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「まどマギ」ほむほむのルーツは80年代にあり!? “ジャパニメーション”の歴史を「パーツの描かれ方」で振り返る【語り手:マンガ家・山田玲司氏】

正気を失う70年代

山田:
 70年代は、正気を失う話がすごい多いんです。

乙君:
 (笑)。

山田:
 で、頭おかしくなっちゃう漫画が凄く多いんだよ。今あんまり見ないけど、このグルグル目。

乙君:
 はいはい。

山田:
 これは石ノ森章太郎とか、松本零士、永井豪がよく描いてて。この「イッちゃった目」の系譜っていうのが、この『ガラスの仮面』であると。

瞳を描かないことで、狂気が表現された

乙君:
 あああれね。それで「恐ろしい子」と。

山田:
 ここには「恐ろしい子」と入ります。

一同:
 (笑)。

山田:
 この「恐ろしい子」の部分の縦線みたいなのが流行るんだけど、ここって、要するに狂気なのね。狂気。
 狂気で内面がないっていうので瞳を描かなくなるのが、『ロボット刑事』です。これは仮面ライダーやザクにもなります。

乙君:
 え? え? ザクになるの? これ。

山田:
 ザクにもなります。要は、瞳描かない方が格好良いっていう系譜がここからずっと始まっていて。なんでかっていうと、学生運動で敗北したからなんだよ。

乙君:
 ああ。

山田:
 虚無なんだよ。同じ時代の虚無で代表選手はこの方です。

虚無の代表選手ことバカボンのパパ

山田:
 だからもう顔が虚無なんですけど。

一同:
 (笑)。

山田:
 同じ世代に同じトキワ荘に住んでたんで。

乙君:
 なるほどね。

山田:
 アシスタントしてたじゃん。この人。【※】

※『天才バカボン』の作者である赤塚不二夫は、トキワ荘入居当初、石ノ森章太郎を手伝っていたといわれている。

乙君:
 絵は全然違いますね。

山田:
 全然違うけども、これも虚無なんです。悟っちゃってるんですよ。「これでいいのだ」なんですよ。

山田:
 そしてこれ、目の中に情念がないんですけど、この目の中に情念がないっていうのが、この系譜に繋がって行くわけですよ。これバブル後に。

テン目の系譜を受け継いだ『ちびまる子ちゃん』

乙君:
 ホントっすか!?

山田:
 これは「『あたしゃあ、疲れたねえ』って言っている老人」のように悟ったような小学生を演じている子供。

乙君:
 演じているんですね。

山田:
 だから憧れなんですよ。バカボンのワナビーです。

一同:
 (笑)。

山田:
 だけどそんな気分だったんだよ、バブルのころまで。だからまあ、「テン目」っていうのが、ここの辺りでちょっと跳ねるんですけども。

乙君:
 これは?

山田:
 あ、これは「テン目」の系譜がルーツになっていて。「感情が入ってないから、感情は入れられる」っていう、容れ物としてのテン目なんだけど。

乙君:
 なるほどなるほど。

山田:
 この系譜も色んな形で、後のアニメとか漫画とかに利用されていきます。テン目にすることによって、何かを逃げられる所があるんだよ。情念が入んないから。

ほむほむのルーツは80年代にあり?

山田:
 そして80年代に入ってくると。クールの80年代。
 いよいよ少女漫画から、星がなくなる時期が来るんです。引き金を引いたのは、皆さんご存知の高野文子先生ですね。

乙君:
 へえ!

山田:
 高野先生だけじゃないですよ。もちろん。あの時代にいた少女漫画家の一部の人達が、70年代のキラキラ目ってダサいよねって。
 そんなにキラキラしないし、っていうか世界はキラキラしてるんだよ、全部。というふうに、言わなくてもわかるじゃーんといって、こういう状態になるんですよ。

“キラキラ目”とは打って変わって、クールな瞳が描かれている

山田:
 これの変則系で、カケアミトーンとかカケアミを入れるようになってくる。これ最初、きたがわ翔が始めるんですよ。

山田:
 これのさらなる変則系で、オノ・ナツメが登場するんですよ、最終的に。どんどん危うい目になってくるんだよ。
 そして、クールで危うい蒼樹うめ先生の登場です! そうです。これ、ほむほむです。

ほむほむの瞳のルーツは80年代にあった!?

乙君:
 へえー。

山田:
 だから前も話しましたけども、蒼樹うめの斜線のルーツはきたがわ翔の辺りからあるねっていう。「虚無感を表現する」ことが、アニメの中に入ってきているルーツっていうのが、この辺から始まってるんですよ。

 ちなみに高野先生はこれだけじゃないです。高野先生のやった革命というのは、もうすごいんで。

乙君:
 え? そうなの?

山田:
 ということで、高野先生特集をお楽しみに(笑)。

乙君:
 やるの?(笑)

山田:
 『絶対安全剃刀』やるんで。あの頃『構造と力』を読むか、『絶対安全剃刀』読むかどっちかしなけりゃいけなかったんだよ。

乙君:
 えー!? クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)を?(笑)

山田:
 そうだよ。だからこれレヴィ=ストロースか高野文子、浅田彰か高野文子かっていう時代があったんだよ。

乙君:
 そんな人だったの!?

山田:
 そんな人だったよ。

乙君:
 俺『絶対安全剃刀』読んで、全然わからなかったんだよね。

80年代に流行した「顔にパース」

山田:
ここでちょっとしたコラムです。顔にパースつくのが流行るんです。この80年代って。

乙君:
 顔にパース?

