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オリジナルアニメ制作のために1年半かけて小説を作る!? 『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』に詰め込まれたオリジナルアニメの可能性

宇宙を舞台にした「股旅もの」から時を超える「股旅もの」に

──公式サイトに掲載されている座談会では、長月さんにお声がかかった段階ではすでに「AI」と「歌もの」というテーマがあったとお話されていましたが、このテーマじたいはどなたから出てきたものなのでしょう?

長月:
 それは梅原さんです。梅原さんが俺のところに話を持って来るにあたって考えてくれたアイデアです。

 たしか、その時点でヴィヴィというAIの女の子はもういたはず。あ、でも、考えてみれば、そのアイデアがどこから出てきたのかって、ちゃんと聞いたことがなかったですね。

梅原:
 長月さんに言われるまで、すっかりその流れを忘れていました(笑)。

 長月さんにこの仕事の話を持って行くにあたって、簡単なものであっても、何かしらの成果物がないとさすがに失礼というか、話のしようがないと思ったんですよね。

 そこで「AI」と「歌もの」というテーマが出てきて、当時はさらに「宇宙」の要素もあったんです。ヴィヴィというキャラクターが生まれたのは「宇宙」の要素からでした。

──宇宙の要素が美少女型のAIに繋がった……?

梅原:
 ボイジャーのゴールデンレコードってありますよね? 

──アメリカが進めていたボイジャー計画の宇宙船に積み込まれた、地球外知的生命体に向けたメッセージや知識を収録したアイテムですよね。

梅原:
 そうそう。地球の文化や各国の大統領の挨拶を収録したあれが、人型になって宇宙を旅しているイメージを思いついて、それを「AI」と「歌」というお題に乗せたんです。

 「ゴールデンレコードのような存在である人型AIが、いろんな惑星を回って、歌の文化を伝えている話はどうか?」と。企画の初期は、そんなふうに概要を説明していたはずです。

 結局、そこから紆余曲折あったので、最終的にはボイジャー(Voyager)の頭文字からとって「ヴィヴィ(Vivy)」という、名前の要素くらいしか、企画に痕跡は残っていませんけど。

──今うかがった設定だと、もっとロード・ムービー的な内容にするおつもりだったのでは? たとえば『銀河鉄道999』みたいな。

長月:
 そうです。『銀河鉄道999』や『キノの旅』みたいな、ロード・ムービーというか、いわゆる「股旅もの【※】」っぽい印象の企画でした。

※小説・演劇・映画などで、各地を流れ歩く博徒などを主人公にして義理人情の世界を描いたもの。

 「Voyager」のアルファベットの数だけ、ヴィヴィにシスターズと呼ばれる姉妹機がいて、先に星に送り込まれている彼女たちをヴィヴィが回収する話にしたらどうですか? みたいな話を、そのときにしたのを覚えてます。

──わ、おもしろそうです。

長月:
 で、宇宙各地をまわるとき、ヴィヴィ単体だときっと難しい。パートナーが必要だろう。宇宙規模のものすごい距離を冒険することになると、何千年、何万年というものすごい時間経過があるだろうから、そう考えるとやっぱりパートナーも人間ではなくAIだ。

 宇宙船のコアユニットが、星についたら一緒に移動してついてくることにして、そのための端末……コアユニットの小型版のような、ふわふわとヴィヴィのそばに浮かぶ非人間型の相棒がいることにしたらどうか。そんな思考過程を経て、マツモトの原型にあたるキャラクターができた。

 その段階で、マツモトの名前は開発者である博士に由来していて、博士とヴィヴィは毎エピソードの頭とおしりで惑星間通信を行う。通信で送っているのは日記的な文章で、その内容を通じて、ヴィヴィの成長というか、ちょっとした変化の積み重ねを描いていきましょうか……みたいなところまで、話が進んだんですよね。

 そのときのイメージは、完成した『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』に比べて、もっとしっとりとした内容の物語でした。

──そこから企画が大きく変わったのは、どのような経緯で?

