著作権侵害について“文化庁の担当者”が対策やトラブル解決の考え方を解説! 国のプロジェクトとして開設された個人クリエイター向けの相談窓口についても紹介
「二次創作って、そもそもダメなの!?」
「自分の作品が海外サイトで勝手に売られてる」
「大好きな作家さんの作品がパクられている!」
「これって、著作権侵害になっちゃうの!?」
著作権侵害に関するお悩みを抱えているのは、著作権を持っている方や企業・団体だけではありません。
絵師さん、ボカロPさん、同人作家さんを代表とする個人クリエイター。作品を楽しむファンのみなさんなど様々。
この「海賊版」として知られる著作権侵害に関する問題は、どれも簡単に解決出来るものではありません。
そのため、お悩みを抱える方が「泣き寝入り」となってしまうケースも少なくありませんでした。
そんな「海賊版」への対策や悩みの解決に向け、「文化庁」が相談窓口を開設。
2023年2月26日には、ニコニコ生放送にて『クリエイター必見!海賊版ってなんだ?被害者だけでなく加害者になることだってあるってホント?』が配信。
番組の中心となっているのは、長年個人クリエイターの権利保護に寄り添ってきたJNCA(日本ネットクリエイター協会)。
「エアーマンが倒せない」の代表作で知られるマルチクリエイターせらみかるさんが展開する、これまでに体験された様々な「海賊版」トラブル。視聴者から寄せられるお悩みコメント。
このようなトラブルやお悩みに、文化庁の吉田光成さん、弁護士の照井勝先生がわかりやすい解説と解決に向けた考え方を示してくれる番組。
本記事ではその番組の様子をダイジェストでお届けします。
■作品を無断使用された人のほとんどが泣き寝入り!?
クリエイターはもちろん、インターネットでコンテンツを楽しむユーザーであれば必見の番組、『クリエイター必見!海賊版ってなんだ?被害者だけでなく加害者になることだってあるってホント?』。
司会に百花繚乱さんを迎え、「エアーマンが倒せない」の代表作で知られるマルチクリエイターせらみかるさん。
文化庁の海賊版による著作権侵害相談窓口担当弁護士の照井勝先生。文化庁より著作権課長の吉田光成さん。
そして、日本ネットクリエイター協会の仁平淳宏さんが影の声で参加というメンバーで届けられます。
まずは、番組開始前に2500名を超える視聴者が参加した、「著作権」に関するアンケート結果を見ながらのトーク。
ここでは「作品を無断使用されたことがある」と回答した方のほとんどが、「泣き寝入り」していたという結果に驚きの声が広がります。
『自分自身の活動が「著作権違反だ」と攻撃されたことはありますか?』というアンケート結果。
せらみかるさんは「僕も攻撃されたことがあります。当時は、掲示板が潰されました!」と今だから笑える体験談を寄せました。
■国のプロジェクトとして文化庁が「海賊版対策情報ポータルサイト」を!?
アンケートに寄せられた「相談する窓口が欲しい」という意見に答えるように、文化庁吉田課長からは「インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト」(以下、海賊版対策サイト)についての説明がありました。
このサイトは、著作権者等からの著作権侵害に関する事案について、「弁護士の先生が解決に向けた相談に無料でのってくれる」サービスが受けられるサイトです。
「個人の方からの相談を主体としたサイトですので、是非お気軽にお悩みをご相談ください。」(文化庁 吉田課長)
(もちろん企業や団体の方もご相談頂けます)
・インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizoku/index.html
「海賊版対策情報ポータルサイト」の知名度は、まだまだでしたが、「凄く丁寧だった」と相談者からの評価は上々。
「海賊版対策情報ポータルサイト」の窓口弁護士でもある照井先生からは「悩まれている方は是非ご活用ください。お金はかかりません。具体的な回答を個別にしていますので、本やインターネットの知識だけではフォローできない部分も補えます」というコメントも。
■権利のない人が権利を主張!? ファンが窓口相談に!?
