『けものフレンズ』たつき監督降板、『るろうに剣心』原作者書類送検など激動のアニメ・漫画界を総ざらい【2017年下半期】
2017年もいよいよ大詰め。世間で話題になっているニュース、エンタメ、サブカルチャ―の情報について語り、2017年最後の配信を迎えた山田玲司氏の「ニコ論壇時評」。
今年最後となる12月13日の放送では、これまで取り扱ってきたニュースを総ざらい。ネット民が阿鼻叫喚した「『けものフレンズ』たつき監督降板」事件や、「『るろうに剣心』原作者書類送検」など、問題となったニュースについて、漫画家の山田玲司氏が、乙君氏、しみちゃん氏とともに振り返りました。
7月・少年誌における“お色気描写”問題が勃発。「お色気描写は“性の暴力”ではない」
乙君:
7月、「『少年ジャンプ』のお色気論争『ゆらぎ荘の幽奈さん』のお色気描写を巡ってネット上で論争」。これもやりましたね。
山田:
めっちゃ面白いので、ぜひ見てください。
これ、ここに来てすごいね、女子高生とかがちょっとでもエロいっていうコンテンツを作れなくなったらしいんだよ。
しみちゃん:
へえ。
山田:
だから、女子高生の制服でエロいことをすると、もうそれはコンテンツとして駄目ですよっていう傾向があって。
乙君:
はいはい。
山田:
こんなの初めてだよ。俺が漫画業界に30年いて、ここまで厳しくなるの見たことがないな。セーラー服といったら、大体エロいものだって、青年誌で描いていたもん。
乙君:
まあね。
山田:
少年誌でもそうだった。だから、セーラー服とか、ブレザーはいわゆる“エロアイコン”じゃん。そういうものが、ちょっとでもエロがエロとして描かれると、表現できません、と。
だからこの間、FLASHの編集者が「グラビアで制服はもう駄目です」って言ってたね。
乙君:
グラビアで制服も駄目なの?
しみちゃん:
え?
山田:
ちょっとでもエロい要素になると駄目なんですよ。
乙君:
エロい要素って、誰が判断するんだ?
山田:
本当、誰が判断するんだ。
乙君:
AKBとかどうなの?
山田:
そうなんだよ。だから、あれは頑張ってる少女たちなんですよ。
しみちゃん:
え?
山田:
あれはエロを売り物にしている少女たちじゃなくて。体育会系に頑張っている。
しみちゃん:
ああ、なるほど。
乙君:
清純だから。
山田:
清純的なコンセプトだからOKだったりとかする。
いろんなことがグレーになって、なんだか嫌な空気になっている気がする。なぜかというと、元々、エロは文学じゃない? そして、漫画に文学の要素がないわけないじゃん。
昔の漫画は、本当に際どい、ギリギリのものもOKだったし、70年代はもっとひどかったからね。それが、ここへ来て猛烈な圧がかかってしまったなっていうのが、今年の7月の問題だったなという。
山田:
隠せばいい、やめさせればいい、規制すればいいという、それまでの道のりがものすごく短くなっている。それに、これは誰も言わないけどさ、一番「性」を商品化してるのって、結婚っていうシステムじゃねえのって思わない?
乙君:
おっと。
山田:
そもそも、女の人が「結婚しなければいけない」という圧はどうなの? って思わない? 女という人格ではなく、子供を産む性質っていうのが先に立ってしまって、個人ではなく性別で人生を決められていない?
乙君:
ああ。
山田:
で、子供を育てるだけのスペックがあるかどうかで、男は選ばれたりする。これもちょっと微妙じゃない? つまり、ここまで考えて規制とかする話しているのかな? という話じゃん。ものすごい表面的なところで、網がかかってる気がしてならんねっていう。
一方で、少子化対策だとか言って、結婚しろとかなんだかんだ言うけれど、それって逆に人道的にどうなのかって俺は思うけどね。むしろ、もうちょっと違うパラダイムシフトをしないといけない時期に来ているのに、どうも見当違いのことが起こっているなっていうのが、今回のジャンプ問題について考えたことだよね。
乙君:
なるほど。
山田:
だって、共学の学校にいて、あんな狭い教室で、目の前にいる女の子が汗なんてかいてたら、見るに決まってるじゃない。先生の話どころじゃないでしょ(笑)。
しみちゃん:
もちろん。
山田:
それが男だし、10代の頃の思い出のほとんどはそこでしょ。それで表現するなって言ったらさ、何を表現するんだよ?
しみちゃん:
ホントですよね。
乙君:
それはそうですね。
山田:
だから、そういうことも全部、わからない。有識者が考えたんですっていうかもしれないけど、あまりにもわけがわからない状態で、漫画に圧をかけやがってっていうのが、正直なところ。不健康ですよ。本当に。
乙君:
でも、そういうことを言わないで、40代になって子供を産めなくなって、後悔したら、その人の人権はどうなるんだ? っていう、別な圧が。
山田:
余計なお世話だと思わない? それだって自分で決めてんじゃん。
乙君:
まあね。ただ、その情報はあっていいんですよ。女しか子供産めないんだとしたら、差別や区別はあるし、それで家に嫁に行く、みたいな旧体制的なものが残っているのは、それはそれで美学の一つだと思っちゃうんですよね。
山田:
俺は選択肢の一つでいいと思うの。
乙君:
そうそう。だから結局そっちのルートに乗るんだったら、美しく生きて下さいって。
山田:
俺もそのラインを完全に否定するわけじゃないんだけど、あまりに社会的に圧があって、それに苦しむ人の話ばっかり聞く。
乙君:
その社会的に苦しんでいる人が、ノイジーマイノリティっていう可能性もあると思うんですよ、俺は。
山田:
29歳になったらこの世の終わりだみたいな顔してる女の人がいっぱいいるじゃん。この世の終わりじゃないですよ。
乙君:
この世の終わりだって顔してる奴ばかりじゃない気がする。
山田:
これはどうかな、多いと思うよ。
乙君:
ただ、不満を抱えてる奴の方が声をあげちゃうから。
山田:
でもそんなこと、別にいいじゃん。いつ結婚したって、個人が選べばいいのに、なんでいつからいつまでの間にしなきゃいけないみたいな圧がかかるの? っていう話よ。
それと同時に、若い奴の顔を見れば、相手はいるの? 結婚しないの? っていうことを言うじゃない。これこそ性の暴力じゃないか、と俺は思うんですけどね。
乙君:
まあまあ。
山田:
そういうものの救済みたいなことを、漫画はやってたんじゃないかなと思うよ。なんかアホみたいなエッチ漫画ってあった方がいいと思うよ。
乙君:
それは思いますね。あれは本当に男の子にしかわからないオアシスなんで。
山田:
あれ、性の暴力じゃないよ。
乙君:
ホントに。