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『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』はなぜ今でも面白いのか「蓄積された“気がかり”を克服する満足感が得られる」

プレイヤーの“表情”を動かすゲームづくり

ピサロナイト:
 現実での子供は、山や水辺で遊ぶ際、地面に埋まっている石を裏返して、そこにいる虫を捕まえたりします。時に、見たこともないような、気持ち悪い生き物に出くわして、驚いて石を放り投げ、逃げ出してしまうこともあると思います。

 石があったらめくってみたくなる。伏せられているものがあれば、覗いてみたくなるという普遍的心理。田舎で育った宮本氏の自然体験が、当作における様々なアイデアのベースになっているのではないかと思います。

 まだ子供であるリンクが、川や湖で泳ぐ様子。薄暗い山の洞窟のなかを、わずかな光を頼りに、恐る恐る歩く場面。うっそうと生い茂る、木々の合間から差し込んでいる、穏やかな木漏れ日。自然豊かな舞台をめぐる冒険は、どこか、子供時代の普遍的な体験を、思い起こさせるものがあるのではないでしょうか。

 『MOTHER』を手掛けた糸井重里氏の言葉に、「MOTHERは“どうでもいいこと”がいっぱい入っているゲーム」というものがあります。

 アイテム「ムシとりあみ」を貸してくれる、体の弱い少年。本来、このアイテムも、宝箱から入手できたとしても、特に不思議ではありません。しかし「ありがとう、君の分まで頑張るよ。早く元気になってね!」。そんなふうに感じてくれるプレイヤーがいるかもしれない。その“可能性”を、彼ら(制作陣)は信じているのだと思います。

 仮に、合理性や効率性という観点で考えるなら、この要素も、本来であれば「必要なし」と判断されたとしても、全く不思議ではありません。しかし、一見どうでもよさそうなことを、面白いアイデアとして考えられる人がいるからこそ、ゼルダがゼルダであり続けられる所以なのだと思います。

 NINTENDO64ソフト『ゼルダの伝説 時のオカリナ』の制作時、宮本氏は「看板を切れるようにすれば面白いんじゃないか」と、当時のディレクターの青沼英二氏に話したそうですが、青沼氏はこの忙しいときに何を言ってるんだ」「自分とは関係のない世界の話だと思っておこう」と、半ば提案を黙殺したそうです。

 のちにその真意を汲み取って、実際に看板が切れるようになり、破片が川を流れていくようになりました。青沼氏は「その世界に触れる感覚が、ゼルダならではの没入感を生み出している」と話しているのですが、宮本氏は「イイと思わへん?」と言って、ニッコリ笑っていたそうです。

 宮本氏は、テストプレイを行う時は、終始、プレイヤーの“表情”を見るようにしているそうです。プレイヤーは笑っているのか。それとも苛立っているのか。その表情に、ゲームに対するプレイヤーの思いが、にじみ出てくるのだと思います。

 『時のオカリナ』で、看板が切れるようになったときに、宮本氏が青沼氏に見せた笑顔は、実際のプレイヤーがそれを見て「少しでも喜んでくれたらいいな」という、プレイヤーの表情を思い浮かべてのものではないかと思います。

 大人たちが、プレイヤーを楽しませたい一心で積み上げた、アイデアの数々。「人を楽しませたい」という作り手の想いと、それに費やした労力は、プレイヤーのゲームに対する“思い入れ”という形となって、いつか必ず報われるはずです。

 プレイヤーがどのように受け止め、何を感じるか。どんなに些細なことも決して疎かにしない。その想像力と感受性こそが、宮本氏、ひいては任天堂がこれまで作ってきたゲームの面白さのひとつであり、プレイヤーの表情を豊かにする源泉ではないでしょうか。

 すべてはプレイヤーに楽しんでもらい、“思い入れ”にしてもらうため。物語の進行には全く関係なくても、細部までこだわり抜く姿勢が、現代でもゲームが愛され続けている理由なのです。

 本動画をノーカットでご覧になりたい方は、ぜひ下記から視聴してみてください。


【ゼルダの伝説-神々のトライフォース】気がかりの蓄積-ゆっくり解説【第25回-前編】


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