「美少女ロボが生活する世界」を目指して! とあるエンジニアが大学を8留してもまだ夢を追い続ける理由とは?【足立レイ開発者インタビュー】
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「等身大美少女ロボット制作計画」――人間と同じようにロボットが暮らすSFのような未来を目指すロボット開発者がいます。

人間と暮らすロボットと言われて、膝を曲げたまま歩く角ばったボディの2足歩行機械や、ゲームなどに登場する人間と寸分たがわない(不気味な)アンドロイドをイメージされる方も多いかもしれません。
しかし、彼が生み出したいモノは「アニメの中の美少女のようなロボット」――曰く“アニメ人”。産業や人間の補助のためだけの存在ではない、隣人のような存在だと言います。

彼は大学で「等身大美少女ロボット制作計画」にのめり込み、1度の留年、1年の休学、3年間の退学期間を経て復学後、博士課程を3年延長してまで“アニメ人”を実在させようと、研究を続けています。
研究が長期に及ぶ理由は、既存のロボットと「等身大美少女ロボット」の違いにあります。その違いとは、プロポーションを維持しながら、外部から補助されずに自立しなければならないこと。
機械の身体を支えて動かすだけの関節の力を、華奢な少女のシルエットで実現するために、彼は生活を切り詰めながら総額100万円を超える私財を投じて研究を続けました。
彼は開発を進める中で、2017年2月15日にスタートしたクラウドファンディングでは180名を超える支援者から350万円以上の支援を集め、同プロジェクトで開発された「足立レイ」は2024年12月3日に目標であった「2本の脚での自立」を実現しました。
自身の生活も人生もかけて、理想を実現しようとする彼の狂気とも言える熱意が、多くの人を惹きつけ「等身大美少女ロボット制作計画」はその歩みを進めています。
何が彼を突き動かすのか。なぜ既存のロボットではダメなのか。なぜ「等身大」で、なぜ「美少女」なのか……「足立レイ」開発の裏側と、ロボットが隣にいる未来について開発者である、みさいるさんにインタビューしました。
取材・文/船山電脳
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■自立した二足歩行ロボットへのこだわりは、幼少期のトラウマが原因!?
――「等身大美少女ロボット制作計画」の一部という形で「足立レイ」の開発をされましたが、そもそも何がきっかけでこの計画を考えたのですか?
みさいる:
僕が美少女キャラクター好きなアニメオタクだからです。最初は、アニメっぽい造形の人形がこれから流行る、需要がある、と思い立って作り始めました。
――市販されている等身大の美少女フィギュアを買うのでは、いけなかったんですか?
みさいる:
当時はなかったんですよ。今はボークスさんから出ている球体関節人形のスーパードルフィーとか、割とアニメチックな人形があるにはあるんですけど、当時は全くと言っていいほどなかったんです。
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それで人形教室に通ってたんですが、せっかく理系の大学に来ているし、アニメキャラみたいなロボットを作りたいと思うようになったんです。
――「欲しいから作る」が始まりなんですね。アニメキャラに近づけるなら単純にアニメ調の顔にしたり「美少年」という表現方法もあるかと思いますが、「美少女」にこだわる理由も「好き」だからですか?
みさいる:
そうですね。好きだから、そういうロボットが欲しい、作ってみたいと、そういう気持ちが大きな理由です。
現実的な話もすると、二足歩行の人型ロボットは実用的な用途としてはまだイマイチなんですよ。
例えば、給仕の仕事をさせるなら、ネコちゃんロボットみたいな配膳ロボットを作ったほうが役に立ちます。
そこをあえて人型のロボットにするなら、アニメ的な造形を現実世界に存在させてライブやイベントに活用するエンタメ方向の存在になると思ってるんです。
――そういった理由で研究されているんですね。
みさいる:
アニメキャラみたいなロボットを作りたいと思うようになったあと、初音ミクが世に出てきたんです。
とても面白い技術だし、初音ミクのロボットを作ろうかなと思ったのが本格的なスタートですかね。

