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「『HUNTER×HUNTER』は漫画界が生み出した奇跡だよ」どんなに待たされても、許してしまう理由を岡田斗司夫が語る

 『HUNTER×HUNTER』の最新刊(34巻)が6月26日に発売されることが明らかになった。

 上記の発表を受け岡田斗司夫氏が「発売まで待ちきれない!」と自身の番組『岡田斗司夫ゼミ(5月14日放送)』にて、『HUNTER×HUNTER』をシーズン毎に分け、徹底的に考察する企画が次回からスタート。

 今回は企画のサンプルとして“第1巻に盛り込まれている作者・冨樫義博氏(作者)の技の数々”について語った。


画像は集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイトより

冨樫さんの画の上手さを語りたい!

岡田:
 第1巻でキャラクターが全員ぽんと出てくるシーンがあるよね。レオリオとクラピカとゴンの3人出てきて、これで3人ようやっとワンフレームで紹介されるんだけども、やっぱり一番最初は、冨樫さんの絵の上手さみたいなものを話そうと思うんだけども、レオリオがしゃがんでいるところだよね。

岡田:
 これ本当は身長差があるからレオリオが背が高いんだよ。なのでワンフレームでやるともっとキャラクターが引いた画になっちゃうんだけども、レオリオを屈ませることによって、3人の身長バランスがわかるようになっている。

  おまけにそれぞれの表情が大きく描かれてる。本来言えばレオリオの顔の高さが高いからこれはウソなんだよね。ゴンの顔の位置が一番高くてというのはウソなんだけども、ただこういう見せ方というので、当たり前のようなシーン、3人いっぺんに出てくるシーンというのを画として飽きにくくしている。

 僕がやっぱり好きなのは、レオリオは横目で見ていて、ゴンは真正面から読者を見ている。ところがクラピカだけ読者を見ていない。この目線の外し方っていうのが、最初からこういう風なキャラクターだと決めて描いているところがわかるんだよね。

第1巻のクラピカのセリフに注目

岡田:
 普通これって描いたら、クラピカもやっぱりこちら側に向けるんだよ。ところがクラピカというキャラクターはそういう風に横から人を見ない。後には、横眼とかいっぱい使うんだけども、この時には、このレオリオのサングラスをかけさせたまま読者を見せる。ゴンは正面から見せる。そしてクラピカも正面から見るんだけども、目線を外しているという、こういう使い方をしてるんだよね。

 この後それぞれの自己紹介のところで、3人を乗せた船長さんが、「お前たちはなんでハンターになりたいんだ。言え!」という風に言ったら、「決闘してでも言わない。」というレオリオに対して、クラピカはいろいろ喋るんだよね。

岡田:
 この喋るのが、セリフがどんどん増えてきて、レオリオが相手にしてもらえなくて、後で揉めるんだけど、レオリオがだんだんはみ出してきて、ついに何も言えなくなってると。このクラピカのセリフの過剰さというので、キャラクターを作っているんだよね。ゴンはそんなに喋るキャラクターじゃないんだけども、レオリオとクラピカが一番初期の内はいっぱい喋ってくれるおかげでドラマが保っている。【※】高畑勲みたいなもんだよね。

※高畑勲
 株式会社スタジオジブリ所属。映画監督、アニメーション演出家、プロデューサー。

岡田:
 自分が『ナウシカ』のプロデューサーをやらないということに関して4時間喋るのと同じように、それだけの手間かけるんだったら、『ナウシカ』のプロデューサーをやれよ! と言いたくなるのと同じように、なぜ自分の志望動機が言えないのかに関して、どんどん過剰に説明していってしまう。その意味では、すごく誠意があるキャラクターなんだよ。

 ところが彼の正直さ、誠意によって人間関係の摩擦というのが起きてきて、レオリオが追い詰められていくという、なんかコメディでありながらこの辺のシーンというのが上手い。

 俺ね、この一連流れで好きなのは、クラピカは幻影旅団を捕まえるためにハンターになると。ここもクラピカが面白いところで、仇を打つっていうんじゃなくて、あくまで捕まえるって言ってるんだ。でも、それを聞いている側は、「そんなことを考えてると死んじゃうぞ。怖くないのか。」と言うんだけど、クラピカの返事が「死は全く怖くない。一番恐れているのは、この怒りがやがて風化してしまうことだ。」と言う。

岡田:
 この「怒りが風化」という表現が面白いよね。キャラクターを一番最初に作った時に、さっきのクラピカのなんで説明できないのかっていうのをダーッと言うのと同じように、いずれ自分がやることに対しての恐れとか死ぬことが怖いんじゃないんだ。自分の中の怒りが風化してしまう。怒りが風化っていうのは、何かっていうと、実は自分の目的というのは、クルタ族の奪われて目を取り返すことなんだよ。

 でも取り返すことをあきらめてしまうとか、復讐することをあきらめてしまう、これがクラピカの言う「恐れていること」。怒りが風化する1段目なんだよね。同時に2段目もこの時の第1巻の最初のシーンからあって、風化するというのは何かというと「復讐が目的化してしまうこと」なんだよね。

 それは自分を失う恐怖、クラピカにとって1番怖いのは何かっていうと、自分を失うことなんだ。だから復讐するモチベーションがなくなってしまうのも怖いし、復讐すること自体が目的化してしまって、自分の中で怒っているからこそ復讐するというのがなくなってしまって、ただ単に自分自身に約束したから、全部、目を取り返すと約束したからという義務感で行動するというのが、自分の中で1番恐れていること。最新のクラピカの動きはもうそれになってるんだよね。

岡田:
 どんどん、クルタ族の目を取り戻してきて、取り返した目を祭壇のようなところにダーッと並べて、じゃあ俺はどこに行くんだろう。と言ってるのがこの1巻の1番最初の「怒りが風化してしまうことを恐れている。」実は、もうクラピカの中では怒りは風化してしまっているんだよ。だからクルタ族のことを言われたら、反射的に怒るんだけども、この時のような何が何でも幻影旅団を捕まえようという気概がなくなっちゃってる。

 現在のクラピカの状態というのがもうこの1巻のところから予言されているところが、冨樫さんは、このキャラクターを最後まで使うつもりで、このセリフを言わせているというのが、俺は面白いなと思う、好きなシーンだよ。

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