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連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」第九回

 2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載の第九回です。(第八回はこちら
 
 「超歌舞伎」をご覧頂いたことがある方も、聞いたことはあるけれどまだ観たことはない! という方も、本連載を通じて、伝統と最新技術が融合した作品「超歌舞伎」に興味を持っていただければと思います。

 京都・南座にて9月3日(金)〜9月26日(日)に「九月南座超歌舞伎」の上演が決定! 

・九月南座超歌舞伎公式サイト
https://chokabuki.jp/minamiza/

超歌舞伎の型が形作られた第二作目『花街詞合鏡』

文/松岡亮

 昨年と同様に、今年もニコニコネット超会議の開催期間中に、超歌舞伎の過去作品の一挙放送が行われ、こちらも数多くの皆さんにご視聴いただきましたが、今回は2017年4月に上演された『花街詞合鏡(くるわことばあわせかがみ)』について振り返りたいと思います。

『花街詞合鏡』(2017年)のキービジュアル

 超歌舞伎第1弾の『今昔饗宴千本桜』が盛況裡のうちに幕を閉じてから約4か月後の2016年の秋のこと。2017年4月のニコニコ超会議に於いて、超歌舞伎をどのような形で実施するかということを議題にしたミーティングが行われました。
 今だから明かせるお話しですが、この時には『今昔饗宴千本桜』を再演しても良いのでは?という意見もありました。そしてそれぞれの立場から、さまざまな意見が出るなかで、やはり新作の超歌舞伎を上演しようという結論に至り、初音ミクさんの花魁姿を見てみたいということから、廓(くるわ)を舞台にした新作を上演することが決定しました。
 廓が舞台ということから、劇中曲は重音テトさんの「吉原ラメント」を使用することに。テトさんのことを全く存じ上げなかった私を始めとした歌舞伎製作チームは、テトさんが誕生するに至った経緯を学ぶところから、2年目の超歌舞伎は始まりました。

『花街詞合鏡』(2017年)

2年目の難しさとプレッシャー

 このコラムでも何度も触れたように、とにもかくにも時間のない中で作り上げた『今昔饗宴千本桜』と異なり、2年目の『花街詞合鏡』の場合、十分な準備期間もありましたが、逆に前作以上の満足度の高い作品を目指すプレッシャーがそれぞれのセクションであったと思いますし、私自身もそれを感じていました。準備稿を作成するためのプロットも何度か書き直し、最終的なプロットが完成したのは2016年の年末でした。
 そこから台本化を進めましたが、いまこの文章を書くにあたって、準備稿の前段階とでもいうべき2017年1月14日付の台本を確認したところ、実際の上演台本とは随分と差異があり、いま読み返すと恥じ入るばかりの内容でした。
 そこから打ち合わせを重ねるなかで、台本の改訂推敲を進め、ほぼ1か月後の2月13日付の第6稿の台本は、実際の上演台本に近い、すっきりとした内容に進化していました。

 この年、超歌舞伎に欠くことのできない、中村蝶紫さん、澤村國矢さん、中村獅一さんのお三方が、大阪松竹座の「二月花形歌舞伎」にご出演していたこともあり、ミクさんへの振り写し、所作指導を2月13日の終演後に大阪で行いました。
 舞台への出演を終えたばかりでお疲れのなか、蝶紫さん、國矢さん、獅一さんは快く振り写し、所作指導に参加して下さったのですが、花魁道中の八文字の歩き方を始めとした、お芝居の動きを指導された蝶紫さんは、この日の指導が全てその年の超歌舞伎の舞台に繋がるということもあり、大変な緊張感をもって臨まれて、全てを終えたあとの疲労感はなかなかのものであった旨、後日、ご本人から伺いました。

『花街詞合鏡』(2017年)

『今昔饗宴千本桜』と繋がる物語

 さて、ご存じの方も多いかと思いますが、『花街詞合鏡』は『今昔饗宴千本桜』の後日談的な要素をもっていて、中村獅童さん演じる八重垣紋三(やえがきもんざ)は、白狐が守護する名刀小狐丸を所持しており、また國矢さん演じる蔭山新右衛門(かげやましんえもん)は、青龍が乗り移ったこともあり、不思議の力を有しているという設定になっています。
 こうした設定もあることから、2019年の南座超歌舞伎公演で、『今昔饗宴千本桜』と『花街詞合鏡』を通し狂言として上演してみたら?という意見もありました。たしかに面白そうなアイデアなのですが、現実的には台本の構成以外にも、演出面を含めいろいろと難しい問題もあって、このアイデアはボツとなりました。

『花街詞合鏡』(2017年)

 ちなみに小狐丸は、『御伽草紙戀姿絵』にも源頼光の所持する名刀として登場しました。本来、頼光が所持する名刀は膝丸(のちに蜘蛛切丸)なのですが、超歌舞伎のこれまでの流れを受け継ぎ、あえて小狐丸としました。その上で、コメント誘発する頼光の台詞のあと竹本の詞章は、

〽いかに日の本の人々よ 古(いにしえ)の白狐(びゃっこ)のごとく 我に力をあたえ給え
と祈念なしたちまち現る その威徳

とし、『今昔饗宴千本桜』へのオマージュ的な詞章としました。

超歌舞伎の型が見えてきた作品

 いま改めて『花街詞合鏡』について冷静に考えると、獅童さん、國矢さんの熱演、ミクさんの花魁姿の美しさ、テトさんの留め女の面白さ、そして観客の皆さんの熱狂によって成立した作品であり、台本としてはいろいろと問題点がありました。
 その点については誠に汗顔のいたりなのですが、各セクションでさまざまな模索が行われ、試行錯誤のなかで超歌舞伎の型が、形作られていった作品と位置付けることができるのではないかと考えています。

『花街詞合鏡』(2017年)

 このコラムの第三回で触れた、コメント誘発のための「数多の人の言の葉」の台詞がカットされそうになったものの、最終的に歌舞伎サイドのプロデューサーが死守してくれたエピソードなども、そのひとつだと思います。
 またこの作品の上演後、獅童さんが病気療養に入られましたが、超歌舞伎ファンの有志の方々が「言の葉千本桜」を獅童さんに送って励まして下さったことは、獅童さんのみならず、私たちスタッフにとっても忘れられない出来事でした。

執筆者プロフィール

松岡 亮(まつおか りょう)

松竹株式会社歌舞伎製作部芸文室所属。2016年から始まった超歌舞伎の全作品の脚本を担当。また、『壽三升景清』で、優れた新作歌舞伎にあたえられる第43回大谷竹次郎賞を受賞。NHKワールドTVで放映中の海外向け歌舞伎紹介番組「KABUKI KOOL」の監修も担う。


■超歌舞伎連載の記事一覧
https://originalnews.nico/tag/超歌舞伎連載


 

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