「子供は2年間返してもらえなかった」獄中で12年を過ごした元女性受刑者が語る、誰からも相手にされない出所後の生活
ミュージシャンの西川貴教さんらが「学ぶ」をコンセプトに「身近で当たり前の事だけど詳しく知らないモノ、事」をテーマに深掘りしていく番組「西川学園高等学校、略してN高!」。
今回のテーマは「刑務所~犯罪を犯すとどうなる?~」。講師を務めるのは、薬物取締法違反で逮捕歴があり、都合12年刑務所に服役した経験を持ち、現在は差し入れ代行会社の代表を務める中野瑠美さん。
本記事では「出所生活編」として、出所後待ち受ける厳しい現実や、中野さんが立ち直れた経緯を土屋礼央さん、星田英利さん、ミクロマンサンライズ!!!さん、板野友美さんに語り、かつての自身と同じ立場にいる人へ向け、「立ち直れないことはないから、もう一回頑張ってほしい」とメッセージを送りました。
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出所後待ち受ける金銭的な現実問題
土屋:
ここからがみんなで知っていかなければいけないなというテーマがこちらです。我々も身近な話なのですが、仮釈放というのがあるじゃないですか。あれはどういうシステムですか。
中野:
仮に刑期が3年間ありましたと。3年間本当は勤め上げないといけないのですが、真面目にしていたら1年繰り上げましょうかとか、更正施設のほうから連絡が来るんです。3年に対して1年は外で罰を勤めてくださいという期間が、仮釈放。
土屋:
だから保護司に定期的に会いに行かないといけないとか、旅行はだめという制限はあります。
西川:
いわゆる世間というか、社会の中で勤めると。
土屋:
でもやっぱり外に出るのは嬉しいものなんですか。
中野:
すごい嬉しいですね。ちょっと早く出られるかもしれないという人だけ面接に来るんです。面接に来たときに強気に「満期でもいいから」と言っているけれども、心の中では「仮釈放があるんじゃないか」と思ったら、必要以上に真面目にしてしまう。
西川:
だってそれは1日でも早く出たいからね。
星田:
3年くらい中にいて、外に出ると全然変わっているものですか。
中野:
全然違う。コンビニなんかも、私が入っていいのかなって思うし、やっぱり一番びっくりしたのが携帯電話。「何これ!?」みたいな。
星田:
捕まったときの服装のまま出てくるんですよね。じゃ、やっぱり「これダサい!」みたいになるんですか。
中野:
「こんなん着てたん!?」みたいなね。
土屋:
仮出所は嬉しいものですが、こちらが大変なんです。
中野:
中で稼いでいるお金って本当に少ないし、少ない中から生活費を使っているので、手元に戻ってくるのは10万円ないと思います。刑務所を出ると、出た瞬間からお金がかかるじゃないですか。電車に乗ったりとか、バスに乗ったりとか。何をするにしてもお金がかかってくるから、もって1週間。多くても2週間。その間に住み込みの仕事とかが決まったらいいけれども、やっぱり仕事はなかなか決まらない。
お金がなくなってしまって、助けてくれる友達のところに行ったら、また余計なことをしてしまって再犯を起こす。
土屋:
だから就職口が少ないということがあるのですが、運良く就職が決まっても、それでも苦しみがあります。それがこちら。
中野:
もたないです。会社に通うと思ったらバスに乗ったりとか、単車や車とかを持っていたらいいけれども、持っていなくて電車に乗って行って帰ってくる。毎日ご飯を食べるとなったら、やっぱりお金がもたない。
西川:
家族の支えとかがないと無理でしょうね。
板野:
逮捕前までに貯金をしていたらどうなるんですか。
中野:
薬物とかをしている人って、貯金とかはしていないんです。その場、その場で使っているから、捕まったときには貯金がない。
土屋:
この1カ月で万引きをする率がとても高いそうです。
ミクロマンサンライズ!!!:
刑務所を出るときに、ケアをしてもらったりとか、就職口を探してもらったりとかは?
