“マジックミラー号”はいかにして生まれたのか?――赤字のなか起死回生をかけて臨んだ池袋で出演希望者の列を作るまでの物語を産みの親が語る
男子の純情をかきたてる魔法の車――「マジックミラー号」。
一見なんの変哲もないトラックでありながら、荷台がマジックミラーでコーティングされており、中にいる者からは外を見ることはできても道をゆく人々からは中で繰り広げられている“事”を覗くことはできません。
ミュージシャンの西川貴教さんらが「学ぶ」をコンセプトに「身近で当たり前の事だけど詳しく知らないモノ、事」をテーマに深掘りしていくニコニコ生放送番組「西川学園高等学校、略してN高!」では講師にマジックミラー号の産みの親であり、国際的なマーケットを視野に入れた新しいスタイルの作品を作り出す映画製作会社「マメゾウピクチャーズ株式会社」プロデューサーの久保直樹さんが登壇。生徒には番組レギュラーの西川さん、ミクロマンサンライズ!!!さん、星田英利さん、ゲストには手島優さん、MCには土屋礼央さんが登場。
いまやアダルトビデオ界の一ジャンルとしてその地位を確固たるものとしたマジックミラー号。その誕生までの波乱万丈な経緯、撮影初日の知られざるエピソードを久保さんが語ります。
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「マジックミラー号」産みの親がAVを撮影したきっかけ
土屋:
何年ぐらいこのマジックミラー号の監督されてたんですか?
久保:
1996年から2004年ぐらいまで。
星田:
監督って主にどういうことするんですか?
久保:
ナンパして連れてきて、脱がして撮影して……。
星田:
監督がご自身で相手するってことですか?
久保:
絡みは男優がやりますけど。
星田:
撮ってるってことですか。
久保:
はい。
土屋:
じゃあその10年間のマジックミラー号はすべて久保先生ってことですか?
久保:
そうですね。
土屋:
ってことは、われわれお世話になってるということですけど、ただ生まれてすぐにAVの監督をやってるわけじゃないわけですよ。皆さんAV監督なりたいって人もいるかもしれませんから、これを参考に、ということでプロフィールをご覧ください。
久保直樹先生は1964年生まれの東京都出身。大学卒業後、映像制作会社に就職。『ニュースステーション』のスポーツニュースの編集を担当してたという方なんです。これは野球ですよね?
久保:
野球ですね。球場へ行ってその横で、編集して撮って出すっていう。
土屋:
これが、久保先生の代名詞があって、「テレ朝最速の編集マン」と呼ばれていた。要は『ニュースステーション』中に試合はまだやっていて、延長とかになったらそれを急いで編集して……ということなんです。
久保:
そして、近くの朝日新聞があるんですけど、そこまで走って行って、撮って出す。
土屋:
そうか、今みたいにデータを飛ばせないから、走ってやるんですね。最速のやり手ということで、スゴ腕の方でございますが、その編集を担当している会社勤務の傍ら趣味で映画を自主制作。それがゆうばり国際ファンタスティック映画祭【※】でグランプリ。これ、何というタイトルの作品なんですか。
※ゆうばり国際ファンタスティック映画祭
北海道夕張市で開かれている映画祭。4~5月にかけて公開される話題作の発表の場と、インディーズや自主制作映画のコンペティション部門、若手作家の発表の場となっている。
久保:
『トラッシュ』っていうタイトルですね。
(画像はWikipediaより)
土屋:
グランプリを取ったことで退職し、フリーディレクターになるということです。とはいえ結構立派な仕事ですから、これ辞めるって相当勇気なんじゃないですか。
ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門に久保直樹さんの名前が。
(画像は公式サイトより)
久保:
いや、ゆうばりでグランプリ取ったときに、その審査員長のプロデューサーの方に、「君は明日からでもすぐに映画監督になったほうがいいぞ、もう会社辞めてうちに来なさい」ということで、翌日会社に辞表を出しまして。そのプロデューサーに電話して、「辞めました」って言ったら「辞めちゃったの?」って(笑)。
土屋:
悪い大人がいるんですよ……。
久保:
「で、これからどうするの?」と言われて、それからアルバイトとかしつつ。
星田:
では、グランプリを獲ったときに映画監督になろうと思ったんですね。
土屋:
そのプロデューサーは結局、そこの仕事はくれなかった?