山田:
 異常に情念的なもので、こうバロック化が進むんだけど、要は永井豪辺りから始まる、バロックの流れの系譜があるんだよ。
 要するに、クールとは逆だね。熱くなり過ぎてて、アイラインがドンドン濃くなっていくって言う流れがあるんだけど。

向こう側の目が大きく描かれている

 さらにこれは、みなさんご存知の金田伊功さんですね。『BIRTH』っていうのが有名ですけど。
 アメリカのアニメで、向こう側の眉毛が上がっててこっち側の眉毛が下がってるってよくあるでしょ。それの誇張したスタイルが漫画の中にガンガン入ってきて。「ルパン三世」とかもそうなんだけど。

 これがまあとにかく流行るんですよ、80年代って。向こうの方の目デカく描かれて、手前の目がちっちゃく描かれるというね。逆パースの金田伊功。

乙君:
 すごい、これよく考えるとすごいですね。こっち向いてるのに、こっちの目の方がデカいって。

山田:
 ブライガーだっけ? 「J9〜J9〜情け無用〜♪」っていうやつあるじゃん(笑)。50代のオタクしかわかんない(笑)。

乙君:
 (笑)。

山田:
 そうそう、『銀河旋風ブライガー』です。こういうやつで。これがみんな大好きな『天元突破グレンラガン』につながっていくわけですよ。

乙君:
 なるほどなるほど。

山田:
 だから『グレンラガン』はこの頃のアニメの、そのやり過ぎな誇張のスタイルみたいなものをやっていたと。『キルラキル』や『無敵超人ザンボット3』もそうですよ。

キーワードは「母性」

乙君:
 そして、ようやっと平成に来るのかな?

山田:
 バーン! という(笑)。

鼻の下の長さに注目

乙君:
 来てないね。

山田:
 さっきの話です(笑)。これがさっきの東映派の流れで今のアニメでして。

乙君:
 色を塗ったのはこれだけ?

山田:
 シータというのがわからないかな? と思って(笑)。

乙君:
 確かに、シータではない何か、謎の美少女が(笑)。

山田:
 要は、ここで何がいいたかったかっていうと、鼻の下が長いんですよ。

乙君:
 おお。

山田:
 「ドラえもん」って鼻の下長いじゃん。あれ「母性」の象徴だってよく言うでしょ。

乙君:
 鼻の下が長いと母性を感じるんですか?

山田:
 そう。それと同時性に「幼児性」も兼ね備えられた顔っていうのが、これスタンダードで出てきて。
 攻撃的なアニメの表現とかがワーっと出てくる反面、全く攻撃をしないという、「安全」というキャラクターが、このあたりから生まれはじめる。

乙君:
 うんうん。

山田:
 そしてここで重要なのは、目、瞳なんだけども。「白目が少なめ」という系譜がこのあたりから確実に始まっていくと。『アルプスの少女ハイジ』とか、まあそういうのが一杯出てきてっていう。

 もちろん何度も言いますけど、例外は一杯あります。だから俺結構ざっくりとした話をしてます、今日はね。

白目は「意思」を描く?

山田:
 はい、次行きます。ラムちゃんですね、これラムちゃんです。ラムちゃんは白目が一杯あるんですよ。

乙君:
 たしかに。

山田:
 そう。この頃の漫画家の人は、結構、大きく白目を取る人が多かった。誰っていったら、よしもとよしとも とかいろんな人がいるんだけど。

 これどういうことかっていうと、何考えてるかわかりやすいんだよ。白目が多いと。どっちを見てのるか、何を考えてるのか。

乙君:
 意思がね。

山田:
 意思がわかりやすい。これが逆に白目がなくなっていくと、何を考えているんだか、わからなくなっていくという傾向があって。お隣はおなじみ『けいおん!』ですね。『けいおん!』になると相当黒目がちになって。

ラムちゃんとは対照的に、黒目が大きく描かれている

 そしてこれが、みんな大好き『ラブプラス』ですね。

山田:
 この間ドクターが『ラ↑ブプラス』って言ってたんだけど、どっちが正しいの?

乙君:
 (笑)。

山田:
 『ラブプラス』が正しいの?『ラ↑ブプラス』じゃないんだ、『ラブプラス』ですね。

一同:
 (笑)。

乙君:
 『Love Plus』(発音重視)。

山田:
 ちゃうちゃう。全然『ラブプラス』でいいんだって。

乙君:
 関西弁だったら何ていうの?

山田:
 『ラブプ↑ラス』やろ?

一同:
 (爆笑)。

乙君:
 それ怒られますよ!

山田:
 はいはい。そうです。こうなってくると、開発者の人たちが「アザラシの顔をモチーフにしてた」言ってた通り、ゴマちゃんですね。

 「本当に黒目しかないようにすると、何考えてるかわかんないけど、すごく優しくて可愛く見える」という系譜になってきて。これは、やっぱ殺伐とした時代が生んでるよなっていう感じが、個人的にはすごくする。

乙君:
 ああ。

山田:
 一方でラムちゃんは、虚無でもないし、非常に情念的でワイルド。

乙君:
 ワイルドっていうか、それはね、あんなビキニでね(笑)。

山田:
 「許さないっちゃ」って言って、ビキニで飛んでますからね(笑)。
 『ラブプラス』では、そういうこと絶対しませんから。まあそういうふうな系譜がこのころから現れると。

乙君:
 なるほど、なるほどねえ。(続く……)

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