中野:
今はちょっとずつ、職親(しょくしん)プロジェクト【※】といって、私も参加させてもらっているんですけれど、企業の方が面接を行うのですが、採用は何千人のうちの何人かなので、いくら受け入れができていても、数が少なすぎて、全然間に合わない。
※職親プロジェクト
刑務所や少年院を出所、出院した人の再犯を防ぐため、関西に拠点を置く飲食店や建設会社、美容室などが日本財団と2月に協定を結んで始めた就労支援策のこと。
星田:
若くて技術のある方から優先されるから、高齢者の方は……。
西川:
何年か刑務所に入ってインターネットとか扱えなくなると、そこの教育からスタートになるから厳しいですね。
更生できた理由は、カッコ悪い自分を受け入れられるようになったから
土屋:
でも先生は再犯をすることなく、立ち直れたわけですが、その理由がこちらです。
中野:
1回目と2回目のときは、帰る家もなかったし不安定だったんですけれど、3回目のときに一緒にいた男の人と話し合いをして、その彼氏も元々は暴力団だったんだけども、やめてちゃんと生活をするということになって、大型の免許を取って、39歳から仕事をはじめて、私が帰ってくるのを待っていてくれた。ワンルームの部屋だったんだけど、「ここで落ち着いたらどう?」って。
それで住ませてもらって、「1年、2年は何もしなくていいから、俺の給料で食ったらどう?」って言ってくれた。彼は先に更生していたんです。それを見たら、自分だけ悪いことはできないじゃないですか。だから頑張ってみようかなって思って、明日も頑張ろう、その次も頑張ろうって、1日を積み重ねていった。
西川:
今は最後の出所から何年くらい経っているんですか。
中野:
今で10年です。
板野:
何年目くらいでお子さんに会えたんですか。
中野:
2年間は母親に返してもらえなかったんです。ちゃんとするまでは、って。
西川:
一番大変なときを全部おばあちゃんがやってくれたから。
中野:
やっぱりおばあちゃんも、「この子らを手放してまた寂しい思いをさせるくらいだったら、おばあちゃんが育てる」って言って、2年くらいして「もういける?」って言われたので、「いけると思うよ」「家も大きいところに引っ越すわ」って話をしたら、「じゃ、早く連れて行って。お母さん、しんどい」って言われて(笑)。
西川:
それが強がりなんだろうな。でもその間、当然ですけれどお子さんには会っていないじゃないですか。
中野:
飛び飛びになっているから、寂しいのは寂しい。子供にも辛い思いをさせたけれど、自分も子供の成長を見られなかったことが……。でもやっぱり自分がしたことなんですけれどね。
星田:
お子さんは、お母さんがこういうことをして刑務所に行っていたというのは理解しているんですか。
中野:
理解しているんですけれども、責めたりとかではなくて「おかんが今、ちゃんとやっているなら、いいんちゃう」って。今はすごく仲良く暮らしてもらって。
板野:
お子さんは何歳のときにお会いしたんですか。
中野:
中学校。一番悪くなるときに引き取ったんですけれど、一番下が中1、真ん中が中2、一番上が16歳くらいのときに引き取りました。
星田:
中野さんが非行に手を染めたくらいの歳のときに。
中野:
受け取ってよかった。男の子3人なので、すごいやんちゃだった。反抗期が順番にきたので、私もお母さんができなかったことがあったから、揺れられなかったんだと思う。「これ、私じゃないと無理やな」って思って。
土屋:
そうやって素直に話し合うことによって立ち直れた理由がもう一つあって、それがこちらです。
西川:
なるほど。
土屋:
お金の生活レベルを今まで下げられなかったんですもんね。
中野:
いい車に乗っていい服を着て、いろいろなところで遊んで。バーンとお金を使っていた頃もあった。でもそれをやるためには犯罪を犯さないといけなかった。でもそれをしないでおこうと思ったら、車もなかったんですよ。
何からはじめようと思ったときに、自転車からはじめたんです。自転車で行動していたりしたら、周りから「自転車なんか乗ってどうしたん?」って言われたんです。「車に乗られないからしょうがない」「またいつか乗るから」って言って。言われたら悔しいけれど、しょうがない。「自分のレベルは今ここや」って思って。
西川:
見栄なんか張ってもね。どういう思いで身につけたり、自分がどういうふうなものを持っていたりとか、そういうことだけで自分を見せるというか、そういうのを見ていると、悲しく、浅ましくも見えるしね。改めて自分が何をすることが、一番ベストなのかが見えてくるしね。