「YouTubeにおける悪意を持った権利侵害抗議」という意見について。
せらみかるさんも「僕もやられました!クラシックをアレンジした曲を使ってゲーム実況をしていた時、既に切れている著作権を主張する謎の人からゲーム実況の公開を差し止められました」と被害を語ります。
このような問題について、文化庁の吉田光成さんも「SNSなどで個人的に情報を収集しています」とコメントしました。
権利を持たない人からの攻撃が増えている半面、権利を持たない人が「著作権者を守ろうとする相談」も増えていると照井先生は語ります。
実際に海賊版対策情報ポータルに寄せられる相談の半分以上がファンの方からです。“こういうのはおかしいんじゃないか”というご意見に対して、照井先生は「これって日本特有の文化なのかなと思っています。今まで個人の方は海賊版を見つけても相談ができませんでした。このようなご相談が増えたのも国のプロジェクトとしてチャンネルが開いた結果だと思っています」
(相談窓口の回答の対象は、権利者等からの著作権等の侵害に関するご相談に限ります。)
■「エアーマンを倒せない」の許諾について
番組は、テーマに沿った自由討議へと移ります。
最初はせらみかるさんの「エアーマンが倒せない」の許諾に関して話が展開されました。
仁平淳宏さん(以下、仁平淳宏):
フリップにある『歌詞に「特定アニメのキャラ名」などを入れたい』のフレーズに、せらさんの目がキラッと光りましたね。
せらみかるさん(以下、せらみかる):
当時、僕が一から制作して投稿した「エアーマンが倒せない」と、ロックマンの曲を利用した「おもいではおっくせんまん」を混同して叩いてくる人もいましたね。
許諾に関してはJNCAの仁平さんとカプコンさんに出向いて話し合いをしました。今は正式に“こういうのは大丈夫だよ”とカプコンさんから許諾を頂いています。
紆余曲折ありながらも、今はカプコンさんと仲良くさせて頂いています。
仁平淳宏:
せらさんからご相談を頂いて、一応僕の中で「歌詞の中に名称が出てくるのは著作権ではない」という理論武装はしていたんですが、そんな理論は突破口にはならないと思い、せらさんの「ロックマンが好き!」というエネルギーを前面に押し出して交渉しました。
せらみかる:
ありがたいことに、ロックマンの生みの親という方からも「リスペクトしてくれている人の作品は触れればわかる!」と後押しして頂けていたんです。
仁平淳宏:
その結果、カプコンさんから許諾を頂けることになりました。CDもリリースされていたり、「おもいではおっくせんまん」がアニメロサマーライブで歌われたりした経緯があるのは、許諾があったからこそなんです。
照井勝先生(以下、照井勝):
クリエイターが二次創作を勝手にしていることについて、日本の会社は基本的にそこまで厳しくないんです。同人コミュニティーを理解して、寛容に接する傾向があります。
それに比べて、海外の権利処理はかなりドライです。例えば映画でも基本的に許諾が取れないものは使うなという感じです。物語にバットで人を殴るシーンがあるとしたら、そのバットに印字されているメーカー名は必ず外すなど徹底しています。
日本の場合はウェットですね。あいまいなまま、グレーのままという部分が敢えて残されています。そうしないと作品が作れなくなってしまう部分もあるので。
クリアにすることだけがいいことではありません。創作のキッカケをなくしてしまうのは勿体ないことです。この点はこれからも考え続けなければならない部分だと感じています。
■「パクリ」の線引きは!? そもそも、著作権ってなに?
仁平淳宏:
炎上してしまうことで、創作をやめてしまう方もいると思うので、正しい知識を広めていきたいですね。
百花繚乱さん(以下、百花繚乱):
僕は髪型が〇〇のキャラのパクリだろ! なんてよく言われるんですが、パクリに関して法律はどのような線引きをしているのでしょうか。
照井勝:
音楽ではかなり難しい判断が必要です。絵やイラストに関しては、「キャラは顔が命」ではないですけど、顔が似ているとパクリ認定される可能性が高まりますね。
百花繚乱:
「そもそも著作権ってなに?」というコメントも来ていますがいかがでしょう。
照井勝:
そもそも著作権の目的は、権利を保護しながら創作や利用を促進することにあります。創作を阻害してはいけないんですね。
そして、保護するのはアイデアではありません。「アイデアを保護するもの」ではなく、「創作性を有する具体的な表現を保護するもの」なんです。
ただ、実際にはアイデアと表現って地続きなので、最終的にはすべての表現はアイデアに行きついてしまいます。この問題は神学論争くらい難しいものだと感じています。
■有名な作曲家でも自分が作った曲かどうかわからなくなることが!?
