話題の記事

「アニメ業界は何でこんなことに? 」ヤマカンこと山本寛と『秒速5センチメートル』アニメーションプロデューサー・竹内宏彰が考える「日本のプロデューサー教育システム」

コミュニケーションに対して、もっと日々修練すべき

竹内:
 それはね、僕の時代は、編集者とかプロデューサーというのは、やっぱり自らクリエイターの人たちのところに、自分から歩み寄るっていうのは、先輩に言われたんです。

 実はこう見えて僕は、引きこもりのオタクだったんです。誰も信じてくれないけど学生時代は、ずっと髪の毛7/3分けで、趣味はマンガとアニメと映画とテレビゲーム。だからこの3つだけ与えておけば僕、どこにも出ないんです。自慢じゃないですけど、1日気がついたらゲームを24時間ずーっとやっていて、メシ食うの忘れていたとか。

 そういう時代でしたから。当時の編集長が私のお師匠さんなんですけど、言われたのが「お前すごく面白いのに、何でそんなに引きこもっていて、人前で喋れないんだ?。そんなでは編集者もプロデューサーもできないぞ」って怒られた。

山本:
 今じゃ、考えられないですね。

竹内:
 そう。だから、お前性格矯正しろと言われて、10年かかりました。パーティーに無理やり連れて行かれるんですよ。カバン持ってついて来いと言って、パーティー会場に行くと沢山の業界の人がいるじゃないですか? そんな中で何をしていいのかわからないので、立っているんですよ。

 すると「お前なんで俺の横に立っているんだよ? バカヤロー!、挨拶して名刺の20枚も貰って来い!」 とか言って、「ええ、どうやるんですか?」と聞くと、「そんなもん、自分で考えろ!」と言われて(笑)「すみません。名刺下さい」とすごく怪しいおどおどしたやつだと周りから思われたでしょうね。

 でも、そういうのを3、4回やると、知り合いがちょっとできるじゃないですか。パーティー会場で「あなた、集英社のお偉い人とご一緒にいましたね」と言って、仲良くなると、他の方をご紹介しますよ、と言ってくれる。だんだん自分の立ち振る舞いとかが分かってくる。

 だから、よく若い人に言うのは、コミュニケーションとか仕事は、一発勝負でみんな出来ると勘違いしているんですけど、スポーツと一緒で訓練が必要なんですよね。

 後で、こにわさんにも聞いていただけるかと思うんですけど、いきなりだとイチローさんにしても、錦織さんにしてもあんなプレイやスマッシュ打てないでしょ?

 僕らが、プレゼンをしたり、例えば監督とスムーズなコミュニケーションを取るというのは、それと一緒で、日々訓練が必要なんですよ。

 ところが日本の人たちは勘違いをしていて、いきなり仕事の話しが出来ると思うけど、日ごろ話してない人が、いきなり話せるかと言ったら、そうじゃないじゃない。

 あの“スティーブ・ジョブズ”ですら、プレゼンテーションをする前に鬼のようなトレーニングして、チェックして台本も作って、それを暗記してやっと、本番で華麗なるプレゼンをやっているわけです。

 コミュニケーションに対して、みんな、もっと日々トレーニングというか修練すべきというのはすごく感じます。そのために一番大事なのは日頃のコミュニケーション。

 これは大人の責任ですが、最近大人があんまり言葉を交わさない。それも大きな声で。それを子供が見ているわけです。

山本:
 ああ、俺も責任感じるな。

竹内:
 山本さんもちょっとありますよ。怒る時は、結構声をあげるんだけど、そうじゃない時というのはね、あまり山本さんから話さない。山本さんとかのポジションとか立場だったら、もっと山本さんの方から若手に対して話しかけて欲しい。

山本:
 だから僕も、やっぱり、こう没頭しちゃうタイプ。仕事になるとそうなるので。もともと監督、演出なんて、机の上で頑張るのが仕事なんで。

自分がいいと思っているものに対して、「なんであなたそうは思わないの?」というところに関しては喧嘩すべき。

竹内:
 でも今度プロデューサーやるんでしょ?

山本:
 だから、やっています。だから、わが身を振返って、それじゃいかんなと思って、スタジオに入る度に一応、一周するようにはしているんですね。

 「おーい、元気か!」みたいな。「今日は頭ボサボサだな!?」みたいなことを言うようには、し始めていますね、だんだんと。俺からまず、治さないとと思っていて。

竹内:
 現在海外向けのアニメコマーシャルを制作しているスタジオは、山本さんを僕が初めてご紹介した“ワオワールド”というスタジオですけど、山本寛が来る!!ということで、最初スタジオは最初みんな緊張してました。

山本:
 (笑)

竹内:
 山本さん、そういう意識ないでしょ? だって彼らからしたら、あの山本寛という、怖いイメージもあるので。

山本:
 怖いんでしょ?(笑)