――「等身大美少女ロボット制作計画」は初音ミクの登場で始まったんですね。
みさいる:
そうなりますね。初音ミクの登場が2007年なので、もう17年以上になりますね。
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――初音ミクの登場以前からアニメオタクということでしたけど、ロボットもお好きだったんですか?
みさいる:
そうですね。アニメにハマったのが中学くらいなんですが、科学系全般も好きだったんです。
『子供の科学』とか『Newton』とか科学雑誌も読んでいて、好きな物同士が融合した感じです。
――子供のころから好きだったんですね。特に好きな作品はありますか?
みさいる:
エヴァを作った庵野秀明さんが総監督をした『ふしぎの海のナディア』が好きですね。
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『ふしぎの海のナディア』は科学技術を発展させることを前向きに書いてくれてる作品で、そこがとても好きですね。
特に影響を受けたのが、ネオ皇帝ですね。
ネオ皇帝は身体のほとんどが機械化されているロボットみたいな状態で、外部の電源とケーブルで繋がっている「ひもつき」なんです。
そのプラグを引っこ抜かれて倒れちゃう。それがトラウマなんです。
――トラウマというほど衝撃を受けたんですか!?
みさいる:
すばらしい機械要素を持った人型ロボットなのに、プラグを引っこ抜かれたらおしまい。
あまりにも正しい描写で、「機械なんだ……」と衝撃を受けたんです。それで「俺だったらこんなふうには作らない!」と。

「ひもつき」のロボットって自立性がないというか「生物として弱いな」という思うんです。
足立レイも内蔵バッテリーで全部動くようにしていて「絶対に外からの外部電源供給だけで動く状態にはしたくない!」と思ってます。
――「ひもつき」は嫌だというのは、エンタメで活用する場合もですか?
みさいる:
没入感を損ねてしまいますね。人間ってエンタメを見ていても、冷静さというか冷徹さがあると思います。
舞台の中から出てこないとか、後ろに何か引きずっているのを見ると「この子はこの舞台の中だけの装置なんだ」ってどこかで考えちゃうと思うんですよ。

ちゃんと1人で自立していると「この子が存在している」「あ、いる」って感じるんです。
■17年間の継続が集めた仲間
――「等身大美少女ロボット制作計画」ですが、開発は一人で進めているんですか?
みさいる:
最初はそうですね。でも、今は手伝ってくれてる人たちがいます。
メンバーの1人にnop(ノップ)さんっていう、別の大学の学生で足立レイの回路やプログラムを作ってくれた方がいるんです。

――nop(ノップ)さんとは、どうやって知り合ったんですか?
みさいる:
nop(ノップ)さんがまだ中学生のときに足立レイや僕の活動を見てメールをくれて、研究室に招いて色々教えてたというか、話していたんです。
そしたら、それからスキルをどんどん身につけて、元は足立レイを動かすプログラムが別にあったんですけど、一から書き直して作ってくれたんです。
――足立レイがきっかけで人生の方向が決まったと言っても過言ではないですね。ほかにもお手伝いしてくれてる方っているんですか。
みさいる:
吉崎さんという方に、歩行試験とかするたびにお世話になっています。
等身大ガンダムとかの制御を担当している方で、日本の歩行制御の第一人者みたいな方なんです。
V-Sido Simulator for GFY は、構造検証、モーション作成、模型検証、VR、ビデオコンテ、実機動作、ラボ棟展示まで幅広く活躍しました。 #V_Sido https://t.co/OWXIX86X1M
— 吉崎航 (@W_Yoshizaki) July 30, 2021
――第一線で活躍されている方と、どういったきっかけで知り合ったんですか?
みさいる:
吉崎さんが2008年ごろに、ニコニコ動画にズゴック型のロボットを姿勢制御してポーズを取らせる動画を投稿していたんです。
それと同時期ぐらいに僕が初音ミクの1号機の動画を投稿していたので、それで知り合ったんです。
そこからの縁で、今でもロボットの身体を作り上げて制御しようってなったときは毎回頼んでます。
――ほかに手伝ってくれている方はいますか?
みさいる:
弟に会計とグッズを担当してもらっています。
3Dプリンターがうちにもあるんですけど足立レイの足のギアをキーホルダーにしたり、ジュエリーケースみたいなのに入れたり。