百花繚乱:
知らないうちに自分が権利を侵害してしまうことも!?
仁平淳宏:
音楽ならワンフレーズ使ってしまうのはいいのか悪いのかなんて問題もあります。インターネット上でも色んなことを言っている方がいます。中には見当違いのことを言っている方もいたりします。
照井勝:
ドラマや映画のBGM制作の現場って、膨大な数の楽曲を作らなくてはいけないんですよね。そのうち採用されるのは少数です。
そうなると、「自分はこれと同じ曲を前にも作ってるんじゃないか?」と自分でもわからなくなってしまうことってあるらしいんですね。
イタリアの作曲家、エンニオ・モリコーネもこの問題を回避するために、曲が出来ると、まずは奥さんに聞いてもらっていたそうです。膨大な曲を作っているので、自分ではすべてを覚えられず、自分自身を信用できないんですね。
「作る」って本質的には「真似る」ということなので、どこかで似てる部分が生まれてしまうことは仕方のないことなのかもしれません。
せらみかる:
街角で良い曲に出会った際、その曲が自分の頭に降ってきたものだと思ってしまうことがあるんです。そのまま曲を作って1日寝かせてみるんです。そして気が付くんですよ。あ、これは世の中にあった曲だと……。
一同:
(笑)
照井勝:
ビートルズのメンバーだったジョージ・ハリスンですら、自分が書いたと思っていた曲が、他の人の曲と本当に似ていたことがあったんです。アメリカの裁判ではありますが、訴えられて負けてしまいました。
本当に気を付けていないと、地雷のように踏んでしまうものなのかもしれません。
せらみかる:
オマージュ、インスパイア、リスペクトという言葉もあるので難しいですよね!
僕も曲の最後のフレーズが「♪港のヨーコ横浜横須賀と同じじゃないか!」と言われてしまったので、逆にそれをネタにしたバージョンを作ったことがあります。
最近では、色んな人に聞いてもらって、何かに似ている部分があればアレンジを変えてみることもあります。
視聴者コメント:
「和音が同じだと雰囲気似るから、著作権違反だ!って言う人いるいる」
「消費者側が同じ物しか求めないから似た物が出るのはしょうがないと感じます」
「そう思っても騒ぐのはちょっとどうかと思う。あくまで第三者なんだから」
■アーティスト側の悩み!「使って欲しいけど、公認と言ってしまうのは……」
せらみかる:
「このイラストを使っていいですか?」というDMがたくさん来て、一つ一つに答えていられないことがあるんです。ただ、使ってほしくないわけではないんですよ!
とは言え、「せらさんにOKって言われました!」って言われちゃうのも気まずいという(笑)。公認って言ってもらっちゃうと困るけど、ある程度自由に使って欲しいんです。
企業さんの場合だと問い合わせがあってから、ルールを決めることになりますよね。実際は二次創作して欲しい人や企業さんの方が多いとは思うんですけど……。
二次創作がきっかけで次の作品のアイデアが湧くこともあるわけです。
取り締まるだけではなく、一概に許諾を出すだけでもない何かがあるといいんですが、線引きが難しいですね~!