土屋:
出所して迎えに来てくれる人がいた、そしてカッコ悪い自分を受け入れられるようになった、そうなると次の循環はこうなります。この好循環ですよね。
中野:
最初の3年くらいは誰も相手にしてくれない。「また刑務所に行くやろ」って言われても、言われることをしてきたので、しょうがないわと飲み込むようにしていた。でもだんだん普通にやっていたら、ある会社の社長さんや上の人から「昔みたいにこういう仕事やってみないか」って言ってくれるようになって、それをこなすことによって、この社長さんは裏切られないなとか、この人にも「お前はよくやっているから、信じているからな」って言われたことも裏切られないなって。
いろいろ考えたら、裏切られない人が増えてきて。このままいこうと思って、今はいろいろな人に助けてもらって生きています。
西川:
結局やっぱり、「今はこういうふうに見えているけれども、本当は違うんじゃないかな」って言ってくれる人がたくさんいることで、結果的に自分も救われたりとかって大いにありますもんね。
犯罪率の低下にも繋がる? 出所後のフォローへの提言
土屋:
いろいろな経験をされた先生が、こういう経験を踏まえて、今どういうことが問題になっているのか。提案したことがあります。
土屋:
出所後の話ですね。これはどういうことですか。
中野:
現金とかを渡してしまうと逃げてしまったりとか勝手に使っちゃうこととかがあるかもしれないけれど、お金を預ける人がいて、仕事のお給料がもらえるまである程度貸してあげる。悪い人に貸す必要はないかもしれないけれど、そういう人も生きていかないといけないから、ある程度助けてあげる手も大事なんかじゃないかなって。
星田:
でもなかなか怖いですよ。借り逃げされるんじゃないかとか。誰がどうやって出すかとか。
中野:
だからこれはたぶん叶わないんですけれども、こういうフォローをしてあげられる施設とか、こういう考えが出てきたらいいのになと思います。
土屋:
税金だからという問題もあるけれど、一番下げなければいけない再犯率というのは、みんなにとっても大事ですからね。
西川:
出所して最初の1カ月をどう乗り切るかとか、あとはみんな仕事がないとか話をすると、都心部から外れるとものすごい求人をしているんですよ。でもぶっちゃけ、やりたくない、なりたくないという仕事になっている。でも選ばなければ仕事はたくさんあったりするから、可能性がある人たちがちゃんと使ってもらったりすれば……。
土屋:
酪農家の方なんか、本当に人が欲しいらしいです。3人で500トンの牛乳を毎日、ですから。
星田:
受け入れる側のイメージですよね。犯罪を犯した人という目で見てしまう世の中の現状はあるけれど、そこの信頼関係をどう築くかですよね。
西川:
島根、鳥取って日本の中でも人口減少率が最も高い県らしいんですよ。ああいうところとかで、酪農とかじゃないですけれども、食とか必要なところでやっていける支援とかできないのかなとか思ったりしますね。
土屋:
それは我々もちゃんと考えないといけないですね。
西川:
都心部で目の前で覚せい剤を使っている人とか、正直見たことがないんですよ。芸能界って覚せい剤に侵されているんじゃないかと言われていますが、見たことがない。でも芸能っていうと、それこそインターネットで「西川貴教」って打ったりすると「西川貴教 クスリ」とか出てきて「僕!? なるべく風邪薬も飲まないようにしてるのに」って(笑)。
ミクロマンサンライズ!!!:
プロテインだけですよね。
西川:
肝臓にはものすごい負担がかかってる(笑)。
板野:
出所したら、刑務所は「もう知らない」って感じなんですか。
中野:
「知らない」って感じ。
板野:
就職までいかなくても、サポートとか……。
土屋:
そこが我々にとっても一番密接なところだし。
中野:
帰るときにちゃんと仕事先が決まっていたりとか、生活ができる状況だったら犯罪はすごく減ると思う。
板野:
頑張ろうという気持ちのままでいられますよね。
ミクロマンサンライズ!!!:
刑務所から出るのが怖いですよね。
中野:
「怖い」って言っている人はいますね。
星田:
刑務所で手に職というか、資格とかも手にして……。
中野:
それは男の人ですね。少年院もすごく多いです。少年院はすごいなと思う。出てきた瞬間に仕事ができる状態で出してくれるから。
土屋:
我々もちゃんと接していくというか、サポート、手助けができるかもしれませんね。