「虐殺器官」がスタジオ倒産を乗り越えついに公開! 山本プロデューサー「頭がハゲるかと思った(笑)」ぶっちゃけ舞台挨拶
“ ゼロ年代最高のフィクション ”と称えられた「虐殺器官」。製作期間中に、スタジオmanglobe(マングローブ)の倒産で、一時は制作中止という危機に陥ったが、新たに設置されたジェノスタジオによりプロジェクトは再始動。2年の時を経て、ついに作品が完成した。2月3日(金)の公開に先駆け、1月28日(土)、お台場シネマメディアージュにて、『完成披露上映会』が催された。
舞台挨拶には、中村悠一(クラヴィス・シェパード役)、櫻井孝宏(ジョン・ポール役)、三上哲(ウィリアムズ役)、石川界人(リーランド役)、そして制作中止の危機を救った一因のジェノスタジオから、山本幸治プロデューサーが登壇。司会進行は本作の大ファンだというニッポン放送アナウンサーの吉田尚記。作品の完成までの裏側やエピソード、声優陣への個人的な質問などが語られました。
制作開始から約2年。完成したのは舞台挨拶前日の朝
吉田:
ご存知の方も多いかと思いますが、この作品は普通とは違う経緯を辿って、上映までなんとかたどり着いているという作品なんです。山本さん、本当に完成したのがギリギリだったんですよね?
山本:
昨日の朝(笑)。
中村:
昨日の朝と仰っていますけど、我々も少し前に完成途中の段階でも、相当仕上がっているという感覚だったんですけれども、まだまだブラッシュアップしていきたいと言われて、昨日の朝なのでご安心ください(笑)。ギリギリという意味の、昨日の朝というわけではないので(笑)。
吉田:
この作品は「ハーモニー」「屍者の帝国」と続いてこの「虐殺器官」と、連続して公開されていくという予定だったんですが、この「虐殺器官」を当初担当したスタジオのマングローブが倒産して、制作続行が不可能ということになって。ほぼ全ての業界の人が「(制作は)諦めた方がいい」と。
山本:
そんなこともあったなぁ(笑)。
吉田:
そこで普通だったら諦めるのが、山本さんは新しくスタジオまで作って、完成までこぎつけたということで。キャストの皆さんにお伺いしますが、普通、劇場作品を録ってから公開までは、そんなに時間はあかないはずですよね?
三上:
普通、(公開まで)半年もあればってところですかね。
吉田:
この作品ですが、どのくらい前に録られたんですか?
中村:
2015年の1月ですね。ちょうど今くらいの時期に収録しましたね。
吉田:
懐かしい、みたいな感傷的なものはあるんでしょうか?
中村:
見た時に、「こんなんだっけ?」って思いました(笑)。細かい所を覚えていなかったので、大きくお話はわかってますけど、「あぁ、こういう風にやっていたっけ」という、新鮮な気持ちで見させていただきました(笑)。
吉田:
クラヴィスって、現実感を持っているような、持っていないような、不思議なキャラクターですもんね。
中村:
(クラヴィスは)不思議ちゃんですね。クラヴィスとウィリアムズは一般的な人の代表だと思うんですよね。(元々は)保守的というところと、影響を受けてちょっとずつ考えも変化していくっていう違いがあって。その代表が、ウィリアムズとリーランドかなと思いますね。
吉田:
そういう風に臨んだ中村さんとは、全く違う立場といっていい櫻井さんは、作品が完成したバージョンをご覧になって、どう思われていらっしゃいますか?
櫻井:
さっき中村くんも話をしていたんですけれども、ちょっと新鮮に見れたんですね。実際に出来上がった映像を見て、思っていた印象とは違った。原作が素晴らしいということもあるんですけれど、ジョン・ポール役をやるにあたって、とても難しいキャラクターだったので、思い悩みながらトライした役ではあったんですけれど。一昨年に録って、見るまでに年単位の時間があったので、アフレコをした時に、遠くにあったキャラがなんとなく近くにあるというか、不思議な感覚になった状態ですね。
吉田:
「人類の中の1人」として見るタイプの作品という気がするんですよね。
櫻井:
もしかしたら、ちょっと考えさせられるというか。(映画を)見た方の中には、人生観が変わるような方も、いらっしゃるんじゃないかなと思うんですけれど。
吉田:
三上さんは、ご覧になった第一印象とか、ご感想とかは?