竹内:
 やっぱり巨匠だし、みんなそうです。だから最初山本さんが来る時にはスタジオの代表も緊張していました。

山本:
 玄関前に待っていて、「おはようございます」と。

竹内:
 スタジオのビルの外で待っているんですよ。こういう光景、昔韓国に仕事を発注した時に、私もあったなくらいめずらしい。今でも山本さんが行くときにはCGプロデューサーが入口で出迎えてくれる。

山本:
 そう! 必ずいるんですよ!(笑)

竹内:
 僕が、「山本さん、あと10分後くらいですよ」と言ったら、「わかりました!」と言って、雨の中を外で待っている。

山本:
 俺、”ワオワールド”さんは、そういう礼儀正しい会社だなと思っていたんだけど、僕シフトだったんですね。

竹内:
 “ワオワールド”さんは、もともととても礼儀正しいです。でもやっぱり、ワオさんにとって山本寛という監督と組むというのは、いい意味でも悪い意味でもプレッシャーがあるから。

山本:
 あら(笑)。

竹内:
 そういう立場を山本さん自身、あんまり認識ないじゃないですか? だから、そういう時に山本さんから労ったりしてくれると、現場は盛り上がるんですよ。

山本:
 そうですね。

竹内:
 だから今回のコマーシャルも、山本さんが最初うーん!って感じでスタートしても、だんだん出来が良くなってくると雰囲気が変わる。「いいんじゃないっすか?」とか、「これいいですよね?」とか、「一発OKです」と監督が言うと現場が、「わーっ!山本寛から一発OK出た!」「うぉー!」 みたいにやっぱり盛り上がっているんですよ。

山本:
 ああ、なるほどね。

竹内:
 それが、山本さんくらいのポジションになっちゃうと、実は裸の王様とは言わないけれど、そういう現場の熱いところが、届いているかどうかというところが微妙。それで孤立感を持っちゃうのかもしれない。

山本:
 頑張らないとね。だから大地さんとも話をしたんですけども、監督は永遠の青年なんで、気分はまだ20代みたいな感じで、20代の若手演出家みたいなノリでやっちゃうんで、それで、そういう甘えもありますよ。もちろん。

 そういう甘えが、ちゃんと自分の中で是正をしなければいけないなという部分も、自分も反省しなければいけないんですけども! 言いたいんですけども!

 ホントに僕、プロデューサーに対して最近、ギャーギャー言っているんだけど、これだけは言っておきたいんですけど、プロデューサーは「ちゃんとクリエイターと話ししなさい!」それだけは言っておきたい。

竹内:
 向かい合ってコミュニケーションは必要。喧嘩するのも僕は、ありだと思います。

山本:
 喧嘩でいいです。喧嘩で全然いいんです!

竹内:
 喧嘩と言っても、いわゆるどうでもいいところの喧嘩はして欲しくない。「お前の言い方が気にくわない」とか、そういうのではなくて、いいものをつくるとか、自分がいいと思っているものに対して、「なんであなたそうは思わないの?」というところに関しては喧嘩すべき。

山本:
 会話もせずに、金も作品も持ち逃げするのは、やめて下さい!

竹内:
 プロデューサーの裏側では、たくさん出資をしたりする人たちがいる。プロデューサーはプロデューサーで、もう、いろんなところから、いろんなバイアスがかかるんですよ。

 各メーカーだったり、制作委員会のいろいろなところから。一番問題なのは、日本の制作委員会方式は、システムとしてはすごくいいんですけども、やっぱりそれぞれの会社、それぞれの立場、それぞれの窓口の利益というのが、微妙に変わってくる点なんです。

 たとえば配信を優先することによって、ビデオグラムの機会損失が起こるじゃないかとか、最近だとゲームも、ソーシャルゲームを先に出すべきか、コンソールゲームを出すべきか? とか、商品化にしても、コミケで先行販売するのはどうなのか?とかいうのがあって大変。

 昔の委員会は、もっとシンプルな立てつけだったから、まずこの順番で、出して、これ出して、だいたい流れとしてはこれで目標行くね、というのがあった。最近良くも悪くも、ネットとか様々な情報量が多くなったの、どういう順番でどういう商品出したら、どうするか、みんなわからなくなって来ている。

 それで、作品数も多いし、ヒットする、しないという落差も大きい。なおかつ、すぐ、そういう情報が広がって、この作品はあんまり売れてないとか、これは評判が悪いというのが、先に出ちゃうじゃないですか。

 そうすると委員会でみなさん何を判断基準にしていいのかわからないんですよね。そういう皺寄せが全部プロデューサーに来ます。プロデューサーとすると、自分の責任の中で、人のお金を預かっているわけなのでプレッシャーは大変。

山本:
 それを同情してもいいんだけど……。

竹内:
 同情はいらない。

山本:
 だから、それで現場が崩壊してしまうというのは、やっぱり避けるべきだと思う。

竹内:
 それは、そうだと思います。

この記事に関するタグ

「アニメ」の最新記事

新着ニュース一覧

アクセスランキング