久保:
仕方がないから「テリー伊藤」って知ってる? ってことで、「ロコモーション行きなさい」っていう感じで(笑)。
土屋:
その紹介で出会ったのがテリー伊藤さんというようなことで。今やコメンテーターだったりするので顔も知られてますけど、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』などを手がけた名プロデューサーでもあった。で、ここの会社に行ったと。
久保:
ここで一軒家プロレスとか商店街プロレスとか、そういうビデオ安売王の特殊プロレス物を作ってたんです。
西川:
特殊プロレス物(笑)。すごいな。
土屋:
一軒家プロレスってどういう内容なんですか?
久保:
一軒家プロレスというのは、その一軒家の中でプロレスラーが一軒破壊しながらプロレスするっていう(笑)。
一同:
(笑)
土屋:
やっぱそれはテリーさんのイズムがそういうことを?
久保:
それはテリーさんの企画ですよね。そのときにビデオ安売王【※】っていうのがあったんですけども、それを撮ってる最中に「AVも撮ってくれないか」ということで始めたのがAVなんですよね。
※ビデオ安売王
かつて日本に存在したビデオメーカー・日本ビデオ販売が全国にフランチャイズ展開したもの。専門知識を必要とせず、3000円のビデオが1日40本売れれば1日の粗利益は6万円、それは1時間にわずか4〜5本の販売本数で達成できる。店舗にはアルバイトをおくだけで運営可能であり、サイドビジネスとしても手がけられるなどとリクルートの発行するリクルートムック『独立・開業・フリーになる本』などで宣伝し、多くの加盟店を集めた。
土屋:
その奇抜なアイデアっていうのはやっぱテリーさんから教わったっていうことは……?
久保:
多いですね。
土屋:
で、テリーさんと出会ったと。そうなってもう1人、キーワードとなる方がこちらの方です。
高橋がなりさん。これはテリーさんの直々の後輩ということですよね?
久保:
まあ、弟子というか後輩ですよね。
土屋:
『マネーの虎』という番組があり、それで有名でございますが、このがなりさんがソフト・オン・デマンドで出会ったときに一緒に作ったと。
久保:
「ソフト・オン・デマンドで一緒にやろう」っていうことで始めたんですよ。
星田:
いわゆるピンク映画の監督するようなノリで?
土屋:
だから最終的に「映画を撮るためお金を稼がなきゃ」っていうことで、ソフト・オン・デマンドに行ったということですか?
久保:
女優さんもそうでしょ? 「アイドルになるんだったらAV出たほうがいいよ」っていう。
一同:
(笑)
土屋:
手島さん、そこら辺のルートとしてはどういうパターンがあるんですか?
手島:
でもそういう子は多いですよね。グラビアだと食べていけないからっていうので、そっちにいく人も結構いるとは聞きますよね。
土屋:
ソフト・オン・デマンドというAVメーカーですけども、最初の頃は「からみ【※】ナシ」っていうこだわりがあったらしいんですよ。これはどうしてなんですか?