長月:
 いろいろな惑星を旅するとなると、惑星ごとの美術の設定を作る必要性があり、「すごく大変ですよね」となり。それで宇宙の股旅ものは無理だと判断しました。

 ただ、その段階でそれぞれのシスターズのエピソードの話の土台までは出来上がっていて、そのアイデアを捨てるのは惜しいし、AIの姉妹という設定も活かしたい。マツモトの存在もいい感じだし、どうしようかな……となって、じゃあ、惑星間を旅するのではなく各時代を旅する、時の股旅ものにすることに。

 これなら場所は地球で変わらない。時代が変わったら、それはもう、お話の上では場所を移動するのと似たようものなので、お話を構成する要素はそのまま残せると思ったんです。

──とはいえ、ほぼ企画がひっくり返った形で、そこからご苦労があったのでは。

梅原:
 まあ、オリジナル作品の企画会議では、話がひっくり返らないことはまずないので……(苦笑)。

長月:
 今になって考えたら、地球を舞台にした時間もののほうが俺のこれまで書いてきた得意分野に寄せられるし、しっとりした雰囲気もなくなって、観る人がより楽しみやすい話にもなる。結果的にはいい判断でしたね。

「冴木がいりませんね」ふたりの判断が合致

──さきほどオリジナルアニメながら原作ものを手掛ける際と同じ感覚で作れたというお話が出ましたが、未発表の小説を原案とする『Vivy』ならではのユニークさ、他の現場との違いについて、これまで数々の現場で仕事をされてきた梅原さんの目からはどのように見えたのでしょう。

梅原:
 原作が手元にある状態としては同じではあるんですが、その原作にあたるものが、まだ世に出ていない状態じゃないですか。だから、アニメのシナリオにするときの自由度も高い

 原作もののアニメを作る際に、原作のストーリーラインを大きく逸脱させるなんてことは基本的にやってはいけないことなんですが、『Vivy』に関してはそれができる。シナリオを書くのも原作者なわけですし。

長月:
 世に発表されていない原作だから、変えても見る人にはわからないですからね。「原作と違うじゃないか!」みたいなことを言いようがない(笑)。

 たしかにそう考えると、ちょっとおもしろいですね。原作がある状態でアニメの脚本が書けるけど、脚本会議の内容を受けて原作が変わってもいい。

梅原:
 そうなんですよ。物語の結末が決まっているが、そこに至るまでの道筋を自由に変えていいというのは、原作ものとは明確に違います。そういう意味も込みで「原案小説」という呼びかたを選んだわけですしね。

──それこそ、梅原さんのご担当された原案小説の2巻は、内容がかなりアニメと違いますよね。

梅原:
 70%ぐらい違うはずです、

──それはどういう判断だったんですか?

梅原:
 2巻の冴木のエピローグを、アニメで描く尺(映像の長さ)がなかったんです。でも冴木が生き残ってしまうと、今後の展開に障りがある。それでどうするかを話し合ったら、長月さんがアイデアを出してくれました。

長月:
 7、8、9話でヴィヴィの人格が一旦引っ込んで、別人格のディーヴァが出てこないといけないこともあって、何かしらの大きな転換をそこで迎えないといけない。それも理由になって、ふたりの判断が合致したんです。

梅原:
 「冴木がいりませんね」。

長月:
 「じゃあ、冴木、ヴィヴィの前で殺します?」みたいな。

──……長月先生、ひどい……(笑)。

長月:
 いやー、言い出したのは俺ですけど、多分、俺が言わなくても梅原さんが言い出していたでしょう!

 どっちが先に言ったかでしかないと、こういう話をするとき、俺はいつも思っています。モモカの飛行機も、俺が言わなくても、梅原さんがきっと落としてました。

梅原:
 そこはちょっと異を唱えたいなぁ(笑)。あの展開は長月さんじゃないと出てこなかったと思います!

──マツモト役の福山潤さんも『Vivy』のラジオでおっしゃっていましたけど、あのシーンは冴木が死ぬだけではなく、ヴィヴィのポジティブな気持ちをあらわしたはずのセリフが最後のひと押しをするような流れになっているのも強烈で……やっぱりひどいですよ!(笑)

梅原:
 福山さんは台本を読んだ時点でヘヴィだと感じたとおっしゃってくださってましたけど、でもアフレコ終了時には、まだあれほどヘヴィな印象でもなかった気がするんですよ。完成したものを見て、「こんなヘヴィになる?」って全員が思ったんじゃないかな

長月:
 人間とAIの血でそれぞれ手が汚れている描写は書いたけど、あそこまでじゃないですよねえ。

梅原:
 右手と左手の色がはっきりと分かれた、あれだけショッキングな絵になったのは、あの回の絵コンテを担当してくれた助監督の久保雄介さんと、エザキシンペイ監督の力です。シナリオのト書きを、大きく膨らませてくれた。言いかたを変えれば、監督・助監督の仕業です(笑)。

長月:
 そうそう。「冴木を殺す」というアイデアも、監督に言われたような気がしてきたなぁ……。

梅原:
 白々しい!

