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『AKIRA』『Dr.スランプ』が起こした革命とは? 「パーツの描かれ方」で振り返る“ジャパニメーション”の歴史【語り手:マンガ家・山田玲司氏】

大友・鳥山革命 

山田:
 はい、みんな大好きな大友・鳥山革命の話です。

 大友さんは70年代のバンド・デシネ【※】というフランスの漫画のアクションとか、ああいう大人のものから影響を受けていて、後に大スターになるわけなんだけれどもさ。当時「ヤングマガジン」にきて、それを週刊でやったもんだから、このころの人たちは、とにかく度肝を抜かれた。

※バンド・デシネ……フランス語で漫画を意味する言葉。ストーリーよりもイラストを重要する傾向があり、フルカラーの作品も多く見られる。本文で言及されているように、大友克洋はバンド・デシネを代表する作家、メビウスの画風に影響を受けたとされている。画像はメビウスの画風の一例。
(画像はshop livres Moebius 2016より)

 大友の革命はほかの人に任せるとして、ざっくりと言いますけれども、この人は3Dなんですよ、一言でいうと。「こんな3D知らねえ」と言うくらいのレベルの3Dだった。写真をそのまんま起こしたような3Dで。

 そして、最初にみんながびっくりしたのが、このちょい前に現れたこの方。

上が『AKIRA』、下が『Dr.スランプ』

乙君:
 ええ、そうだったの。

山田:
 だいたい同時期くらいに出て、まあ『AKIRA』が結構時間かかったの。それまで「大友克洋というすごいやつがいるよ」という時期が長かった。ニューウェーブと言われていて、カルト的なスターだったので週刊は無理だろうと言われていたんだけれども、全然OKだったということがこれで証明されちゃったんだけれども。

乙君:
 なるほどね。

山田:
 『Dr.スランプ』の特徴を一番わかりやすく言うと、口の描き方です。恐ろしかったのはコミックで。すごくカリカチュア、デフォルメされているのに、なんでこんなに立体なのという。

乙君:
 めちゃくちゃうまいですね。

山田:
 めちゃくちゃうまい。なんでこんなむちゃくちゃうまい人が『ドラゴンボール』の絵を描くんだよという。

山田:
 なにか捨てたんだよ、AKIRAさんは。……明らかになっちゃったんじゃね?

一同:
 (笑)。

山田:
 『ドラゴンボール』の魅力はここじゃないとわかったんだと思うんだよね。だから違うところにスライドしたというのは本当のことだとは思うけれども。

 ただ恐ろしいくらい絵がうまいのはなぜかというと、元々模型を作る人だから。デザイナーで、プラモデラー。ちょうど今日、漫画家で造形師のうらまっくさん(@uramac)という人が作ってくれたすげぇフィギュア持っていますけれども。

乙君:
 かわいい。

山田:
 すごいでしょ、これ。鳥山さんも、自分でなにかそういうのを作る人なんだよ。

乙君:
 なるほど。

山田:
 それで、ちょっと待てよと。びっくりしたのが、この人の絵、口の中に歯がこういうふうに描いてある。

口の奥の方まで歯が描かれている

 最初の口はこうだったの。歯は見えていない。

乙君:
 なるほど。

山田:
 次はなんとなく歯があるわけ、舌があるわけ。こんなのも表れるわけよ。「カンゲキ!」とか言っちゃうわけ。絶滅したやつで言うと、くちばし口とか。

乙君:
 絶滅(笑)。

山田:
 絶滅しています。

山田:
 この辺の70年代に流行っていた口はみんな滅んでいたんだけれども、なんで滅んだかというと、こいつが現れちゃったからなんだよ。

乙君:
 これが駆逐したの?

山田:
 これが現れちゃったから、こっちが全部一気に古くなっちゃったんだよ。

左下に描かれているのは『AKIRA』、『Dr.スランプ』以前の口たち

乙君:
 そういうことね。

山田:
 これから漫画家はみんな骨格標本をこだわることになるわけだよ。歯型も流行った。歯形を持って、こうやって歯形を見ながら漫画を描く。

乙君:
 玲司さんもやったんですか?

山田:
 俺はやらない。俺はどっちかというとこっちが好きだった。

一同:
 (笑)。

山田:
 これは『AKIRA』の鼻ですね。鼻の穴をちゃんと描きます。

 団子鼻をかっこよく描きました。上に斜線を入れるということで、鼻のこの立体感を出すということに成功しているんですけれども。羽海野チカ先生はこれ系譜です。縦線系譜。

乙君:
 これですね。

山田:
 大友先生がやったこの絵の革命は、手塚先生クラスのビックバンとして、その後バーンときて。平成というと、この方が現れちゃった後なので。

乙君:
 なるほどね。大体その革命的なことが終わっていて。

山田:
 そこまでクロニクルとして大事変はほとんどが終わっていて、この真打登場によって、2Dと3Dがガーンとクロスしたところから平成が始まる。

乙君:
 そして『ドラゴンボール』は『Z』になったと。

山田:
 『ドラゴンボール』はZになったのよくわからないですけれども(笑)。

『ラブライブ!』は系譜の集約だった?

山田:
 これ、『ラブライブ!』のキャラクターです。

乙君:
 これ?