※からみ
アダルトビデオ業界におけるセックスを指す業界用語。
久保:
こだわってはいないんですけども、ビデオ安売王時代に「全裸スポーツ」っていう、ただ全裸でバレーするだけのものを出したんですね。それが爆発的に売れたんですよ。
土屋:
要はレンタルのAVメーカーっていうのもあったんですけど、そこはやっぱり太刀打ちできないぐらい強い。新しく出るのであればセル(販売)のほうでいこうっていうことで……。
久保:
レンタルはばっちりからみをやるし、かわいい女優さん出てくるということで、そういうのはできないのでバレーをやる。そのバレーボールも、新潟の温泉地で火曜サスペンス撮影中に、温泉シーンがあるじゃないですか? あの子たちに裸でバレーさせたのを撮ってたんです、それをただ出したらすぐ(笑)。
一同:
(笑)
西川:
人を集めて、素材も場所もそれで、何なら機材だってあるから撮っちゃって。
久保:
それをそのまんま売った(笑)。
星田:
女の子らは「火サスに出る」と言って見てても、「あれ? 全然出てこないな」と思うけど、違うとこで出てたってことですよね。
土屋:
そうそう。で、全裸シリーズ大ヒットということで。その頃、全裸シリーズはヘアが見えたということが、他のものとの違いということで売れたということなんですよ。
久保:
レンタルはモザイクばっちり入ってるんですけども、セルビデオなんでヘア解禁してたんです。「全裸でバレーやってるだけなので、芸術だ」っていうことで(笑)。絡みもないから。
一同:
(笑)
西川:
そうか、ただ裸でスポーツをやってるだけなんだ。
久保:
そうです。
土屋:
このほかにも全裸バスケット、全裸オーディションなど……。
星田:
それも結構本気でやるんですか。
久保:
本気。やっぱり本気じゃないと。
星田:
どっちが勝つかとか(笑)。
土屋:
いや、そうですよね、そこが大事だと。だからレンタルのほうは本番とか絡みのものばかりだったので、そこにそういうバラエティがなかったので、オンリーワンってことだっていう。あと全裸避難訓練とか。
一同:
(笑)
久保:
全裸避難訓練っていうのは本当に地震が発生したという想定内で本当に避難する。
星田:
でもあり得ますもんね、裸のまま逃げなければいけないときって。
久保:
最初の頃って渋谷スタジオで撮影してたんですよ、これはもう芸術なんだと言って。
西川:
でも本当に「全裸」って付いたら大体いけますもんね。
土屋:
僕が調べた中で言うと『全裸オーケストラ』。あと『全裸和太鼓』。あと『全裸巨大少女』ってのが。
西川:
何それ(笑)。
久保:
それはちょっとわかんないですけど。
土屋:
じゃあ他の会社ですか。
久保:
多分。
土屋:
『全裸シンクロ』、『全裸ゴルフ』とかいろいろ。
星田:
でも今だったら全裸将棋とか、将棋ブームだから全然いけますね。
「マジックミラー号」誕生の経緯
土屋:
というようなことがあって、ようやくヒットが生まれて軌道に乗り、そこからマジックミラー号が誕生するわけなんですが、なぜここにたどり着いたかというのは、ある企画が大こけしてしまったことで生まれたという。その企画のタイトルはこちらです。『地上20メートル空中ファック』(笑)。
一同:
(笑)
手島:
どういうこと?
久保:
これは4畳半ぐらいのアクリルボードを20メートルのクレーンでつるして、男優と女優さんにバンジージャンプのゴムをつけて、もちろんバランス悪いですから、絡みをやってると落ちちゃうんですよ。そして、落ちると下で爆発するっていう。
一同:
(笑)
手島:
怖いよ。
星田:
作り手としてはどこで抜いてもらえるって思ったんですか。
久保:
爆発。
一同:
(笑)
星田:
爆発で抜くの(笑)?
久保:
それは東北のサファリパークでやって、ヘリで空撮とかやったんです。
手島:
めっちゃお金かかってる。
星田:
今みたいにドローンがないからヘリで……。
久保:
で、結局全然売れなかった。製作費は9000万円ぐらい。他のシリーズでヒットしてたお金は全部なくなっちゃった。
土屋:
これは企画会議ではいけると踏んだってことですよね。
久保:
僕はいけないと思ってましたけど、がなりさんはいけると思って(笑)。