長月:
 この作品における俺は、ぶっちゃけ名義貸しですから(笑)。

──またまた、ご冗談を(笑)

ヴィヴィの成長物語をわかりやすく描けたのはエザキ監督のおかげ

──しかし今の話は絵コンテ段階でのアイデアの追加でしたが、ホン読みの段階でも、おふたり以外の方のアイデアがシナリオに取り入れられていますよね。それで大きく変わったところはありますか?

長月:
 ホン読みには基本的に、監督のエザキさん、それから助監の久保さん、WIT STUDIOの和田さんや大谷さん、そしてアニプレックスの高橋祐馬さんがいて、そこにWIT STUDIOのスタッフの方が何人かさらに加わる形だったんです。だいたい参加者は10人くらいかな。そのなかでも大きかったのは、エザキさんと高橋さんですね

 おふたりとも、とても謙虚な姿勢で視聴者の目線を考えている姿が印象に残りました。この作品はジャンルとしてはSFで、設定には難しいところもある。それをどこまで噛み砕いたらいいかは、俺や梅原さんにはなかなかわからない。

 そんなとき、おふたりが「わかりにくいです」と言ったら、多分、視聴者にもわかりにくい。視聴者目線の指針になってくれたんです。監督のエザキさんはもちろん、高橋さんも数多くのアニメをご覧になっている方だから、本当はもっとわかっているはずなんですけどね。ありがたかったです。

梅原:
 具体的に大きな変更点だと、展開が先に進むにつれて、ヴィヴィの表情が増えていくのは、エザキ監督のアイデアだったはずです。ヴィヴィが最初は敬語で話すのもそうか。ヴィヴィの成長物語としての側面をわかりやすくできたのは、エザキ監督のおかげです。

長月:
 そうですね。エザキ監督は『Vivy』のストーリーの縦軸を強く意識してくださっていました。ただのオムニバス作品ではなく、どういうお話がやりたくて、観た人がそのお話を追う中で、ヴィヴィというキャラクターの何を見て、どこを楽しんで、何を喜べばいいのかを、細かく押さえてくださった。

 この作品のヴィヴィの変化を楽しむ、成長物語としての部分には、エザキさんの意見がすごく入ってます。原案小説からアニメにするうえでのエピソードの取捨選択の方針も、ヴィヴィに影響を与える要素を残すことを優先にしたのは、監督のそうした思いがあったからです。

梅原:
 あと、そうだ。タイトルを考えたのもエザキ監督ですね。「Vivy」という単語は、最初にお話したとおり、先に決まっていたんですけど、後ろに何かサブタイトルをつけたいですねとなったときに、「Fluorite Eye’s Song」というフレーズを出してくれたのは監督なんです。

長月:
 カメラのレンズには蛍石が使われている、ヴィヴィが100年の旅で見て来たものの歌を作る作品なのだから、Fluorite Eye’s Songだ……という、理論武装もばっちりで、あれは驚きましたよ。「こんなちゃんとしたタイトルの決め方、ある?」と思いました。

──ヴィヴィの成長といえば、マツモトとの「バディもの」としての要素は、どなたの持ち味なんですか?

梅原:
 そこは長月さんです。

長月:
 そうですね。マツモトのキャラ付けについて、最初は俺だと思います。

──やっぱり。マツモトは長月先生のキャラ感があります。

長月:
 それ、言われるんですよね。俺自身には全然そういう感覚ないんですけど、「キャラが『リゼロ』っぽい」とか。

梅原:
 わかんないな。どういうことだろ。

──マツモトの多弁なところや、ちょっと捻った返しをするところは、『リゼロ』のスバルっぽいと感じました。

長月:
 なかなか自分のカラーは分からないものですねえ。マツモトは要するに、企画が股旅ものだったころ、「股旅ものには主人公と違う見方をする相方がいなくてはいけない」と考えたから、ああいうキャラになったんです。

 『銀河鉄道999』ならメーテルと鉄郎、『キノの旅』ならキノとエルメス。そう考えるとわかりやすいのではないかと。

 あと、海外ドラマが好きでよく見るんですけど、最初は仲の悪いバディが、最後本物のバディになるのは、王道の展開じゃないですか。それもこの作品に盛り込みたかったんです

──なるほど。

長月:
 割とガチで、この作品は自分の好きなものを詰め込んでいるんですよ。お話もだし、キャラクターにしても嫌いなキャラはいなくて、なかでもマツモト、エリザベス、アントニオ、垣谷はお気に入りです。