三上:
ホッとしたというか、形になったのがすごく嬉しくて。ちょうど、メタルギアというゲームの収録中の合間にこの収録があって、メタルギアに伊藤(計畫)先生がすごく影響を受けて、メタルギアの小島(秀夫)監督とも交流があったという話も聞いていたので、運命的なものを感じて、絶対やりたいという思いがあって。原作も大好きだし、結構作品に入り込めましたね。
吉田:
この中で、圧倒的に年齢が若年であるという石川さん、ご感想は。
石川:
この現場は、先輩ばかりということで役者として緊張したのもあって、一生懸命演じていたので、それが映像になって公開されるのは本当に嬉しいことだなと思いました。僕が演じた中で、1つ衝撃的なシーンがあるんですけれど、そのシーンを見た時に「あぁ、こうなったんだ」と嬉しい気持ちになったんですよね。昨日、(完成した)映像を見まして、早く皆さんに見てほしいなという気持ちです。
吉田:
声を収録された時は、マングローブ制作の作品だったわけですよね。ご自分が録ったものが、もしかしたら公開されないかもしれないってなったら、はじめは「あぁ……」という残念な気持ちはありますよね?
中村:
僕はお蔵入りになることはないと思っていました。何かしらの形でやるだろうなっていうのを勝手に思っていたので、「(公開されて)よかったですね」って言われても、(公開までに)時間がかかった位なんですけどね、としか。
吉田:
その一方で、山本さんは絶対にそんなにイージーには考えていられない。
山本:
いっそのこと、止めた方がいいと思ったこともあるし、でもやらねばならん、みたいな。
吉田:
山本さん、そのためにフジテレビ辞めてますからね。
山本:
そのために辞めたわけじゃないですけど(笑)、始めた時はフジテレビのプロデューサーとして始めて、独立して自分の会社で関わっていたんですけれど、スタジオまで建てることになって。
吉田:
山本さんご自身が、伊藤作品に「こんなにすごいものはない!」 という惚れ込み方をされていたわけじゃないですか。満を持して、村瀬(修功)監督に頼んで、マングローブさんに「作って!」と頼んだのに、倒産と聞いた時の衝撃は凄かったんじゃないですか?
山本:
頭がハゲるかと思いましたよ(笑)。
中村:
ごめんなさい、それギャグなんですか(笑)?
山本:
頭が真っ白になりました(笑)。
吉田:
正直、新たにスタジオを立ち上げるというのは、人生を賭けた決断に近いと思うんですね。そこまでしてやった理由は、うまく言葉で言えますか?
山本:
その時は、できることをとにかく積み上げたらそうなったし、逆に言えばそれしか手がなかった。普通のスタジオは、こういう案件を受け直してくれないんですよ。だから、やるとしたら、それ(自分でスタジオを立ち上げる)しかないってことだったんで。
吉田:
やるしかない、と言いつつ、辞めるという手はあったわけですね?
山本:
スタッフが散り散りになってしまう前に再開するかを決めなきゃいけないので、逆に吟味する時間はないんですよね。ここまでに結論を出せなければ、止めるしかないっていう。撤回を発表するなりするのは、(マングローブの倒産から)時間は1ヶ月位だろうなと思っていたんですよね。
吉田:
その1ヶ月の間に、やるという決断をした。ご自分が(完成した作品を)見たかったからですか?
山本:
もちろんそうですね。僕もプロデューサー人生が賭かっているんで。納品際で、また人生賭かってましたけど(笑)。
吉田:
それが、昨日の朝に完成して。
山本:
なんとか2回も生き延びてよかったと思っています(笑)。
吉田:
中村さん、クラヴィス・シェパードって、どんなキャラクターというか……。
中村:
この作品の中では、ご覧になる皆さん側(の立場)だと思っています。育ってきた中で、国だったり、親だったり、当然のように考えていたものに疑問を抱くと、(人間は)どうなっていくのか、というのを表している人なのかなと。僕がアプローチをしていくというよりは、周りのキャラクター達が、話を展開をしていくので、それに対してクラヴィスがどう思っていくかというお話なのかなと、感じました。
吉田:
(ジョン・ポールは)人類全体に問を投げかけちゃう、みたいなキャラクター。
櫻井:
そうですね。クラヴィスが所属する特殊部隊に追われている立場で、世界各地で行われている虐殺にジョン・ポールあり、みたいな。ミステリアスな言語学者なんですが、世界をひっくり返すような文法を見つけて。悪いヤツという扱いで登場するんですけれども、クラヴィスと相見えた時から生まれる何かがあるというか。(原作を)文字で読んだ時に自分の頭に浮かんだジョン・ポール像っていうのはあるんですけど、村瀬監督が作られたビジュアルは僕の中でイメージが違っていたんですよね。あぁ、こういう人物像なんだ、と。実際にアフレコをしていても、何が正解なのか、わからないところもあって、キャラクターの神秘性というか、未だにわからないところがあるかもしれないキャラクターですね。
