連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」第四回
2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載の第四回です。引き続き、第一作『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』の制作秘話をお送りします。(第三回はこちら)
「超歌舞伎」をご覧に頂いたことがある方も、聞いたことはあるけれどまだ観たことはない! という方も、本連載を通じて、伝統と最新技術が融合した作品「超歌舞伎」に興味を持っていただければと思います。
4月24日(土)・25日(日) 各日18:00より、「ニコニコネット超会議2021」にて超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵』上演
・超歌舞伎 公式サイト
https://chokabuki.jp/
・チケット購入ページ
https://dwango-ticket.jp/
第四回「上演前日まで抱いた、期待と不安」
文/松岡亮
さて、台本執筆に四苦八苦して、改訂を繰り返していたさなかの、2016年3月24日。六本木のニコファーレで行われた超会議の発表会で、いよいよ超歌舞伎の企画が発表されることが決定し、中村獅童さんも舞台出演の合い間を縫って、その場に駆け付けることとなりました。
そして、2016年の超会議の企画の詳細が次々と発表され、いよいよ超歌舞伎の番がめぐってきました。(ちなみに、〝超歌舞伎〟という名称は、この発表会から正式にリリースされて世の中に出たものです。)
まずは超会議で歌舞伎公演を行うということで、会場からは驚きの声があがり、獅童さんの登壇で盛り上がりは最高潮に。また『千本桜』の楽曲が場内に流れた瞬間、会場を圧するどよめきに、舞台裏に待機して様子を伺っていた私や前回のコラムに登場したプロデューサーは、超歌舞伎がニコニコユーザーの期待値の高い企画であることを肌身で感じて、身が引き締まる思いをしました。
手さぐりでの稽古
やがて、桜の季節を迎える頃には、ようやく台本も決定稿の形になり、4月23日からいよいよお稽古が始まりました。
中村獅童さん、初音ミクさんを始めとした出演者の皆さんも、そしてスタッフの我々も、とにもかくにも初めてのことばかりの、手さぐりをしながらのお稽古で、常にも増しての疲労感に襲われたことを覚えています。
それ以上に、歌舞伎に初めて携わるスタッフの皆さんは、とまどいの連続だったと思います。今では笑い話のひとつとなっているのですが、歌舞伎の台本、特に立廻りの場面のト書きの常とう表現である、「ト、立廻りよろしくあって」の、「よろしく」という表現がそもそも「???」な表現だったと思いますし、この「よろしく」ある部分が、実際に動き始めたら、5分以上あったことは、大きなカルチャーショックだった思います。
歌舞伎の色が濃い「超歌舞伎」
稽古場でのお稽古で作品の輪郭線が見えてきたことにより、この時点での幕切れの演出、方向性について、超歌舞伎の総合プロデューサーである横澤大輔さん、演出の藤間勘十郎師、主演の獅童さん、そして我々スタッフを交えて、再考することとなりました。
その結果、歌舞伎的な幕切れとした方が、より盛り上がるのではないかという結論に至り、2016年の『今昔饗宴千本桜』の、あの幕切れの演出となりました。
とはいえ歌舞伎製作チームには一抹の不安がありました。それは、超歌舞伎の作品のトーンが、全体的に歌舞伎色が濃く、初めて歌舞伎をご覧になる若い世代のお客様に、すんなりと受けいれてもらえるのか、ということでした。(事実、1年目2年目は歌舞伎独特の台詞が難しいのではということから、台詞字幕がスクリーンに投影されていました。)
結果からみれば、この不安は杞憂におわり、むしろ古典歌舞伎で培われてきた演出、衣裳、化粧が、デジタル演出とうまく融合して、超歌舞伎ならではのカラーが確立されたことは、ご承知のとおりかと思います。
「果たしてこれで大丈夫なのか?」
4月27日、初日を明後日に控え、稽古の場所も幕張メッセのリハーサル室へと変わりました。全出演者が揃ってのお稽古は実はこの日が初めてでしたが、そこが歌舞伎の凄いところ。経験豊富な手練れの歌舞伎俳優さんたちは、あっという間にそれぞれの動きと立廻りの流れを覚え、稽古初参加というブランクを感じさせません。
さらにこのお稽古には、鳴物の演奏家の皆さん、附打(つけうち)さんも参加したこともあって、獅童さんを始め、出演者の皆さんは本番の舞台さながらの息と動きとなり、作品の全体像が立ち上がってきました。
これと同時並行して、イベントホール内では、デジタル演出チーム、またNTTさんのKirari!を始めとした、最新の技術に携わっていらっしゃる皆さんが、限られた時間内で最善を尽くすべく、リハーサルや確認作業、調整作業を続けていらっしゃいました。
翌28日には、イベントホールの舞台を使ってのお稽古を経て、夜にはゲネプロが実施され、大きなトラブルもなくひとまずゲネプロは幕となりました。
とはいえ、出演者の皆さん、スタッフの皆さん、全ての関係者が初めて続きのことばかりで、「果たしてこれで大丈夫なのか?」と、期待と不安が複雑にからみ合ったゲネプロでした。
(第五回へ続く)
・第五回
https://originalnews.nico/310031
執筆者プロフィール
松岡 亮(まつおか りょう)
松竹株式会社歌舞伎製作部芸文室所属。2016年から始まった超歌舞伎の全作品の脚本を担当。また、『壽三升景清』で、優れた新作歌舞伎にあたえられる第43回大谷竹次郎賞を受賞。NHKワールドTVで放映中の海外向け歌舞伎紹介番組「KABUKI KOOL」の監修も担う。
■超歌舞伎連載の記事一覧
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