誤解されがちな“老後資金2000万円問題”の真意を『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』著者が解説――日本は地獄なのに米国の70歳以上の資産が3倍になった理由
「夫婦で95歳まで長生きすると、年金以外でさらに2000万円の資産が必要になる」
金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が作成した報告書に記載されていたこの試算を巡り、世間ではさまざまな議論が巻き起こっています。この“老後資金2000万円問題”は目前に迫る参院選で、野党の政権攻撃の材料となる見方も少なくありません。
これを受けてniconicoではミリオンセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者で会計士の山田真哉さん、『その節約はキケンです』などの著者であるファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんをMCに、「会計士とFPが教える『この先生きのこる老後資金の作り方』」の放送を実施しました。
番組内では「2000万円が必要」という言葉がひとり歩きしている印象である報告書の本来の意図の解説がおこなわれます。
※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。
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「2000万円を貯めることは可能だと思いますか?」アンケートの結果……
山田:
報告書は、ある種ダンテの『神曲【※】』といいますか……。これは、いわゆる地獄巡りみたいな話ですけども、今回の報告書はダンテの『神曲』をそのままなぞってるんですよ。
※『神曲』
13世紀から14世紀にかけてのイタリアの詩人・政治家、ダンテ・アリギエーリの代表作であり、地獄篇、煉獄篇、天国篇の3部から成る全14,233行の韻文による長編叙事詩。
報告書を作っている審議員や金融庁の人にもあとで聞こうと思っているんですけど、「これダンテの『神曲』をオマージュしていますよね?」というぐらいになぞっているんです。
風呂内:
それは私も楽しみです(笑)。
──まず最初に、アンケートをいくつかとらせていただこうかなと思っています。
第1問目、今回の報告書の内容について「特に驚きはない」「びっくりした」「腹が立った」「わからない」から選んでいただければと思います。
山田:
「俺、2億持ってるけど2000万ぐらいでいいんだ」という方も中にはいるかもしれないですね。
──確かにいるかもしれないですね。ではさっそく結果を見ていきます。
山田:
「特に驚きはない」が77.5%、「びっくりした」が7.5%、「腹が立った」が12.5%、「わからない」が2.5%。
──では続いて、視聴者の方の年齢を教えてください。
山田:
10代以下が1.7%、20代が19%、30代が34.5%、40代32.8%、50代8.6%、60代以上3.4%。
──余談ですが、今小学生の約半数がお年玉やお小遣いを貯金しているそうです。その理由は「将来が不安だから」、と。
山田:
親を見てのことなのか、おじいちゃん、おばあちゃんを見てのことなのか。何なんでしょうね……。
風呂内:
ジュニアNISA【※】の口座を親が開設して、親の指導のもとやってるみたいな話は聞きますけどね。でも小学生がすごいですね。
※ジュニアNISA
2016年にスタートした、子どもの将来に向けた資産形成をサポートするために導入された上場株式・公募株式投資信託等が年間80万円まで非課税になる制度。
山田:
(コメントを読む)「小学校で郵便口座を作った覚えがある」って。昔の小学校の授業には、自分用の口座を作る、というのがあったんですよね。それが日本人の貯蓄好きの性格を作ったんじゃないかっていう説もあります。
──では続いてのアンケートです。老後の生活設計を考えたことがありますか? 「特に考えたことはない」、「考えてない」、「考えたくない」、「考えてる」。
山田:
老後の生活設計というのは、定職に就いていたとしたら、60歳や70歳以降、定年の後にどうするかっていうことを考えたことがあるか、ということですね。
風呂内:
それを計算して数字にまで落としこんだことがあるか、ということでしょうか?