吉田:
では三上さんにもお伺いしたいのですが。
三上:
クラヴィスの相棒のウィリアムズをやらせていただいたのですが、ウィリアムズはわかりやすいヤツですね(笑)。がさつなところもあったりして、(作品中の)癒やしのポイントでもあったりするのかなっていう感じがあって。がさつなんだけど、心の中は熱くて、正義感もあって、僕としては共感できました。上官に食って掛かるところもあったり、いいヤツです。好き(笑)。
吉田:
石川さんのキャラクターのリーランドは。
石川:
クラヴィスの部下で、クラヴィス側の価値観を享受している人間だなと思うんですよ。この世界に出てくる一般群衆が、こうやって生きているんだ、こういう思想で生きているんだ、っていう象徴かなって僕は思っています。疑うことを知らない若者という感じなんですが、リーランドという人物を、「リーランド」として見るのではなくて、深い根本のところでみると、「あっ、この作品の中で生きている人たちって、大多数はこうなんだな」っていうのが、少し見えてくるようなキャラクターだなと思っています。
吉田:
ウィリアムズは僕らが持っている常識と、とても近い感じがするんですけれど、リーランドは、ちょっと僕らより進んだというか、ちょっと未来の常識を持っているのかなという気もしますね。
石川:
年齢(が若い)っていうのもあって、この作品の中での社会に適応して生きている。現代の技術にすごく適応している人なんだなという風に思います。
吉田:
山本さん、キャストを決める時にビジョンやイメージがあったんじゃないかと思うんですけれど。
山本:
僕はあまり、こうしたいっていうのを言うタイプじゃないんですけど、完成したのを見て思ったのは、ラストシーンがサイコパスと被ってきて、男同士の、熱くて冷たい、そして線を超えていくみたいな感じとか。そして、死んでいく人もいる。
吉田:
キャストの皆さんにお伺いしたいんですけど、自分にもし「○○器官」が備わっているとすると、どんな器官が備わっているのかというのを、まず中村さんからお伺いしてもよろしいでしょうか。
中村:
打ち合わせの時にスタッフさんから「いつもみたいに、“ ゲーム器官 ” みたいな感じで言ってもらっていいですから」って言われた時に、ちょっとカチンときたんですけど(笑)、その後に続けて「最近だったらガチャ器官とかで、つい回しちゃうんだよな」って仰られて、コイツ……! と。でも確かに、ついつい回しちゃう器官が僕の中には政府によって埋め込まれてますね(笑)。これは大きな組織によって埋め込まれて、毎月散財している気がします(笑)。次出るんじゃないかな、って。わかっていても、やめられない器官が備わっています。
櫻井:
僕は物欲器官が強くて、ハマった物に対してはつぎ込んじゃったりしちゃって。おんなじ店に何回も行くので恥ずかしいじゃないですか。なんとなくマスクしたりとか、昨日来た人じゃないですよ、っていう感じを出して行くんですけど、レジで「昨日もありがとうございます」って言われて、「あっどうもです」って言って、逃げるように帰るみたいな。のめり込むと手に入れたくなっちゃう。今だったらレコードなんですけど、時間があったらスッと行っちゃったりとかしますね。
吉田:
三上さんは?
三上:
アルコール器官ですかね。ついつい飲みすぎてしまって、始発電車とか乗っちゃうと寝過ごしてしまって。Suicaって(入場してから)6時間経つと、出れなくなるんですよね(笑)。出る時にピンポーンって鳴って、係員のところに行って「何時に乗りました?」って言われて、(入場した)時間を言ったら怒られました(笑)。
中村:
6時間もいるんじゃないよ! ってね。
三上:
路線によっては、とんでもないところに行っちゃうから、行ったり来たりの(往復)路線でよかったです。
吉田:
石川さんは?
石川:
いろいろ考えたんですけど、ネガティブ器官なんですかね。人に褒められたりしても、この人ってどういう意図でこういう発言しているんだろうとか、俺をこんなに褒めてどうやって取り込めたいんだろう、そこに俺の価値ってあるんだろうかって。普段は「わぁ!」ってなっちゃうタイプなんですけど、終わった後、映像を見返してみると、この人(自分自身)は何を考えて、こういう風にしているんだろうなとか。すごく辛くなることがあるんで、そういう器官があるんじゃないかなと思っています。
吉田:
山本さんは?
山本:
ネガティブ器官って言おうかなって思ってたんですけど、被ったので。僕、虐殺器官を背負うことになりまして、Tシャツを今から投げるので、みなさんどうぞ。
中村:
え! こんなに自由なんですか(笑)? 無茶器官(笑)。
山本:
僕、マングローブさんが大好きだったので、マングローブ器官にしようかなって。マングローブの遺伝子を上手く引き継いで、ジェノスタジオもやっていきたいと思います。応援よろしくお願いします。