山田:
 『ラブライブ!』と検索して出てきたキャラクター(笑)。

乙君:
 え、名前もわかんないの?

山田:
 間違っていないよね、これね。そうだよね、そうそう。『ラブライブ!』のことは全然別にあれなんですけれども、そういう文化だと思ってわかってます。

乙君:
 だれかわからない、とコメントで言われています(笑)。

山田:
 なんでこれを描いたかというと、今の段階において、そのいろんな流行りのポイントというのが、ここにきてまとまってきているのね。
 この鼻の下の長さと、目のこの“ふち”の感じとかは、これ井上雄彦からきているでしょ。これ、ジブリ系譜なんですよ。この線は縦なんです。だから、これ羽海野先生あたりからの縦で。あとあんまり盛っていない髪型とか、まつ毛あんまり描かなくなっているというようなことで。

 いろいろ分割するとそれぞれの時代のいろんなものが今、このチューニングになっている、というもの代表のひとつとして描いてみました。

乙君:
 なるほどね。『ラブライブ!』あたりでもう洗練されてしまったと。

山田:
 いや違う。これは過渡期。

乙君:
 これはまだ過渡期?

山田:
 うん、この1個前になると、「まどマギ」がそうだったとは思うんだけれども、もっとクールだったんだよ。だから今はちょっとエモくなっているというか。

 この間もほら『僕のヒーローアカデミア』の話をしたじゃん。ヒーローアカデミアがちょっとエモくなっている話をしたじゃん、顔が。それ以前のものと比べて、若干エモいという。なんか最近の絵がちょっとエモい傾向になりつつあるというのは、ちょっとクールに疲れているのかなという気がする。

『僕のヒーローアカデミア』
(画像はAmazonより)

 だから、「まどマギ」ってつらいじゃん、やっぱり。優しそうでいながら、非常に描かれていることが辛辣だったりするから、ちょっと冷たいところがあったりとか、つかみどころがなかったりとか、怖かったりするじゃん。あれに、もうみんな疲れてきているんじゃないかなという感じがすごくする。

 一方で、『けもフレ』と比べてみると、『けもフレ』はもっと乾いているというか。

乙君:
 ドライなの?

山田:
 ドライな感じがすると。ちょっとクール寄りというか、逆にウェット寄りなんだけれども。
 70年代のアニメ1個1個の違いというのは、作家の違いだったんだよ。

『けものフレンズ 』
(画像はAmazonより)

乙君:
 なるほど。

山田:
 だから水島新司と手塚治虫は全然違うんだよ。

乙君:
 違いましたね。

山田:
 だからそれぞれアニメ化すると、まったく違う絵になる、ということがあったんだけれども。今のアニメ業界だと、製作委員会を作って、「だれが絵をやる?」みたいな感じで。
 絵はこれくらいがちょうど系譜を受けているっぽいよね、とかいうふうに、みんなが調節しあって作っているものになっているから。やっぱりこう“突出した変なもの”が生まれづらくなっている
 おそらくはそれは、漫画家から生まれてくるんじゃないかなと思うよ、また。だから変な漫画がヒットしたときに、アニメはまた変なものにどーんと動く、あとから動いてくるんじゃないかなと。アニメ主導で変なことになってもいいんじゃないかな、とは思うんだけど。

乙君:
 なるほどな。

ディズニーにはできないこと

山田:
 で、最後俺が言いたかったのは。「まどマギ」蒼樹うめさんの絵をアニメにするのがどれだけ大変かっていう。鼻が点なんですよ。んで顔が四角くて、目がフラットでぺったりしてる。

山田氏が描いた「まどマギ」ほむほむ(画面右下)

 これを3Dとして動かす。あのアニメは3Dに見えるように動いてる。相当の画力がなければ、この絵を動かすことはすごく難しい。しかも、これ見よがしに口の中に歯が見えるみたいなことはやってないんだよ。なぜなら蒼樹うめさんはそういう画風じゃないからだよ。

 なるべくペターっとした絵柄を、そのまんま使いながら3Dでやるっていうっていうね。

乙君:
 ほわー。

山田:
 日本のアニメーションって本当にそこが大変で、顔が2Dで、体が3Dになりがちなの。非常にいいバランスで。なんでかっていうと、体は、あんまり個性的に描かれないことが多いから。

 同人誌とかでも、体だけやたらムチムチに描くじゃん? 顔は、あんまりリアルに鼻の穴とかを書いちゃうとブサイクになるから、障れないの。2Dとしての完成度を顔に求めて、3Dとしての完成度を体に求めるのが、今の表現状態のピークで、これはディズニーでは絶対にできないやつ

一同:
 おおー。

山田:
ディズニーやらなかった道を、ずーっと極東の島国でやってるの。それが平成歴史じゃないかな、と。ザックリまとめるとね。

乙君:
 じゃあ、そもそもこれは無茶苦茶な話なんですね。

山田:
 そうそう。浮世絵をディズニーでやるみたいな話。「浮世絵なんですよ?」っていう(笑)。
 それを、「丈の髪型どうすんだよ!」とか言いながらやっていったら、おもしろかったよねっていうのが、日本の話かなと。

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