吉田光成さん(以下、吉田光成):
こうしたクリエイターさんの生の声が聞けることはありがたいです。個人クリエイターさんの声を聞いて、今後何が出来るのかを考えることは大事ですね。
仁平淳宏:
「公認だよ」という許諾はだしたくないけど、使っては欲しい。「使ってもいいよ」、「使っちゃダメだよ」以外の答えが今後必要になってくるのかもしれませんね。
■視聴者からの質問タイムでは「AIの創作物」に関する質問が続々と
仁平淳宏:
視聴者コメントでは、「AI学習により生成される創作物の権利」に関する質問が多いようですが、最新の考え方やトピックスなどございましたらお願いいたします。
照井勝:
現在の現場では、AIの創作物に人間が手を加えて発表している場合が多いです。そのまま利用できるAIの創作物も出てききており、そこに著作権は発生するのかという問題が待っています。指示だけで完成する作品を「私の作品です」と発表していいのかという倫理的な問題もあります。
これはアメリカでの最新トピックスなのですが、AIに描かせたグラフィックノベルの著作権の登録申請が、後にAIに描かせたものだと判明し、拒絶されてしまったという事例がありました。
多くの先進国の判断は「AIはツール」。人間が創作的に関与しておらず、単に指示するだけで完成するAIの創作物には、著作権は発生しないという考えがまだ支配的です。
では、創作的関与ってなんだという話になります。
これらに向き合うためには、昔ながらの著作権の考え方、ルールのままでいいのかという議論が進んでいます。一度著作権という権利を認めてしまうと、それは独占的な権利になってしまいますし、保護期間も長いので非常に難しい問題なんです。
AIの創作に権利が発生してしまうと、世界レベルで相当社会にインパクトを与えるものになります。
せらみかる:
絵を描いている人間からすると、AI絵の元になっているデータも分からないですし、他の人が似たような指示を出しても、形が全く一緒にならない場合もあって証拠もありません。
そんな創作物にみんながフワッと自分を感じてモヤモヤしてしまうという……。
百花繚乱:
学習して似せることと、トレースは全く違うものですもんね。
照井勝:
過去の判例では、作風や画風は保護されないと判断されています。「誰々という作家風に絵を描いてみました」というものは、数多く存在しますよね。
その作家が故人の場合は権利を管理する財団から“侵害だ”と言われることもあります。ただ、その画風はほとんどがアイデアなので、本来は著作権では保護されないんです。
なので、今後始まるAI創作物の画風に関する問題は、伝統的な著作権の考え方にはない部分と直面しているのです。もしかすると、使われてしまった作家さんだけが気持ち悪い思いをすることになってしまう。
先ほど例にあげた作家風の絵の事例では、感謝のメッセージや「画風をお借りしています」という言葉の発表がなく、あたかも自分の作品ですというように発表してしまったので、倫理的な問題が大きかった気がしています。
これまでの伝統的な著作権では保護されていない部分を、今後どうしていくべきなのか。どうやって、しかもどこまで拾っていくべきなのかということには、もう少し広い議論が必要かもしれません。
せらみかる:
〇〇先生のアシスタントを務めていた人の絵柄が、先生の絵に似てしまうのは、そこに至るストーリーが見えるからOK。全然関係ない人の絵柄が似ていたら「パクリじゃないか!」ってなってしまいがちですが、どちらも同じことをしているだけかもしれませんよね。
仁平淳宏:
この番組をきっかけに、このような難しい質問、込み入った相談が窓口にも増えそうですね。
百花繚乱:
みなさんでドンドン議論することが文化を広げていくことになりますから、みなさんも力を貸してください!
せらみかる:
今日は結果的に言いたいことが全部言えて、凄くスッキリしました~!
一同:
(笑)
■番組情報
■番組名
クリエイター必見!海賊版ってなんだ?被害者だけでなく加害者になることだってあるってホント?
■日時
2023年2月26日(日) 18:00~
■視聴URL
https://live.nicovideo.jp/watch/lv339730721
■出演者
・吉田光成 (文化庁 著作権課長)
・照井勝 (文化庁 海賊版による著作権侵害相談窓口担当弁護士)
・せらみかる(マルチクリエイター)
・百花繚乱 (司会)
・仁平淳宏 (影の声で参加/日本ネットクリエイター協会)
■関連リンク
・番組のダイジェスト動画
https://www.nicovideo.jp/watch/sm42035478
・生放送URL
https://live.nicovideo.jp/watch/lv339730721
・日本ネットクリエイター協会(JNCA)サイト
https://jnca.or.jp/
・文化庁の海賊版対策サイト
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizoku/index.html