――キャラクターグッズとして、本当に使っているのと同じパーツをグッズとして売るというのは、ロボだからできることですよね。
みさいる:
グッズ用に作っておいたギアを足立レイに使ったこともあります。「これ、グッズじゃなくていいや」って入れたことは結構ありました(笑)。
実際に部品として使える物とは別に観賞用として作ったギアも売っていて、今は観賞用の方が目玉商品なんですけどね。
――個性的なメンバーですね。長い間「等身大美少女ロボット制作計画」を続けて、同じ方向を向いてる人たちが自然に集まってチームになっていくのは熱いですね。
みさいる:
でも、ある意味ハードルは高くて。
僕はもう17年ぐらいやってますが、すぐに完成するものではないので「ずっとやっていこう」という、ある種の覚悟が必要なところはあるんですよ。

――これからもずっと等身大の美少女のロボットを作り続けますか?
みさいる:
そうですね。今回の足立レイは第三世代【※】ですが、第四、五世代になるころには、直立だけではなく軽快に歩いていくようにしたいですね。
※みさいるさんが行っている等身大の美少女ロボットの制作、第一世代と第二世代ともに初音ミクの見た目のロボットだった

■没頭しすぎて大学中退!? 人生をかけた開発計画
――17年も研究を続けていらっしゃるということですが、今は大学で研究されているんですか?
みさいる:
博士後期の一番最後の年次で、卒業できれば博士ですね。
ただ、今書いている論文があるんですけど、論文の審査会に間に合いそうもなくて……。
恐らくこのままだと満期退学になるんじゃないかな。

――すみません。いきなり話しづらいこと聞いちゃったかもしれないですね……。
みさいる:
いえ、全然(笑)。ちゃんとした論文が3本認められれば、それでも博士になれるんです。
音声合成の論文と、足立レイの工学的な部分の論文を書く予定で、あともう1本書いておいおい目指すつもりです。
――音声合成の論文というのは、足立レイの声でもある人間の声を使わない合成音声「レプリボイス」に関するものですね。
論文は2本とも「等身大美少女ロボット制作計画」関連ですが、逆に学業の足を引っ張ってしまったこともありますか?
みさいる:
それはものすごくあります(笑)。
影響しないわけがない(笑)。

――そうなんですね(笑)。進級が危ない! みたいなときもあったんですか?
みさいる:
何回も留年しましたね。最初に3年のときに留年して、第一世代の初音ミクはそんな中で何とか作ったんです。
そのあと休学して、第二世代の初音ミクを作ろうと思っていたんですが、すぐには完成しそうもなかったので中退しました。
――中退したんですか!?
みさいる:
それで実家に帰って、実家で作り続けたんです。
2、3年ぐらいして第二世代の初音ミクが完成したんで、日本大学理工学部の4年生として再入学しました。
モーションキャプチャーの実験動画を投稿したのが、そのころです。
そのあとに1、2年して院生になったころに足立レイを作り始めて、博士課程に進んで本来なら3年で卒業するところが現在、博士課程6年目です。
――すみません。ちょっとたし算がわからないんですけど……。
みさいる:
「1留年、1休学、3退学期間、3博士課程延長」ですかね、多分(笑)。
いや、もう親には苦労をかけました。

――本当に人生をすべてかけてますね。
みさいる:
そうですね。でも、完成はいずれするもんだとは思ってて。自分が死ななければ(笑)。
――特に費用がかかった部分のはどこですか?
みさいる:
人件費を考えなければ、多分モータだと思います。大体、今、使ってるので足に1個3万円以上ぐらいするものが28個。28×3万3000円ぐらいかな。
なので下半身だけで90万円ぐらい。最初に作ってたころは1個、1万5000円ぐらいのモータを月々の仕送りをやりくりして買っていました。
バイトをすると研究の時間も取れなくて、月5万円の中から2個モータを買って3万円。残りの2万円で生きてました(笑)。

――生活費を切り詰めて、モータを買って作っていったんですね。
みさいる:
モータがないことにはロボットは動かせないので、どうしても必要な出費でした。
大学に入学したときの誕生日に10万円ぐらいのホビーロボットを両親から貰ったんですが、それも分解して第一世代の初音ミクに使ってしまいました。