 各話のクリフハンガー的な要素も、自分が長い間ウェブで小説を書いてきて培ってきた技術を存分に発揮できて、ロジックの詰めかたとエモーショナルな要素のバランスもよかったんじゃないかと手応えも感じています。

 もし、見てくださったみなさんの琴線に触れたのであれば、声を上げてくだされば、近いテイストの作品が今後も増えていくんじゃないかと。俺としては、また梅原さんと組んで、こういう作品を作りたいなと思っているので、ぜひ、応援してもらえたらうれしいです。

梅原:
 画作りに関しても、いろんなスタッフが苦心してくれて、とにかくすごいものになりました。最終話まで見たあと、あらためて見返して、すごさをさらに感じてもらいたいです。

 あと音楽。とくに歌ですね。神前 暁(MONACA)さんの素敵な曲に、只野菜摘さんが作品の内容と結びついた素晴らしいクオリティの歌詞をつけてくださった。歌詞を噛みしめながらもう1回見ていただけると、また見えかたが違ってくると思います。

長月:
 『Vivy』はいつも以上にロジックを積んだ作品になっています。最後に人間とAIが戦争になり、その戦争をヴィヴィが歌で止める。そのオチに必然性をもたせるために、何をするか。作品の中で起きた出来事に、無駄はまったくないです


▼『Vivy -Fluorite Eye’s Song- 』1話▼

▼『Vivy -Fluorite Eye’s Song- 』特別総集編▼


Blu-ray&DVD『Vivy -Fluorite Eye’s Song- 1』

2021年6月30日より発売中。

●『Vivy -Fluorite Eye’s Song- 1』Blu-ray購入ページ
●『Vivy -Fluorite Eye’s Song- 1』DVD購入ページ

収録話
1話「My Code -歌でみんなを幸せにするために-」
2話「Quarter Note -百年の旅の始まり-」

完全生産限定版特典
■三方背スリーブケース
■キャラクターデザイン:高橋裕一描き下ろしデジジャケット
■特典CD
・オリジナルドラマ「Present for You」
 (ヴィヴィとモモカの出会いを描いた書き下ろしストーリー)
・オリジナルキャラクターソング「Present for You」 ヴィヴィ(Vo.八木海莉)
■脚本集(1話・2話・オリジナルドラマCD)
■特製ブックレット
■音声特典
・1話 スタッフオーディオコメンタリー
 (シリーズ構成・脚本:長月達平×梅原英司)
・2話 キャストオーディオコメンタリー
 (ヴィヴィ役:種﨑敦美×マツモト役:福山 潤)

公式サイト:https://vivy-portal.com/
公式Twitter:@vivy_portal


劇中歌収録アルバム「Vivy -Fluorite Eye’s Song- Vocal Collection ~Sing for Your Smile~」

2021年6月30日より発売中。

●「Vivy -Fluorite Eye’s Song- Vocal Collection ~Sing for Your Smile~」購入ページ

■収録楽曲
01. Sing My Pleasure / ヴィヴィ(Vo.八木海莉)
02. Happy Together / 汎用型歌姫AI(Vo.コツキミヤ)
03. My Code / ヴィヴィ(Vo.八木海莉)
04. A Tender Moon Tempo / ヴィヴィ(Vo.八木海莉)
05. Ensemble for Polaris / エステラ(Vo.六花)・エリザベス(Vo.乃藍)
06. Sing My Pleasure(Grace Ver.) / グレイス(Vo.小玉ひかり)
07. Galaxy Anthem / ディーヴァ(Vo.八木海莉)
08. Elegy Dedicated With Love / オフィーリア(Vo.acane_madder)
09. Harmony of One’s Heart / ディーヴァ(Vo.八木海莉)
10. Fluorite Eye’s Song / ヴィヴィ(Vo.八木海莉)


オリジナルサウンドトラック「Vivy -Fluorite Eye’s Song- Original Soundtrack」

2021年6月30日より発売中。

●オリジナルサウンドトラック「Vivy -Fluorite Eye’s Song- Original Soundtrack」購入ページ

神前 暁(MONACA)作曲・プロデュースによる、作品を彩る劇伴44曲収録。
キャラクターデザイン:高橋裕一描き下ろしデジジャケット、三方背スリーブケース仕様。特製ブックレット封入。

■収録内容
劇伴44曲収録
■商品仕様
・キャラクターデザイン:高橋裕一描き下ろしジャケット
・三方背スリーブケース仕様
・特製ブックレット

©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

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