「今や私企業の方が各国政府よりも多く個人情報を持っている」“個人情報の不正利用”はなぜなくならないのか、プログラマー・小飼弾が解説。
『Facebook』の約8700万人分のユーザー情報が不正利用され、時価総額が10日間で7兆円も下落、広告も減少したことが話題となりました。
これを受けて、4月2日の『小飼弾のニコ論壇時評』では、プログラマーの小飼弾氏と山路達也氏のふたりが、「代わりが利かないほどインフラとなってしまったSNSと、私たちはどう向き合っていくのか」ということについて、議論を交わしました。
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複雑すぎて読まれない利用許諾
山路:
Facebookの情報不正利用、5000万人(放送当時)のFacebookの個人情報をとある会社が集めていて、ユーザーの了解を得ることなく利用していたという話で、非常に燃え上がりましたよね。
小飼:
規約違反だというね。でも、もしユーザーにこういう具体的に、こういう風に利用しますという風に説明されていてわかるでしょうか? だから、あまりに複雑すぎる利用許諾と同じ問題を抱えているような気がしないでもないですね。
山路:
結局、「はい」か「いいえ」で言われたら、みんな無意識に「はい」を押すみたいな。
小飼:
そうそう。
山路:
ただFacebookの場合は、これが、この事件に関連したことになるかちょっとわからないですけど、よくアカウントを乗っ取られて、レイバンの広告が来たりするみたいなことがあるじゃないですか。
小飼:
SBIホールディングスのTwitterアカウントが乗っ取られていたのは、あれは多分、同業界人として笑っちゃいけないところなのかもしれない(笑)。
山路:
笑っちゃいましたね(笑)。あれって、つい最近のことじゃなくて、だいぶ前からの話じゃないですか? その時にユーザーからは「アプリとログイン連携していて、そこから漏れてるんじゃないの?」みたいな突き上げとか、文句はFacebookに行っていたと思うんですよね。
今回、Facebookがこういったアプリの連携で不正利用された場合は、認証期間を短くするとかの対策はとれないものでしょうか?
小飼:
ロシアの会社ということになっていますけれども、このデータというのは、一人一人では意味がないんです。やっぱり5000万人のアカウントとかまとめて取れて、初めて意味が出てくるんですよね。その規模でデータが取れるところというのは、前までは、少なくとも私企業レベルではなかったんですよね。でも、今や私企業の方が、各国政府よりも多く個人情報を持っているんですよね。
山路:
5000万人だったら、ヨーロッパのちょっとした国とかを上回っていますもんね。
小飼:
確かFacebookのアカウント数というのは、もう20億ぐらいあるので、どの国よりも多くて、今や中国とインドを足したくらいあるんですよね(笑)。
山路:
それが一民間企業の胸先三寸、考えひとつでというのは、非常に恐ろしいものがありますね。
小飼:
そうそう、だからよく「NSA【※】が盗聴してるんじゃないか」みたいな意見があります。確かにNSAはすごい役所だし高い能力も持っています。たぶんロシアにも似たような組織があるでしょうし、イスラエル・モサドもやってるかもしれないですけども、単純に、これだけのデータを押さえておくためのファシリティは持ってないというのはハッキリ言える。
※NSA
アメリカ国家安全保障局(National Security Agency)の略称。
だから抜き打ちテストしか出来ないんですけども、これは、抜き打ちでは意味はなく、ビッグデータであるところに意味があるんですよ。
山路:
多くの人の傾向だったりとか、そういうことも含めてのデータだったりするから、サンプルをちょっととってもしょうがない。
小飼:
そうそう。相手が人の場合というのは、自然科学における線形補間というのが非常に難しいし、あまり成り立たない。線形補間というのは、データポイントA、B、Cとあった場合、この辺の場合はどこら辺になるのかなと言ったら、この辺でしょうというのを、グラフから読み取れるという、そういう傾向ね。だからNSAとかのやり方というのは「抜き打ち型」、あるいは「VIP」だけを狙っている。
インフラとなった企業は管理できるのか?
小飼:
今や誰が、FacebookとかAmazonの首に鈴をつけられるのかというのが、由々しき問題なんですよ。もはや彼らが持っているコンピューティングパワーというのは、政府よりも大きいんですよ。
山路:
それは結局、消費者が抗議の声をあげるしかないのでは? でも、Facebookというのは、ある意味インフラになっていたりもするから、使わない代替の方法がなくて、例えば一時的に抗議でアカウントを停止したら、こっちが困りますよね?
小飼:
そうそう、友人をお茶会に呼ぶのすら、ないと困るという。Facebookというよりも、政府よりもデカイ情報機関、情報機関というのをどう統制するか? というのは、ちょっとこれは継続的な宿題にさせて下さい。
山路:
以前、弾さんは「そういうプラットフォーマーが独自の規約を作って契約すること自体は、別に在り方としてはありだろう。それが不満ならユーザーが圧力をかけたらいいじゃないか」という話をしましたけど、ここまで巨大なインフラになってしまうと、それもまた難しくなっちゃうという。
小飼:
その辺もまた難しいんですよ。
Appleは“アンチ・クラウド”思想
山路:
この話題で、AppleのCEOのティム・クックがインタビューで、「もしザッカーバーグの立場だったらどうする?」って聞かれて、ティム・クックは「私はあんな状況には陥らない」と言ったんですけれども。
小飼:
それは何でかと言ったら、Appleはアンチ・クラウドの立場に立っているんですね。なぜならば、ハードウェアでお金を稼げているから。もちろん今は、サービス部門の稼ぎというのもすごく大きくなってきていて、今やAppleにとっての稼ぎというのは、iCloud絡みの稼ぎがMacの稼ぎを上回っているみたいですけれども。
山路:
Appleミュージックとか、iCloudドライブとか、そういったようなものですよね。
小飼:
そうそう。でもAppleは、プライバシーを守るということが得になる会社であり、ポジションなんですよね。
山路:
ある意味、そこをandroidと差別化して売り込みやすくしているところがありますよね。
小飼:
そうそうクック船長が綺麗事を言える理由というのは、まさにそこです。
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