『東京卍リベンジャーズ』のルーツは『SLAM DUNK』『バガボンド』にあった? 現役漫画家が語る『東リベ』に見える“井上雄彦”の影響
和久井健氏による漫画『東京卍リベンジャーズ』(以下、『東リベ』)は、「週刊少年マガジン」で連載され、単行本の累計発行部数が3200万部を突破した大人気作品。また、テレビアニメ化と実写映画化も実施され、映画の興行収入が43億円を突破するほどの人気も集めています。
ニコニコ生放送「山田玲司のヤングサンデー」にて、漫画家・山田玲司氏は、和久井氏が描く画風のルーツに言及。同作が題材としているヤンキー文化が、漫画業界でどのような変遷をたどっていったのか解説しました。
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■『東リベ』マイキーと『バガボンド』吉岡清十郎は非常に似た雰囲気
山田:
和久井健さんの絵なんですが、井上雄彦【※1】さんに近いんです。タッチの付けかた、目の描きかた、一重でごっつい男のかっこよさを描いている。
また、その井上雄彦さんの絵は池上遼一さんからきているので、池上遼一【※2】さん・井上雄彦さん・和久井健さんという系譜として見ることもできます。
※1……井上雄彦。『SLAM DUNK』、『バガボンド』などを手掛けた漫画家。
※2……池上遼一。『スパイダーマン』、『サンクチュアリ』などを手掛けた漫画家。
それだけではなく、『東リベ』は、雰囲気が非常に『SLAM DUNK』に似ているんですよ。
実際に「『SLAM DUNK』のアイツと『東京卍リベンジャーズ』のアイツが似ているよね」と話している方も数多く見かけますし、読者のみんなも気付いていたんだなと。
和久井さんは井上さんの大ファンだと思います。ただ、和久井さんの情報は、ほとんど表に出てきていなくて、実際の年齢は明かされていません。でも、決定的に「THE井上雄彦フォロワー」だとわかるキャラクターがひとりいます。
それがマイキーです。彼は『バガボンド』の吉岡清十郎に大きく影響を受けていると思います。髪型もいっしょで、小さい体躯ながら、一門を連ねる立ち位置も似ている。
奥野:
確かに! ひょうひょうとして、繊細で……。
山田:
『バガボンド』の吉岡清十郎と『東リベ』のマイキーは、非常によく似た雰囲気があります。
それくらい井上さんの作品を好きだったんだなと思いつつ、それだけではありません。『疾風伝説 特攻の拓』(以下、『特攻の拓』)の影響も受けていますよね。
これは『週刊少年マガジン』の伝統という部分でもあります。『東リベ』には『特攻の拓』アングルがやたらと出てくるんですよ。バイクにまたがって振り返るという暴走族漫画における定番中の定番のポーズです。
奥野:
この構図は『特攻の拓』から来ているんですか?
山田:
『特攻の拓』に多い構図ですが、源流としては『仮面ライダー』から来ているんじゃないかと思っています。
そこから様々な系譜で、色々な人たちがバイク漫画を描くんですよ。その表現方法がヤンキー漫画でひとつのピークに達します。そしてその流行った場所は、おもに講談社なんです。
小学館だとヤンキー漫画が意外と少なくて、『今日から俺は!!』とか……。その後に『闇金ウシジマくん』のような作品も現れますが、ヤンキー漫画という雰囲気でもないので。
小学館の読者層は「ちゃんと学校行こうよ」という人たちが多かったんですよ。そこは、あだち充【※3】先生や高橋留美子【※4】先生が引っ張ったという部分でもあります。
※3……あだち充。『タッチ』、『H2』などを手掛けた漫画家。
※4……高橋留美子。『うる星やつら』、『犬夜叉』などを手掛けた漫画家。
■時代劇化していく「ヤンキーもの」、ネタ化する「不良漫画」
山田:
「ヤンキーもの」がかつての「戦争もの」のように、実際のヤンキー文化を体験していない人たちが出てくると、「ヤンキーもの」が時代劇化していくと思います。
「かつてあった何か」という物をみんなが枠として使う……だから、謎のリーゼントが続くわけですよね。それはジェームス・ディーンに憧れている時代があって、ロックンローラーがいて、そのころに流行った型のようなモノがちょんまげ文化のように残っている。
しかし、1990年代になると「ヤンキーもの」にロン毛が入っていくんですよ。そんなタイミングで『SLAM DUNK』が、まさに同じことを作中でやっていました。だから『SLAM DUNK』の桜木花道が、リーゼントをやめるということはリアルタイムで描かれていることだったんです。
これがもっともハッキリ表れているのが、連載開始時点の『SLAM DUNK』と『幽★遊★白書』なんです。主人公イコールリーゼントという最後の時代。真面目なリーゼントは、このあたりからいなくなってしまいます。
そもそも『SLAM DUNK』が連載されていた1991年には、既にリーゼントはあえてやっているか、ギャグか、といったところで浮いてしまっているんです。
つまり、1990年代から2000年代までの10年間で、リーゼントは面白い存在になってしまったんです。ヤンキー文化がネタになっていく流れが出来上がっていくわけですよね。
たとえば、『魁!!クロマティ高校』がヤンキー以前にQUEEN(クイーン)をネタにしていたり。日本のグループではありませんが、Leningrad Cowboys(レニングラード・カウボーイズ)もそう。
そうして、ジェームス・ディーンを知らなくても、なんとなく「ヤンキーといえばリーゼント」という人々の認識が形成されていきました。
■『東リベ』はヤンキー世界に転生した「異世界もの」でもある
山田:
『東リベ』は過去に戻って好きだった子を助ける、いわゆる「ループもの」ですが、「ループもの」といえば、いまから10年前に『魔法少女まどか☆マギカ』があったじゃないですか。この2作品、やっていることは同じですよね。
『魔法少女まどか☆マギカ』では、女の子が何度くり返してでも友達を守るための戦いをしていましたが、その10年後、今度は男の子が何度くり返してでも好きだった子を助けるという話で、男の番が回ってきたんだなと、僕としては見えました。
現代は体を張って戦わなくなってしまった時代ですが、任侠物や時代劇物の中にあった仲間のために命を張る、女のために死ぬといったことをあの時代を舞台にすれば描ける可能性があったので、あの時代を舞台にしたからこそ描いていけたのではないかと思います。
つまり、体を張って、仲間を助け、彼女を助ける、ひとつの「異世界もの」じゃないかと思うんですよ。『東リベ』はヤンキー世界という異世界に転生していく、「異世界転生物もの」一種にも見えるように感じました。
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