも認められるスターというのが出てこなかった。

 そのあとにデンゼル・ワシントンやハル・ベリーが受賞するという時代になっていくんですね。そういうふうに考えていくと、ある意味でエディ・マーフィは黒人の人だけではなくて、白人の社会にも受け入れられる黒人スタートして出てきたのは大きいんじゃないかなと思います。

スタッフ:
 しかもコメディだもんね。

松崎:
 時代を考えるとすごく合致するのが『大逆転』という83年の映画です。何があったかっていうと、この作品の監督のジョン・ランディスがマイケル・ジャクソンの『スリラー』のミュージックビデオを作っているんですよ。

 つまりマイケル・ジャクソンもそこからスターになっていく。マイケルでさえも、白人にウケると黒人からの批判が大きくなっていったんだけども、やっぱりいろんな人から愛されるような黒人スターになったじゃないですか。

 そういうふうに観てみると、たまたま二人が出てきた時期が一緒なんですよね。しかもジョン・ランディスを中心にして、同じ年に同じ監督の作品に出ているのは、ちょっと運命的だなと感じます。 

エディ・マーフィは、どのポジショニングを取りに行くのか

松崎:
 キャリアが下降気味になったんですが、ここで転機となるのが2006年の作品『ドリームガールズ』です。

画像は『ドリームガールズ スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]』Amazonより。

松崎:
 ここでやっとエディ・マーフィがシリアスな役を初めてやることになって、アカデミー賞の中でも助演男優賞候補になったりゴールデングローブ賞では助演男優賞を受賞したりもして、役者としても評価されるようになったというのがこの映画です。作品としても1億円超えをしている作品です。

スタッフ:
 さぁ、ここからドラマでいくぞ! っていうチャンスですね。

中井:
 でもこのタイミングって、デンゼル・ワシントンがドラマ軸で突っ走ってるんですよ(笑)。

松崎:
 『ドリームガールズ』にもジェイミー・フォックスが出てたし。

中井:
 割とその枠、いっぱいいるんですよ。

入江:
 逆にエディ・マーフィをキャスティングしたのが謎ですよね。

松崎:
 この人やっぱりすごいなというデータがあって、生涯興行収入ランキングというデータがあるんです。

スタッフ:
 今まで出た映画ね。

松崎:
 その中でエディ・マーフィは5位に入ってるんです。ちなみに1位はハリソン・フォード。『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』など人気シリーズに出てますからね。47億ドルです。2位はサミュエルL・ジャクソン。出演本数がすごいですからね。46億ドル。

 3位がトム・ハンクス。トム・ハンクスは本当にヒット作も多いですからね。4位はモーガン・フリーマン。

中井:
 やっぱり脇役のほうが得ですよね(笑)。

松崎:
 それもポイントで、サミュエルL・ジャクソンとモーガン・フリーマンは、エディ・マーフィが映画スターになったとき、全然無名だったんです。年齢は二人のほうが全然上なんですけれど。

 ところがそのあとのキャリアで、たくさん作品に出て、稼げる俳優になった。その中でエディ・マーフィは何だかんだいって38億ドルを稼ぎ出していて5位なんですよ。1億ドル超えの自分が主演した作品が10本もあるわけですよ。

 そういうことを考えると、年齢を考えたときに脇に回って何かいい役をするとかってなると、まだまだやりようがあるんじゃないかと思います。基本的には主演作しかやらない人だと考えると、まだまだこれからいい作品が出てくるのじゃないかなと思います。

エディ・マーフィさん。画像はWikipediaより。

スタッフ:
 どういう人かにもよるよね。たけしイズムじゃないけれど、ずっとテレビではふざけた格好をして出続けるみたいなイズムがエディ・マーフィの中にもあって、扮装してバカなことをやるというのがどこかにあれば、脇に回るというのはないかもしれない。

中井:
 今、黒人俳優はものすごい数の演技派がいるので、そうしたときに改めてエディ・マーフィがどこのポジショニングを取りにいくのか。年齢的な問題もあるわけですけど、年齢が近い人も今はめっちゃ増えてますからね。幸あれって思います。

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