『となりのトトロ』と『もののけ姫』は同じ世界観で繋がった物語だった トトロと乙事主に隠された“共通点”をアニメ評論家が解説
💡ここがポイント
●映画プロデューサー鈴木敏夫氏が明かした“トトロ族”の存在
●トトロの正体は『もののけ姫』に登場する“乙事主”(おっことぬし)によって語られていた
●トトロと乙事主の共通点について岡田斗司夫氏が解説した
毎週日曜日、夜8時から生放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。9月2日の放送では、「子供には教えてはいけないトトロ」と題して、宮崎駿監督の劇場アニメ作品『となりのトトロ』の特集が行われました。
パーソナリティの岡田斗司夫氏は、同じく宮崎監督作品である『もののけ姫』と、「実は同じ世界線でつながった物語だった」と指摘。さらに「トトロの正体は“滅びゆく古代日本の神々”である」と、トトロと乙事主にある共通点を交えながら解説を行いました。
─あわせて読みたい─
・『ハウルの動く城』は宮崎駿なりの「家庭論」だった!? お約束満載の“乙女のロマンス”の裏に描かれた”中年男の現実”を評論家が指摘
かわいいだけじゃない『となりのトトロ』
岡田:
ジブリが公式として出している、文芸春秋の『ジブリの教科書』というシリーズがあります。その『風立ちぬ』の巻の中で、鈴木敏夫さんはこんなふうに言っているんですよ。
もともと宮崎駿さんは、トトロについてこんな妄想を膨らませていました。
かつてこの世には、たくさんのトトロ族がいた。彼らは人類と戦って滅ぼされたが、その生き残りがいろんな時代に登場する。
中世なら「もののけ」、江戸時代には幽霊、そして、今は『となりのトトロ』……。
トトロはそういう歴史を背負っている存在なんです。ただかわいいだけの生き物じゃない。恐ろしさも含んでる。
画像はAmazon『ジブリの教科書18 風立ちぬ』より
なかなかショッキングな発言です。『となりのトトロ』を見ている人というのは、普通は「現代の日本は、この話の舞台である昭和30年代の綺麗だった日本から自然が失われてしまった。だから、トトロもいなくなってしまったんだ」と思いがちなんですけど、これは違うんですね。
「トトロたちは、かつて人間と戦って滅ぼされた」というのが、宮崎駿がもともと考えていた『となりのトトロ』のプロットなんですよ。
トトロの正体は“滅びゆく古代日本の神々”である
トトロとは何なのかというと、“古代日本の神々”なんです。太古の日本の森から生まれた神であって、人類より先に日本に住んでいた先住民族です。では、なぜトトロ族は滅んでしまったのか。
これは、2万年前の日本の地図です。この時代の日本は日本列島ではなく“日本半島”だったんです。大陸から弓状に突き出した部分、これが縄文以前の日本です。
当時は日本海というのがなく、巨大な湖があるだけで、北海道、本州、九州、四国は全てひとかたまりになっていました。朝鮮半島との境界も、海峡によって別れていたのではなく、大きめの河が1本流れていただけ。そして、北海道とシベリアの辺りは完全に繋がっています。これが2万年前の日本です。瀬戸内海もありません。
当時の日本半島は、今の日本列島と比べると、かなり面積が広かったんですよ。そして、そんな広大な日本半島だったからこそ、巨大な“照葉樹林”や“落葉広葉樹林”というのを維持することができたんです。「古代日本は大きな森だった」というのは、2万年前の巨大な日本半島だった時代を指しているんです。今の日本列島では、このような巨大な森を維持することはできません。
この2万年前の日本と現代の日本とでは、土地のサイズがとにかく違いすぎるんです。この巨大な森を擁する広い大地があったからこそ、『もののけ姫』に出てくる“犬神”とか“猪神”のような神々が存在できたわけです。
トトロの秘密は『もののけ姫』の中に隠されている
『もののけ姫』の中に、九州を本拠地としていた猪神の主の“乙事主”というのがいたじゃないですか。元々、彼らは西の方、つまり九州を本拠地としていたんですね。乙事主は劇中で「見よ。今の我らの眷族を。身体は小さく、すでに言葉も話せない」と嘆いていました。
つまり、『もののけ姫』に出てくる神様たちというのは、劇中で繰り広げられているような「森を切られて、火を燃やされたから滅ぼされた」というわけではないんです。それ以前に、もっと大きな事件があったんです。
(画像はAmazon『もののけ姫 [DVD]』より
元々、2万年前から1万年前の日本には、広大な森があった。それは、当時の日本が半島だったからです。
ところが、それから平均気温が7度も上がってしまったことにより、海位が100mくらい上昇し、森の大部分が失なわれてしまった。それと同時に“鬼界カルデラ”の大噴火が起こり、おそらく、九州から中国地方の辺りまで、誰も住めない状態になってしまった。
その結果、古き神々は東へ東へ移動することになるんですけど、この時に“弥生民族”が中国の方から朝鮮半島を経由して日本に上陸してきて、稲作を始め、森を伐るようになりました。
なので、乙事主たち猪神というのは、鉄と火が大嫌いなんですね。彼らが鉄を嫌うのは、「鉄を作る民族=稲を作る弥生民族だから」です。火を嫌うのは、鬼界カルデラの噴火を見ていたからです。
まあ、これが『もののけ姫』の基本設定なんですけど。これは、トトロたちの祖先の話でもあるんですよね。
『もののけ姫』に登場する日本の古代神というのは、もともと2万年前の日本半島で栄えていた“クトゥルフ”みたいな存在なんですよ。彼らこそが先住民族であり、人類は他所から来た新参者なわけです。
ただ、最初に移り住んできた縄文人たちというのは、トトロたちとは仲良くやっていました。彼らも農業はやってたんですけども、あくまでも小規模な農業だったからです。しかし、その後に渡ってきた弥生人たちの農業というのは、大規模なもので、太古の森をみるみる伐採して、燃料を作ったり、畑や田んぼに改造したりしたんです。
その結果、日本に元々あった太古の森は、人間にとって便利な“里山”や“雑木林”になってしまったんです。古代のクヌギとかブナとかの樹木がどんどん失くなって、人間にとって利用しやすい自然に作り変えられたんですね。