山田:
そういうことですね。大体、月にどれぐらいの生活費がかかって、それに対して、貯金がいつまでもつかなとか、年金がどれぐらい入ってくるかなっていうのを調べたことがあれば、「考えたことはある」に入れましょうか。
(コメントを読む)「35年物の米国債買ったわ」って。日本国債よりは利回りもいいですし、一番安全な債券かもしれませんね。
結果は「特に考えたことはない」22.2%、「考えてない」5.6%、「考えたくない」25.9%、「考えてる」46.3%。さすがにこの番組見てる人はやっぱり考えてる。
山田:
「考えたくない」という方が、この番組を視てくださっていることはうれしいですね。
──次の質問です。老後資金についてどのような準備をしていましたか? 「貯蓄だけ」、「貯蓄と投資」、「特にしていない」。投資はNISA、iDeCo、不動産、株、FXも含めてです。では結果を出していきます。
山田:
「貯蓄だけ」21.4%、「貯蓄と投資」47.1%、「特にしていない」31.4%ということで、貯蓄投資という方が最多数ではあるんですけれども、とはいえ何も特にしていないということは貯蓄も投資もしてないということですよね。
風呂内:
そういうことですね。でもやっぱり、投資をしている方の割合は高いですね。日本全体で言うと、多分1、2割ぐらいのはずなんですが……なので47%はかなり高いですね。
山田:
ここは意識高いですよ。
風呂内:
でも特にしていない方が3割ということは、ちょっと格差があるということですね。
山田:
特にしてないけど、親の不動産がいっぱいあるとか、そういうことかもしれないですけどね。
風呂内:
皆さん、投資は何をされてるんでしょうね。NISAを使ってるのか、iDeCoを使ってるのか。
──そこはちょっとコメントでいただきましょうか。
山田:
(コメントを読む)「NISA」、「株」、「国債」、「自分に投資」、「資格」。それはいいですね。NISAやiDeCo系は、結構やっている方が多いんですね。
──これが最後の質問です。今回の報告書について、65歳、いわゆる年金が支給されるまでに2000万円を貯めることは可能だと思いますか? 「すでに2000万円の貯蓄がある」、「可能だと思う」、「不可能だ」、「わからない」。(コメントを読む)「年間200万を10年貯めればいいから無理ではないよな?」。確かに考え方としてはそうですね。
山田:
当然世代によって貯蓄のある人と、ない人がいると思うんですけれども……。
──では結果を出します。
山田:
「既に2000万円の貯蓄がある」14.8%、「可能だと思う」32.1%、「不可能だ」39.5%、「わからない」13.6%。「可能」とか「既に貯蓄ある」という方が46.9%いて、「不可能」、「わからない」も50%くらいです。
投資をしてる人が47%ぐらいでしたから、そういう方がみんな貯蓄あるのか……普通に考えたらすごく高いんですけど、このままいくと大丈夫っていう方もいらっしゃるのかもしれないですね。
──意外に多い。
山田:
退職金が2000万円出る人は達成なんですよね。ただその会社がそこまでもつかどうかはまた別の話ですが。もしくは確定拠出年金【※】だったら会社がつぶれても関係ないですしね。
※確定拠出年金
企業や加入者が毎月一定額の掛金を拠出し、自分で運用する制度。支払われた掛金は自分の口座に積み立てられ、運用して得られた給付金が将来的には戻ってくる。
長寿化・単身世帯・持ち家なし・税金増…「今、もうすでに日本は地獄である」
──ここからは話題にもなっている報告書について、山田さんからご説明いただければと思います。
山田:
報告書を巡って、さまざまな問題が起きておりまして国会でも連日話題になっております。麻生大臣が世間に誤解や不安を与えているという理由でこの報告書の受け取りを先日拒否しましたね。野党は「今後、参議院選挙の争点になり得るだろう」と言っています。
同日選の可能性もこのせいでだいぶ減ったとも言われています。なので、“モリカケ問題”以来のインパクトといった感じになってますね。
──報告書について麻生大臣も言っているように、「世間に誤解や不安を与えている部分がある」と。この番組は報告書に対して正しい理解をしていただこうというコンセプトでお送りします。ここからは、報告書の中身について少しお話ししていければと思っております。
山田:
冒頭にも言いましたが、恐らく金融庁はダンテの『神曲』を基にして作っているんです。『神曲』の地獄篇は、「地獄はこんな感じなんだよ」というのを階層ごとに説明している。報告書はそれと全く同じ作りをしてるんですよ。気づいてました?
風呂内:
なるほど、今、理解をしました。
山田:
この報告書は「今、もうすでに日本は地獄である」みたいな話をしているものなんですよ。
風呂内:
確かにそうですね(笑)。
山田:
まず、「この国は長寿化である」と。「男性の寿命は1950年のときには60歳でしたが。それが81歳になっています」と言っています。つまり「長寿化しているので、引退した後が長くなっていますよ」と。さらにポイントは「今は、家族構成が今、単身世帯になってます」と。単身世帯だと何が起きるかと言うと、「昔は三世代で協力してたんだけど、今は単身世帯なので協力し合えません」と。
さらに言うと、「持ち家がない人が多い」と。親から受け継いでるんだったら家はそもそも親から譲ってもらえばいいんですけども、「持ち家がないから単身世帯がいっぱい増えている」と。
この世の地獄はまだあります、「認知症が増えている」。報告書によりますと、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症です。「5人に1人が認知症ですから働こうにも働けない」と。さらにこの世はまだまだ苦行がいっぱいありまして……。
風呂内:
明るい話に最後なるんですか? ちょっと不安になってきましたね(笑)。
山田:
今後、「少子化や長寿化を考えると、税金や保険料はどんどん上がっていくよ」と書いています。金融庁がそう言った、というのが、そもそも問題だと思うんですよね。厚労省からすると「そんなことを言ったらみんな反対するじゃないか」、と。僕は金融庁の勇み足だと思ってるんですけど。